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俺、リア充を守ります。

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第11話「I'm a テイルイエロー!!」

 気がつけば、俺の周りは真っ暗闇で、ただ、俺の立っているところだけが白い光に照らされていた。そして目の前には、見覚えのある影が背を向けて立っている。

 間違いない、後ろ姿だけでも、誰のシルエットかは判断できる。

「テイル……ドラゴン……?」

 こちらを振り向いたその姿は、紛れもなくテイルドラゴンだった。

 これは、どうゆう事だろう?俺はここにいるのにテイルドラゴンが俺に向かい合うなど。

 次の瞬間、向かい合ったテイルドラゴンが全身から怒りの炎を噴き上げ、咆哮する。

「ッ!?」

 気づいた時にはもう遅く、暴走したテイルドラゴンは、俺に、炎爪の切っ先を向けて飛びかかって……。

 

 □□□□

 

「…………やっぱり、夢じゃなかったのですわね」

 意識を取り戻し、基地の様子を目にした会長は途方に暮れるようにそう呟いた。

 最後まで悩んだ。ヒロ兄の弟子で、正体を知っていると言っても会長は一般人だ。気絶したんだから、うまく口裏を合わせて、夢でも見たということにしてもらえないか、と。

 しかし、桜川先生にそれは無理だ、ときっぱり断られた。

 だから俺は、これまでの大まかな事情を、そしてヒーローCはヒロ兄がテイルドラゴンとなるに至った経緯を、二人に包み隠さず説明した。

 エレメリアンやジェラシェードの事は、ヒロ兄が大方のことを話してはあったが、衝撃が強すぎるため、トゥアールの世界が滅んでしまった顛末と、ジェラシェードが侵攻した世界の末路だけは上手く誤魔化して。

「そうですか……皆さんは、人間の「好き」を守るために……」

「それにしても、学園きっての問題女子が二人揃ってツインテイルズ関係者とは、世界は狭いものだなあ」

 さすが会長の護衛というべきか、桜川先生は冷静さを取り戻し、場に馴染み始めていた。

「そういえば、師匠は……千優さんの容体は如何ですの?」

「千優さんなら無事です。ヒーローギアの暴走で、極度に体力を消耗していますが……もうすぐ、目覚められると思います」

「よかった……暴れだした時はどうなってしまうことかと心配で……」

 今、ヒロ兄は、もしもの時の為にと、基地内に作られていた医務室のベッドに寝かされている。

 死んだように眠っているが、息はあるから、いくらか安心できる。今は母さんが付いてくれているし、起きたら分かるだろう。

「やっぱり……暴走していたんですのね……いつもと違って、まるで捕食細胞を狩るトカゲか、紫の恐竜コンボのライダー、もしくは光と闇の巨人のように荒々しい戦いぶりから、まさかとは思いましたが……」

 特撮で例える辺りが会長らしいなぁ。

「仲足が暴走するなど……相当の事があったようだが……」

『詳しいことは伏せるが、まあ、怒りを抑えられなくなるような侮辱を受けたってことだけ、伝えておく……』

「そうですか……では、深くは追及しませんわ」

 会長の判断はもっともだ。相棒のヒーローCが伏せたいと言っているのだ。きっと、複雑な事情があるのだろう。

 そして今、ヒーローCは俺のトゥアルフォンに入っている。ヒーローフォンはヒロ兄の枕元に置かれているため、話に参加するにはこうするのが一番だとか。

「すみません、私が慧理那さんの存在に気付くのが遅れていなければ……正体がバレてしまったのは、私のせいです」

「そんな、トゥアールが謝ることじゃないだろ?」

「そ、そうよ!誰だってたまにドジはするわよ!!」

 気持ちは分かるが、それだと会長が悪いように聞こえてしまう。何とかフォローしようと考えていると、先に会長が口を開いた。

「どなたのせいでもありませんわ。わたくし……ずっと前から、あなたたちがツインテイルズと何か関係があるのでは、と思っておりましたもの」

「何だって!?」

 衝撃の告白に椅子から飛び上がりそうになる。しかし、思い当たる節は多々あった。

「会長、このブレスが見える?」

 俺は右腕のテイルブレスをかざし、会長に見せた。

「ええ、はっきりと」

「やっぱりか……認識撹乱イマジンチャフが完全に作用しなかったのは、会長が、テイルレッドの正体をおぼろげに思い浮かべていたからなんだな」

 俺は会長のツインテール属性の強さが影響していると思っていたが、関係なかったようだ。もっと、単純な話だったんだ。

「何故、そう思ったのかは分かりませんでした。テイルドラゴンが千優さんだと気づく前は、何度も頭の中で否定しましたわ。ですが……今なら分かります。わたくしは……テイルドラゴンなかたりちひろの弟子ですから…………」

「今の台詞、仲足が起きているときに聞かせてやりたかったな……」

 なるほど、世界最強のヒーロー属性を持つヒロ兄の弟子だ。ヒーローの正体を見破るくらい、苦でもなかったという事なのだろう。

「ごめん会長、女の子に変身して戦っているなんて、人に言えるようなことじゃないから……。あんなに応援してもらっていて、結果的に騙すことになった」

「いいえ、正体を隠すのは当然の事ですわ。ヒーローなんですもの」

「まあ、ヒロ兄だけギリギリだったと思うけどね……認識撹乱で改造してあるとはいえ、サングラスとコートで変装しただけだもん……」

「何を言うのですか津辺さん!そのシンプルさと、バレそうでバレないようにする技量が師匠の凄さじゃないですか!」

「そ、そうなの?そうゆうものなの?」

 会長、目がキラキラしてるなあ……。心の底から本気で、ヒロ兄を師匠として尊敬してるんだろう。ホント、ヒロ兄がよくアニメ見ながら言う言葉を借りて、「早く付き合っちゃいなよ」と言いたくなってしまう。

 こんなにも高貴で美しいツインテールなんだ。きっとヒロ兄にお似合いの彼女になるだろう。

 それはそれとして、ともかく、洗いざらい言ってしまった以上、会長を信用するしかない。

「会長、俺たちをヒーローだって言ってくれるなら、分かるよね?正体が世間に知られたら、俺たちは戦えなくなってしまう。このことは秘密にしておいて欲しいんだ」

「もちろんですわ!わたくし、これ以上、皆さんに迷惑をかけたくありません」

 ふわりと揺れる、会長のツインテール。毅然としていても、恐怖に抗っていても、落ち込んでいても……その美しさは、いつも変わらない。

 ここで俺は、一つの思い付きに至った。

 使い道のないまま、放置されてしまっていた、ドラグギルディの属性玉エレメーラオーブ。

 あれの使い道は、こうした方がいいのではないか?と。

「なあ、トゥアール……ドラグギルディの属性玉、会長用のテイルブレスに加工できないか?」

「…………総二様、何故私がもう一つブレスを作っていたことを!?」

「え」

「嘘!?いつの間に!?」

『あぁ、最近ノートパソコンで何やら設計しているなと思っていたら、そうゆう事か』

 トゥアールも俺と同じ考えに至っていたようだ。会長がこれからもアルティメギルに狙われ続ける。それならいっそ、自衛の手段として変身できるようになれば、安全なのではないだろうか?そう思っていたのだろう。

「何で黙っていたのよ!?」

「そりゃあ、新しく研究を始めた属性玉エレメーラオーブのハイブリッド技術で、総二様が変身したら幼女化するように、変身後に巨乳になれるブレス作ってたまにチラつかせれば愛香さんも大人しく従順になってくれるかな~って思って完成するまで黙っていたからに決まっているしょいだだだだだ!!」

「へぇ~、そんな事考えてたんだ~、じゃあアンタの胸寄越しなさいよ無駄に大きいんだからさ!!」

「痛いです!痛いですよちょっとお!?私の二対の魂がぁぁぁぁぁ!!」

 ……うん、全然違った。予想以上にしょうもない話だったみたいだ……。

 こぶとりじいさんのこぶを引きちぎる鬼の如く、トゥアールの胸をもぎ取ろうと掴みかかる愛香はさておき、手間は省けたようだ。経緯はどうあれ、もうブレスが完成しているのなら話は早い。

「遂に、あれを使う時が来たのね!」

「母さんいつの間に!?ヒロ兄看てるんじゃなかったのか!?ってゆうか新型ブレスの事知ってたのか!?」

「千優くんならきっと大丈夫よ。それより、面白そうな話になってたもんだから、つい来ちゃったのよ」

 こっちの話に気を配るより、ヒロ兄の心配をしてくれよ……。

「新型ブレスなら、武器のデザインは私監修だから!総くん達にバレないように、トゥアールちゃんと徹夜して考えたんだからね?」

「そうゆう事かぁぁぁぁぁ!!」

 母さん監修のギアってだけで心配しかない……嫌な予感しかしないぞ!?

「わ、わたくしが……ツインテイルズに!?」

 少し反応が遅れたが、会長は当惑し、逃げるように一歩後退あとずさった。

「総二様、いけませんよ!一般人を巻き込むなんて……千優さんが起きていたら、すぐにでも止めに入るはずです!」

 確かにそうかもしれない。でも、それはアルティメギルと何の関わり合いがない人の話だ。

「なに?私ではダメなのか?私もツインテールだぞ?」

「いえ、無理です。慧理那さんの傍にいて今まで一度も狙われなかった以上、桜川先生にはツインテール属性はありません。ツインテールにしていれば、誰でもその属性力エレメーラが芽生えるわけではありませんので……超絶貧乳なのに貧乳属性スモールバストが芽生えない人もいるくらいですし」

 瞬間、軟素材の床を活かし、愛香がトゥアールの身体をボールにバスケを始めた。軽快なドリブルの後、ゴールのない空間にスリーポイントシュートが決まる。

「勘違いしないでくれ。俺は、会長に戦いに参加してもらうつもりはない。それは、俺と愛香とヒロ兄の仕事だ。でも、これからも会長はあいつらに狙われ続ける。それならいっそ、自衛の手段として変身してもらえれば、と思ったんだ。悪戯のつもりで造ったブレスだとしても、使わないで眠らせておくのは勿体ないだろう?」

 愛香が俺と会長の間に割り込み、俺の目をじっと見据える。

 トゥアールが俺にブレスを渡そうとしたあの時よりもさらに必死に、真剣な面持ちで。

「そーじ……もっとよく考えて。一般の人に、テイルギアを渡すのが、どうゆうことか分かってるの?」

「会長なら、絶対にテイルギアを悪用したりなんてしない」

「どうしてそう言いきれるのよ!?」

「会長のツインテールを見れば、分かる」

 俺は断言した。

「会長のツインテールは、会長の心そのものだ。いつだって変わらない、普遍のものだ。だから、信用できる。千の言葉より、一のツインテールだ」

 言葉をどれだけ尽くすより、ツインテールは全てを語る。

「良き時も悪き時も……富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も。決して変わることのないもの、それが……本当のツインテールだろう?」

 俺が人生の大半を見守ってきた普遍の存在、愛香のツインテールを見ながら、心からの言葉を紡ぐ。しかし、これだけの信頼をぶつけたというのに、愛香は軽く白目を剥いていた。

『そのセリフは口説き文句としては難解過ぎるんじゃねぇのかなぁ……いや、映像ごと記録してやったけどな』

「ナイスよヒーローC!後で私のケータイに送って頂戴」

『了解了解!』

「出来れば私にも。後で婚約の取引材料に……」

『却下だ』

 ヒーローCと母さんと桜川先生がなにやら騒いでいる。

「それに、さっきも言っていた通り、会長はあのヒロ兄が弟子と認めた存在だ。ヒーローに関係する事柄、この一点においてこれ以上に信頼できる理由が、他にあるか?」

「そ、それは……で、でも!!」

 

 

「……津辺さん!トゥアールさん!わたくしのこと、あまりにも見くびりすぎていますわ!!」

 強い意志を含んだその言葉に、その場にいる全員の視線が会長に集中する。

「わたくし、ヒーローに憧れていますのよ?悪と戦うことに、何の恐れもありません!」

「あいつらただの悪党じゃなくて、変態なのよ!!会長が憧れるようなかっこいい戦いなんてしてないのよ、あたしたち!!」

「それに敵はアルティメギルだけではありません、凶悪で残忍なジェラシェードもいるんですよ!?危険過ぎます!!」

「エレメリアン達がどれほど常軌を逸した存在かは、身を以て理解しています。それに、ジェラシェードの凶暴性も、あなたたちと一緒に体験済みです」

 あまりにも説得力のある会長の言葉に、愛香はこれ以上何も言わなかった。

「もう、皆さんに、師匠に、ただ守られているだけでは嫌なのです!わたくしも戦うことができるなら……ツインテイルズになる資格があるのなら!どうかわたくしを、あなたたちの仲間にして下さい!!」

「……その願い、聞いたぞ」

「「「「うわあああああ!?」」」」

「千優くんいつの間に~」

 いつの間にか、俺達の背後にヒロ兄が立っていた。

「し、師匠!?お身体の方は?」

「心配ない。ちゃんと動くよ……」

「お、お、驚かすんじゃない!!私も心臓が飛び出すかと思ったぞ!?」

「皆が慧理那に集中して、気づかなかったからだろ?」

 愛香さえ気づいていなかった辺り、わざと気配を消して混ざっていたのだろう。

 そんな悪戯思いつくぐらいだ、すっかり元気になっているのが分かる。

「それより、慧理那がツインテイルズに入隊するって?」

「……や、やっぱりダメ……なのか?」

 俺の質問に、ヒロ兄は笑いながら答えた。

「全然。むしろ歓迎するさ!よく慧理那を引き入れようと思いついたな総二!お手柄だぞ」

「師匠!」

 そしてヒロ兄は、トゥアールの方に手を伸ばす。

「新型ブレスとやらは、完成してるんだろ?俺から慧理那に入隊賞の授与として渡すから、貸してくれるか?」

 トゥアールの方を見ると、不本意そうではあるが、しっかりと頷き、白衣のポケットに仕舞ってあった黄色いテイルブレスを、ヒロ兄に手渡した。

「……それじゃあ慧理那、最後の質問だ」

「は、はい……」

 向かい合う師匠と弟子。自分たちと同じ「戦場」に立つことの覚悟を、ヒロ兄は問う。

「これは、俺達がテレビで見ているものとよく似ているが、本物の戦いだ。怪我もするかもしれないし、時には命の危険も伴う。それでも、お前はこのブレスちからを受け取るのか?途中で逃げ出さず、諦めず、人々の心と世界を守る。その覚悟は出来ているか?」

 その問いに、会長は真っ直ぐな瞳と、その覚悟を秘めたツインテールで答える。

「無論、承知の上です。わたくしはヒーローに憧れ続け、今、その夢が叶うのです。後悔はしませんし、途中で投げ出すつもりもありません。師匠あなたの弟子として、ヒーローとしての責務を背負うつもりです!!」

 数秒ほど、基地が静寂に包まれる。多分数秒くらいだったけど、何十秒にも感じられるほどの、静かな沈黙だった。

「……よし、いいだろう。それだけの覚悟があるのなら、俺は止めない。受け取れ、それはお前のテイルブレスだ」

 ブレスを会長に手渡そうとするヒロ兄。

 しかし、会長はゆっくりと首を横に振ると、ヒロ兄へと右腕を差し出してきた。

「お願いします、千優さん……はめて下さい。師匠に、はめて欲しいのです……」

 口付けをせがむような、背伸びの上目遣い。頬を赤らめた会長の顔を、ヒロ兄はどのような気持ちで眺めていたのだろうか。

「あ──ー!!これやべ────これはやべーですよ────ー!!」

 突如口から火でも吐くかのような勢いで絶叫したトゥアールが、地面を悶え転げ始めた。

「その外見とアンバランスな台詞!!なんとゆう破壊力!なんとゆうハートデストロイヤー!!私も現役時代にあの子に言わせておけばよかったー!!あと、私もあの時そう言えばよかったー!!『総二様、私がハメてあげますね』って言えばよかったー!!一ヶ月前の私を校閲したい!!」

 なにやら聞いちゃいけない事口走りながら、遠心力で白衣の裾が地面につかないほどの猛烈な勢いでブレイクダンスを始めるトゥアールは、今は取り敢えずそっとしておこう。

『今いい所なんだから黙って大人しくしててくれないかなぁ……後でこの見苦しいシーンカットしたついでにGIFにしてやろう』

 さて、話を戻す前に周囲を伺うと、愛香は頬を赤く染めて、二人の様子に釘付けになっている。

 分からなくもない、俺も、見てて照れ臭くなって来ている。

 そして桜川先生は羨ましがってるかな……、と思いきや、逆にこっちが驚く程の穏やかな表情で見守っている。まるで、結婚式を見守る親か親戚のような表情だ。

 気が早いぞー、と突っ込むのは野暮だから、そのままにしておく。

 そして母さんは…………涎垂らして見守っている。他が見守りムードなのにこの人だけ涎垂らしてるのが異彩を放っているというかなんというか……しかも、今ヒーローCの入っている俺のトゥアルフォンで録画する手伝いしてるし……。

「……分かった。俺は慧理那おまえの師匠だからな。それくらいしてやらないと、祝いにならないだろう」

 各々がそうこうしているうちに、頷いたヒロ兄が丁寧に、会長の手を取る。

 それはどう見ても、おとぎ話に出てくる王子様がお姫様にする仕草そのものだ。

 もしかしたら、指輪の魔法使いの方かもしれないけど、どちらにせよ、ちょっとかっこいいのには変わりない。

 会長の右腕にそっと、テイルブレスがはめられた。

「うふふ。婚約指輪エンゲージリングのようですわね……」

「エンゲージ、プリーズ……とでも、鳴らしてもらえばよかったかな?」

「もう、千優さんったら茶化して!言うと思ってましたけど、こうゆう時くらい素直に答えてくださいよ!」

「こんなに照れくさくなるくらい可愛らしい仕草と台詞で茶化さずにいられるか!!///」

「か、かわっ……///」

 会長のとろけるような呟きに、雰囲気が吹っ飛ぶような照れ隠しで返すヒロ兄。頬を膨らませて怒る会長だが、ヒロ兄が思わず本音を口走ってしまい、あっという間にお互い顔を真っ赤にする。茶化していても、クリティカルヒットしたのはその顔を見れば一目瞭然だ。そして、二人共顔を真っ赤にした状態で固まってしまった……。

 あれ?……この2人まだ告白もしてなかったような……。

『うむ、糖分濃度百パーセントの空気ごちそうさま。さてと、俺はそろそろ元の位置ヒーローフォンに戻りますかね』

「うんうん、願わくば今のを指輪でアンコールしてもらいたいな~」

「母さん話を飛躍させない!ヒロ兄と会長が湯気出して顔抑えてる!!」

 そしてトゥアールはまだブレイクダンス続けている。いい加減そろそろ止まってくれないと室内で竜巻が起こるのではないだろうか。

 そして桜川先生は、ポケットから一枚の紙を取り出していた。

「桜川先生はなんで婚姻届を差し出そうとしてるんですか!?」

「何を言う?これはお嬢様と仲足の分だが?」

「なんで用意してるんですか!?」

「まだ白紙の予備だ。だがお嬢様の為に使えるなら、予備の婚姻届の1枚や2枚、100枚だって惜しくないぞ」

 いやそうゆう問題じゃなくて……。

「桜川先生もおばさんも気が早すぎるわよ!大体、ヒロ兄と会長の年齢じゃ、あと1年は早いわよ!?」

「愛香、お前も結婚前提で話進めてる時点で変わらねえよ!!」

 ああ、なんかもう、収集つかなくなってきた。

 どうすればこの騒ぎが収まるのか。そんな思考はヒーローCの一声で打ち切られた。

『ん?ちょ!?千優じゃない!?』

「「「「「「ん?」」」」」」

 この意味不明発言に、全員が声のした方角……エレベーター前へと目をやる。

 あれ?ヒーローフォンはヒロ兄が持ってる筈だから、ヒロ兄の方から声がする筈なんじゃ……。

「あ~っと……その……完全に出るタイミング逃してたんだけど、今からでも遅くない……かな?」

「「「「「……誰!?」」」」」

 俺、愛香、トゥアール、ヒロ兄、会長の声が見事にシンクロする。そこには、見覚えのない男が立っていたのだ。

「お前達、まだ仲間がいたのか?」

「いえ、知りませんよ!ってゆうかあなた何者ですか!?どうして部外者がこの基地に入り込んでいるんです!?」

 声の主は、トゥアールと同じように、白衣を着ていた。外見は高校生くらいで、背は高め。声は少年と青年の中間辺りで、落ち着きのある声質だ。

 茶髪でボサッとした髪型に、瞳の色は紫だ。

 そして、左腕にタッチパネルの付いた手甲のような機械を装着しているのが一番目立つ特徴だろう。そして、その手にはヒロ兄の枕元に置いといた筈のヒーローフォンが握られていた。

「ヒーローフォンナビゲーションシステム……いや、今の名前はヒーローCというのか。いい名前を付けてもらったね」

『貴方は……マ……マスター!?』

「ヒーローCのマスターって事はつまり……もしかして、あの時の!?」

 ヒロ兄が勢いよく立ち上がり、思い出したように指を指す。

「久し振りだね千優くん。まあ、現実世界じゃ初めまして……かな?寝てる間に、ヒーローフォンを拝借してしまってすまないね」

 白衣の少年は親しい友人にするように、軽く手を振った。

「自己紹介が遅れてしまった。私の名前は芹沢光せりざわひかり……Dr.シャイン、とでも呼んでくれ」

「Dr.シャイン?」

「おや、安直すぎるかな?」

 Dr.シャインと名乗ったこの少年、今、ヒロ兄が「あの時の」と言い、ヒーローCには「マスター」と呼ばれていた。

 つまり、彼は……

「貴方が……ヒーローギアを?」

「ごきげんよう、トゥアール女史。ええ、その通り。私が作ったものに、あなたのテイルギアの技術を模倣したものを取り込んで作ったのがヒーローギアです」

「トゥアールの事を知っているのか?」

「君たちの事は、ヒーローフォンを通して知っているよ。テイルブルーの津辺愛香くんに、テイルレッド……観束総二くん。それに千優くんの弟子である神堂慧理那くんに、その護衛である桜川尊メイド長だろう?」

「な!?」

「俺達のことまで!?」

「私の事まで知っているだと!?」

「こ、この人が……千優さんにベルトをくれた……」

 驚いた。俺たち全員のことを知っているなんて……。

 ヒーローギアの製作者……一体、何故ここへやって来たのだろう。

「何故この基地へ侵入できたのかは、後でちゃんと説明しよう。今は、それより重要な事がある」

 そう言うと、Dr.シャインはこちらへ一歩づつ近づいてきた。

「重要な事?」

「君たちも知っての通り、先ほどヒーローギアが暴走したからね。メンテとアップデートをしに来たんだよ」

 なるほど、ヒーローフォンを通してこちらの状況を理解しているということは、暴走した事も知っている。だから製作者自ら修理しにきたという訳か。

「正直、リミッターが壊れてしまうのは想定外でね……こればっかりは、人の感情を計測し損なった私の落ち度だ」

「そんな、壊したのは俺なんだから、ドクターが落ち込むことじゃ……」

「いや、いいんだ。人間の可能性は無限大。理論と計算じゃ導き出せない答えを沢山生み出すから、私も張り切り甲斐があるってものさ」

 ヒロ兄の謝罪に笑顔で応えると、Dr.シャインはトゥアールに基地の設備の使用許可を求めた。
 ヒロ兄の謝罪に笑顔で応えると、Dr.シャインはトゥアールに基地の設備の使用許可を求めた。

「トゥアール女史にも手伝ってもらいたい。属性力エレメーラに関する研究と、テイルギアの構造に関しては貴女の方が詳しい。半分ほど模倣技術の私のギアを改良してくれたその技量を学ばせてもらえないだろうか?」

「構いませんとも!サンシャインさんの技術こそ、私も驚かされるものが多々ありましたから……見知らぬ科学者を信頼するか否かは相手の腕に聞け、と言います。お互い、信頼を得るための技術提供って事で、手伝わせていただきますね!」

「……私の名前はサンシャインじゃなくてDr.シャインなんだが!?」

 最近流行ったお笑い芸人みたいな間違え方を訂正するDr.シャイン。

 そして間もなく、2人はヒーローギアのメンテナンス、そしてアップデートを始めた。

 その間、俺達は机に座って待つことに━━━━━━━━

 

「ああ……これが、テイルブレス……!」

 頬ずりさえしそうなほど愛おしげに、濡れた瞳で右腕のブレスを見つめる慧理那。自動的にフィットする機能があるとはいえ、慧理那の小さな腕では、やはりブレスがかなり大きく見えてしまう。

「ありがとうございます!トゥアールさん!本当に……本当に嬉しいですわ!!」

「……う、うぇ……」

「何泣いてるのよあんた!!」

 トゥアールは慧理那からの感謝の言葉に、目に涙を浮かべていた。

 こんなに感謝されたんだ、製作者冥利に尽きるって事だろうな。

 ……いや待て、あいつの事だからそう思った瞬間、全然違う事言って残念にするパターンか!?

「だって……最初からこんなに感謝されるなんて、初めてですから……。渡そうとしたら詐欺師だから頚椎折ろいこうとか言われたり、半殺しにされた挙げ句、永久に借りパクされたりすることもなく、普通に感謝されて受け取ってもらえるなんて……。世の中には、常人なら即死するような凶悪な投げ技かけて無理矢理変身アイテム奪っていくゲスもいるんです……」

「これこれトゥアール女史、作業中に喋る余裕があるのは悪いことではありませんけど、作業の中断に繋がりかねない話題は遠慮して頂きたい」

 ……残念ながら、今回はトゥアールに返す言葉もないな……。

 総二と愛香から話は聞いたが、疑われるような真似するトゥアールも悪いけど、初対面の相手にそんな態度取った愛香も悪い……まあ、根底には、総二を守りたいって想いがあるが故の行動なんだろうが。

「ひどい……!そのような外道、わたくしが成敗してくれますわ!!」

 早速正義感を燃やす慧理那。その外道呼ばわりされてる彼女が、心を鬼にして、時に正義に背を向けてでも、変態の魔の手から、大切な人と、彼の愛するものを守ろうとしている誉れの戦士だと言う事を、慧理那は知る由もない。

「いつか……会長とも戦う日が来るのかしら……」

「なに受けてたとうとしてんだよ反省しろよお前は!!」

 総二に怒られて、ちょっとジト目になる愛香なのであった。

「そもそも、慧理那を倒すつもりなら、まずは俺に勝つところからだ。そう易々と、彼女に手は出させん」

「ヒーローC、録音は?」

『とっくに済ませてるぜ?』

「よく言った仲足」

 未春さんが、メンテ中に移動したヒーローCの入ったケータイ構えて、尊さんが親指をグッと立てている。

 あの録音された俺のセリフは何に使われるんだろうか。

「ヒロ兄が私より強いって言われてるのは、動きの先読みとすばしっこく動き回るからでしょ!?掴まえちゃえば、あとはゼロ距離で関節技決めればそれでノックアウトなんだからね!!」

「ならば掴まえてみろ。それが出来るならな」

「ぐぬぬ……それが一度も成功しないのが辛いわ……」

「千優さんは、観束くんや津辺さんとは本当に仲がよろしいんですのね」

 慧理那が俺達3人を微笑みながら見つめる。

「まあ、かれこれ十年近くの付き合いになるからな」

「学校も道場も同じだったし、兄弟みたいなものよ」

「兄弟ですか……少し、羨ましいかもです」

「何言ってるんだ、慧理那だって俺の弟子だ。俺達兄弟の仲間入りだよ」

「そ、そう言ってもらえると……仲間として認められていると感じられて、少し、嬉しいです」

 さて、そろそろ退屈したのか、未春さんはトゥアールに慧理那のギアの説明を聞き始めた。

「ねえねえトゥアールちゃん、慧理那ちゃんの武器は何になるのかしら?」

 興味津々と言った感じで、慧理那のブレスを見ている未春さん。

「それは、事前に分からないんです。形成される武器には、装着者の意思が反映されますから」

「ふうん……ねえ慧理那ちゃん、それなら銃はどうかしら?」

「銃、ですの?」

「総ちゃんは剣、愛香ちゃんは槍で近接戦闘タイプでしょ?千優くんは確かに可変式の万能武器だけど、基本的に格闘戦と二刀流で偏っちゃってるし、射程もあまり広くないから、ここに新しく仲間が加わるなら、より多くの敵との戦いに対応できるように、後方支援も兼ねた遠距離火力タイプがいいと思うの」

「よく見てらっしゃるなあこの母上は────ー!!」

 恐ろしい程にきちんと戦力分析していたよ。まあ、遠距離足りないなあとは思っていたけどさ。

「でも総ちゃんも、授業中にふと『自分は接近戦が得意だけど、遠距離攻撃が得意な敵と戦う時のために、飛び道具も持っておかないと』って考えたりするでしょ?」

「考えるかああああああ!!せいぜい、窓の外に流れる雲を見て、ツインテールに見えるな、って思ったりするぐらいだ。いたって健全だ!!」

「「どこがよ(どこがだよ)!?」」

 愛香と一緒に叫んで突っ込んでしまう。ちなみに俺は、今度のキャラ育成どうしようかなあ、とか、去年始めたネット投稿の次回作はどんなのがいいかなあ、くらいである。

「母さんいつもそうゆうこと考えてたわ。そしたら父さんと目が合って、はにかみ合ったりしてね。お互い、同じ事考えてるんだな……って」

 さ、流石中二病夫婦の学生時代……この2人の青春時代は総二の胃に悪い……。

 俺としては、まあ、いいカップルだったんだなあ。そして総二のお父さんが生きていたら、気が合うおじさんだっただろうなあ、くらいの感想なんだけど。

「素敵な青春時代でしたのね!わたくしも、できれば……その……ヒーローについて熱く語れる……そんな……だ、旦那様だと、幸せですわ……///」

 チラッ、チラッとこっち見て来る慧理那。

 本人はさり気なくやってるつもりかもそれないけど、バレバレだから!俺のハートにグッと来てるから!魅了状態寸前だから!!

「うふふ、その夢、もう叶ってるかもね」

「み、未春さん!?」

「ちょっ!?な、なな何をいきなり!?」

 ニヤニヤ笑って俺らを見てる……やばい、カップル見るのは好きだけど付き合ってもいないのにそうゆう目で見られるのは意外と恥ずかしい!!

 

 

 

「よし、メンテナンス並びにアップデート完了!!」

 Dr.シャインが作業の終了を告げる。

「ありがとうトゥアール女史。お陰で助かったよ」

「いえいえ、私も勉強になりました。私の世界には存在しなかった未知の技術……興味深いものでしたよ。それにシャインさんの技術は間違いなく、世のため人の為に磨かれたものだと感じました。完全に信用しきるのは早いですけど、悪い人ではないことは私が責任を持って保証します」

 これは、博士コンビの結成だろうか?この短時間で、互いの技術と研究成果を通して随分と親睦を深めたようだ。

「では改めて。千優くん、君にこのヒーローフォンを託すとしよう。リミッターは修繕してあるから、もう簡単には暴走しない筈だ」

「ありがとうございます、ドクター。今度からは、俺も気を付け……」

 ヒーローフォンを受け取ろうと手を伸ばす。

 ……伸ばしているのに……何故だ?ヒーローフォンにあと数ミリで触れることが出来るのに、右手が動かない。指先から手のひら、手首、いや肩まで、まるで時を止められたかのように動かすことが出来なくなってしまっている。

「あれ?……なんで……」

「……千優くん?」

 もう一度、ヒーローフォンを受け取ろうと手を伸ばす、が触れる前にうでが固まってしまう。

「嘘だろ……どうして……?」

「千優さん?」

「ヒロ兄?」

「どうかしたのか?」

 左手でも試してみたが、同じだ。手に取る事ができないどころか、触れる事すらできない。

「大丈夫、なんでもな……」

 無理して手を伸ばそうとして瞬間、頭の中に、一つのヴィジョンがうかぶ。

 俺の周りは真っ暗闇で、ただ、俺の立っているところだけが白い光に照らされている。そして、目の前にはテイルドラゴンが立っているのだ。

 そう、眠っている間に見た、あの悪夢がフラッシュバックする。

「ま、まさか……」

 次の瞬間、向かい合ったテイルドラゴンが全身から怒りの炎を噴き上げ、咆哮する。

 悪夢と同じく、俺に炎爪の切っ先を向けて飛びかかって来るテイルドラゴン。

「うわっ!!」

 間一髪、逃げるように身を逸らす。回避する事が出来た、と、そう思ったのも束の間だった。

 着地したテイルドラゴンは、そのままどんどん進んでいった。

「ッ!?どうゆう事だ?何故俺を狙わない!?」

 テイルドラゴンの向かう先を目で追う。暗闇の中だが、その先にも白く、スポットライトのように照らされた場所があった。

「あれは……そんな、やめろ!!」

 気づいてすぐに走り出す。暴走テイルドラゴンの目指す先には、これまた同じく見覚えのある姿があったからだ。

 見慣れた二人組、二つのツインテール。テイルレッドとテイルブルーだ。もうこの先の展開は読めている。嫌になるほど鮮明に、浮かぶ最悪の光景。

 全速力で走った。精一杯手を伸ばした。しかし俺が追い付くより先に、その手は振り上げられ……。

「やめろ……やめろおおおおお!!」

「千優さんしっかり!」

「落ち着けヒロ兄!!」

「ヒロ兄、ねえヒロ兄!!」

 仲間たちの声に辺りを見回すと、いつもと変わらない秘密基地だ。気づけば体中、汗でぐっしょりと濡れてしまっている。

「千優さん、一体何が……」

「……ご、ごめんドクター……悪いけど俺、それは受け取れない!!」

 背を向けて、走り出す俺。そう、俺は今、逃げ出したのだ。おそらく、人生で自分がこんなに無様だった瞬間は今まで無かったと思う。

 それほどまでに、俺は………………怖かったのだ……。

「千優さん!!」

 エレベーターに飛び乗った瞬間、背後から、俺を引き留めようとする慧理那の声が聞こえたが、俺はそれにすら耳を貸さなかった。エレベーターの扉が閉まる瞬間、一瞬だけ、扉の隙間から、慧理那が俺に伸ばしていた手が見えたが、その手は届くことがなく、分厚い扉に阻まれてしまった。

 

 □□□□

 

 エレベーターの扉が閉まり、床にへたり込む会長。

「……ヒロ兄……どうしちゃったんだろう……」

 最初に口を開いたのは、愛香だった。

「分からない……どうして、ヒーローフォンを見た瞬間……」

「仲足の表情を見て察すると……あれは……」

「怯えていましたわ……」

 会長の言うとおりだ。ヒーローフォンを受け取ろうとした瞬間から、どこか様子がおかしかったとは思っていたけど……。

「怯え……恐怖……もしかして千優くん、暴走して暴れまわったこと、気にしてるんじゃない?」

「暴走するのが怖い……そうゆう事でしょうね……」

 母さんの指摘は、最も的を射ているだろう。

「……あんな千優さん、初めて見ましたわ……」

 会長の言う通り、俺もあんなヒロ兄は初めてだ。俺の知っているヒロ兄なら、俺もまだまだだな、なんて言って、次こそ使いこなせるように、正しい使い方を模索すると思う。まだ小さかった頃の愛香や、愛香の爺さんに、何度負けてもチャレンジし続けたように。

「う~む……どうするヒーローC?」

『俺はあいつの相棒だ。離れているわけにはいかない。第一、スマホがないと困るのは千優だからな』

「なら、後で彼の部屋に侵入して、枕元にでも置いてくるとしようか」

「ん、ふぁ……」

 その時、床にへたり込んだ会長が、可愛らしい欠伸をして、体をふらつかせる。

「む、いかん、もう八時か。お嬢様は、九時には眠たくなられるのだ。こんな事態になってしまったが、そろそろお暇せねば……」

「駄目ですわ、尊。せっかく仲間として認めてもらえましたのに……こんな時に途中で帰ってしまうなんて……」

「無理しないで、会長。俺たちも疲れたから、今日は早く休むつもりなんだ。使い方とか説明については明日でも大丈夫だし、明日になればヒロ兄も部室に来るはずだから。放課後、時間があれば、ツインテール部の部室に来てくれればいいからさ」

 よく見れば、会長のツインテールもおねむのようだ。休ませてあげないと。

「し、しかし…………分かりましたわ、門限も迫っておりますから。明日、また学校で……」

 会長の声が沈んでいる。ヒロ兄の事が凄く心配なのだろう。会長と桜川先生を、エレベーターまで見送ると、俺達は明日にでもヒロ兄にどうにか話を聞いてみようと思った。

 

 □□□□

 

 アルティメギル基地内 廊下

「しまった…………つい、姫への愛しか見えなくなってしまい、会ったことのない相手への言葉だが、敬意を示す事を忘れてしまった……騎士にあるまじき、恥ずべき行いだ……」

 基地へ戻ってきてから、頭の冷えたクラーケギルディは後悔していた。暴走テイルドラゴンに引きちぎられた触手を見つめながら、自分の行いを改めて振り返る。

「守ると決めたものを侮辱されたのだ。仕える主人を侮辱されたに等しく、なんとも軽率な事を私はしてしまったのか!テイルドラゴンの逆鱗に触れた事にも気付かずに、基地へと帰還してしまうとは!!」

「懺悔は済んだか?なら、まずはその傷を治す事に専念するんだな。小手調べは後日改めて、俺だけでやってやる」

 隣を歩くリヴァイアギルディが、先ほどの戦闘で展開した触手を胴体に巻き直している。勝負はテイルドラゴンの暴走により引き分け。ツインテール属性ではないが、幹部を相手にして互角だったテイルドラゴンの脅威は部下達に知れ渡っていることだろう。

「何を言うかリヴァイアギルディ。貴様の方こそ、傷を癒す事に専念した方がいいのではないか?」

「……気付いていたのか」

 触手の一部を展開するリヴァイアギルディ。その触手は、所々焼け爛れており、爪で引っ掻かれた痕は、目立たない程度だが、深く残っていた。

 リヴァイアギルディはいつも、股間の触手をギチギチになるまで自分に巻き付けて鎧にしている。だが、クラーケギルディは、その巻き方がいつもより甘い事を見抜いていたのだ。

「当たり前だ、何度貴様とやり合ったと思っている」

「フッ、違いない。お前と相容れることは無いが、今回ばかりは認めてやろう。テイルドラゴンと戦うお前を見て、俺は奴の強さを知った。暴走さえしていなければ、俺も戦いたかったところだ」

「ならば互いに傷を治し、次こそは尋常な勝負といこうではないか。テイルドラゴンを倒すのは私だが、奴らが3対2の総力戦を望むのであれば、その中で貴様も手を合わせるといい。守る為の拳と信念の剣、まともなテイルドラゴンとの勝負が心躍る戦いになるのは、私が保証しよう」

 互いに笑い合う二体。巨乳と貧乳、相反する対極の属性だが、この瞬間だけ、二体を隔てる壁は消えていたと言えるだろう。

「おやおや、随分と賑やかですねぇ」

「む?お前は?」

 2人の会話に水を差したのは、美しい銀色の毛並みと、鋭く尖った耳、口からはみ出た白い牙を持つ狼のエレメリアンだった。

「フェンリルギルディか……貴様、何の用だ」

「小手調べに向かったお二人が、重症を負わされて撤退した、と聞きまして。見舞いに上がった次第です」

「その割には随分と態度が大きいものだな。我が物顔で通路を歩いて来ておいて、何が見舞いだ」

 リヴァイアギルディの言う通り、フェンリルギルディは今、とても二体を心配して駆け付けた、と言うふうではない。どこか、勝ち誇った様な笑みさえ浮かべている。

「実はこの度、ダークグラスパー様から謁見の機会を与えられましてねえ」

「何ッ!?」

「ダークグラスパー、だと!?」

 驚く二体。真に存在するかどうかでさえ定かではなかった上に、到着したとの連絡さえ来ていなかったのだ。

 あまりの予想外ぶりに、隊長の二体でも驚きを隠せない。

「貴様、謁見の機会と言ったが……それがどうゆう意味か、正・し・く・理・解・し・て・いるのであろうな?」

「ええ、もちろん理解していますとも。では、ダークグラスパー様を待たせる訳にはいきませんので」

 そう言うと、毛並みを靡かせ、風を切って歩き去るフェンリルギルディ。

「クラーケギルディ、あの若造は?」

「ああ、下着属性アンダーウェアーのエレメリアンだが、その属性故に部隊から爪弾きにあっていてな」

「あの野心の篭った目……首領様直属の戦士に呼ばれるような事をしでかしたのか?」

「先日の会議の直後、私の前でツインテールを軽んじたのだ……」

「なんだと!?……あいつ……」

 その背中を、クラーケギルディとリヴァイアギルディがどんな顔をしていたのか、彼は知る由もないなかった。

 

 □□□□

 

 目を開けると、まず目に入ったのは赤だった。

 足元から地面いっぱいに広がる赤が、視界を覆い尽くしていた。

「うそ……だろ……」

 両目の視界の隅に浮かぶそれに、俺は目を背けようとする。だが、目は閉じられず、首も曲げることが出来ず、逆に俺の目は、それに釘付けになってしまった。

「そ……んな……」

 俺が着ているものと同じブレザー、一年生だということを示す青いネクタイ。そして赤い髪に、生気を失ったその顔は……総二だった。

 そして反対側。女生徒の制服に、これまた一年生を示す首元の青いリボンに、ツインテールに束ねられた藍色の髪は、リボンが切れ、片方が解かれてしまっている。

 言うまでもない、愛香だ。俺は、二人の亡骸の間に座り込んでいたのだ。

「嘘だああああ!!」

 これは夢だと分かっている。でも、身体中が震えて止まらない。

 そう、俺はこの光景が現実化するのではないか、と恐れているのだ。

 こわい。怖い。恐い。不安は恐怖となり、ゆっくりと俺の体を蝕んでいく。

 ふと、顔を上げると、周りを何人もの人に囲まれていた。全員、顔がのっぺりとした仮面で隠れているが、見知った者が何人かいる。

 トゥアールが。未春さんが。尊さんが。そして慧理那が……顔は見えないが、俺に向けられた視線が口に出さずとも、悔恨と蔑みを語っていた。

「やめろ……やめてくれ……」

 夢なら早く覚めてくれと。そう思った。だが、悪夢は終わらず━━━━━

 

「うわあああぁぁぁぁ!!」

「「うおっ!?」」

 目が覚めると、そこは2年C組の教室だった。

 辺りを見回すと、何人かはもう帰り始めている。どうやら、居眠りしたまま授業が終わったらしい。

「だ、大丈夫か?」

「居眠りしたまま授業終わったから、そろそろ起こそうと思って近づいたら……魘されてたぞ?」

「く、黒川……それに上郷も……」

 叫びながら飛び起きたせいで、驚いて席から転げ落ちた二人に気づき、悪いな、と謝る。

「昨日の夜、眠れなくてさ……」

「珍しいな。普段は夜更かししても、基本的に日付が変わる前には寝るくらい睡眠には貪欲なお前が、寝不足なんて……」

「何かあったのか?」

「夜中、悪夢に飛び起きてさ……」

 目覚めの悪さが最悪過ぎる。そして、寝る度に悪夢の続きを見る事になるなんてな……。

「すみません……ちょっと千優さんをお借りしてもよろしいでしょうか?」

「「か、会長!?」」

「慧理那?」

 立ち上がった直後にこちらへとやって来た慧理那に飛び退く二人。

「どうぞどうぞ、こいつでよかったら好きな様に使ってください」

「上郷、その言い方思いっきり面倒を押し付けたい人間の台詞なんじゃ……」

「はい!それでは、お借りしていきますわね?千優さん、ちょっと来てもらえますね?」

 二人に笑顔で頭を下げ、俺に付いてくるよう促すと、そのまま廊下へと向かう慧理那。

 俺はその姿を追いかけながら、後ろへと続く。

「これでちょっと前までなら、『会長に連行されるとか、何やらかしたんだ?』って弄ることが出来たんだけどな……」

「あの二人が師弟関係とは、誰も思わなかっただろうなあ。今やその話が尾鰭引いて、付き合ってる説とか流れつつあるぞ」

「ないない。千優みたいな正義感が人の形したような真面目ちゃんにモテ期とか……」

 上郷がかなり失礼な事言ってたのはさておき、黒川の言ってる噂……既に校内のどこまで広がっているんだろう……。

 そんな事を考えている間に、慧理那は屋上に俺を連れてきていた。

「観束くん達から今朝の様子は聞いています……代わりに励ましてくれ、と頼まれましたので……」

「……そうか」

 今朝の登校時を思い出す。

 

 □□□□

 

 今朝 登校時間 通学路

 結局、昨夜は一睡も出来なかった。さっきから何回、欠伸を繰り返しただろう。

「ヒロ兄、大丈夫?」

「……大丈夫に見えるか?」

「いや、全然……」

 一応、枕元のヒーローフォンは、なんとかポケットに入れて持っていている。だが、それでも『Change』のアプリをタップしようとすると、指が震えて動かなくなる。

 正直なところ、昨日より恐怖が大きくなっている実感があった。

「千優さん、もう大丈夫ですよ。私とシャインさんが改良しましたし、二度と暴走する恐れはない筈です」

「……トゥアールやドクターの技術力を疑っているわけじゃないさ……ただ……」

「ただ……何です?」

 先が気になるのか、総二や愛香もこちらへ顔を向ける。

「……怖いんだよ……また変身した時、誰かを傷つけるんじゃないかなって……」

「……怖い……か……」

「それに……俺には暴走している間の記憶が無かった……怒りで我を忘れて、自分の行いさえ覚えていないなんて……リヴァイアギルディが止めてくれたらしいけど、静観してくれていたあいつに迷惑をかけたのは間違いない。次に暴走した時には誰に迷惑をかけるのか……そう考えると、罪悪感で胸が圧し潰されそうになる……」

「そんな、迷惑だなんて……」

 昨日から溜め込み過ぎたせいか、不安が言葉になってどんどん吐き出される。

「大丈夫だよ……ヒロ兄はもう絶対、暴走しない……誰かを傷つけるなんて事にはならない!!」

「なんでそう言い切れるんだ!!怒りに流され、力に振り回される……あんな感覚、味わったこともないくせに!!」

「ちょっとヒロ兄言い過ぎよ!!総二は励まそうとしてくれてるのよ!?」

 愛香に咎められるが、俺は止まらない。睨むように愛香を見るとこう言い放った。

「お前も、あんな強大な力使いながら、よく感情的になってるけどな、止める俺達の身にもなってみろよ!!いずれお前もああなるぞ!!」

「なっ!?」

「属性力に感情エネルギー……今まで、こんな大きな力を平気で使ってきたこと自体が不思議なくらいだろうがよ!!」

 そのまま走り出す。これ以上慰めの言葉をかけられると、余計に辛くなる気がした。

「「ヒロ兄!!」」

「千優さん!!」

 ……あとで頭を冷やして考えれば、とても申し訳ない持ちになる。俺は、心配して、励ましてくれた弟分と妹分に、ひどい事を言ってしまった。

 放課後、謝らなくては……。

 

 □□□□

 

「……千優さん、何があったんですか……あの強くて、どんなに辛くても諦めない千優さんはどこに行っちゃったんですか!!」

「これが……俺だよ……」

「嘘です……そんなの、嘘に決まっていますわ!!だって、私の知っている千優さんは……師匠はあんなに強くて、勇ましくて、かっこいい……そんな人です!!」

「俺はそんなにできた人間じゃない!!」

 屋上のフェンスに拳を当ててしまう。フェンスのガシャガシャいう音がしばらく響いた。

「……夢を……見たんだ……」

 俯きながら、ぽつりぽつりと語りだす。

「テイルドラゴンが……仲間たちを……殺してしまう夢を……。そして……俺を、悔恨の籠った目で見つめる人々の姿を……」

「……………………」

 しかも、あの悪夢には続きがある。俺を取り囲んでいた人々も、次の瞬間には、炎に焼かれ、切り刻まれてしまう。亡骸に囲まれたまま、俺は号哭する。気が付けば視界の赤も、俺を囲んでいた亡骸も消え、今度こそ真っ暗な空間に、独り座り込んでいる。でもよく見れば、不安が茨の形を取って、体中に巻き付いていた。

「チカラ……ガ……コワイ……」

「キズツケル……カモシレナイ……」

「キラワレタク……ナイ……」

 茨は俺の不安を呻きながら、どんどん俺の動きを封じていく。最後は茨に押し潰されるように、俺は取り込まれてしまった。これが俺の悪夢の全容だ。

「テイルドラゴンは俺の、ヒーローとしての理想の具現だ……俺の理想が、仲間たちを殺していったんだぞ?俺の理想が……守りたい、大切な人たちを壊してしまうなら……俺には……もうヒーローとして戦う資格は……ない……」

 慧理那には残念だが、俺はヒーローとして、未熟だった。力の大きさも理解しておらず、その力に振り回された挙句、このザマだ。情けないったらありゃあしない。

「世界一のヒーロー属性を持っている、なんて言われたが、その実何にも分かっちゃいなかったんだ……俺なんかが選ばれたこと自体……いや、師匠と呼ばれる事さえ、間違っていたという事さ……」

「…………そんな……」

「メディアでもネットでも散々な言われようだったよ……テイルドラゴンは危険人物だ、だのエレメリアンを友と呼び、歩み寄る善人に見せかけて、その実殺しているサイコパスだ、だのあっという間の手の平返し……。……俺は臆病者だ……みんなに嫌われるのが怖くて、仲間を傷つけるのが怖くて、周りから恐れられるのが恐ろしい…………弱い人間なんだよ……俺は……」

「…………どうして……どうしてわたくしの顔を見て話さないのですか!!」

 次の瞬間、高らかな音と共に頬に痛みが走った。じんわりと広がっていく熱に頬を抑え、顔を上げると、慧理那が手を振りかざした後だった。

 そう、俺は慧理那に頬を叩かれていたのだ。

「……そんなの、いつのも千優さんらしくありません…………今、貴方は自分が師匠と呼ばれるのは間違っていたと言いましたが……それは、貴方を慕い、尊敬していた人への侮辱に等しいものです…………」

「…………えり……な……」

 顔を上げると、慧理那の翡翠のような瞳は、涙に濡れていた。

「それに、悪夢が何ですか!世間の風評が何ですか!そんなものを理由にして、貴方は今、恐怖に背を向けて、逃げようとしているだけではありませんか!!」

「ッ!!」

 そう、まさに慧理那の言うとおりだった。俺は今、逃げている。今まで難なく立ち向かって行けた恐怖という感情から背を向けて、尻尾を巻いて逃げ出しているのだ。そのために、悪夢や風評を理由にしているに過ぎない。慧理那はそれを見抜いていたのだ。

「それでも、まだ前を向いて、走り出そうとしないのなら……あなたはもう、私の師匠ではありません!!」

 そう叫ぶと、そのまま走り去ってしまう慧理那。屋上の階段を走り下りて行ってしまったその小さな背中を見守りながら、俺は呟く。

「ヒーローとしても……兄貴としても失格で、その上、弟子にも見限られちまったか…………」

『さあ、どうだろうな……。少なくとも、彼女が誰よりも近くで、誰よりも真剣にお前の事を見ていたのは、間違いないだろうよ……。ついでに言えば、そこまで恐怖に囚われていながら、「ツインテイルズを抜ける」とは言わなかったり、俺ヒーローフォンを手放したりしないところは素直に評価してるんじゃないか?』

「…………そう、かな……」

 叩かれた左頬に手を当てると、まだ痛みが残っていた……。

 □□□□

 

 階段を駆け下り、屋上から降りてきた慧理那。耳でその様子を窺っていた尊が問いかける。

「お嬢様……これでよろしかったのですか……?」

 その問いに慧理那は、背を向けたまま答えた。

「これで……良かったのですわ…………これ以上、あんな千優さんは見ていられませんもの……これが彼の為でもあるのですわよ…………」

「お嬢様…………」

「……さあ、行きましょう尊。部室で皆様が待っていますわ……」

 そのまま歩き出そうとする慧理那を尊は、その前に、と呼び止める。

「そのようなお顔では、皆さんに心配をかけてしまいます…………せめて、涙は拭いてください……」

 尊から差し出されたハンカチを受け取り、頬を伝う涙を拭き取っていく。これが、彼女にとっては恐らく、人生初の、他人への叱責だった……。

 それほどまでに彼女は、ヒーローが好きで、身近な人間の中で一番ヒーローに近しい性格を培い、その憧れを磨き、本物のヒーローになった千優が輝いて見えていたのだ。

 

 □□□□

 

 ツインテール部 部室内

 弱々しくも、ややせっかちなノックの音。

 俺が返事をするかしないかぐらいで、滑り込むようにして会長が入ってきた。

「っは、はあ、はあ…………お、お待たせしましたわ……少々、用事がありまし、て……」

「そ、そんなに急いで来なくても大丈夫だったのに……。ああ、とにかく座って。お茶でも…………って、もう淹れようとしている!?」

 桜川先生が我が物顔で備品のティーセットを物色していた。妙な流し目を俺に寄越してくる。

「会長、ヒロ兄はどうだった?」

「千優さんは……その……」

 何か言いづらそうに口ごもる会長。聞き出そうとすると、代わりに桜川先生が答えた。

「随分と腑抜けていたのでな。私から喝を入れておいたよ」

 会長が何か言いたそうにしていたが、片手で制する桜川先生。

 その鋭い眼光に、俺たちはそうですか、と納得することしかできなかった。

「そ、それより、早くテイルギアの説明をしてくれませんか?」

 会長は椅子に座り、そわそわしながら期待に満ちた眼差しでこちらを見つめてくる。

 その期待に応えるようにトゥアールは初めて変身した頃の俺達に説明する時にも使った、例の未来型説明キットを展開し、会長にテイルギアの概要を説明する。

 聞き終えるや拳を放たれるほど愛香には不評だった長い説明も、会長は表情をとろけさせて聞き入っていた。

「トゥアールさん、このエクセリオンショウツの部分が空欄なのは……」

「二度目ですし、今回は実際に使ってみましょうか、ふふふふウボァ!!」

 要約すると超科学オムツの機能を試させようと、危険な表情で会長に迫るトゥアールを、愛香が背後からの貫手で止めた。今回に限っては、俺も何とか止めようと思ったので、手段の是非はあれ、ファインプレイだと言いたい。

 機能を適当にはぐらかすと、今度は別の質問が来る。

「変身するための掛け声はありまして?」

「か、掛け声……?一応、変身機構起動略語スタートアップワードは、テイルオンって決めてるよ。言っても言わなくても変身はできるけど、意識の集中に丁度いいからね」

 まあ、ヒロ兄だけはこだわってて、いつまでたっても「変身」から変える気はないらしいけど、と付け加える。

「それは是非とも必ず言うべきですわ!そういう積み重ねがあると、たまに無言で変身する回が無性にかっこよく感じますもの!!」

「そ、そうなんだ……」

 ……回……ってなんだ……!?

「それで、変身ポーズは!?共通ですの!?それとも、各自違いますの!?」

「ポーズゥ!?」

 子供のように目を輝かせ、畳みかけるように質問してくる会長。

 流石、ヒロ兄の弟子……ヒーロー好きの度合いが桁違いだ……。

「さ、さすがにポーズはないかな。ほら、俺達正体隠さないといけないし」

 まして、あいつらの前で男から女に変身するところを見せるなんて、絶対に嫌だ。

「え?でも千優さんは、毎回変身ポーズとってますが……」

「あれは、ヒロ兄のこだわりみたいなものだから……わざわざ自分で考えたらしいわよ?」

「さ、さすがし……いえ、千優さんですわね……」

 何だろう、さっきからヒロ兄の事が話題に上るたびに、会長の表情が曇る気がするんだけど……。

 

「そ、それでは……変身してもよろしくて……?」

「会長。言葉より、変身するっていう意志をしっかり心の中に描いて」

「わ、分かりましたわ…………」

 会長は深呼吸すると、ブレスを胸の前にかざし、意を決したように凛々しく叫んだ。

「テイル──―オンッ!!」

 しかし、何の変化も訪れない。

 会長以外の四人は焦って同時に身を乗り出した。

「だ、駄目か……!?」

 しかし、祈りが通じたのか、一拍子置いて右腕から光がほとばしった。

 黄色い光の帯が繭状に展開され、全身に光の粒子が張り付いていく。段階プロセスは一瞬なので知覚できないが、輝光を放ち、シルエットが変化した会長が目の前に現れた。

 思わず後ずさってしまうほどの、激しいスパークが起こる。

 自分の身体を包むテイルギアを見て、会長は嘆声を漏らした。

「こ、これが…………わたくし…………?」

 ほんの少しだけ、声が大人びていた。いや、声だけではない。

 俺と同じで、変身することで姿が変化している。

 テイルギアを纏ったその姿は、変身前の神堂会長からは想像もつかないほど成熟していた。

 身長は愛香と同じか、少し高いぐらい……ヒロ兄よりも少し小さいくらいだろうか。

 腰が高く、すらっと伸びた脚。いわゆるモデル体型で、身体だけ見ると会長の面影は皆無だ。

 だが目を引くのは、変化した身体そのものだけではなかった。

 俺や愛香のギアと違って、肩や胸も満遍なく装甲板でおおわれている。手足にしても装甲の面積が広く、どちらかと言えば戦闘服というより甲冑のようだ。

 しっかりフィットした流線型の胸部装甲が、豊艶に成長した胸を強調している。

 その中でも存在を主張しているのは、身長と同じぐらいの大きさの背負しよいものだ。背中の装甲から左右それぞれ、宇宙ロケットの補助ブースターのように伸びている。

 先端に噴射口のように穴が開いているのを見ると、やはり重装甲を補うためのブースターの可能性が高いだろう。やや斜めに固定されて八の字を描いているブースターはきっとツインテールを意匠にしているに違いない。

 既に完成している自分のツインテールだけでは満足せず、まとうテイルギアそのものにもツインテールを創造しようとする貪欲さは、称賛に値する。俺も負けていられないな!

「黄色のテイルギア……今日から私は、テイルイエローですわ!!」

「……うい……とよ……」

 瞬間、俺は全身の肌が泡立つほどに、背後からの殺気を感じていた。

「どういうことよトゥアール!!巨乳になっているじゃない!!」

「なってますねー」

 背後に立っていたのは、名だたる名画コレクターたちが際限なくせり値を吊り上げそうなほど、見事な(殺意を含んだ)絶句顔の愛香と、自分のよりもサイズが小さいことを瞬時に見切ったらしく余裕の構えのトゥアールだ。

「言いましたよね?愛香さんを従わせるための餌として作ったブレスですって。まあ、目論見が失敗したとはいえ、これはこれで成功ですかね~!イエイ!トゥアールちゃん大勝rゴフッ!?」

 見事に吐血フラグおっ建ててしまったせいで、あっという間に無言の三連腹パンをくらい、吹き飛ぶトゥアール。一秒間に三回、同じ場所に、同じ威力で、正確に叩き込んでるのが恐ろしい……。

 そう思った瞬間、机の上に置かれたトゥアールのパソコンからアラートが鳴り響く。

『おっと君たち、エレメリアンだ。出動してくれ!!』

 ついでに、テイルブレスの通信機から基地で待機しているDr.シャインの声が響く。

「そ、それ私のセリフ…………」

「早速出動ですわ!!」

 張り切る会長と共に基地へと移動すると、俺達も変身して、時空跳躍カタパルトへと駆け込んだ。

 

 □□□□

 

『…………行かなくてもいいのか?』

 ヒーローCが、エレメリアンの出現を告げるアラートと共に、出現地のマップを表示する。

「………………」

 俺は答えない。慧理那にはああ言われてしまったが、正直、まだちょっと迷っている。まだ変身するのが怖いし、自分には戦う資格がないと言い切ってしまったのだ。今更どの面さげて、あいつらのもとへ行けってんだよ……いや、それもまた、逃げてるだけだな。

 戦って、大切な人たちを傷つけたくない……己の正義に反したくない。単純にそれだけなのに、そこに恐怖心が入って来たらこうしてウジウジしている始末だ。

『お前なぁ……せめて、弟子の初陣くらい見てやったらどうだ?』

「初陣……ってお前、まさか!?」

『はーい、この映像は現場から生中継でお送りいたしまーす』

 画面を見ると、どこのカメラからなのか、現在出現しているエレメリアンの映像が表示されていた。そして、間もなくツインテイルズが現れる。しかもテイルレッド、テイルブルーに加えて、黄色いテイルギアに身を包んだ、重装甲装備の戦士がいた。

「あれ慧理那か!?」

『どうもそうらしいな……見ないうちに随分と成長したもんだ……』

「いや、何その親戚のおじちゃんみたいな反応」

 胸、両肩、腕、腰、両脚を覆う面積の広い重装甲に、背中に背負った巨大な補助ブースターっぽいパーツが二本。ぱっと見防御力重視に見えるが、レッドやブルーのギアと構造には大差ない筈だから、身体はフォトンベイルで守られているはずだし、装甲を厚くする必要はない筈だ。

 だとすれば、考えられるのは……重火力タイプ!

『む?見慣れない顔だが……何者だお前は!?』

 牛のような外見のエレメリアンが、慧理那を指さし叫ぶ。

『第四のツインテイルズ!テイルイエロー、参上ですわ!!』

 トゥアールに『第五の』だと突っ込まれながらも、名乗りを上げ、ポーズを決める慧理那。

『テイルイエローだと!?テイルドラゴンはどうした?見当たらんが……』

『……テイルドラゴンは来ません。わたくしが、彼の代わりに戦います!!』

 少しの間、イエローの表情は少し曇ったように見えた。だが、その曇りもすぐに消え失せ、その目には熱い闘志が宿っていた。

「さて……俺にあそこまで言ったんだ。お手並み拝見と行こうか、かわいい新人さん」 
 

 
後書き
一歩音超え、二歩無拳、三歩極圏!!愛香の秘拳も恐ろしいところまで来てる感。
では次回、
慧理那「こ、こんなはずはありませんわ・・・」
千優「俺にあんな大口叩いておいてこの有様か」
━━━力を発揮できないテイルイエロー━━━
慧理那「千優さんにだけは言われたくありませんわ!!」
千優「明日、俺とお前で勝負だ」
尊「仲足のあの目・・・」
━━━千優の心に再び火が灯る・・・━━━
千優「ウオォォォォォォ!!」
慧理那「ハアァァァァァァ!!」
━━━ぶつかり合う想いと想い、雷と竜の戦士テイルイエローVSテイルドラゴン・・・そして━━━
総二「ヒロ兄!!」
愛香「イエロー!!」
リヴァイアギルディ「ようやく来たか」
クラーケギルディ「今度は二対二で、かかってくるがよい!!」
━━━そして次回、決戦のとき!!━━━
千優「テイルドラゴン、ファイヤードラゴンチェイン!!」
慧理那「テイルイエロー!!」
千優・慧理那「「ツインテイルズ・雷竜師弟!!」」
次回、「We are ベストパートナー!!」
トゥアール「来週もまた見てくださいね!」
Dr.シャイン「ジャーンケーン・・・」
尊「ポン!」
トゥアール・Dr.シャイン「「ジャンケンに見せかけて婚姻届を丸めたり指で挟んだり手のひらに乗せてるだけじゃねえか(じゃないですか)!!」」
尊「チッ・・・バレたか・・・」
 
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