夏に来ない理由
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第四章
「好きにしたらいいわ」
「それではですね」
「ええ、これからね」
「宜しくお願いします」
「こちらこそね」
満里奈は笑顔で応えた、そしてだった。
雪子は店に冷凍庫に住んだうえで働きはじめた、働いてみると接客も仕事ぶりもよくしかも美人ということで客の評判はよかった。それで客足が増えた位だ。
それで満里奈も雪子が来てよかったと思った、だが。
雪子のことを聞いた彼女の彼氏である雅和はどうかという顔で彼女に言った、彼の仕事は配達業で将来結婚して店に入ることになっている。背は一七七位で厳めしい岩の様な顔立ちで髪の毛は黒く角刈りにしている。頑健な身体をしていて趣味はジム通いだ。その彼が恋人に対してこう言うのである。
「つらら女って妖怪だよな」
「そうよ」
満里奈はあっさりとした口調で答えた。
「東北の方のね」
「そうだよな」
「ええ、けれどね」
「けれど?」
「別にいいでしょ」
こう恋人に言うのだった。
「正直言って」
「ああ、人に迷惑かけないとか」
「別にね。礼儀正しいし仕事も出来るし」
満里奈は雅和にさらに話した。
「しかも住み込みですぐに職場に出られるし遅刻もないし」
「いいんだな」
「ええ、それに二人で住んだ方がね」
満里奈はさらに言った。
「安全でしょ」
「それもそうだな」
「あんたが住んでくれるならいいけれど」
「じゃあその話もするか?けれどな」
「実際にでしょ」
「ああ、一人暮らしよりもな」
「私一人っ子でもうお父さんもお母さんもいないから」
満里奈の両親は店を娘に譲って何と熊本に移住して農業に入ったのだ、成功しているがそれでも満里奈はそれから一人暮らしなのだ。
「だから用心棒にもなってくれてるし」
「余計にいいか」
「ええ、雪子ちゃんが言うにはね」
他ならぬ彼女がというのだ。
「人間の姿から変身出来るのよ」
「そこは妖怪ならではだな」
「つららの姿になって」
「つらら女だからか」
「そう、それで相手を刺し貫いたりね」
「過激だな」
「体当たり出来るらしいから」
それでというのだ。
「いざという時はね」
「用心棒になってくれるんだな」
「大きなつららになるから刃物もピストルも大丈夫らしいわ」
「それは凄いな」
「だから」
それでというのだ。
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