ペルソナ3 ファタ・モルガーナの島(改定版)
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【 結 】
前書き
さて、いよいよラストバトルです。
モルガナとの共闘がこの話のメインテーマですが、実は裏側で美鶴と幾月の和解もテーマにしてます。
P3、P4、P5にはそれぞれ裏切りキャラがいて、P4、P5に出てくる二人はなかなかの人気です。この二人は戦いに敗れた後、主人公たちに歩み寄る描写もあるのですが、幾月だけはただの裏切り者として死んでしまいます。おじさんだし人気無いし、比べるとちょっと可哀そうなキャラかなーと思ってたので、こんな展開だったら良かったね、という思いを込めています。
【人間は滅びを望んでいる。その望みをかなえるため、まもなく大いなる神が降臨する。神の降臨とともに人間は安らかな終焉を迎えるであろう。そして全ての人間は、生きる苦悩から解放されるのだ。
しかしそれに抗おうとする愚かな人間もいる。誤った道を示し、人間たちに生きる力を与えようとする者・・・それがお前達だ。お前達は障害なのだ。
そこで、我はお前たちを排除し、滅びを速やかに進めるために、この男の意思に介入した。】
「つまり、幾月を操っていたということか?」
美鶴が驚いたように言った。
【もともとはこの男の中にあった願望である。理性を抑え、その欲望を歪めて膨らませてやった。この男は歪んだ欲望に駆られて全てのアルカナのシャドウを集め、人類の終焉に向けた下準備を行った。そして最後にはお前たちの始末もするはずであったが、あいにく先にこの男の方が死んでしまった。我は、この男の心が消え去る前にその歪みをこの空間に固定し、お前たちを誘い込むことにしたのだ。人類の終焉を邪魔するお前達を消すために。】
「死んだ人間の心まで利用するのか。」真田が怒りをこめて叫ぶ。
【全ては人間を苦悩から解き放つため。これは救済である。
それが理解できない愚か者は、全て排除する。大いなる夜の神 ニュクスの意思だ。】
オイジュスからさらに強烈な圧が押し寄せてくる。全員が足を踏ん張り、顔を歪めてそれに耐える。
「ワガハイは?・・・ワガハイもその為に利用されたのか?・・・」
ゆかり に支えられて起き上がりながら、モルガナがうめくように言った。
【お前の役割は、こやつらをこの場所への連れてくる為の道案内。既に役割は終えた。消え去れ。】
「そんな・・・ワガハイは・・・ワガハイはいったい何者なんだ?」
モルガナが悲痛な叫び声を上げる。
【その答えは無い。お前の存在に意味など無い。】
「嘘だ・・・。」
苦し気にそう言うと、モルガナはがくりと膝をついて身を震わせた。
ゆかり が心配そうに、その体を抱きかかえた。
「結局、幾月の裏切りは、ニュクスとやらの下っ端であるこいつの仕業ということか。美鶴、お前の真の仇もこいつというわけだ。」
真田は美鶴の横に並んで立つと、彼女に語りかけた。
「このままでは済まされないな。」真田が召喚器を手にする。
全ては人間を滅ぼすために仕組まれたことだ。幾月もそのために利用されたに過ぎない。
筋道が立った気がした。美鶴の心の中で乱れていた思いが一つの決意に集束した。
そう、倒すべきは目の前にいる邪悪な神だ。
「そのようだな。けじめはつけさせてもらおう。」
美鶴もオイジュスに向き直ると、召喚器を引き抜いた。
「ペルソナ!」
美鶴と真田、二人の上げた声とともに戦闘が開始された。
カエサルとアルテミシアが同時に出現する。
『彼』も召喚器を握り締め先輩たちに並ぶ。すかさず ゆかり が後方から弓を引き、援護に入った。
真田の電撃攻撃と美鶴の氷結攻撃。
対してオイジェスから放たれる攻撃を『彼』がペルソナのスキルで防ぐ。
その合間を縫って ゆかり がイシスを呼び出し疾風攻撃を行う。
連携の取れたフォーメーション。それぞれに進化したペルソナの強烈な攻撃が立て続けに繰り出される。
しかし相手は打たれ強かった。
特に電撃には耐性があるらしく、真田には不利な相手であった。
一方、疾風攻撃と物理攻撃は効果があるようだった。真田は物理攻撃主体に切り替えた。
激しい攻防が続く。力が拮抗し、長期戦の様相を呈してきた。
しかし、一瞬のスキをついて、ガルダインを繰り出す ゆかり に向けて電撃が走った。
もろに食らった ゆかり が昏倒する。
「ゆかり!」美鶴が叫んだ。
すかさずカバーに入った『彼』がタナトスを呼び出す。
さらに3人での攻防が続けられるが、ゆかり が欠けた状態では『彼』が補助と回復に回らざるを得ず、次第に防戦一方となっていった。
そしてついに敵の強力な攻撃に美鶴も倒れ、さらに真田も膝をついた。
戦いは、敵の攻撃を『彼』一人で食い止めるという苦しい展開となった。
その戦いの背後で、両手を床に付けて体を支えた状態のまま、モルガナは自問していた。
「ワガハイが・・・何者でもない? ワガハイの存在に意味が無い? ただこいつらを罠にかけるための案内役? そんなこと・・・。」
存在意義を否定され、自分を見失いそうになる。
『本当にそれでいいのか? 誰かにそう言われたら、それで納得できるのか?』
ふいに頭の中で何かがモルガナに語りかけてきた。
「冗談じゃない。ワガハイがそれだけの存在であって堪るものか。」
モルガナは歯を食いしばり反論した。
「自分が何者かになろうとしている限り、可能性は無限大だ。存在に意味が無いなどとは絶対に言わせない。」
顔を上げ皆の激しい戦いを見つめる。彼らの戦う姿にモルガナは気を奮い立たせた。
「ワガハイだってこいつらのように自分の意思で立てる。ワガハイだって戦える。誰が何と言おうとワガハイはワガハイだ。」
『よかろう。その言葉を待っていた。』
何者かの声とともに、モルガナの目の周りを覆うように仮面が現れた。
同時に引き裂かれるような苦痛が押し寄せてくる。その苦痛の中心に仮面があった。耐えきれずに両手で仮面をつかむ。
『それでは契約だ。我が力を存分に使うが良い。』
「うあああああ。」
モルガナは叫び声を上げながらその仮面を力いっぱい引きはがした。
引きはがされた仮面は形を変え、モルガナの前にマスクとマントの剣士となって現れる。
『お前の存在を決めるのは他者ではない。己を信じることこそが己を己たらしめる。
我は汝、汝は我。己が信ずるものの為に、茨の道を進む者よ。
このゾロが茨を払う剣となろう。迷わず道をつき進むのだ。』
「ワガハイのペルソナ? あいつらと同じ力がワガハイにも?」
突然、体に力が湧き出した。ペルソナとは己の心の力。その力の解放感に、モルガナは思わず顔を歪めて笑みを浮かべた。
眼を向けると、今や『彼』が一人で仲間を守ってしのいでいる。
モルガナは迷うことなく、オイジュスと戦い続ける『彼』のもとへと駆け寄った。
「我が決意の証を見よ! 威を示せゾロ!」
モルガナのかけ声とともに、ゾロの疾風攻撃がオイジュスに襲いかかり、相手の攻撃を留める。
「いけ、セト!」
そのスキをついて付け替えた『彼』のペルソナが追撃する。
モルガナは続けてゾロを呼び出し、ゆかり に回復スキルを使った。
ようやく電撃のショックから復帰した ゆかり が、美鶴と真田を順に回復させていく。
仲間が次々と戦線に復帰し、それとともにオイジュスへの攻撃が激しさを増す。
モルガナの参戦で完全に形勢が変わった。
【なぜだ。なぜただの人間がここまで戦える。】
オイジュスが狼狽して声を上げる。
「貴様は人間をなめすぎなんだ。」モルガナが叫んだ。
「人間はしぶとい。立ち止まることは有っても、そんなに簡単に生きて前に進むことをあきらめたりはしない。」
ゾロが疾風攻撃を繰り出す。
「そうだ。それを俺たちが証明してやる。人間には立ち上がる力があることを。」
真田のカエサルが物理攻撃を放つ。
「私も一度は絶望した。しかし仲間に力を貰って、再び前に進む決意ができた。一人ではできないことも仲間とならできる。」
美鶴のアルテミシアが氷結攻撃でたたみかける。
「そうよ。くじけた人がいたら、私たちがひっぱいてでも立ち直らせてやるんだから。」
ゆかり のイシスによる、さらなる疾風攻撃が襲いかかる。
ペルソナチームの猛攻に、オイジュスの体が次第に萎縮していく。攻撃も弱まり、明らかに力を失って弱体化している。
そして、ついに大きく態勢を崩した。
「総攻撃チャーンス!」ゆかり 全員に声をかけた。
「この瞬間を待っていた!」真田が叫ぶ。
「終わらせる!」美鶴も声を上げる。
【おお・・・そんな・・・馬鹿な・・・】
集中攻撃をあびてオイジュスがもだえる。
すかさず『彼』はセイテンタイセイを呼び出した。
「決着はニュクスと付ける。下がれオイジュス。お前の出番はない。」
『彼』の声と共に、強烈な物理攻撃がオイジュスを粉砕する。
【ぐおおおお・・・・・・】
オイジェスが唸り声を上げ、そして黒い塵となって消えていった。
長い戦いが終わり静寂が戻る。全員が力を使い果たしてその場に崩れ落ちた。
しばらくはそのままの状態で、荒い息をついて座り込んでいることしかできなかった。
やがて美鶴がふと顔を上げると、オイジュスの消えた後に、茫然と立ちつくす幾月が残っていた。
「幾月・・・。」
声をかけられて、幾月が美鶴に顔を向ける。
「君たち・・・悪かったね。僕は何かおかしな妄想に囚われていたようだ。今、こうしてみると、何故あれほど執着したのか自分でもよくわからないよ。」
夢から覚めたような口調で幾月が答えた。
「理事長。あなたはタチの悪い奴に利用されていただけだったんです。」
美鶴が思い余って声を上げた。
「そうか・・・でも、それも自分の意思をしっかり持っていなかったからだ。僕に、そこの猫くんほどの強さがあれば、抗うことだってできたはずだ。僕の弱さのせいで大変な迷惑をかけてしまった。本当に申し訳ないことをした。」
幾月が深々と頭を下げた。
「いえ、・・・もう、その言葉で充分です。おかげで私も心のわだかまりが解けました。・・・これでようやくあなたを許すことができます。」
美鶴は涙ぐみながらそう言ってうつむいた。
「ありがとう。でも残念ながら、君たちはこの出来事を記憶に留めておくことはできないんだよ。僕自身、今は仮そめの存在で、まもなく消えてしまうだろう。でも生きている君たちは、なんとか未来を勝ち取って欲しい。それを心から願っているよ。」
「任せてください。俺たちは何があっても絶対に負けません。」
真田が力強く答える。
それを聞いた幾月は、嬉しそうに微笑んだ。
「さあ。もう行った方がいい。この場所は、そろそろ消滅するはずだ。」
気が付けば、周囲が歪み、宮殿がその形を崩し始めていた。
オイジュスが固定していた世界が、再び崩壊しようとしている。
「まずい。時間が無い。行くぞ!」
モルガナが声をかけ、慌てて出口に向かう。
「では、行きます。」
『彼』はそういうと、立ち上がった。
みんなで幾月に頭を下げ、そしてモルガナを追ってホールの外へと向かう。
走り去っていく姿を見送った後、幾月の姿は静かに消えていった。
宮殿が崩れ去る。
モルガナの導きで、まわり道をせず真っすぐに外へ駆け抜けたため、かろうじて巻き込まれる前に脱出に成功した。
あの巨大な宮殿が、瞬く間に形を失っていく。しかしそれを眺めてはいられなかった。
崩壊は宮殿のみにとどまらず、島全体に広がり始めていた。
「休んでる暇はない。海岸まで走るぞ。」真田がみんなに声をかける。
それを聞いて ゆかり が息も絶え絶えに悲鳴を上げた。
「ええっ! そ、それは・・・さすがにキツイ!」
「む、無理もない。宮殿の探索に加えて激しい戦闘。そして建物からの脱出で、みんなもうバテ切っている。」
美鶴も息を乱しながらそう言った。
海岸まで走るには、あまりに距離があり過ぎた。どう考えても無理がある。
かといって、このままではパレスの崩壊に巻き込まれてしまう。命がかかっているのだ。
焦燥感にかられた真田は、やけになって叫んだ。
「モルガナ! お前も化け猫ならバスとかに化けられないのか!」
「誰が化け猫だ! 無茶を言うな。狸じゃないんだぞ!!」
走り出しかけたモルガナが振り向いて言い返した。その拍子に足がもつれて転倒する。
「うわっ」
途端、モルガナの姿が一瞬で黒いワンボックスカーに転じた。
「え~!!」
あまりのことに全員が声を張り上げる。
「え~!!!!」
車になったモルガナも同様に驚きの声を上げている。
「・・・。や・・・やればできるじゃないか。」と真田が毒気を抜かれたように言うと
「ワガハイ、もうなんだかわからない。」とモルガナが情けない声を洩らした。
その時、轟音とともに背後の地面が崩れて陥没し始めた。
ゆっくり驚いている時間もない。
「ともかく乗り込め。」
真田のかけ声で、全員が車内に飛び込む。
「よし出発しろ。」
「誰か運転してくれ~。」
真田に言われて、モルガナが情けない声で答えた。
「自力で走れないのか?」
真田は驚いたように訊き返す。
「たぶん、ワガハイがこんな姿になったってことは、世の中に『猫はバスに化けるとか』とかいう、おかしな認知でもあるんだろう。まあ・・・ワガハイ、猫じゃないけどな・・・。
でも車が一人で勝手に走るという認知はないらしくて、運転してもらえないと走れない。」
「ええい、面倒な。」
焦る真田を手で制して、「私が運転しよう。」と美鶴が言った。
「できるのか!?」
「免許は誕生日の後、すぐに取った。それまでも私有地内で練習していたから、それなりに運転はできる。」
「あきれたやつだな。」真田が目を見開く。
「バイクの免許も持ってるだろ。・・・その・・・私はこういうのが好きなんだ。」
少し顔を赤らめてそう言うと、美鶴は運転席を代わり、ハンドルを握った。
舗装もされていない夜道を、美鶴はラリーのように突っ走った。
大きく車体が揺れるたびに ゆかり の悲鳴が上がる。しかしスピードは緩めない。
一刻を争う状況なのは確かだが、美鶴は思い切り疾走することに開放感を感じていた。
こうして、車は瞬く間にもとの海岸にたどり着いた。
降り立ってみると、すぐ目の前にタルタロスから上ってきた階段が再び出現していた。
ゆかり は、目を回してよろよろと車外に出てきたが、階段を見て歓声を上げる。
「やった。これで帰れますね。」
みんな、ほっとした表情を浮かべてうなずく。
島の奥から、崩壊の地響きが激しさを増していく。
もう猶予はない。
「ここでお別れだ。ワガハイはメントスに戻る。幾月の言葉が本当なら、お前たちの事を覚えておくこともできないだろう。」
いつの間にか『猫もどき』の姿に戻ったモルガナが、みんなに向かって言った。
「それはたぶん本当だと思う。僕は以前にもオイジェスと戦ったはずなのに、そのことがほとんど思い出せない。」
『彼』がそう付け加える。
「残念だな。本当に世話になった。お前はいい仲間だった。ありがとう。」
美鶴はモルガナに感謝を込めてそう告げた。
「まったく見上げた根性だ。猫にしておくのがもったいない。」真田も感服したように声をかける。
「だから猫じゃねーって。」
モルガナがそう返し、そしてみんなで笑った。
「いつかワガハイもお前らみたいな仲間を見つけるよ。一人でできることには限界があることがよくわかったからな。」
「ああ、頑張れ。」真田が力強く応えた。
「早く人間に戻れるといいね。」ゆかり が涙ぐんで言う。
「ありがとう。じゃあな。お前らも頑張れよ。」モルガナが手を上げる。
「じゃあ。」
真田も手を上げて別れの挨拶をすると、先頭をきって階段を降りていった。皆、その後に続いく。
そしてタルタロスの元のフロアに帰ってきた。
【みなさん聞こえますか?】すかさず通信が入った。
「風花?」
【ああ、良かった。今ちょっとの間、皆さんを見失ってしまっていて・・・通信もつながらないし、何かあったんじゃないかと・・・。】
「大丈夫だ。とりあえず全員無事にそろっている。ただちょっとおかしなことに・・・。」
美鶴は言いかけて眉をひそめた。階段を上って以降のことが思い出せない。何か大変なことがあったような気がするのだが、その記憶が空白だった。ただ、激しい戦闘の後のように極端な疲労感がある。体は傷だらけで服もボロボロだ。
「何か・・・忘れている気がするな。」
真田が自信無さそうに言った。
「そういえば、私らなんで階段を降りてきたんでしたっけ?」
ゆかり も不思議そうな顔をする。
【ともかく影時間がもう間もなく終わります。そろそろ引き上げてください。】
「そうですね。転送ポイントへ行きましょう。」
『彼』がみんなに声をかけ、タルタロスから引き上げることとなった。
結局、その日の探索について、メンバー4人に奇妙な記憶の欠落があるものの、それが何かはとうとうわからないままだった。
しかし美鶴には、何か心の中にささっていたトゲが抜けたような、不思議な爽快感が残った。
その夜、寮に戻る途中のこと、彼らは夜道を横切る一匹の黒い猫を見かけた。道の中央で猫は立ち止まり、こちらをじっと見つめる。
一瞬目が合った後、猫はそのまま闇の中に走り去っていった。
4人は何も言わずに、ただその姿を見送った。
後書き
ということで、モルガナにはゲーム本編に無かった覚醒シーンという美味しい展開を用意しました。いかがでしたでしょうか。
また前回書いた話ではモルガナが車に変身する部分は無かったのですが、今回新たに追加です。
P5のゲームで、モルガナは得意気に車に変身するけど、運転してもらわないと動けないわけです。ということは、以前、誰かに運転してもらったことがあるんじゃないかと思いました。そこで、実は美鶴先輩が運転してたというのもいいんじゃないかと思った次第です。
ということで、今回のリメイク版完結です。それではまた。
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