ソードアート・オンライン ~白の剣士~
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信じる者
前書き
どうも、年末浮上兄さんです。
ランスロット、またの名を《湖の騎士》
円卓の騎士の中でも屈指の実力者であり、グィネヴィアとの不倫によってアーサー王と対立した《背徳の騎士》
そんな彼でも最後はアーサー王と和睦を結び、死の間際まで仕え続けた。
恐らくカムランの丘に間に合っていれば彼の運命も変わっていただろう。
なら、俺は–––––
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
先に動き出したのはシオンだった。
武器を細剣に切り替え、フィールドを駆ける。
突き出した剣先はバーデンの身体に無数の傷を作っていく。
「速い!だがッ!」
バーデンは拳を振るい撃退しようとするも、その攻撃は避けられて更に追撃を喰らう。
「チィッ!」
堪らず距離を取り、呼吸を整えるバーデン。
『さっきの攻撃、速くはあったが反応できない程ではなかった。なのに喰らった…』
「どういう能力してんだ?さっきのは確実に顔面を抜いたはずだが?」
余裕の笑みを浮かべながら頬を拭うバーデンに対し、シオンもまた同じ表情をしながら答えた。
「教えると思ってんのか?」
構えを崩さずバーデンを挑発しにかかるシオンにバーデンは分かりきった答えだと理解し、舌舐めずりをした。
「ハッ!だろうな!!」
今度はバーデンが先に動き出した。まっすぐシオンの胸元目掛けて突っ込んでいき拳を繰り出す。
今度こそ完全に捉えたかに見えたその時、シオンの身体はバーデンの拳をまるで流水の如くいなした後、バーデンの背中に切り込んだ。
「グゥ!!」
苦痛に動きが一瞬動きが鈍るバーデンに更に追撃を仕掛けるシオン。
「焔星剣流《五の太刀》“火華”!!」
激しく弾ける火の華がバーデンを襲う。
その連撃をなんとかガードするも、初撃を脇腹にまともに受けてしまう。
このままではマズいと悟るバーデンは、雷電の電撃で強引にシオンを引き剥がした。
「ハァ、ハァ…クソッ!ちょこまかと!!」
『なんなんだあの動き!?確実に捉えていた。撃ち込む位置、タイミングも完璧だった。』
与えた攻撃は全て躱されれてしまい、終いには急所に攻撃を喰らう始末。
今までに無かったシオンの攻撃に困惑するバーデン。
それとは逆に、呼吸を整え、冷静さを保っているシオン。
流れが再びシオンに向きつつあった…
「ここまできても、使わないつもりか?《聖槍》を…」
「あぁ?」
「《覇王槍拳流》こいつを始めて見た時、正直震えた。こんなのを使うやつがいるんだなって…一撃で盤面をひっくり返すほどの威力、それを使いこなすヤツの身体能力、精神力、そのどれもが一級品だ。俺はさ…」
直後、バーデンが見たのは今までの戦いでは見たことのないものだった。
怒り、憎悪、恐怖。
これまで数多の表情を見てきた彼にとって、シオンの表情は予想だにしないものだった。
「お前に、憧れてたんだ…」
戦場には似合わない優しい微笑み…
「SAOで初めて殺りあった時、敵のはずのお前に、お前達に…」
「何…?」
“憧れ”
その言葉にバーデンの表情は僅かに歪んだ。
今まで日陰の道を歩んできた彼にとって、その言葉はやけに大きく、そしてはっきりと聞こえた。
「『あんなヤツになりてぇ』それだけを思ってただひたすら追いかけた。追いつきたくて、追い越したくて…。お前に十番勝負を申し出たのも、結局は一番近くでお前を見るためだしな」
「そんな、ことで…?」
憧れだけでそこまでのことをしたシオンに対し、バーデンは半分呆気にとられていた。
「おかげで色々と知れたよ。紅茶が好きで、しっかりものに見えてたまにドジなところもあって、雪の日にちょっとだけ気分が上がったり、誰よりも負けず嫌いで、諦めも悪くて、自己犠牲の塊で、めんどくせぇ…」
シオンは一つ一つ確かめるように呟いていった。
これまでの、シュタイナーとの日々を振り返るように。
「でも…」
そんな彼だから見えるのだろう。
シュタイナーという男の本質を……。
「誰よりも優しく、誰よりも“命の重さ”を知っている」
「ッ…!?」
「多くの人を殺してきた。そのしんどさは俺には分からない。でも、それによって救われた人達の思いは知っている。今、お前には確かに殺した人達の命がのしかかってるかもしれない。でも、それ以上に…」
シオンは真っ直ぐ前を見据えて言った。
「救った人達の願いが、祈りが、お前を支えているんだ!」
「願いや、祈り…」
「現にお前を慕い、信じているやつがここにいる」
そう言ってシオンは視線を離れた丘いるもの達に向けた。
そこには先ほどよりも遥かに多いギャラリーが並んでいた。
「行けシュタイナー!」
「がんばれ!」
「シオンなんざぶっ飛ばせ!!」
「ファイトです!」
「気張れやシュタイナー!!」
「勝て!」
溢れる歓声、そのほとんどがシュタイナー自身に向けられていた。
その歓声に思わず体が震える。
そんな中でも一人の声がやけにハッキリと聞こえた。
「勝って!!シュー兄ィッ!!!」
「ユウキ…」
その声は細くも力強く、真っ直ぐに彼の元に届いた。
「信じて待ってる奴らがいる。さあ、お前はどうする?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
多くの人間を殺してきた。
それはもう、戻ることができないほどに…
誰も連れ戻すことはできないと思っていた。
しかし今、その背中には確かに触れる手がある。
その手は一つではなく、これまで僕が出会ってきた人達の手だった。
その中には一際強く感じる手が…
「テメェが何処に向かおうが知ったこっちゃねぇ。もう戻れねぇなんて今更だ」
もう一人の自分、向き合う事がなかったもう一人の自分。
分かっている、ここまでずっと僕を守ってきた事を。
口は悪いけど誰よりも優しく、気高く、孤高に生きる覇王。
「なら突き進め!つまらん能書きなんざ置き去りにして、テメェの檻をブチ破れッ!!」
力強く背中を押され、思わずバランスを崩すシュタイナー。
その時、二人は初めて向き合った。
野性味あふれる琥珀色の瞳は、シュタイナーを映し出す。
「僕ひとりではきっと破れない」
「だろうな、テメェは弱っちいからな!」
「君ひとりだけでも破れない。君は正確だけど時々力任せだから」
「うっせえッ!」
バーデンは悪態をつく中、シュタイナーは手を差し出した。
「でも、一人じゃないのなら…」
「…ちったぁ、マシになるかもな」
そして二人は言葉を紡ぐ
「覇王の眷族、鋼の賢者が願い奉る」
『豪雷の拳、神楽の雷龍』
「我、疾風迅雷の魂を纏いて」
『百鬼を祓い』
「覇道を統べよ」
さらに紡ぐ…
『願いを』
「祈りを」
「『結び、繋げ!』」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
歓声飛び交うフィールドに一つの光が灯る。
その光は次第に大きくなり、シュタイナーの体を包む。
「シオン、やはり僕は自分を曲げる事は出来ない」
「知ってるよ」
「そして、それを成す為には進み続けるしかないみたいだ。だから…ここで、君を超えるよ」
綺麗に生きたいのならば汚れよ
何度も挫け、大いに足掻き、悩め
全力でいられた者こそが一番綺麗で格好が良いのだ
今、己を変えたいと思っているのなら…
汚れろ、泥にまみれて
突き通せ、己の思いを
叫べ、声尽きるまで
「聖槍、抜錨ッ!!」
突如として光は砕け散り、装いを新たにしたシュタイナーがそこにはいた。
髪はエメラルドグリーンの光を帯び、先ほどまで青白かった電流もそれに同調するように色を変える。
いつもの鎧は腰からマントが伸び、その下からは竜の尻尾を覗かせる。
「ここからは、俺達の時間だ!!」
進め、想いが形を成すまで…
後書き
良いお年を〜
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