夏の甘い時
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第一章
夏の甘い時
この時林彰はかなり喜びかつ不安でもあった。
それでそわそわしていたが妹で中学三年生の法子にこう言われた。
「お兄ちゃん鬱陶しいから」
「鬱陶しいって何だよ」
「これからお寺に行くのね」
「神社だよ」
明はすぐに否定した。
「これからな」
「ああ、そっちだったかしら」
「お祭りは神社でするものだろ」
「あれっ、お寺じゃないの」
「お寺はお盆とかだろ、また違うんだよ」
「ふうん、そうだったの」
法子はアイスキャンデーを食べつつ兄に応えた、腰までの黒髪を今は束ねて上に上げて涼しくしている。はっきりとした大きな目で眉は細い。口は小さく整っている。
背は一五五位で胸は中学三年生にしては大きくウエストも引き締まっている、青のタンクトップと黄色の半ズボン姿で白い太腿も剥き出しだ。
そのかなりラフな恰好で兄におう言った。
「私一緒だと思ってたわ」
「今日は違うんだよ」
「神社の方でなのね」
「夏祭りだよ、それでな」
「瑠璃さんとデートなのね」
「デートじゃないからな」
彰はその細い目を見開いて否定した、黒髪はショートにしていて顔も背も痩せている。背は一七〇位であり膝までのグレーの半ズボンと青のティーシャツという恰好だ。
「お祭りに行くんだよ」
「嘘でしょ」
「嘘じゃないからな」
彰は先程以上に否定した。
「僕が嘘を言うか」
「今言ってるじゃない」
法子は彰に冷めた目で返した。
「実際に」
「何処がだよ」
「だから瑠璃さんと一緒よね」
バニラのアイスキャンデーを舐め続けつつさらに返した。
「そのお祭りは」
「たまたまだよ」
ここで彰は苦しい顔になって返した。
「それは」
「約束して?」
「それでもたまたまだよ」
追い詰められてもまだ言う彰だった。
「それはな」
「全く、隠しても無駄だしそもそも私応援してるのよ」
「その目でか」
「そうよ」
死んだ魚の目での言葉だった。
「嘘じゃないわよ」
「そうは見えないな」
「だって暑いから」
それでとだ、法子は兄に返した。
「私暑いの苦手だから」
「それで今もアイス食ってるんだな」
「クーラーの効いた部屋で受験勉強してたし」
「ならずっとそうしてろ」
「朝から今までしてたのよ、塾もずっと行ってるし」
「それで今は息抜きか」
「そう、お兄ちゃんと一緒に学校行く為に」
ここでこうも言う妹だった。
「だからね」
「八条学園高等部か」
「そう、そこに行くつもりだから」
それでというのだ。
「だからね」
「中等部からだからほぼエスカレーターで行けるだろ」
「それでも入試はあるじゃない」
即ち受験はというのだ。
「だからね」
「私今勉強してるの、お兄ちゃんだって二年前そうだったじゃない」
今度はその頃の彰の話をした。
「いつもトランクス一枚で汗たくで勉強して髪の毛ごそっと抜けて」
「おい、最後のは何だ」
「あれっ、お兄ちゃんストレスで禿げるタイプでしょ」
「禿げるか、抜け毛はなかったからな」
先の二つは置いておいてというのだ、実は彰も暑がりで真夏に部屋のクーラーが壊れて苦労した時期があったのだ。
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