遊戯王EXA - elysion cross anothers -
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TRICLE STARGAZER
TRSG-JP006《決闘去ってまた決闘》
前書き
【魔導】
転生者・望月黒乃の使用しているデッキ。現実世界ではRETURN OF THE DUELISTで初登場したカテゴリー。"魔導書"と呼ばれる複数の魔法カードを軸に《魔導法士 ジュノン》をエースモンスターに据えたデッキです。
この世界では一般的に流通しており、特に軸となる《魔導書士 バテル》《魔導法士 ジュノン》《グリモの魔導書》の3枚はこの世界でもデッキ構築の上で金銭上の大きな壁となっています。
元々彼の持ち込んだデッキに"魔導書"以外の"魔導"は1枚も入っていませんでした。デッキの基盤は転生者に狩られてしまった先輩が託したデッキのものであり、彼女の形見として2つのデッキを織り交ぜて使用しています。
「……っ、俺は………?」
いつの間に俺は気を失っていたのだろうか。目を覚ましたとき、屋上に緊迫した雰囲気は既になくなっていた。
「あ、起きた?」
俺の視界に入ってきたのは、茜色にに塗りつぶされた空。この声の主が恩人のものであると気づき、俺は声のした左の方に顔を向けた。
「蓮……そうか、俺は助かったんだな」
「うん。結構危なかったけどね」
ライフ400まで削られちゃったし、と彼は付け加えた。
体を起こし、周囲を見渡す。向こう側には、ボロボロに傷つけられた夜神の死体が転がっていた。……なんで服がなくなっているのかは、今は考えなくていいだろう。
「結局、闇のゲームの物理ダメージで殺さないと勝てなかったからさ……」
「ころ……そうか、そうだよな」
そんな都合よく助けられるほどこの世界は上手く出来てなんかいない。本当は、夜神を殺さずに改心させる道があればよかったんだが……闇のゲームから生還できただけでも、ありがたいと思わなければ。
「黒乃、1つ聞いていい?」
「なんだ?」
「"転生者狩り"ってさ、なんであそこまで歪んじゃったの?」
蓮の問いに、俺は頭を悩ませた。最初から……と答えるわけにもいかないよな。あいつらの言ってることはなんだかんだで正論の方が多いし。
「……あれじゃねえか? 転生者が増えすぎて、"転生者狩り"のトップが苦渋の決断をしたとか」
「ああ、なるほどね。つまり、黒乃みたいな"普通の転生者"達にも明確な非があると」
「そう……だな。俺自身、原作を破壊していないかと言えば嘘になると思う」
現に、転生者の中で最も|主人公
《サクライ ユウト》と親しい関係にあるのは俺だ。本来は物語に存在しないものと親しいなど、これを原作崩壊じゃなければ何と言うのか。
「原作を他の転生者に壊されたくなかった。だから俺は、原作に繋げるために徹底した露払いをした……その結果が遊人の男親友ポジションってのは、一種の皮肉なのかもな」
「まあ、仕方ないんじゃない? 目的が目的だし」
「そのはずなんだけどな……」
現に、こうして俺は命を狙われているわけだ。もしかしたらこの先、遊人達と絶交する選択肢も取らないといけないかもしれないな……。
「……あ、そうだ。蓮、ちょっといいか?」
ふと、以前あっちで貰った一冊の本のことを思い出した。今の状況なら、この本を使うための環境が整っているかもしれない。
「ん?」
「夜神の死体、俺が貰ってもいいか?」
「……死体を? いいけど、それを何につか……って………」
怪訝そうに言った蓮の目は、俺の手元で起きた現象で驚愕に変わった。……まあ、それもそうだろう。初めてこれを目撃すれば、誰だってそうなるに違いない。
「ちょっとした実験だ。こいつに……夜神桜に《ネクロの魔導書》を使う!」
何もないところから手元に本が落ちてくる、そんな光景なんて―――!
― ― ― ― ― ― ― ―
―――― Turn.0 Are you ready? ――――
1st/Aisia Elysion
◇LP/4000 HAND/5
◇set card/mo-0,ma-0
2nd/Yumina Orihime
◇LP/4000 HAND/5
◇set card/mo-0,ma-0
「うう、どうしてこんなことに……」
私の目の前で、アイシアさんの姿をした偽者が途方に暮れています。先輩の姿をした偽者も逃がしてしまいましたし……とりあえずは目の前の彼女を倒してから考えましょうか。
「私とエンカウントしたことが運の尽きでしたね。本物の先輩の方も探さないといけないので、あなたにはさっくりと終わってもらいます!」
「運の尽きなのは間違ってないけど、こんなのってないよー!」
「「デュエル!」」
Turn.1 Player/Aisia Elysion
1st/Aisia Elysion
LP/4000 HAND/5→6
2nd/Yumina Orihime
LP/4000 HAND/5
「せめて先攻はもらうよ!」
そう言って、彼女がデッキトップに手を掛けた。別に構いませんけどね、私のデッキは後攻の方が動きやすいですし。
「私の先攻、ドロー!」
本物のアイシアさんのデッキは【TG代行】でした。が、この偽者が必ずしも同じデッキを使ってくるとは限りません。やっぱりそこは出たとこ勝負でしょうね。
「……やった!《創造の代行者ヴィーナス》を召喚!」
彼女の場に黄金色の長い髪をもった女神が現れました。その目は常に閉じていて、何かに祈っているかのような印象を感じます。
創造の代行者ヴィーナス
☆3 ATK/1600
「"ヴィーナス"の効果発動! ライフポイントを500使って、デッキから《神聖なる球体》を特殊召喚するよ!」
Aisia LP/4000- 500=3500
ぽんっ、と。化学の授業でフラスコの中に入った水素に火をつけたときのようないい音を立てて、白い珠が姿を表しました。通常モンスターながら、【代行天使】においては《創造の代行者ヴィーナス》のお陰で必須パーツの仲間入りを果たしています。
神聖なる球体
☆2 DEF/500
「もう一回"ヴィーナス"の効果発動! デッキから2体目を呼んでくるよ!」
……まあ、専らシンクロとかエクシーズとかのためなんですけどね。ぽんっ、とテイク2です。
Aisia LP/3500- 500=3000
神聖なる球体(β)
☆2 DEF/500
……ほら、レベル2が2体。先輩だったら、きっとここで「ね、簡単でしょう?」と説明するでしょうね。ネタが分かるようになってしまった私がとても悲しいです。
「行くよ! レベル2《神聖なる球体》2体をオーバーレイ!」
人の歴史は光と共に、時空を繋ぐ奇跡を紡ぐ!
司りしは人々の意志、不可能を砕 く不屈の英雄!
☆2×☆2=★2
エクシーズ召喚! 解き放て、眩き栄光!
「来て、《ガチガチガンテツ》!」
……やはり出てきました。スターターデッキに入っていた遊戯王OCGで最初のエクシーズモンスター、その1枚。
屈強な肉体は黒ずみ、その覇気は彼自身が無言にも関わらずフィールドを威圧しています。
ガチガチガンテツ
★2/2 DEF/1800→2200
「《ガチガチガンテツ》がいる間、私のフィールドにいるモンスターのステータスは素材1つにつき200アップするよ。今は2つだからプラス400!」
全体強化、これが問題なのです。攻撃力も守備力も上昇するため隙もなく、シンプルで地味な効果にも関わらず対処が面倒です。
この効果で《ガチガチガンテツ》の守備力は2200。《フォトン・スラッシャー》で突破できないとは、時として予想外に厄介なものとなります。
創造の代行者ヴィーナス
☆3 ATK/1600→2000
そして《創造の代行者ヴィーナス》の攻撃力も2000の大台に乗りました。《ライオウ》《コアキメイル・ガーディアン》などの厄介な下級効果モンスターは、ほとんど攻撃力が1900に横並びしています。それを一方的に殴り倒せるなど、メリットと言わずに何と言うのでしょうか。
「カードを2枚セットして、私のターンは終了だよ!」
彼女は説明しませんでしたが、《ガチガチガンテツ》には破壊されるときに素材を1つ取り除くことで場に留まる、いわば破壊耐性を持っています。本当なら《No.50 ブラック・コーン号》で墓地送りにするのですが、この世界に来た段階で私のエクストラデッキに入っていた"No."はすべて消えてしまっています。さて、どうしたものでしょうか……。
―――― Turn.1 End Phase ――――
1st/Aisia Elysion
◇LP/3000 HAND/3
◇《創造の代行者ヴィーナス》ATK/2000
◇《ガチガチガンテツ》DEF/2200
◇set card/mo-0,ma-2
2nd/Yumina Orihime
◇LP/4000 HAND/5
◇set card/mo-0,ma-0
ともかく、まずはドローするとしましょうか。話はそれからでも十分間に合いますからね。
「私のターン、ドロー!」
Turn.1 Player/Yumina Orihime
1st/Aisia Elysion
LP/3000 HAND/3
2nd/Yumina Orihime
LP/4000 HAND/5→6
引いたカードを手札に加え、改めて戦術を組み立てます。
「まずは《サイクロン》を発動! あなたの……そうですね、デッキ側のカードを破壊します!」
シンプル・イズ・ベスト……遊戯王においてテキストの短いカードは総じて強い、という法則があります。さすがに例外はあるでしょうが、このカードはまさに理にかなったカードといえるでしょう。
《サイクロン》の効果は「フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。」というもの。簡潔に述べましたが、しかしこれが全文です。
カードから竜巻が発せられセットされていたカードを破壊しました。破壊されたカードは……《奈落の落とし穴》ですか。これは良い当たりです!
「手札の《シャドウ・リチュア》の効果を発動! このカードを手札から墓地に送り、デッキから"リチュア"と名のついた儀式魔法《リチュアの儀水鏡》を手札に加えます!」
"リチュア"専用の儀式魔法をサーチする効果を持つモンスター《シャドウ・リチュア》。この存在のおかげで、【リチュア】は専用儀式魔法を実質4枚以上デッキに投入することができるようになっています。
「儀式魔法《リチュアの儀水鏡》を発動! 生贄に2枚目の《シャドウ・リチュア》を使用します!」
「ええっ!?」
《シャドウ・リチュア》のレベルは4、つまり召喚される儀式モンスターはそれと同じレベル4。しかし……
「"リチュア"のレベル4……?」
「《イビリチュア・プシュケローネ》ですね。入ってませんけど」
《シャドウ・リチュア》の持つもう1つの効果……それは"リチュア"の儀式モンスターに必要な生贄を踏み倒すというもの。
そもそも【リチュア】は軸に合わせて儀式モンスターを複数枚投入しているため、儀式召喚の生贄には同レベル帯の儀式モンスターを使えばいいだけのこと……ですが、それでも手札事故は起こります。例えばそれは、今の私のように儀式モンスターが1枚しか手札に来なかったとき。《シャドウ・リチュア》の真価は、そんなときに発揮されます。
「《シャドウ・リチュア》のレベルを8に儀装! 儀水鏡、強制起動!」
我描きしは幻想の蒼、摂理に背きし深淵の影!
現世を憂いし少年よ、蒼き龍と成り世界を枯らせ!
儀式召喚! 歪みし運命、その手で断ち切れ!
「《イビリチュア・リヴァイアニマ》、召喚!」
地に照らされた蒼碧の召喚陣。姿を現したのは、儀水鏡の改良品―――《リチュアの写魂鏡》―――を体の中心に埋め込んだ青き龍。他の儀水獣とは違い、その瞳には明確な意志が宿っています。
生贄に自らの命を使う"写魂鏡"は、結果として自我を保ちながら儀水化することに成功しました。しかしそれは"リチュア"の理念に大きく反したもの。他者を喰らわない儀水術は、彼が最初で最後になってしまいました……。
イビリチュア・リヴァイアニマ
☆8 ATK/2700
……ここでチェーンがないとなると、あのカードは攻撃反応系でしょうか? あるいは、私が召喚権を使うのを想定して《激流葬》を敢えて撃たなかったというのも考えられます。
「それでは《リチュア・ビースト》を通常召喚します!」
まあ、出しますけどね。私の手札には800の攻撃力と引き換えに魔法・罠への耐性を与える速攻魔法《禁じられた聖槍》があります。最悪の場合でも、それを使えば"リヴァイアニマ"を守ることは出来ますから。
私の場に、魚人……ではないでしょうね。"ビースト"だけあって獣族ですし。これ、一体何なのでしょうか?
リチュア・ビースト
☆4 ATK/1500
「《リチュア・ビースト》が召喚に成功したとき、自分の墓地からレベル4以下の"リチュア"と名のついたモンスター……《シャドウ・リチュア》を表側守備表示で特殊召喚します!」
"ビースト"がその両手を地に叩きつけます。周囲に何本もの水柱が発生し、"ビースト"がその場を離れると同時に水柱は集束し、巨大な一本の塔に変わりました。
やがて塔が崩れ去り、中からは杖を持った二足歩行の青い魔物が現れました。服の首元が巻き貝の口みたいになってますが……元ネタ何でしょうね、これ。
シャドウ・リチュア
☆4 DEF/1000
「レベル4が2体……!」
「行きますよ! レベル4《リチュア・ビースト》《シャドウ・リチュア》の2体をオーバーレイ!」
我描きしは幻想の蒼、摂理に背きし深淵の影!
停滞を知らぬ儀水の鎖、覚悟の炎を食い荒らせ!
☆4×☆4=★4
エクシーズ召喚! 合成禁術の果て、更なる侵略と繁栄を!
「《ラヴァルバル・チェイン》、召喚!」
儀水の禁術を使い、"リチュア"は"ラヴァル"という1つの種族を滅ぼしました。"リチュア"にとって、他の種族は所詮1つの道具に過ぎなかったのです。私の場に現れたのは、その禁術の果てに生まれ変わった《リチュア・チェイン》。……のわりに、攻撃力も守備力も変わってないのはどういうことなんでしょうね。
ラヴァルバル・チェイン
★4/2 ATK/1800
「《ラヴァルバル・チェイン》の効果を発動します! エクシーズ素材を1つ取り除き、私は2つ目の効果を宣言! 描ケ、創造スベキ幻想!」
炎を纏った"チェイン"の体が蒼に輝きました。昨日1つ目の効果を使ったときは紅に輝いていたので、やっぱり2つの効果は対になったものと考えてよさそうですね。
ラヴァルバル・チェイン
★4/2→1 ATK/1800
「合成禁術によって、《リチュア・チェイン》は未来の可能性に対して破壊と創造を行う力を手に入れました。私が起動したのは2つ目の効果、創造。私のデッキからモンスターカード1枚をデッキトップに送ります」
「デッキトップ……ああっ!?」
……気づいたようですね。
《ラヴァルバル・チェイン》の持つ2つの効果は、どちらも直接的なアドバンテージを得ることができません。しかし、それはあくまでこのカード単体での話。複数のカードと組み合わせることで、この効果は爆発的なアドバンテージを呼び寄せます。
……普通にトップ"開闢"とかトップ"ダンセル"とかの方が一般的ですけどね。
「バトルフェイズに入ります!《イビリチュア・リヴァイアニマ》で《ガチガチガンテツ》に攻撃宣言! そしてこの瞬間に《イビリチュア・リヴァイアニマ》の効果が発動します!」
青龍が、儀水鏡のついた剣を点に掲げます。同時に剣が淡い蒼光を放ち、上空に1枚のカードが写し出されました。
それはさっき私が《ラヴァルバル・チェイン》の効果でデッキトップに送ったカード。
「《イビリチュア・ソウルオーガ》………!」
「《イビリチュア・リヴァイアニマ》の攻撃宣言時、私はカードを1枚ドローします。ドローしたカードをお互いに確認し、それが"リチュア"と名のついたモンスターだったとき"リヴァイアニマ"の追加効果が発動!」
私がそう言うと同時に彼女の手札……そのうちの1枚が、青く塗りつぶされました。青龍の足元に青い光だけで1枚の絵が映し出されます。
対峙する少女がその絵と手札とを見比べ、気づいたように呟きました。
「これって、私の……」
「《オネスト》ですか……。なかなかに危ないカードを握ってましたね」
私が絵の題名を言い当てると同時に、青い絵画は粒子になって消えていきました。気がつけば、青く塗られていた彼女の手札も元に戻っています。
「これが《イビリチュア・リヴァイアニマ》の追加効果です。といっても、"相手の手札をランダムに1枚確認する"なんて、本当におまけ程度にしかなりませんけどね」
ですが、いいカードを見せてもらいました。制限カードとはいえど、光属性モンスターにおける最強の戦闘サポート《オネスト》の存在は非常に大きいです。あれが既に手札にあるとわかった以上、戦術を大きく崩される可能性が1つ消えたといってもいいでしょう。
「さて、戦闘を続行します! 《イビリチュア・リヴァイアニマ》でガチガチガンテツを攻撃! 蒼輝龍波斬!」
掲げていた剣を再び構え、龍はそれを大きく振るいました。左下から右上へ、剣が蒼く閃いたのは一瞬のことでした。
「くぅ……《ガチガチガンテツ》が破壊されるとき、代わりにエクシーズ素材を取り除いてフィールドに留まることができる!」
その巨人を切り裂いたかに見えたその一撃は、しかし初めから見えていたかのように受け流されます。それでも、武人の精神力を多少は削ぐことができました。
ガチガチガンテツ
★2/2→1 DEF/2200→2000
「ですが、これにより攻守が200下がりましたね」
創造の代行者ヴィーナス
☆3 ATK/2000→1800
今の私のカードプールではこれが限界です。少しずつ、しかし確実に削っていくとしましょうか。
……さて、私の手札には《イビリチュア・ソウルオーガ》《禁じられた聖槍》の2枚。……もしかしたら次のターンで戦線が壊滅してしまうかもしれませんが、私にできることはこの1枚をセットすることだけでしょうね。
「これ以上やることもありませんし、カードを1枚セットしてターンエンドです」
この後のことは次の私のターンに考えるとしましょう。
―――― Turn.2 End Phase ――――
1st/Aisia Elysion
◇LP/3000 HAND/3
◇《創造の代行者ヴィーナス》ATK/1800
◇《ガチガチガンテツ》DEF/2000
◇set card/mo-0,ma-1
2nd/Yumina Orihime
◇LP/4000 HAND/1
◇《イビリチュア・リヴァイアニマ》ATK/2700
◇《ラヴァルバル・チェイン》ATK/1800
◇set card/mo-0,ma-1
― ― ― ― ― ― ― ―
「お疲れさま、蓮。なんかもう、全部終わっちゃったみたいね」
「あ、沙耶姉」
エレベーターで屋上に来た私は、そこに広がっている光景に安心した。
「……ほらね、お姉ちゃん。私達の弟くんは、こんなに立派なのよ?」
蓮に聞かれないよう、小さな声で一人呟く。
そう、全てが終わっていた。蓮は疲れたのかベンチに寝転んでるし、もう1人の男……あ、彼が被害者ね? 右手に本を持って、足元に倒れている少女に……何あれ? なんであの女の子光ってんのよ?
「……蓮、あれ何やってんの?」
「《ネクロの魔導書》。夜神さん……あの死んじゃった女の子に、彼女のデッキを発動コストにして黒乃……あの彼が魔法使ってる」
「夜神……ああ、水咲凍夜にくっついてた哀れなヒロインのことね?」
「うん、何を血迷ったか被害者の少年が蘇生中。……まあ大方、奴隷にでもして有益な情報を無理矢理吐かせるんじゃないのかな」
「性的な意味で?」
「いや、その理屈はおかしい」
ここで何が起こっていたのか、私は知らない。だからあの魔法使いが誰かなんて知らないし、なんで夜神桜がリョナゲーみたいに切り傷だらけに加えて脱衣までしちゃってるのかもわからない。
「……よし、終わった!」
と、向こうで魔導書を持った少年が一息ついていた。あの反応からして、どうやら蘇生作業は無事に成功したようだ。
傷だらけの少女をお姫様だっこになる形で抱え、少年―――蓮は彼を"クロノ"と呼んでいた―――がこちらに近づいてきた。
「おつかれー」
蓮がいかにも怠そうに体を起こす。
「……蓮、この人は?」
「沙耶姉だよ。さっきアイシアに呼びに行かせてた」
「ああ!」
蓮の説明に、納得したように彼は相づちを打った。
「自己紹介した方が良さそうね。私は天河沙耶。そこにいる蓮のお姉さんよ。血は繋がってないけどね」
「初めまして、望月黒乃と言います」
「ああ、やり直しやり直し。普通に呼び捨てで構わないわ、年齢同じみたいだしね」
「……ああ、わかった。よろしくな、沙耶」
「こちらこそ。よろしく頼むわね、黒乃」
……わあい、年齢詐称ばれてないわ! 本当は3つも上なのに、悔しいでしょうねえ(自虐)
「さて、一段落したようだし帰るわよ」
「ん、りょーかい」
蓮がベンチから立ち上がり、大きく伸びをした。太陽は西に傾き始めている。こっちの世界は冬だから、早く帰らないとすぐ日が沈んじゃうわ。
「それじゃあ黒乃、あなたにも来てもらっていいかしら? 転生者だし、どうせ独り暮らしでしょ?」
「わかった。俺も聞きたいことが結構あるからな」
あれ、簡単に交渉成立しちゃった。ちょっと拍子抜け。
「それじゃ、みんなを集めて今日は帰りましょう!」
アイシアが困ってるだろうし、まずは2階に行くとしよう。
「あ、ちょうど来たね」
「あら本当。タイミングいいわね」
そう思ってエレベーターに歩き出すのと、エレベーターの扉が開くのが同時。そして……
「「「―――っ!?」」」
……エレベーターの中、一人の少女が血まみれで倒れているのを私達が視認したのが、同時だった。
「っ……蓮、夜神を頼む! おい、大丈夫か!?」
黒乃が蓮に死体を託し、倒れている少女へと駆け寄った。
「……うそ、でしょ?」
何が起こっているかわからず、故に何もわからなくなってしまう。
「……よかった、まだ息はあるな」
―――否。ただ、わかるとすれば。
「……ぅ、あ………!」
「何も喋るな! 今から俺がお前を治す、何も言わずに力を抜いててくれ!」
黒い髪を長く垂らしたその少女の、一瞬だけ開かれた―――透き通った緋色の瞳。
この分かりやすい特徴を持った少女を、天河沙耶は知っている。
忘れるはずがない。天河沙耶と風見蓮、そして織姫ゆみなの3人を異世界へと拉致したその少女の名を―――!
「クレ……ナ………!?」
舞台監督の使いを自称する少女、クレナ。
神に最も近いともいえるその少女は、しかし何者かによって生と死の狭間へと閉じ込められていた――――。
to be continued...
後書き
なんとか年内に投稿することができました。どうも、月詠カグヤです。
最近1週間1度投稿のペースに追い付けなくなってきました。理由としては2つあります。
1つは、デュエルをする暇がなくてデュエルの内容を思いつきにくくなってしまったことです。暇な時間は結構あるのですが、最近はそれを大学の期末試験勉強とか画力の特訓とかに使っているのです。
もう1つは……やはりというかスランプですね。はい。
同じジャンルで自分の小説より評価の作品は、やはり気になってしまいます。書く側であり、同時に読む側でもありますから。それを改善するためには、どうすればいいか。至った結論は、こんなものでした。
そうだ、この作品に低い評価を付けてくださった人に直接聞いてみればいいじゃないか。
メールで直接お聞きしたところ、帰ってきた答えは「最初の1話で内容に魅かれなかった」「日常の情景描写が足りない」とのことでした。なるほど、その通りだと痛感しました。
そんなわけで、今現在は情景描写を勉強中です。まだ思い至らないところこそありますが、書きながら少しずつ、しかし確実に伸ばしていきたいと思っています。
……これ、活動報告に書いた方が良かったですかね? ハーメルンの活動報告なんて実際あってないようなものですので、別にいいですよね?
そんなところで私、月詠カグヤの年納めの言葉とさせていただきます。それでは読者の皆さま、よいお年を。
月詠カグヤは来年も書き続けます。皆様にファンサービスをお届けするために。
2012/12/31 Kaguya Tsukiyomi
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