白猫とヤンキー

　　　　　　　　　　　　　　　白猫とヤンキー
　御子柴浩紀は髪の毛の上野部分を金髪にして後ろに撫でつけていて左右は黒いままで短くしている。着ている黒の詰襟の制服は所謂短ランで下はボンタンだ。所謂不良中学生で目つきも鋭く背は一七二位だ。
　いつも先輩の中里丈太郎と一緒にいる、中里は一八〇近い長身で髪の毛はパーマにしていて長ランにボンタンという恰好だ。切れ長の目の光は強い。彼はいつも浩紀に言っていた。
「お前お袋さんは大事にしろよ」
「親はですね」
「それと弱い者いじめもするなよ」
　こう言うのだった。
「確かにヤンキーでもな」
「それでもですね」
「親は大事にしてな」
「弱い者いじめもですね」
「するなよ、俺もお前も家にいるのは母親だけだろ」
　共に母子家庭だというのだ。
「そうなるには理由があるだろ」
「うちは親父がどうしようもない奴で」
　浩紀は中里に暗い顔で話した、給食の後校舎裏でだべりながら話した。
「酒飲んでは俺やお袋ぶん殴ってました」
「それで離婚になったんだな」
「慰謝料や養育費は貰ってるみたいですが」
「屑だったな」
「ホンモノの」
「俺のとこもだ、どうしようもねえ屑でな」
　中里は自分の父親のことも話した。
「ギャンブルと女ばかりでな」
「そうした風で、ですか」
「離婚だよ、俺がガキの頃お袋いつも泣いてたよ」
「そうした連中になったら駄目ですね」
「だからな」
「俺にもいつも言ってるんですね」
「お袋さんは大事にしてな」
　そうしてというのだ。
「弱い者いじめもな」
「しないことですね」
「その二つは守れよ、だから万引きとかカツアゲとかな」
　そうしたこともというのだ。
「知ったらお袋さん悲しむからな」
「しないことですね」
「ヤンキーでもな」
　例えそうでもというのだ。
「人の筋は守っていこうな」
「わかりました」
　浩紀は先輩であり共に母子家庭である中里の言葉にいつも頷いていた、そして実際に外見はともかく悪いことはしなかった、それでだった。
　家に帰っても仕事で家にいない母に代わって家事もしたし料理もした、その中で母の文香黒髪を後ろで束ね穏やかで優しい感じの外見の彼女にも語った。
「お袋は無理しないでな」
「それでなのね」
「家事は俺に任せてな」
　そうしてというのだ。
「ゆっくり休めよ、家だとな」
「お母さんが働いてるから」
「しろのことだってな」
　浩紀はここで自分達が食べているちゃぶ台の隣を見た、そこでは白い猫がいてご飯を食べている。浩紀が小学生の時に拾った野良の雄猫で今も一緒にいるのだ。
「俺が面倒見てるからさ」
「心配しないでなのね」
「休んでくれよ、身体の調子が悪かったら」
　その時はというのだ。
「すぐに病院に行ってな」
「お母さんそんなに疲れてないわよ」
「疲れてなくてもな」
　それでもというのだ。
「自分の身体は気遣っていけよ」
「そうしろっていうの」
「そうだよ、あとな」
「あと？」
「今度うちに先輩来てもらうからな」
　中里、彼にというのだ。
「多分日曜に来るからな」
「お母さん今度の日曜日お休みよ」
「何か作るからな」
「お母さんが作るわ」
　母は自分から言ってきた。
「それなら」
「いいよ、俺が何か作るよ」
「浩紀の先輩が来られるならね」
　それならというのだ。