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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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最終章:無限の可能性
  第261話「海鳴の戦い」

 
前書き
海鳴市にいる防衛勢力(アリシア達)の戦いです。
 

 










 京都にて、陰陽師の開祖達が戦いを繰り広げる中、東京の方でも動きがあった。
 かつて江戸で活動していた陰陽師……すなわち、とこよ達が戦っていた。

「ッッ!!」

 地上を駆け、飛び交う攻撃の嵐すら足場にしてとこよは跳ぶ。
 刀を振るい、霊力の斬撃を飛ばし、御札をばらまいて霊術を発動させる。

「くっ……!」

「本当、一人一人が強いんだから……!」

 一撃を入れて即座にその場から移動するヒット&アウェイ戦法をとこよは使っている。
 敵の数が多いため、動き続けなければたちまち被弾するからだ。

「ッ!」

 肉薄してきた“天使”の剣を刀で受け流し、その反動を利用しつつその“天使”を足場にしてさらに跳ぶ。
 別の“天使”の追撃をそのまま迎撃し、霊術で反撃した。

「ぐっ……!」

 だが、手が足りない。
 紫陽や他の式姫もいるが、そちらはそちらで戦っている。
 加え、神降しをしようにも、降ろす神も実際に顕現して戦っているため出来ない。
 故に、多数を相手にできるほど、とこよは強化できていなかった。

「しまっ……!?」

 結果、大きく体勢を崩された。
 刀ごと大きく弾かれ、完全に無防備な状態で宙に投げ出された。
 咄嗟にダメージを覚悟し、できうる限りガードをしようとして……







「ッ……!?」

 瞬時に、目の前の景色が切り替わった。

『聞こえますか?とこよさん』

「え……?」

 伝心による声がとこよの頭に響く。
 その声に、とこよは一瞬思考が止まった。
 なぜなら、その声はもう聞く事がないはずのものだったからだ。

(ふみ)……ちゃん……?」

『はい。……本当に、お久しぶりですね。とこよさん』

 それは、かつてとこよがまだ人だった時代。
 陰陽師の補佐であり、相棒でもあった百花文(ももかふみ)の声だった。

「……そっか。司ちゃん達のおかげだね」

『誰の事かは存じませんが……世界の“意志”による後押しで一時的に現世に戻ってきました。……支援は任せてください!』

「了解!それじゃあ……!」

 改めて戦闘再開。そうしようとした瞬間、奇襲される。
 だが、とこよが迎撃する前に、飛んできた矢に貫かれた。

「……成仏しておいてなんだけど……私もいるわよ。とこよ」

「澄姫……!」

 矢を放ったのは、とこよのライバルであり、この前成仏したはずの澄姫だった。
 今この戦いのために、抑止の力で一時的に戻ってきたのだ。

「それと、私と文だけじゃないわ」

「……まさか……」

 再び、とこよ達を襲おうとした敵が止められる。
 今度は強力な霊術と、刀による一撃だ。

「嘘でしょ……!?泉先生に……八重!?」

 それを、鈴も見ていた。
 現れたのはとこよの恩師である吉備泉と三善八重だった。
 鈴にとっても思い入れの深い人物だ。

「久しぶりじゃな。とこよ」

「鈴も、まさかこうして再び会えるとは思わなかったぞ」

 泉が炎の霊術で牽制しつつ、とこよに並び立つ。
 鈴含め、他の皆も同じように集まった。

「……もう、二度と会えないと思ってたんだけどね」

「特例も特例よ、こんなの」

「いいんじゃないか?とこよも、鈴も頑張ったんだ。……少しぐらい、私達が手伝ってもばちは当たらないだろう」

「そうじゃな。元より、世界を守るために儂らは召喚されたのじゃ。泡沫の夢になるとはいえ……今は再会に喜んでもいいじゃろう」

 大規模な障壁が展開される。
 会話に参加していなかった紫陽によるものだ。
 紫陽の隣には葉月もおり、協力して張った事が見て取れる。

「……とはいっても、そんな暇はないよ」

「まずは、敵を退けましょう!」

 二人の言葉に、とこよ達は言葉ではなく行動で返答した。
 霊術や弓矢、刀による一撃で攻撃を跳ね除ける。

「その通りだね」

「数百年ぶりの同窓会だもの。無粋な輩には、退場願うわ!」

 ありえないはずの再会は、とこよ達にとってこの上ない励みとなった。
 かつての仲間と共に戦えるだけで、気分が高揚する。
 それがそのまま“意志”の強さへと繋がり、敵をなぎ倒す力となる。



















「ッ……!」

 一方、海鳴市の街中を、一つの人影が駆けていた。

「ったく……!過去の英雄だか、神だか知らないけど、海鳴市にほとんどいないじゃない!結局あたしらで守るのね……!」

 その人影はアリサだ。
 武器である刀に炎を纏わせ、崩壊した街中を縦横無尽に駆け回る。
 時折斬撃を飛ばしつつ、敵の攻撃を躱し続けていた。

「その代わり、優輝達がいない分、数が少ないけどね……!」

「それもそう、ねっ!」

 アリシアと合流し、攻撃を相殺する。
 追撃に肉薄してきた“天使”は、隠れているすずかによる氷壁に阻まれた。
 直後にアリサが切り払い、退ける。

「……今更だけど、アリシアはフェイトと一緒じゃなくてよかったの?」

「んー、それでも良かったけど、結局こっちも手薄になっちゃうしね。それに、こっちにも大事な友人達もいるし、ね」

 この前までミッドチルダに頻繁に行っていたなのは達と違い、アリシアは基本的に地球に待機してばかりだった。
 そのため、ミッドチルダに思い入れはほとんどない。
 なのは達も地球の方が思い入れはあるが、結局は戦力の配分でこうなったのだ。

「ま、アリシアが納得しているならいいけ、どっ!」

「ホント、次から次へと来るね!」

 アリサが攻撃を受け止め、アリシアがその後ろから霊術で攻撃する。
 側方や背後からの攻撃はすずかが障壁で逸らし、それでも防げない攻撃は直接槍をぶつける事で受け流した。

「二人とも、気づいてる?」

「……この、湧き出る力に関してかしら?」

「やっぱり、気のせいじゃないんだね」

 三人で背中合わせになり、気がかりだった事について短く話す。
 即座にその場から飛び退いて攻撃を躱し、伝心に切り替える。

「『心当たりはある?』」

「『時期的には、司達が魔法を使ってからだと思うよ』」

「『抑止力を後押しした結果……なのかな?』」

 漲る力は決して“意志”による限界突破ではない。
 それ以外の、まるで“別の力”を与えられているような感覚なのだ。

「『……抑止力が関係しているのかもね』」

 感じられる力を確かめるように、アリシアが手を横に振るう。
 直後、扇状に()()が放たれ、迫ってきた理力の砲撃を逸らした。

「『……力を使って、なんとなくわかったよ。間違いなく、これも私の力だよ』」

「『あたしも使ったけど、確かにそう思えるわね』」

 アリシアだけでなく、アリサもすずかも魔法を使っていた。
 三人とも、魔法の素質はないというのに。
 しかも、その力は間違いなく自分の力だと自覚できるのだ。
 それも不思議な事だった。

「『……そっか。神界の事は、この世界だけの問題じゃないもんね』」

 疑問に思うのは一瞬だった。
 まるで流れ込むかのように、その力の正体を理解する。

「『他の世界からの支援……どこか遠くの平行世界の私達の力が、上乗せされているのね。神界の勢力を抑え込むこの世界を助けるために……!』」

 そう。アリシア達に宿った力は、平行世界のアリシア達の力だ。
 もし、彼女達に魔法の才能があったならば。
 もし、なのはの代わりにレイジングハートに選ばれていたのならば。
 そんな、もしもの世界における彼女達の力が三人を助けていた。

「『……なら、応えて見せないとね……!』」

 全ては、神界の神を撃退するため。
 神界に対する“盾”となったこの世界を支援するように、数多の他の世界から力が送られてきているのだ。
 それに応えるように、すずかが巨大な氷壁を展開し、攻撃を防ぎきる。

「あたし達だって、背負うモノ背負ってんのよ!!」

   ―――“火竜一閃(かりゅういっせん)

 その氷壁を直接攻撃していた“天使”を狙い、アリサが一閃を放つ。
 炎の竜が刀から放たれ、“天使”を呑み込んで焼き尽くす。
 先ほどまでと違い、その威力も規模も桁違いになっていた。

「もう一人はどこに……!?」

「へぇ、神でも見失うんだ?」

   ―――“閃刃(せんじん)(れん)

 爆炎と、氷壁の術式を破棄した際の氷片に姿を晦まし、アリシアが奇襲する。
 背後を取ったアリシアは、行動を起こされる前に攻撃を叩きつけた。

「まず、一人」

「ッ、この程度……!」

 反撃が繰り出され、その場でアリシアと剣戟を繰り広げる。
 当然、他の“天使”なども攻撃してくるが、そこはアリサがカバーする。

「残念。倒すのは私の役目じゃないよ」

「な、にっ……!?」

 アリシアの言葉の直後、相手をしていた“天使”の胸が手刀で貫かれた。
 貫いたのは、他の“天使”を足場に跳躍してきたすずかだ。

「……ありがとう。どこかの世界の私。おかげで、この力をより強く、より上手く引き出せるようになったよ」

 すずかの背には氷を纏った蝙蝠の羽が生えていた。
 それだけでなく、目は紅くなり、爪は鋭くなっている。
 夜の一族……それどころか、吸血鬼としての力を完全に引き出していたのだ。

「精神操作はトラウマだったけど……あらゆる世界の私のおかげで、それも克服できた。……だから、魔眼も、吸血鬼の力もふんだんに使って……」

「ッ……!?」

 突き刺した手刀を抜くために、すずかは掌底を放つ。
 同時に、アリシアがさらに一閃を叩き込み、首を刎ねる。

「はぁっ!!」

 そこからすずかは体を捻り、蹴りを叩き込んだ。
 吹き飛ばす先にはアリサがおり、ちょうど敵の攻撃を迎撃しようとしていた。

「“ラケーテンハンマー”!!」

 吹き飛んだ“天使”と今まさに迫る攻撃。
 そのどちらも対処するために、アリサは攻撃を“天使”へと弾き飛ばす。
 それだけで倒し切れる訳ではないが、ダメージは与えた。

「倒してあげる」

 そんな“天使”には見向きもせず、すずかは妖艶に微笑む。
 爛々と光る紅い目から魔力が迸り、目の合った“天使”の精神に干渉する。

「精神干渉か……!」

 神界の存在に精神干渉は効かない訳ではない。
 ただ、“領域”や理力で即座に自動解除されるのが無効化に見えるだけだ。
 実際は、魔眼の効果の分、相手の“領域”を削ってはいる。

「ッ……!」

 目が合うだけで効果を発揮するというのは、神にとっても無視はできない。
 そのため、複数の“天使”が一斉にすずかへと襲い掛かる。

「そうは!」

「させないっての!!」

 だが、アリサとアリシアがそれを阻む。
 “天使”達の包囲へと突入し、そのまま二人は位置を入れ替えるようにすれ違う。
 同時に、その勢いのまま剣を振るい、霊力を斬撃として飛ばした。

「くっ……!」

 二人の斬撃と敵の理力が拮抗する。
 その間はごく僅かで、すぐにでも斬撃は防ぎきられるだろう。
 しかし、その僅かな間ですずかは行動を起こす。

「はぁっ!!」

 狙いを一人に絞り、すずかは槍を縦に一閃する。
 直後に体を捻り、勢いを利用して氷の爪で首を薙ぐ。
 瞬時に十字に斬られた“天使”だが、それでも倒し切れない。

「―――!」

 反撃が繰り出される。
 それを、すずかはひらりと躱し、背後を取った。
 同時に爪を薙ぎ、攻撃と同時に仕掛けていた術式を起動させる。

「これで……!」

「もう一人!」

 すずかの行動を邪魔されないように、アリサとアリシアが牽制する。
 他の敵に攻撃を仕掛け、防御に使われた障壁を足場にすずかの元へと跳ぶ。
 さらに、同時進行で術式を組み立て、すずかの術式に合わせた。

「術式混合!」

   ―――“陰陽対滅(いんようついめつ)

 目も眩むような光の柱が“天使”を呑み込む。
 本来あり得ざるプラスエネルギーとマイナスエネルギーである炎と氷の混合を、法則が機能しなくなった今だからこそ、無理矢理成功させる。
 矛盾がありながらもその事象を起こす事で、互いを打ち消すエネルギーのみを発生。その力を以って敵を消滅させたのだ。
 神界によって歪められた法則を利用したため、“天使”だろうと一撃だった。

「なっ……!?」

 その様を見て、周囲の敵は動揺した。
 成功すれば、一撃で“天使”を倒す程なのだ。
 三人で合わせなければいけないとはいえ、そんな技があれば警戒するのも当然だ。

「ッ!!」

 その動揺を、当然アリシア達は見逃さない。
 再び一人に狙いを絞り、アリサとアリシアで周りに牽制する。
 その間にすずかは槍で狙った“天使”の障壁を突き刺す。
 間髪入れずに槍の柄を足場に宙返りし、反撃を躱しつつ頭を掴んだ。

「ぐっ!?」

 そのまま頭をねじ切る。
 普通の生物と違い、そんな攻撃も多少のダメージにしかならない。

「アリサ!」

「せぇやぁあっ!!」

 だが、目的は怯ませる事だ。
 他の敵を寄せ付けないように、アリシアが武器を二丁拳銃に切り替え、周囲にばら撒くように霊力と魔力を弾丸として放つ。
 ただ連射しているだけではない。
 弾丸一つ一つに確かな“意志”が込められ、決して侮れない威力を持っていた。

「な……え……?」

 確実に作り出したチャンスを逃さず、アリサが“天使”を斬り刻む。
 炎を刀とし、一太刀一太刀を必殺の一撃として繰り出した。

「あたし達だけじゃない。様々な世界の“意志”を背負っているのよ。心しなさい、あんた達の相手は、決して格下じゃないって事をね!!」

 一撃ごとに生成した炎の刀は砕け散る。
 裏を返せば、それほどまでに“意志”のこもった一撃なのだ。
 当然、まともに食らえば“領域”も無事では済まない。
 そのため、“天使”は逃れようとするが……

「逃がさないよ?」

 それを、すずかが阻止する。
 微笑むように、だが冷たく言い放ち、同時に氷の棘でその場に縫い付けた。

「ッ……!」

 ならばと、今度は周りがアリサを止めようとする。
 アリシアの妨害を突破し、アリサをその場から退かせる。
 炎の刀で防ぎ、ダメージは防いだものの、アリサは大きく吹き飛ばされた。

「これで……!」

 アリサの攻撃を耐え抜いた“天使”は、すぐさますずかへ反撃を繰り出す。
 だが、その攻撃は届かない。

「私を、忘れないでよ」

 既に“天使”はアリシアによって撃ち抜かれていた。
 妨害が突破されたのは、事実本当に突破されたのもあるが、本命は相手をできる限り油断させるためだ。

「意識外からの一撃。神界の神でも例外なく効くみたいだね」

 アリサの邪魔をさせまいと、アリシアは戦っていた。
 そう認識していたからこそ、その最中で一撃を狙っていた事に気づけなかった。
 そして、意識外からまともに攻撃を食らい、“領域”が砕かれたのだ。

「調子に……乗らないで!!」

 だが、敵も決して弱くはない。
 一人の神が理力を開放する。
 直後、アリシア達はそれぞれ別々の空間に隔離された。

「……孤立、か」

 元々、神界では各自戦うと同時に空間及び概念的に分断されていた。
 理力を使う事で、同じ状況を再現したのだろう。

「………伝心も通じないのね」

 アリサが伝心を試みるが、通じない。
 “意志”を以って集中すれば通じるかもしれないが、戦闘中にそれは無理だ。
 つまり、完全に三人は各々孤立させられたという事だ。

「いい度胸じゃない」

 だが、アリサは不敵な笑みでそれを受け入れる。
 孤立させられる程度、想定していた事なのだ。
 実際に起きた程度で、狼狽える事はない。

「上等よ。やってやろうじゃない!!」

 想定していれば、当然対策も用意してある。
 アリサは霊力を炎として放出し、それをオーラに、翼に変える。
 想定外だったのは、その出力が大きくなりすぎた事だ。

「(平行世界のあたしの力もあるのだから、出力が上がるのも当然ね……。空間ごと孤立させられたのは、むしろ好都合だったかしら)」

 連携を取られないように敵はアリサ達を分断した。
 だが、それはアリサにとっては味方を巻き込まずに済むため、好都合だった。

「ッ……!」

 周囲の空間ごと焼き尽くす炎が展開される。
 その炎は球状に広がり、周囲を呑み込んでいく。

「ば、馬鹿な……!?“水の性質”でも、打ち消せない……だと!?」

 一人の神が驚愕する。
 この場には、一応相性を考えてアリサの炎に有利を取れる“性質”の神がいた。
 しかし、その有利性すらアリサは覆していたのだ。

「馬鹿ね。水程度、あたしの炎の前じゃ蒸発するだけよ」

 炎を纏ったアリサは鼻で笑うように空間を包もうとする水を蒸発させる。
 勝とうとする“意志”がそのまま炎の勢いとなって、水すら圧倒していた。

「さぁ、燃えたい奴からかかってきなさい!!」

 その様は、まさに不死鳥の誕生だった。





「本当に、戦闘経験が浅いんだね」

 一方で、すずかの方も敵を翻弄していた。
 理力による殲滅力相手に、すずか一人では敵わないものの、その身体能力と魔眼などを駆使して逆に圧倒していた。

「なぜ……!?地力は、こちらが圧倒しているはず……!?」

「生かしきれてないし、“意志”はこっちが上だよ」

 手刀が“天使”の喉を貫く。
 理力の障壁があるにも関わらず、すずかは“意志”を込めてそれを容易く貫く。

「凍てついて」

   ―――“Niflheimr(ニヴルヘイム)

 氷の波動が広がり、すずかを中心に空間ごと凍てつかせていく。

「地力では負けているし、倒すのにも一苦労だよ。……でも、負けるつもりは全くないんだよね。この世界だけじゃなく、他の平行世界からも、力を託されているんだから……!」

 圧倒しているように見えて、一人を倒すのにかなりの労力を割いている。
 このままでは、先にすずかが体力切れを起こしてしまうだろう。
 “意志”によって体力切れを先送りにできるが、それも時間の問題だ。
 それでも、“別の一手”を打つために、すずかは敵を翻弄し続けた。





「アリサもすずかも、単騎もいける戦闘スタイルだから、そう簡単にやられる事はあり得ないだろうけど……っと!」

 そして、アリシアもまた敵を翻弄する事で耐え凌いでいた。
 だが、アリシアは速攻で打てる手札では、威力を出せない。
 そのために、アリサとすずかに比べて逃げ回るような戦法を取っていた。

「ふっ……!」

 身を捻り、理力の極光を躱す。
 同時に二丁の拳銃から魔力でコーティングした霊力の弾丸を放つ。
 貫通力を重視した攻撃なため、敵も防御より回避を優先して対処している。
 傍から見れば、アリシアが敵から逃げつつ攻撃を繰り出している状態だ。

「ぐっ!?」

 障壁越しに極光が掠る。
 飛行の軌道をずらされながらも、即座に体勢を立て直す。
 地面を蹴り、上空に跳躍。だが、そこへ二人の“天使”が待ち構えていた。
 挟むような位置取りの二人から極光が放たれる。

「なん、のっ!!」

 即座にアリシアは二発の弾丸で片方を相殺する。
 さらに撃った反動を利用しつつ体を捻り、武器をハリセンへと変えた。
 そして、そのハリセンを思いっきり振り下ろし、もう一つの極光を下にいる別の“天使”目掛けて弾き飛ばした。

「(平行世界の私、なんでこれを武器にしてるの……!?)」

 なお、アリシアは内心でハリセンが武器になっている事に困惑していた。
 一応魔法等の攻撃を弾き飛ばす武器として有能なため、口には出さなかったが。

「(これ以上、手札が増えても使いきれない。だから、平行世界の私の力は、全て純粋な“力”として統合する……!)」

 溢れる力を練り、纏うように全身に行き渡らせる。
 優輝達の霊魔相乗のように平行世界のアリシア達の力を合わせていく。

「多くの世界の私は、二丁拳銃を主武器にしたみたいだけど……私はちょーっと違うんだよねー。……だから、上手く合わせれば……!」

 武器がさらに変形する。
 二丁拳銃から、それにブレードが付いた形へと。馴染みが深い剣と形を変える。
 小型のガンブレードのような形になり、銃撃と剣撃を両立させる。

「ッ!そこっ!!」

 それだけではない。
 二振りの剣の柄同士を連結させ、刃先の背同士を弦で繋ぐ。
 剣と銃、そして弓を併せ持った武器。それが今のフォーチュンドロップの形態だ。

「さぁ、倒せるものなら倒してみなよ!」

 今までは連携を前提にした武装や戦法を取っていた。
 だが、アリシアも単騎で戦えない訳ではない。
 攻撃を斬り払い、至近距離から銃撃で牽制し、弓矢で射抜く。
 猛攻を掻い潜りながらも、適格に敵にダメージを与えていった。















「―――充填、完了」

 ……そして、海鳴市で戦っているのは、三人だけじゃない。

「準備はいい?久遠」

「うん……!」

 八束神社跡地。そこに、三つの人影があった。
 内二つは那美と久遠。そして、もう一つは八束神社に祭られていた神だ。

「………!」

 久遠が雷を繰り出し、それが八束の神によって束ねられる。
 計八つ束ねられ、それがアリシア達の戦場へ放たれる。

「神社を破壊してくれた報い、受けるがいい!!」

   ―――“八束之雷(やつかのいかずち)









「なッ……!?」

 完全な不意打ちだった。
 理力による隔離で、戦場が分断されていた事が仇となっていた。
 意識外からの強烈な雷が、神々を貫く。
 
「……私達以外を見ていなかったね。やっぱり、戦闘経験が浅いね」

 元々、これはアリシア達が想定していた事だった。
 アリシア達が多数を引き付け、その間に那美達が準備。
 それが済み次第攻撃を放つという手筈だった。

「馬鹿、な……!?それでも、何人かがそれに気づいていたはず……!」

「っ、耐えられた……!」

 一人の神が耐えきったのか息絶え絶えになりながらもそこにいた。
 即座にバインドで拘束し、幾重にも霊術で移動を封じる。

「そうね。何人か、那美さん達へ向かっていったわ」

「でも、当然ながら護衛もそこにいるんだよね」

 トドメの霊術を用意しつつ、アリサとすずかが神の疑問に答える。

「要は、そっちの読みと想定が甘かった。それだけだよ」

「人間、嘗めんじゃないわよ」

「何かを守る“意志”は、決して負けないよ」

 その言葉を最後に、トドメを刺す。
 問答の必要はなく、神は断末魔もなく“領域”を砕かれた。









『那美さん。こっちは終わったよ』

「『了解。こっちも……うん、もうすぐ終わるよ』」

 アリシアが戦闘終了を伝心で伝えてくる。
 那美がそれに対応し、ふと周囲に視線を向ける。
 そこには、ちょうど最後の神が小太刀によって切り裂かれ、“領域”が砕け散っているところだった。

「生憎だね。“意志”次第で何とかなるなら、私達にもやりようはあるんだ」

 那美達の護衛をしていたのは、二人だ。
 片方は、なのはの姉である美由希。

「……御神不破流の前に立った事を、不幸と思え」

 そして、高町家の長男、恭也だ。
 父である士郎は、非戦闘員である桃子などを守るため、ここにはいない。
 たった二人で、那美達を守りつつ、襲ってきた敵を全滅させたのだ。

「くぅ……疲、れた……」

 戦闘が終わったからか、久遠が狐形態に戻りながらその場にへたり込む。
 事実、海鳴市にいた敵は全滅させた。
 他の敵は京都や東京など、戦力が集中している所に集まっている。
 そのため、休む事はできるだろう。

「じゃあ、私達は他の地域に行ってくるよ」

「わかった。後の事は私達に任せて」

 だが、那美と久遠、そしてアリシア達は他の街へと向かう。
 残る恭也達も、海鳴市を守るように戦うつもりだ。
 ……戦いは、まだまだ始まったばかりなのだから。















 
 

 
後書き
百花文…第5章キャラ紹介参照。容姿は式姫大全で検索。抑止力の後押しでの顕現なため、本来あった病弱さは一切ない。適格な転移でとこよを支援する。

三善八重…鈴の知己。詳しい事は式姫大全にて。刀を使った戦闘が得意で、単身でも安定して戦える戦闘スタイルをしている。

アリシア達に起きた事…他平行世界のアリシア達の力の上乗せ。魔法が使える世界線だけでなく、Innocentな世界線も関わっている。ちなみに、平行世界とはいうが、本編に近い世界線は存在しない模様。

火竜一閃…炎の斬撃を放つ技。シグナムの飛竜一閃を参考にしている。

閃刃・連…発動の早い一撃。その連撃。他にも威力重視や遠距離用などがある。

陰陽対滅…炎と氷の対極となる属性同士を無理やり混ぜ合わせ、その矛盾によって発生するエネルギーによって敵を消滅させる霊術。今回は三人で合わせたが、時間さえかければ一人でも発動可能。ただし、威力は激減する。

“水の性質”…文字通り。水に関するモノに干渉できる。相手の体内の液体すら干渉できるが、現状は物理的な干渉で死なないため、無効化できる。

Niflheimr(ニヴルヘイム)…北欧神話より。氷の波動を広げ、周囲を空間ごと凍てつかせる魔法と霊術の合わせ技。イメージはInnocent一巻にあるアイスバインドをさらに派手にした感じ。

八束神社の神…名前等は決めていない。権能としては、名前の通り八つを束ねる事ができる。他にも“八”や“束”に関する事に干渉できるが、今後出番はない。

八束之雷…那美、久遠、八束神社の祭神による合わせ技。久遠が放った雷を祭神が束ね、神力で強化し、那美が砲台の役目を負う。三人分の“意志”も乗るため、かなりの威力を誇る。


描写していませんが、澄姫の方位師である柴乃もいます。澄姫のパートナーなので。
平行世界の力を手に入れたため、すずかは吸血鬼として覚醒し、アリサとアリシアはInnocentの戦闘スタイルを手に入れています。 
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