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ドリトル先生と琵琶湖の鯰

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第三幕その九

「どんなに嫌われていたんだろう」
「そして今もだから」
 ジップは今のお話おしました。
「嫌われ過ぎだね」
「けれど最初はそんな人で」
 老馬の目は遠いものになっていました。
「最後まで悪人じゃなかったんだ」
「善人でも道を間違えるとおかしくなるよ」
 先生はこうお話しました。
「井伊直弼さんもそうだったんだ」
「成程ね」
「極悪人かって思っていたけれど」
「その実は違って」
「本当はそんな人だったんだ」
「側近だった長野主膳さんもだよ」
 この人もというのです。
「この人が井伊直弼さんに芸術や学問を教えたけれど」
「悪人じゃなかったんだ」
「陰謀家だって思っていたら」
「その実はなんだ」
「悪人じゃなかったの」
「色々動いていたけれど」
 このことは事実でもというのです。
「それでもだったんだ」
「悪人かっていうと」
「また違っていて」
「道を間違えた人で」
「芸術や学問の人だったんだ」
「そうだよ、この人達はどうしても評判が悪いし」
 先生はこうも言いました。
「僕も好きじゃないけれど悪人かというと」
「違うんだ」
「そうした人達じゃなくて」
「道を間違えていて」
「そうした人達だったのね」
「そうしたこともわかっていないとね」 
 どうしてもというのです。
「正しい歴史の学び方じゃないと思うよ」
「悪人と決め付けるんじゃなくて」
「その本質を調べる」
「そして理解する」
「それが学問なんだ」
「そう思うよ、学問は偏見があってはいけないよ」
 このことは絶対だというのです。
「本当にね」
「そうだよね」
「先生の言う通りだよ」
「若し偏見を持って学んだらね」
「よくないわね」
「それは避けないとね」
「そうだよ、学問は偏見や先入観は捨てて」 
 そしてというのです。
「行うものだよ」
「先生の言う通りだよ」
「本当にね」
「それは井伊直弼さんも同じで」
「公平に学ぶべきなのね」
「そうだよ、織田信長さんも」
 この人もというのです。
「調べたら残酷な人じゃなかったしね」
「自分に逆らう人は皆殺し」
「裏切った人は許さない」
「神も仏も信じない」
「凄いけれど残酷でもある」
「そんな人だって思っていたら」
「それが実は違っていてね」
 学問の結果この人のこともわかってきたというのです。
「あの人なりに信仰心もあってね」
「不必要に人は殺さない」
「そんな人だったのね」
「その実は」
「そうだよ、裏切った人もちゃんと謝れば許していたし」
 裏切者は許さなかったということはなかったというのです。
「傲慢でも人を人と思わない様な人じゃなかったよ」
「そして短気でもなくて」
「鳴かぬなら殺してしまえでもなかった」
「実像は全然違ったのね」
「そうなんだ。そしてお酒は飲めなくて甘いものが好きで」 
 そしてというのです。
「毎日弓や槍、馬術や水練に励んでいたんだ」
「乗馬や水泳になのね」
「励んでいたのね」
「つまりスポーツマンでもあったんだ」
「生活もしっかりしていたんだ」
 つまり健康的だったというのです。 
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