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戦国異伝供書

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第百一話 出雲攻めその五

「これよりな」
「父上、あの城は非常に賢吾でありますが」
 隆元はあえてという口調で父に言った。
「しかしですな」
「そうじゃ、こちらは四万五千で相手は五千じゃ」
「九倍の開きがありますな」
「しかも尼子家の城はもうあの城だけじゃ」
 月山富田城だけだというのだ。
「ならばじゃ」
「最早、ですな」
「兵糧も限りがある」
「城が一つならですな」
「もう孤立無援であるしな」
「兵糧攻めにしてもいいですな」
「そうじゃ、攻めずともよい」 
 力攻め、それもまたよしというのだ。
「別にな」
「左様ですな」
「しかし攻めて来る者達もおる」
「その山中殿と十人衆ですな」
 今度は元春が言ってきた。
「これまでも散々戦いを挑んできましたな」
「無謀なまでにな」
「兵の数が少なくとも我等に攻めてきました」
「その時はわしが出て相手をしておるが」
「やはりあの御仁は強いですか」
「猛者であり采配もよい」
 こちらもというのだ。
「かなりな、だからな」
「手強いですか」
「攻めは陶殿よりも強い」
「そうした御仁ですか」
「だからな」
 それでというのだ。
「わしでないとな」
「対することは出来ませぬか」
「うむ」
 まさにというのだ。
「策はないがな」
「それでもですな」
「攻めることが強く」
「油断出来ませぬか」
「そして攻めるにあたって陶殿の迂闊さもない」
 彼にあったそれもないというのだ。
「隙を見て攻めることもな」
「ないですか」
「左様ですか」
「だからですか」
「殿でないとですか」
「苦しい戦いになるからな」
 だからだというのだ。
「これからもわしが受け持つ」
「攻め一辺倒ならです」
 隆景が言ってきた。
「よくそこに隙が出来て」
「陶殿の様にな」
「そこに付け込めますが」
「山中殿はそれがない」
「そうなのですな」
「策はないが隙もない」
 元就はさらに言った。
「そして非情に粘り強い」
「諦めもしませぬか」
「そうじゃ、陶殿はあっさりと崩れたが」
 また彼と例えて話した。
「あの御仁は全く違う」
「だからですか」
「それでじゃ、月山富田城攻めもな」
 この城を攻める時もというのだ、これからのその時も。
「よいな」
「父上が、ですな」
「あの御仁と十人衆の相手をする」
「そうされますか」
「うむ、しかしあれだけの御仁な」
 山中についてだ、元就はこうも言った。 
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