戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~
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伴装者ヒロピン&ナンパネタ
前書き
短編第3弾!
今回のテーマは「ヒロピン」、即ち「ヒロインのピンチ」!
原案はサナギさん。去年、8組分をしっかり送ってくれたこと、感謝してます!
さあ、果たして伴装者達は愛する人のピンチをどう救うのか……お楽しみに!
・ヒーローはやってくる、愛する人のために(翔ひび)
「……」
「フフフ……」
パヴァリア光明結社を離反したはぐれ錬金術師を、翔と共に追っていた響。
逃亡する首謀者、カセマ・ドグを追っていた響は翔の静止を無視し、カセマを倉庫まで追い詰める。
しかし、仕掛けられていた催涙ガスを浴びてしまった響は囚われ、X字型の磔台に拘束されてしまったのだ。
眠り続ける響を見て、カセマは下衆な笑みを浮かべた。
「どうせなら、あの青髪の伴装者も洗脳し、S.O.N.G.の連中を同士討ちさせてやりたい所だったが……まあいい。シンフォギア装者が手に入った以上、伴装者などオマケのようなものだからなッ!」
舌舐めずりをしながら響に近付くカセマ。
そこでようやく、響は目を覚ました。
「うぅ……ッ!?」
自分の置かれた状況に気付いた響は、目の前のカセマを見て驚く。
「予定より早いお目覚めだな」
「わたしをどうするつもり!?」
「立花響。これからお前を洗脳し、私の手足となってもらう。だが折角だ、より洗脳の影響を強めるには心を折り砕くのが効果的。お前に初めての体験をさせてやろう……。その身も心も、私の女になってもらおうか」
そう言ってカセマは、その両手をいやらしく動かしながら迫る。その目的は明白だ。
(やだ……やだ……ッ!わたしの初めては翔くんにって決めてるのに……こんな所で……)
動かない身体。迫る魔の手。涙を堪えて震える響に、絶望の足音が迫る。
「ふへへへへ、まずはそのたわわに実った胸から……」
ドッガァァァァァン!!
背後から響く爆発音。噴煙の中から現れたのは、気高き灰色のギアを纏った一人の少年……風鳴翔。
彼の登場にカセマの顔は絶望で染まり、逆に響の顔には希望が充ちた。
「おいオッサン……力ずくで愛を奪おうなんざ、モテない男のする事だぜ?」
「翔くんッ!」
「馬鹿な!?あれだけのアルカノイズをばら蒔いたのだぞ!?この短時間で到着する筈が……」
「仲間達が駆け付けてくれた。ただそれだけだ!……響に手を出したんだ、覚悟は出来てるんだろうな?」
「黙れッ!私の哲学兵装、『服従の魔眼』は貴様の目を見るだけで……グェッ!?」
「手前の不細工な面なんざ、わざわざ見る理由はねぇよ……外道がッ!」
姿勢を低くして懐に飛び込み、鳩尾に渾身の右フック。そしてカセマの顔に思いっきり力を込めて裏拳をお見舞する翔。
潰れたカエルのような声を上げ、カセマの意識は夢の中へと沈む。
下世話なシナリオを浮かべていたのだろうが、それはOTOKOの鉄拳により打ち砕かれたのであった。
「変な事されてないよな?」
「うん……。来てくれるって、信じてた」
響の拘束を解除した翔は、彼女からの言葉に安堵の笑みを浮かべた。
「そっか……。さて、このオッサンは縛っておいたし、両眼に布巻いたから例の魔眼も使えないだろ。後は叔父さんに報告を……ッ!?響……?」
突然背後から抱き締められ、翔は顔を真っ赤にした。
「……でも、すっごく怖かった……。だから、その……えっと……あの~……」
しどろもどろになる響に、振り返った翔は優しく答えた。
「忘れさせてやるよ、こんな悪夢。……今夜は、ちょっと長くなるぞ」
「翔くん……////」
目と目が逢う二人。やがて唇と唇が重なり合い、二人は悠久とも思える数秒を分かち合った。
改めて互いの愛を確かめ合った二人は、射し込む夕陽の下で笑い合うのだった。
ff
・呪いの解き方(純クリ)
「…………!!」
「くッ!」
イチイバルから放たれる超火力爆撃を、純はギリギリの所で躱し、避けきれなかった分を盾で防ぐ。
「目を覚ますんだ、クリスちゃんッ!」
虚ろな瞳で銃口を向け、引き金を引くクリス。彼女からの攻撃に防戦一方な純。
何故二人が戦う事になってしまったのか。話は1時間ほど前まで遡る。
子供を人質に取った錬金術師、ゲード。
名前通りな外道の所業に激昴するクリスであったが、ゲードが得意とする錬金術『傀儡術式』を受けてしまう。
ゲードの命令により、愛する純を殺そうと迫るクリス。人質となった子供達を救出した純は、最愛の姫を救う為に戦っていた。
「ぐッ……うう……ぐわあああッ!」
純そのものではなく、その手前を狙って発射されたミサイル。その爆風で吹き飛ばされ、純は地面を転がった。
改良を重ねたとはいえ、かれこれ一時間近くも戦っているのだ。RN式Model-0の稼動限界時間は、既に目前まで迫っている。
「ヒャッハハハハハ!いいぞォ!俺は愛する者同士が引き裂かれるのを見るのが大好きなんだ!やれぇ、イチイバル!そいつを殺せェェェ!!」
〈MEGA DETH PARTY〉
〈Zero×ディフェンダー〉
命じられるがまま、ミサイルの一斉発射で純を狙うクリス。
純は盾の表面から強靭なバリアを張り、その全てを防ぎきるが、蓄積したダメージから遂に片膝をついてしまった。
「ぜぇ……ぜぇ……まだだ……僕は、諦めないぞ……!」
「無駄無駄ァ!お前は死ぬんだよォ、愛する女の手によってなァ!!」
「僕を、殺して……クリスちゃんを……どうするつもりだ……?」
「冥土の土産に聞かせてやる。俺の傀儡術式は、一度解除すればそれまでの記憶が全てフィードバックされる!そして、心が壊れた女は二度と、傀儡術式から逃れられなくなる。……後は分かるなァ?」
その言葉に、純の怒りが激しく燃え上がった。
「ふざけるな……そんな事は絶対にさせねぇッ!あの日、僕は誓った!クリスちゃんの王子様になるって……彼女を絶対に守るって!だから負けないッ!諦めないッ!」
「ほざけ!死に損ないに何が出来る?見せてみろよ、なぁ?ヒャッハハハハハ!」
(こんな時、最も有効な手は……そうだ!ルナアタック事件、翔が立花さんにやったアレなら!)
純は親友、翔が以前に似たような状況に追い込まれた事を聞いていた。
暴走した響の意識を覚醒させたその行動は、クリスの目を覚まさせる方法として、おそらく最善の手だと確信する。
「懐に入り込めれば……イチイバルに、近接攻撃方法は存在しないッ!もう暫く力を貸せッ!アキレウス!!」
「…………!?」
「うおおおおおおおおおおおおおおッ!」
アキレウスの鎧による超加速で、ガトリングの雨を掻い潜る。
クリスの懐へと飛び込んだ純は、クリスが動くよりも早く……彼女の身体を強く抱き締めた。
「!?」
「あぁ?何をするつもりだ……?」
「昔からのお約束。呪いを解くおまじない、王子様にのみ許された特権さ……」
そう言って次の瞬間、純はクリスの唇を奪った。
クリスの背後でふんぞり返っていたゲードは呆気に取られ5秒間、二人の邪魔をする事も忘れて立ち竦んだ。
そして──
「んっ……ぷぁ…………ッ!?ジュンくんッ!?」
「ようやく目を覚ましてくれたね、クリスちゃん」
「えっ……ハッ!そうだ、あたしは確かあの錬金術師に……」
傀儡術式が解けたことで記憶がフィードバックされ、術をかけられてから今に至るまでの全ての記憶を思い出したクリス。
彼女が純と二人で振り返った瞬間、ゲードは腰を抜かした。
「ひぃッ!?」
「なぁジュンくん……コイツ、どうする?」
「それは勿論……ね?」
「「地獄で閻魔様に土下座して来なッ!!」」
「ギャアアアアアアアアア……!!」
外道の悲鳴が響き渡り、それから数分後にはガチガチを歯を鳴して連行されて行く、哀れな錬金術師の姿があった。
そして任務後、自宅へと戻る道の途中で。
「ジュンくん……。操られていたとはいえ、あたしはジュンくんを……」
「何も言わなくていい。あれは悪い夢だったんだ……それでいいだろう?」
「でっ、でも!」
「何があっても、どんなに遠く離れてしまっても……僕はクリスちゃんを迎えに行く。クリスちゃんは僕が守るから。嫌いになったりなんてしないよ。絶対にね」
「ッ!……ありがと、あたしの王子様……」
「うん。さぁ、帰ろうか」
8年の歳月を越えて再会した姫と王子を、引き裂けるものなど存在しない。
お互いの手をしっかりと握り、二人は帰路に着いたのだった。
ff
・月光の下に(おがつば、ツェルマリ)
「ごめんなさい、翼」
「マリア、私の事はいい」
世界を席巻する二人の歌姫、風鳴翼とマリア・カデンツァヴナ・イヴ。
二人は今、テロリストの襲撃に巻き込まれてしまい、捕らえられてしまっていた。
頼りになるマネージャー兼護衛である緒川とツェルトは、飲み物に薬を盛られてしまったらしい。
ギアのペンダントはあるが、自分達以外のスタッフを巻き込むわけにはいかず、纏う事が出来ない。
「悪く思うなよ?お前達を人質にすれば、政府は金を寄越さずを得ない。何せ世界を代表する二大アイドル、その内片方は父親が日本政府のお偉いさんなんだろ?」
「くだらんな……」
「何ぃ?」
リーダー格の男を、翼は毅然と睨みつける。
「くだらぬ、と言ったのだ。お父様が貴様ら如きの要求を呑むはずがない。力無き者達の生命を人質にしなければ事も起こせぬ卑怯者、そのような輩がのぼせ上がるな!」
「翼ッ!」
翼はテロリストのリーダーへと、堂々と啖呵を切った。
彼女は防人として、大人しく口を噤んでいられる性分ではないのだ。
「……気が変わった。身代金を要求するまえに、その生意気な口を聞けなくしてやろう」
「私はどうなっても構わん。だが、マリアは解放してもらおうか」
「人質のクセして大きな口を……」
「ほぅ、いい覚悟だ。お前みたいに気の強い女は、嫌いじゃないぜ」
下衆な笑みを浮かべるテロリスト達。
おそらく、テロリスト達は約束を守らないだろう。
しかし、少しの間でも自分に注意が向けば、マリアが次の行動を起こしてくれるはず。
分の悪い賭けだが、今はそれしかない。マリアも分かっているはずだ。
翼が我が身を危険に晒す道を選ぼうとした、その時だった。
「そうはさせませんよ、翼さん」
テロリスト達の背後から、月光と共に現れる黒い影。
武装したテロリスト達の影には、サバイバルナイフが突き刺さっていた。
「ッ!?動けねぇ!?」
「まさか、その男はッ!?」
「噂に聞く、日本政府のNINJA!?」
「アイエエエッ!?NINJA!?NINJAナンデ!?」
部下達が一様に悲鳴を上げた。
「こいつッ!」
拳銃を取り出すテロリストのボスだったが、それより一瞬早く、緒川の銃弾がリーダーの影を撃ち抜いた。
「ッ!?体がッ……」
「影縫い……。暫く動かないで貰いますよ」
「緒川さんッ!」
緒川は翼の身体を縛る縄を解く。
動きを封じられ、ボスは驚きに顔を歪める。
「何故だ!?痺れ薬は規定値以上に混ぜた筈だぞ!?」
「忍びたるもの、常にあらゆる事態を想定しておくべきもの。薬を盛られた時の対策ぐらいしています。……彼の場合は、少し特殊ですが」
「マリィ、無事か!?」
「ツェルト!」
緒川が侵入する為の囮役を引き受け、見張りを引き付け殴り倒してきたツェルトが、ホールに飛び込んで来る。
彼のスーツの左腕部分は、赤く滲んでいた。
「ッ!?あなた、それ……」
「身体の痺れをかき消す為に、な……」
「止めようとしたのですが、僕も解毒薬が無ければ同じ事をしたでしょうから……。勿論、止血はしてあります」
そう言いながら緒川は、人質を縛るのに使われていた縄で、テロリスト達を縛り上げていた。
「さて、一緒に捕まっていたスタッフの皆さんも逃がしましたし、そろそろ警察がやって来ます。なるべく手短に済ませて、ホテルに戻りましょう」
四人はそのまま、ホールを後にするのだった。
S.O.N.G.のツテで事情聴取を手短に済ませた二組は、ホテルに戻り、それぞれの部屋に分かれていた。
「無事で何よりです」
「すみません……。あの時はあれが最善だと……」
「翼さん、あなたは防人である以前に、世界中の人々を笑顔にする歌姫なんです。もう少し、自分を大事にしてください」
「肝に銘じます……」
「分かってくれればいいんです。……では、また明日──」
「……慎次さんッ!」
翼は咄嗟に、部屋へ戻ろうとした緒川の手を引っぱり、引き留める。
「慎次さん……本当の事を言うとあの時、怖くなかったわけではないのです……。もしも喉をやられていたらと思うと、震えが止まらない……。だから……その……今夜は、一緒にいてくれませんか……?」
「翼さん……」
緒川の背中に腕を回し、胸を借りて、上目遣いにそう願う。
ここまで言われて断る緒川ではない。何故なら彼の使命は翼を守る事であり、今の彼は翼の恋人なのだから。
「わかりました。今夜は朝まで、一緒にいてあげますよ」
その夜、二人は同衾するのだった。
まだ恋も知らなかった昔のように、静かに、安らかな寝顔で。
そして……。
「痛ッ!」
「無理するからよ……。ホント、そういう所は変わってないんだから……」
包帯を変え終えたマリアの目に涙が浮かぶ。
「マリィ……」
「罰として、今夜は私と寝なさいッ!」
「何故そうなるッ!?」
「仕事や任務の時は気を遣って一緒に寝てくれないじゃない!」
「今回は翼の手伝いでアイドルの仕事だろ!?マスコミにバレたらシャレにならないぞ!?」
「それは、そうだけど……今の私は、もうただのアイドルじゃないのよ?」
「そっ、それは……そうだな……」
二人の間の雰囲気が、少し変わった。
「……いいのか?」
「まあ……その……今更でしょ?」
こうして、夜は更けていく。
二人がこの後どうしたのかは、誰も知らない。
・君のナイトとして(恭みく)
「離してくださいッ!」
腕を掴まれ抵抗する未来を見て、その男達はヘラヘラと笑っていた。
晴れて恭一郎と恋人同士になった未来は、二人で遊園地に遊びにやって来た。
ところが、恭一郎がトイレに向かった後、いかにもな二人組にナンパされてしまい、今に至る。
「待ってる人がいるんですから!」
「君みたいな可愛い子置いてくやつなんて放っておいてさ~」
「俺らと楽しいことしようよ」
「離してくださいってばッ!嫌ッ!」
二人はそう言いながら、嫌がる未来を無理矢理連れて行こうとする。
そこへ、恭一郎が戻って来た。
「小日向さんから離れろッ!」
「なになに?もしかして、彼氏くん?」
「ダメじゃ~ん、カノジョから目を離しちゃ~」
「そうそうw」
相も変わらずヘラヘラと煽るナンパ男達。
しかし、恭一郎はそれを無視して未来の手を握った。
「行こう、小日向さん」
「うん……!」
未来は頷き、恭一郎の手を取った。
「おい、シカトしてんじゃねーぞ!」
ナンパ男の一人が、恭一郎に殴り掛かる。
しかし恭一郎はその腕を取り、足払いで転ばせる。気づけば男は、青空を見上げていた。
「なっ!?」
「手荒な真似はしたくないんです……。お願いです、僕達の邪魔をしないでもらえますか?」
「わっ、わかった!」
「おっ、覚えてろよ!」
お約束の捨て台詞を吐き、二人は走り去って行った。
「……ふぅ、行ってくれた」
その場にへたり込み、安堵の溜息を零す恭一郎。
そんな彼を見て、未来は微笑む。
「ありがとう、恭一郎くん。かっこよかったよ♪」
「翔から合気道習ったんだ。小日向さんを守れるように……ね」
恭一郎の手を握って立ち上がらせると、未来は彼の顔を真っ直ぐに見つめた。
「ありがとう。わたしのナイトさん」
自分の手を優しく握ってくれる彼女の手を、恭一郎もまた握り返す。
「それで、次はどちらへ?」
「ナイトさんの気の向くままに」
未来をエスコートしながら、恭一郎は微笑み返した。
二人の時間は、まだまだこれからだ。
ff
・些細な一歩(飛きり)
「飛鳥さん遅いデス……。レディを待たせるとは、失礼デスよ!」
この日、切歌は飛鳥と待ち合わせをしていた。
恋人同士ではない(本人達談)ものの、テレビで見かけたカップル限定スイーツが気になり、飛鳥に頼み込んで付いてきてもらうことにしたのだ。
しかし先程、急な用事で少し遅れると連絡が入ってしまったため、先に待ち合わせ場所に来た切歌は待ちぼうけを食らってしまっていた。
「でも、無理に頼んだのはアタシなのデス!だからちゃんと待つのデス!」
「そこの君、ちょっといいかな?」
「デス?」
呼ばれて振り返ると、そこには旗目から見て隠しきれない程の胡散臭さが漂う、スーツの男が立っていた。
「君可愛いねぇ」
「え?そうデスか?」
「おじさんね、君みたいな子をモデルとしてスカウトしてるんだよ」
「あ~……ごめんなさいデス。今、待ち合わせしてるから、断るデスよ」
「そう言わずに、10分だけだから!ね?」
強引に腕を引く男に、切歌は必死で抵抗する。
「離すのデスッ!」
「来てくれるんなら、離してあげてもいいよ?」
自分よりも強い力で腕を引っ張る男に、切歌は涙を浮かべる。
「離して……誰か、助けて……!」
遂に泣き出してしまう切歌。男は切歌を路地裏へと引きずり込もうと更に力を込めて引っ張る。
「おい!嫌がってるだろ!」
その時、男の腕を掴んだのは……待ち人の飛鳥だった。
飛鳥は怒りを顕にした顔で、切歌を守るように立ち塞がる。
「飛鳥、さん……?」
「すまない。服装について、流星と月読に聞いていたら遅くなった。……女の子泣かせて、何を考えているんだッ!警察呼ぶぞッ!」
「いやその……失礼しましたぁぁぁぁッ!!」
飛鳥に睨まれた男は、情けない声を上げながら退散した。
「暁、大丈夫か?」
「だっ、大丈夫デスよ!飛鳥さんが来てくれたから、もう平気デス!」
先程までの涙は何処へやら。満面の笑みで飛鳥に抱き着く切歌を見て、飛鳥はその頭を優しく撫でた。
「そうか……良かった……。それで、例の店はどっちなんだ?」
「こっちデース!待っているデスよ、憧れの限定スイーツ!絶対食べてやるのデース!」
「まったく……切り替えが早いのが、君のいい所だよな」
(……飛鳥さん、カッコよかったデス……。あれ?なんデスかね……飛鳥さんを真っ直ぐに見られないデス……////)
(ふぅ……何とかなったか……。でも、さっき抱き着いてきた時の暁の顔……いや、何を考えているんだ僕は!そんな不純な事、考えてなど……ッ!)
二人は内心どぎまぎしながら、店へと向かって行った。
飛鳥にとっては手のかかる妹で、切歌にとっては口うるさい兄。
そんな二人の関係が、ほんの少しだけ進んだ気がする。そんなお昼であった。
ff
・花火の音で消されぬように(流しら)
夏祭りで露店を回る流星と調。一通り店を回った後、翔達と合流して花火を見る予定である。
「結構難しい……」
調はヨーヨー釣りに挑戦していたが、中々上手くいかず困っていた。
「ヨーヨー釣りはゆっくり慎重に、なおかつスピーディにやれば……ほら」
流星に手本を教えられ、もう一度挑戦する。
「ゆっくり慎重に、スピーディに……やった!」
ピンク色のヨーヨーを釣り上げ、調は満足気に微笑む。
「次はどっちに行く?」
「次は……こっちです!」
「わかった」
その後も二人は露店を回り続けた。
二人を目撃した結果、食べ物が甘くなったとの噂もあるらしいが、それは些細なことに過ぎない。
暫くして、花火が始まる為に人が増え始める。
ところが、二人は人混みに巻き込まれてしまった。
「あっ……」
「調ちゃんッ!」
転んでしまった調に手を差し伸べようとする流星だったが、人の波に遮られ、そして二人は引き離されてしまった。
「はぐれちゃった……。探しに行かないと……」
「ねえ君、ひょっとして人探し?手伝おっか?」
声を掛けてきたのは、祭りを楽しみに来たとは思えない、チャラチャラした服装の男。
調は一目で警戒心を抱く。
「大丈夫です。それでは」
「まーまーそう言わないでよ。多分あそこに居るよ」
男は調の腕を引っ張り、人気のない場所へと連れ込もうとする。
「やめて……」
「い~からさぁ!」
「離して!」
「何してるの?」
振り向くと、そこには男の方へ嫌悪感を顕にした目を向ける流星の姿があった。
「げっ……い、いやぁ、見つかってよかったよかった……」
そそくさとその場を後にしようとするチャラ男。
しかし、大事な恋人に手を出された流星が、男をタダで逃がすはずがなかった。
「行かせないよ。これで済むと思ってるの?」
「あん?」
「もし僕がここに来なかったら、調ちゃんに何をしようとしていたの?場合によっては警察沙汰だよね?お兄さん、お祭りをなんだと思ってるわけ?ここはあなたみたいな人が女の子を求める場じゃないと思うけど?」
「ッるせぇ!気取ってんじゃねぇ!」
チャラ男の拳が流星の顔を狙う。
しかしその拳は軽く払われ、流星の膝蹴りが男の股間に直撃した。
「*#@¥$€%÷ッ!!」
「調ちゃん、離れるよ」
「はっ、はい!」
股間を抑えて蹲るチャラ男。
流星は調の手を引き、足早にその場を立ち去った。
「ここまで来れば、大丈夫かな?」
「ありがとうございます、流星さん……。でも、わざわざあそこまで……。怪我でもしたら、どうするつもりだったんですか?」
「つい、カッとなっちゃって……。心配、かけちゃった?」
「ううん。流星さんが鍛えてるの、知ってるから……」
調は柔らかく微笑むと、流星の顔を見上げた。
「でもまだ不安……。流星さん……してもらっても、構いませんか?」
「……了解」
そう言って調はつま先立ちで背を伸ばす。
花火の音が響く中、二人は互いの唇に口付けする。
そして二人は、何食わぬ顔で親友達と合流するのであった。
ff
・赤く、そして熱く(かな紅)
「おっそいなぁ、紅介のやつ……。もう10分も遅刻だぞ。……でもまぁ、待つのもデートの楽しみって響も言ってたし、大目に見てやるかぁ」
その日奏は、自分のファンであり歳下の彼氏である、紅介が来るのを待っていた。
無論、変装用の帽子と伊達眼鏡で顔を隠しているので、傍目から見れば天羽奏だと気付く者は少ないだろう。
しかし、やはりデート待ちの女性というものは、こういう輩にとって格好の獲物らしい。
「ねぇねぇ彼女、今暇?よかったら俺らと遊ばない?」
「抜け駆けすんなよ。俺とだよね?」
遠目に見ても隠しきれない彼女の女性的な美しさに釣られ、2人のナンパ男が寄ってきた。
「あ~……悪いけど、あたしそういうの興味ないから」
「んだとぉ?調子に乗りやがって!」
「事実なんだけどなぁ」
「まぁまぁ、そう言わずに……ね?」
そう言って男は奏の腕を掴む。
「バッカお前、乱暴にしてどうすんだ!?」
「こういう女はこうでもしないとダメだろ?」
(こいつは我慢していられる状況じゃねぇな……。そろそろ一言──)
奏の我慢が吹っ切れそうになった時だった。
「おい!テメェら何してやがる!」
「「えっ?」」
振り返るとそこには、怒気を炎のように立ち昇らせた紅介の姿があった。
「彼女に用があるなら、俺を通してもらおうか?」
「……何?君が彼氏?」
「うっわ、いかにも暑苦しそう。絡んだら厄介だぜ」
「あーあー、やめたやめた。面倒事は嫌いだわー」
「あっ、おい、ちょっと!?」
背が低い割には凄まじい、もとい暑苦しい紅介のオーラに、二人の男は呆れ気味な顔でその場を立ち去った。
予想していたより引き際を弁えた相手に、紅介のやる気の炎はあっという間に鎮火される。
「えぇ……」
「よっ、紅介」
「あ……奏さんッ!すみません、俺が遅刻したばっかりに!」
綺麗に45度ぴったり、頭を下げる紅介。
しかし、奏は笑って流した。
「おいおい、気にすんなよ紅介。あたしは大丈夫だし」
「ならいいんスけど……」
「それにさっきのお前、ちょっとかっこよかったぜ」
そう言って笑い、紅介の頭を撫でる奏。
「あっ、ありがとう……ございます……/////」
「でも、遅刻した分は埋め合わせてくれよな?」
「はいッ!任せてくださいッ!」
こうして、二人の初デートが始まる。
果たして紅介は、憧れの奏を何回キュンとさせられたのか……。それはまた、別のお話である。
後書き
改めましてサナギさん、どうもありがとうございました!
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