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怪奇なお局様

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第一章

                    怪奇なお局様
 松山市の話だ。この町に生まれ育って働いている遠山紘は今考えていた。それでこう職場の同僚達に漏らした。
「不思議なんだけれど」
「御前の頭がか?」
「馬鹿だってのか?」
「そんなのじゃないから」
 まずは友人達のからかいの言葉をかわして言うのだった。
「いやさ、雅さんだけれどさ」
「ああ、雅瞳さんか」
「あの人か」
「何かいつも帰りが遅いんだよね」
 彼が不思議に思っているのはこのことだった。
「何時来て何時帰ってるかさ」
「出社に退社か」
「それか」
「うん、あれがわからないんだよね」
 紘は首を傾げさせながら仕事の同僚達に話す。今彼等は仕事の帰りに酒場で一緒に話をしている、その中での話だった。
「宇山さんって何時出社して何時退社してるんだろう」
「そういえば俺達が会社に出てるといつもいるし」
「それで帰る時にもいるし」
「残業してるのはわかるけれど」
「何時までいるのかな」
「僕もそれが不思議なんだよ」
 紘はビールをジョッキで飲みながら言う。
「入社した時からあの外見でさ」
「だよな。俺達入社して五年になるけれど」
「あの人外見変わらないよな」
 その女宇山佐貴子は彼等の会社のOLだ。年齢は四十代と思われるが確かな年齢はわからない、黒のおかっぱ頭でべっ甲眼鏡をかけている。
 仕事のことなら何でもできるベテランOLだ。仕事については厳しいが親切で面倒見のいい性格として知られている。
 社内での評判はいい、しかしなのだ。
「独身なのか?」
「そうじゃないのかな」
「何時出社して退社してるのか」
「わからないんだよな」
「それじゃあさ」
 ここで紘はつまみの焼き鳥を口に入れながら言った。
「僕一度会社に残ってね」
「それで宇山さんが何時出社して退社するか」
「確かめるんだね」
「うん、そうするよ」
 こう言ってそのうえでだった。彼は次の日七時に出社した、仕事は八時だがあえてそうしたがオフィスにはもう彼女がいた。
「おはよう」
「あっ、はい」
 だが宇山はもういた。彼に顔を向けてにこりと挨拶をしてきた。
「速いわね」
「そうですね」
 一時間も早く来たのに彼女はもういる、紘はこのことに唖然となった。
 見れば今オフィスにいるのは二人だけだ、男女二人だが色気はない。
 そのことに内心唖然としながらも挨拶をして自分の机についた。宇山はその彼の微笑んで言ってきた。
「早く来るのはいいことだけれどね」
「はい」
「早く来過ぎてもかえって辛いからね」
「そうなんですか」
 紘は宇山に応えながらじゃああんたはどうなんだよと心の中で呟いた。
 だがそれは心の中でとどめてそのうえで自分の仕事の用意に入った。仕事はしているが今日の本題はそれではなかった。
 五時になっても帰らず仕事を続けた。実は丁度やるべき仕事があってそれをしなければならないという事情もあった。
 周りはどんどん退社していく。同期達は残る彼のところに来てそっと囁いた。
「それじゃあな」
「確かめてくれよ」
「ああ、やってみるな」
 彼も頷いて返す。そのうえで自分の席で黙々と仕事を続ける宇山を見た。
 皆帰り証明も自分達の机のそれだけになる。時計は十時を回ったがそれでも宇山は微動だにしない。紘もいい加減内心焦りだした。
(何時帰るんだよ)
 幸い家は会社のすぐ傍のアパートだから問題ない。自転車で通勤している。 
 しかしそれでももう十時だ、彼は焦りを感じながら思うのだった。
(一体な)
 そう思いながら仕事を続ける。たまっていた仕事はどんどん終わる。  
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