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俺、リア充を守ります。

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第6話「想いの竜ーテイルドラゴンーその3」

「ヒロ兄……」

 私にはもう見ていられなかった。

 私たちを助けに来てくれたヒロ兄は今や敵の罠に嵌まり甚振られている。

 蹴られ、踏みつけられ、罵られ……。

 後ろを振り返ることはできないけどきっとそーじも同じ気持ちなんだろう。

「私たちが捕まらなければ……こんなことには……」

「愛香、お前今、諦めようとしてないか?」

「え?」

 項垂れた私の耳に聞こえてきたそーじの声はまだ諦めていなかった。

「昔、ヒロ兄と組手をやった時の事、覚えてるか?」

「……うん。確か私もそーじも、何回やってもヒロ兄に勝てなくて、諦めようとしたんだっけ?」

「そうそう。……その時ヒロ兄に言われたこと、覚えているか?」

 確か……あの時ヒロ兄は……。

 ──―『諦めるな。諦めればそこで全部終わりだ。でもな、諦めずに続けていれば絶対に良い方向に向かうんだ。だから諦めるな!!』

「……そうだ。私たちがここで諦めたら……」

 ここで諦めたらもっと悪いほうへ向かっちゃう!!

「ああ。そうだよ……俺達は諦めない!!」

「ありがとうそーじ……」

「気にすんなって。それに……」

「それに?」

「諦めてないのは、俺たちだけじゃないみたいだぜ」

 そーじがそういった直後、私の耳に聞こえてきたのは……。

 

 □□□□

 

(学校から走り出して、その途中で追ってきた尊にここまで連れてきてもらえた時までは、こんなことになるなんて想像もしていませんでしたわ……。

 まさか尊が敵に操られていたなんて……。

 それに……テイルドラゴンさんの正体が師匠……千優さんだったなんて……。ツインテイルズの正体は見当がついているつもりでしたが、師匠がテイルドラゴンさんだとは予想すらしていなかったのですから今でも驚いていますわ……。

 ですが……その師匠は今、わたくしたちの目の前で、敗れそうになっている。

 師匠が……私の大切なお友達が必死になって戦っているというのに……わたくしは……見ているだけですの?)

 悔しさと無力感が慧理那に押し寄せていた。

「もう……見ていられませんわ……」

 地べたに伏したまま動くことが出来ず、ただ蹴られ、踏まれ続けるだけのサンドバックと化した千優の姿から目を逸らそうとしたその時、

「……え?」

 慧理那の目に飛び込んできた光景……それは……。

 こちらへと手を伸ばす千優の姿だった。

(この状況でも……千優さんは、まだ諦めていない……)

 それを見た瞬間、慧理那の中で何かが弾けた!!

 

 □□□□

 

 ……目を開けると真っ白な風景が広がっていた。

 自分の体を見る。傷だらけだった筈なのに傷どころか痛みさえなくなっている。

 俺は……死んだのだろうか?

「ったく……無茶なやつだな、お前」

「え!?」

 後ろから聞こえてきた声に俺は振り返る。

「よう。この姿で会うのは久しぶりだな」

「ウルフギルディ!?」

 俺の目の前に立っているのは俺の好敵手せんゆう、そして初めて倒したエレメリアンの1体。

 学生服属性スクールユニフォームのウルフギルディだった。

「お前がいるってことは……やっぱりここはあの世なのか?」

「んなわけあるか!!お前はまだ死んじゃいねえよ」

「そうなのか……」

 なんか安心した。俺はまだ生きている……今はそれが分かったことが嬉しかった。

「ここはお前の精神世界……まあ、つまり心の中みたいなとこだ」

「俺の……心の中?」

「そうだ。だからオレ達もこの体で出てくる事ができる」

 さらに別の声に隣を見る。

「よう!」

「久し振りだな、千優」

「お元気でしたか?」

「アントライオンギルディ!それにドクターフィッシュギルディにタランチュラギルディも!!」

 そう、そこには死角に潜む者ラークスクエアーズのメンバーが全員揃っていたのだ。

「さて、何故私達がここに来たか。わかるか?」

「そ、それは……。不甲斐ない俺に喝でも入れに来たとか?」

「わかってんじゃねえか!!」

 アントライオンギルディに怒鳴られる。

 そんなにだらしなく見えていたんだな……。

「どうしてオレ達の属性玉ちからを使わねえんだ!!」

「それは……その……」

「そうだぜ!折角あげた属性玉エレメーラオーブが腐っちまうじゃねえか」

「それはそうだが……」

 俺はこの力を使っていいのだろうか……。

「迷っているのか?」

「え?」

「私達を倒した事を『本当にこれでよかったのか?』と後悔している。違うか?」

 心を見透かされたような気がした。

 ドクターフィッシュギルディの言っている事は的を射ていた。

「なんで……」

「ここは精神世界ですからね。貴方の心は私たちと繋がっているのですよ」

「つまり隠し事はできねえぜ!」

 そうゆう事か。なら、隠す必要はないな。

「そうだ。俺は迷っている……あの日、お前らを倒した日から……ずっと……」

 確かにエレメリアンを倒す事が彼らをその業から救うことだとヒーローCに諭されたが、それでも迷いは消えていなかった……。

「仲間想いで、人間臭くて、気の良い性格で……。そんなお前らを本当に倒すべきだったのかなって思うと罪悪感が押し寄せてきて……」

「そうだったのか……」

 その迷いから、エレメリアンと戦う時に迷いが生じるようになった。

「俺に……お前達の力を使う資格はあるのだろうか……」

 ずっと迷ってきたことだ。こいつらと戦い、好敵手として認められたあの夜から……ずっと……。

「馬鹿野郎!!俺たちがなんでお前に倒されることを望んだと思っていやがる!!」

 ウルフギルディが怒りながら肩を組んできた。

「俺たちはな、確かに死ぬまで一緒だと誓った。だがな、お前にトドメを刺させたのはそれだけが理由じゃねえんだよ!!」

「小僧の言う通りだぜ」

 アントライオンギルディに背中を叩かれる。

「力強過ぎ、ちょっと痛いぞ!!」

「悪ィ。……で、本題だけどよ……オレたちはあの瞬間思ったんだよ。お前になら付いて行ってもいいってな」

「付いて行ってやってもいい?」

 どうゆうことだ?

「私たちも一応、悩んでいたのですよ。エレメリアンじぶんたちの在り方に……」

 紅茶を飲みながらタランチュラギルディも歩み寄ってくる。

「自分たちを生み出し、自分たちが愛している属性を消さなければ生きていけない。そんな自分たちに疑問があったのです……」

「そうだったのか……」

「だから私たち4人は話し合った結果こう考えた。私たち全員が認められる者に、自分の属性力エレメーラを託そうと……」

 ドクターフィッシュギルディが手を差し伸べる。

「千優、君は私たち全員が認めた男だ。君だからこそ、私たちの力を使ってほしいんだ」

「お前ら……」

 ドクターフィッシュギルディが俺の手を握る。

「私たちはもう属性を消す必要はない。だから、今度は属性を守る側として戦いたい」

「これは私たちの総意です」

「お前のお陰でそれが叶えられるなら、オレたちはどこへでも付いていくぜ!!」

「そして、お前が守りたいモンを守る為に俺たちの力を使ってくれたら、それ以上に嬉しいことはないぜ」

 握った手を離し、今度はそれぞれの右手を重ねていく。

「ほら、千優も!!」

「お、おう」

 4人の手の上に自分の手を重ねる。

「「「「我等の心は、仲足千優と共に在り!!」」」」

「ああ!!お前らは今日から好敵手せんゆうじゃねえ、れっきとした仲間だ!!」

「「「「おう!!」」」」

 今や俺の心には迷いなど消えていた。

「さて、君はそろそろ戻らねばならない」

「お前が立ち上がるのを待っているやつがたくさんいるぜ」

 ……ああ、聞こえる。

 総二が。愛香が。そして慧理那が。

 俺が再び立ち上がることを信じて待っている。

「私たちの想いは君に託した。存分に暴れてこい」

「想い……か……」

 俺は再び目を閉じる。

 目を開けた先に、仲間たちの顔を思い浮かべて……。

 

 □□□□

 

「頑張って!!立ち上がってください!テイルドラゴンさん!!いえ、千優さん!!」

静寂を破ったのは慧理那の声援だった。

「ああ?なんだ、小娘の戯言か」

「無駄だ、コイツはもう動けねえよ!」

「叫ぶなら命乞いでもしていやがれ!」

小馬鹿にしたように喚くジェラシェード達。だが、慧理那は黙らない!!

「命乞いなどしません。だって千優さんはあんなに痛めつけられても弱音ひとつ吐きませんでしたもの!!」

「何を小癪な……」

「それに応援はヒーローの力の源……わたくしの応援が千優さんに届くのなら、何度でも叫び続けますわ!!」

「そうだ!!頑張れヒロ兄!!」

「お願い!!立ち上がって!起きてよヒロ兄!!」

総二、愛香も加わり声援は大きくなる。

「クッ……耳障りだ。お前たち、あれを用意しろ」

尊の命令で吊るされた三人の真下に何かが運ばれてくる。

それは、斜めに切ったパイプをいくつも切り口を上にして並べた剣山であった。

「テイルドラゴンにトドメを刺すのを黙って見ていなければ、このリモコンのボタン一つでお前たちをその上に落とすぞ!!」

「尊!!あなたもいい加減目を覚ましなさい!!人を殺めてまで行う事に何の意味があると言うんですか!!」

慧理那は真剣だ。この状況においても仲足千優ヒーローとゆう名の希望を信じて叫び続ける。

「黙れ!!もういい、まずは小娘!!お前から……」

ボタンを押そうとした尊の左手が止まる。

「な……なんだ!?」

どれだけ力を入れても左手は動かない。まるでそ・の・手・自・身・が・ボ・タ・ン・を・押・す・こ・と・を・拒・絶・し・て・い・る・か・の・よ・う・に・。

「おのれぇぇぇ……これなら!!」

リモコンを持つ右手の指で押そうと試すも、今度は右手が動かない。

(お嬢様……に……手を……出すな)

「クソッ!!この女、今になって抵抗してきやがった!!」

やがて、リモコンを握る手がどんどん緩み始め、ついにはリモコンを手放してしまった。

(お嬢様は……私が……守る!!)

「こ……こいつ!?まさか自力で私を追い出そうとしている!?」

「尊?尊なんですのね!!」

「う……ぬ……ぐッ……」

身体を追い出されそうになり、ジェラシェードが苦しんでいる。

「尊!!頑張ってくださいまし!!その悪を自分の中から追い出すのですわ!!」

「が……こう……なれば……お前……たち……ボ……ボタンを……」

苦し紛れに指示を出すジェラシェード。

「承知!!」

部下の1人が素早くリモコンを拾う。

「悪いがリーダーの為だ。落ちろ!!」

ポチッとボタンが押され、慧理那を吊るしているフックが外れた。

「「会長!!」」

「ッ!?」

鉄パイプの剣山まで真っ逆さまに落ちていく慧理那……だが、彼女の身体が串刺しになることはなかった。

落下の直前、黒い影が剣山を倉庫の隅まで蹴り飛ばし、落ちてきた慧理那の身体をしっかりと受け止めたのだ!!

「お……ま……え……」

「何ィ!?」

「馬鹿な!?Jフィールドの影響下であのような速さで動けるなど……」

驚くジェラシェード達。

「「おお!!」」

ジェラシェード達とは逆に歓喜する総二たち。

そして……。

「……戻ってきてくれるって信じてましたよ……」

「ああ、よく諦めずに待っててくれたな……」

満面の笑みで喜ぶ慧理那をその腕に抱える千優の姿がそこにはあった。

「ヒロ兄ナイス!!」

「遅いわよ!いつまで寝てるつもりだったの!!」

「悪いな。ちょっと友人たちと話してたら時間忘れちまってさ」

「なんだよそれ……」

千優の復活を喜ぶ3人。

「貴様ぁぁぁぁぁ!!」

再び武器を構える四人。

「待ってろ尊さん。今すぐ助けてあげますから!!」

慧理那を優しく地面に降ろし、身体を縛る鎖と手を縛っている縄を解く。

「ここで待っててくれ。必ず尊さんを連れてくる」

「はい!」

それから、総二たちを見上げる。

「総二、愛香、済まない。もう少しの辛抱だ!!」

「仕方ないな。あんまり長くは待てないぞ?」

「そろそろきついから、なるべく早くしてね?」

「努力するよ!!」

敵を見据え、構える。

「行くぞ!!」

身体が重くて動きづらいが、今残っているありったけの力を脚に込め、俺は突っ込んでいった。

「今度こそ起き上がれないように叩き潰すッ!!」

「やってみな!ハアッ!!」

「はギャッ!?」

上から、前から、今度は右から……。

振りかざされる鉄パイプやナイフを、最低限の動きで素早く流しつつ、動ける限りの速さで腹を突き手刀を叩き込みながら電気を流し込んでゆく。

チラッと見たが、戦っている間も尊さんはもがいていた……。

待ってろよ、頑張れよ、必ずあなたを助け出します!!

 

□□□□

 

「さて、俺たちいつまでこの状態なんだろ……」

総二が呟く。

そろそろ吊るされっぱなしがきつくなってくる頃だ。

「そうね……」

愛香もそろそろきつそうだ。

「もう少しの辛抱ですわ!!」

慧理那も応援しているがいつまで待てばいいのか……。

すると何やらジェット噴射のような音が聞こえてきた。

「なに?この音?」

『ちょっと静かにしてろよ……』

「その声、ヒーローCか!?」

『よっ……と。これで良し』

鎖が壊れる音とともにいきなり目の前に2メートルはありそうなロボットが現れた。

「「え?誰だよぉぉぉぉぉ!?」」

『うるせえ!!静かにしてろ!!』

鎖を引きちぎったロボットは2人を抱えて慧理那の側に降り立った。

「あ……あなたは一体?」

『見ての通りバイクだろうが』

総二と愛香を地面に降ろすロボット。

よく見れば足にはタイヤがついており、背中にはバイクのハンドルらしきものがついている。

「もしかして……あのバイクか!?」

『その通り。マシンサラマンダーアクションモードってところかな?』

「そういえば変形するって言ってたような……」

「おお!!バイクの名前はマシンサラマンダーというのですね!!」

驚愕する総二と愛香。興奮する慧理那。

まあ、いつも通りといったところであろう。

『ってオイオイ、千優のやつ……ヒーローフォンどこに投げたんだよ……』

「えっと……確か……この辺じゃなかったっけ?」

「桜川先生の方へ投げたからこの辺の筈よね?」

『あれがありゃこの状況でももっと楽に……』

「わたくしも手伝います!」

放られたヒーローフォンを探し始める一同。

その間も千優は戦っている。

だが、フィールドの影響か動きが鈍ってきているようだ。

『どこだ……どこにいったんだ……』

「あ、ありましたわ!!」

急いでヒーローフォンを拾う慧理那。

「会長!!それヒロ兄に投げて!!」

「はい!!千優さん!これを!!」

電源を入れ、3秒と待たずに起動したヒーローフォンを力いっぱい放り投げる慧理那。

慧理那が投げたヒーローフォンはまっすぐ千優の元まで飛んでいく。

「おう!!」

飛んできたヒーローフォンを左手で受け取る千優。

『Changeチェンジ』

チェンジのアプリを立ち上げ、腹部に当てると自動でベルトが巻かれる。

その瞬間、千優の動きにキレが戻った!!

「ハッ!!テヤァッ!!」

「ヌグァッ……」

最後の一人の腹に正拳突きが決まる。

残るは尊の体内の1体だけとなった。

「頼むぜ!!」

右手にドラゴファングが転送されてくる。

ヒーリングフルートの吹き口に口を当て、息を吹き入れる。

ポロ~ロロ~ロ~ポロ~ロロ~ロ~ポロ~ロロロ~ロ~ロ~ロロロ~

今回の曲は夕日の風来坊がいつもハーモニカで吹いているあの曲のメロディー。

邪悪を祓う旋律が、倉庫全体に響き渡る!!

「うがががががが……やめ……ろぉぉぉぉぉ!!」

尊の身体から黒い霧が出ていく。

ポロロ~ポロロ~ポロロ~ポロロ~ロ~ロロロロ~

「……や……め…………うわあぁぁぁぁぁ!!」

身体からどんどん黒い霧が抜けていき、尊は倒れた。

倒れたがそのまま地面に突っ伏すことはなく、千優に受け止められた。

 

□□□□

 

「よく頑張りましたね、尊さん」

「う……ん?ここは……」

尊さんが目を覚ました。よかった、成功したみたいだ。

「立てますか?」

「ん?お前……仲足か?」

「はい、見ての通り仲足千優ですよ?」

「その恰好は……」

「説明は後です。それよりお身体、異常はありませんか?」

寝ぼけたような反応だ。よっぽど疲れていると見える。

「千優さん!!」

「お~いヒロ兄!!」

「桜川先生は大丈夫?」

後ろから皆が駆け寄ってくる。ヒーローCがいつの間にか総二と愛香を助けているが……結構遅かったな……。

「お嬢様……ハッ!!」

「尊?」

「お嬢様……私は……お嬢様になんとゆうことを……」

思い出したのか。膝をつき尊さんが項垂れている。

縛り上げて吊し上げ、さらには殺めかけていたもんな……。

「私に……お嬢様をお守りする資格など……」

「そんな事はありませんよ……」

「ッ!?」

次の瞬間、慧理那が尊さんを抱きしめていた。

「尊はわたくしを守るために、あんなに頑張って戦っていたではありませんか。私はそれだけで充分だと思います」

「おじょう……さま……」

その時の慧理那の表情は、まさしく高家の当主に相応しい表情だった。俺はそう思う。

『千優、まだ終わってねえぞ』

「え?どうゆうことだ?」

「ヒロ兄!あれ!!」

総二が指さす方向を見るとそこには、消滅したはずの黒い霧が集合していた。

「あいつ!!なんで……」

『ここはJフィールド。ヒーリングフルートだけじゃ簡単には死んでくれないみたいだな……』

なるほど、つまりちゃんと倒さなくてはならないってことか。

「慧理那、尊さんを頼む……物陰にでも隠れていてくれ」

「千優さん……本気で行くのですね?」

「ああ。そうゆうことだ」

慧理那に笑顔を向ける。

「総二と愛香も、慧理那たちと一緒に隠れていてくれないか?」

「え?でも……」

自分たちも、と言わんばかりの愛香の目を見つめる。

「大丈夫だ。俺を……仲間を信じろ」

「……わかった」

「総二、3人の面倒を頼むぞ?」

総二に向かってサムズアップする。

「任せとけって!!」

総二も自信満々にサムズアップを返す。

「ヒーローC、皆は任せる」

『無茶はすんなよ……』

「わかってるって」

集合した霧から、ジェラシェイダーが現れ始める。

さて、そろそろ始めないといけないみたいだ。

「行くぜ!!」

いつものようにベルト左右のボタンを押し、変身ポーズをとる。

「変身!!」

『startスタート-upアップ』

その音と共に全身が光に包まれ、プロテクターが装着される。

『H・E・R・O!!HEROヒーロー』

変身音と共に、光の中から黒き竜を模したプロテクターに身を包んだ戦士が現れる。

「おお!!テイルドラゴンさんの生変身が目の前で見られるなんて!!」

物陰から慧理那の歓声が聞こえる。

それじゃ名乗ってあげますか!!

(「私たちの想いは君に託した。存分に暴れてこい」)

名乗る直前に一瞬、精神世界で最後にドクターフィッシュギルディが言っていた言葉が頭をよぎった。

(そうか……見つけたぜ、俺の名前の意味!!)

「俺は愛と正義の戦士!そして想いを繋ぐ竜!!テイルドラゴン!!」

「想いを繋ぐ……竜……」

変身している間にもわらわらとジェラシェイダーは溢れてくる。

さっさと終わらせないと消耗するな。

「ハアァァァァァ!!」

突っ込んで行きながら対数を確認すると現在で100体はいるらしい。

先に発生源になっている黒い霧の中心点、ジェラシェードが固形化したクリスタルを破壊しなければならないようだ。

「道を開けろォォォ!!」

ドラゴファングをブーメランモードにする。

「範囲最大!完全開放ブレイクレリーズ!!ファングブーメラン!!」

射程範囲を最大にして投げたファングブーメランは、緑色の軌跡を描きながらジェラシェイダーを切り裂いてゆく。

ただし射程距離が広い分、しばらく戻ってこない。

「試しにもう一つの武器も使ってみるか」

もう一つの武器、竜角刀ドラゴホーン。長さ約90cm、重量約120kgの二本一組の刀。

その重さ故に高い攻撃力を誇る代わりに、重くて振り回しづらいという欠点がある。

わざわざ二刀にする意味あるのか気になるだろうが、こちらにも変形機構があるため、ドラゴファングとは別の変形が使える。

今まで使ったことがなかったが、今が使い時だろう。

「来い!竜角刀ドラゴホーン!!」

両手にそれぞれ二本の刀が出現する。

いつも使っているドラゴファングより長く、そして両手に持つと少し振り回しづらい。

だが、この数を蹴散らすのには充分だ!!

「よろしく頼むぜ!!」

霧の発生源へと突っ走る。だが、目の前にはジェラシェイダー達が立ちふさがる。

「うおぉぉぉぉぉ!!」

立ちふさがるジェラシェイダー達を斜めに、横に、縦に!!

ジェラシェイダーを次々と斬り裂いていく!!

自然と脳内では某アニメの主人公である黒の剣士が、次々とモンスター達を斬りながら進んでゆくOPが脳内再生されていた。

『そろそろライフルモードで狙撃できる距離じゃないか?』

ヒーローCから通信が入る。もうそんなに近づいていたのか。

「了解。もうちょっと進んでから狙ってみる」

さらに奥へ進む。その間にもジェラシェイダーはどんどん増えてゆく。

もうちょっと近づいてからじゃないと……ライフルモードでは囲まれたときに不利だ。

あとちょっと……もう少し……。

「今だ!!」

ドラゴファングのガンモードと同様に、右手のドラゴホーンのグリップを傾け、グリップを逆さに収納した左手のドラゴホーンを刀身の後ろにあるジョイントに重ねて合体させる。

この周辺の敵はあらかた斬り払った。でも、どうせすぐに増えて押し寄せてくるから、チャンスは今だけだ!!

ライフルモードの銃口をクリスタルの中心部に向ける。

「ターゲット……ロック……」

……ダメだ……銃を撃つのが元々苦手であるため、標準がつけられても、銃口を支える手が安定しない。

多分、今しかチャンスがないって緊張感のせいでもあるのだろう。

『オイ千優!!早く撃たないとジェラシェイダーが!!』

「分かってる!!」

このままだと撃つ前に邪魔されて標準を……いや、周辺のジェラシェイダーを斬り払うところからやり直しだ。

何か……方法は……。

「……そうだ!!」

左手でバックルの前に手をかざす。

「タランチュラギルディ、力を借りるぞ!!」

紳士属性の属性玉を取り出し、右腕に備えられた投入口に属性玉を装填する。

「エレメリーション!!」

『紳士属性ジェントル』

属性変換機構の電子音声が属性力を読み上げる。

ヒーローギアが一瞬光ったかと思うと、プロテクターの上からエレガントなスーツが装着され、胸元には蝶ネクタイが巻かれる。

ヘルメットの上にはシルクハットが乗ったみたいだ。

「おお!よし!!」

もう一度銃口を目標に向け、標準を合わせる。

驚くことに、手が震える事もなくライフルをしっかりと固定している。

これが……紳士属性のテクニック……。

「ターゲット、ロックオン!!」

エネルギーが銃口にどんどん充填されていく。同時に、刀身も黄色く光り輝く。

「完全開放ブレイクレリーズ!ドラゴニック・バレット!!」

俺は引き金を引いた。

ズガーン!!

……かなり大きな音を立ててクリスタルは木っ端微塵に破壊された。

『クリスタルの完全破壊を確認した』

よし!!あとは残ったジェラシェイダーを……。

「ク……オ前タチ……ヨ……クモ……私ニ恥ヲ……」

声のした方を見ると、クリスタルの欠片が霧となり、集合してジェラシェードの姿を形作っていくではないか!!

「おいヒーローC、どうゆうことだよ!!」

『まさかまだ生きているなんて……計算外だ……』

これがJフィールドの力だというのか!?

いくらなんでもしつこすぎるだろ……。

「オノレ……覚エテイロヨ……次ニ会ウ時、ソレガオ前タチノ最期ダ!!」

空中にゲートが開く。あいつ逃げる気か!!

「逃がしてたまるか!!」

再びバックルに手をかざす。

「アントライオンギルディ、出番だぜ!!」

今度は監禁属性の属性玉を装填する。

『監禁属性プリズン』

「いっけえぇぇぇぇぇ!!」

頭上に銃口を向け、引き金を引く。

「バカメ、何処ヘ撃ッテイル」

残念だったなジェラシェード、この弾はお前に当てる為のものじゃない!!

俺が撃った弾は空中で弾け、四角いフィールドとして広がっていった。

「コ……コレハ!?」

「監禁属性の監禁空間だ。お前もジェラシェイダーも、もう逃げられないぜ!!」

「キ……貴様ァァァァァ!!」

怒り狂ったジェラシェードはこちらへ向かって突っ込んできた。

「ジェラシェイダー共、オ前タチモ行ケ!!」

残ったジェラシェイダー達が一気に押し寄せてくる。

数で攻めれば勝てるとでも思ったんだろうか?

残念ながら、こっちには一騎当千の力を持った仲間ともがいるんだよ!!

「ウルフギルディ!一緒に戦ってくれ!!」

学生服属性の属性玉を装填すると同時にジェラシェイダー達が一斉に飛びかかる。

「危ない!!」

物陰から慧理那の叫び声が聞こえたが、俺はこの程度でやられはしない!!

『学生服属性スクールユニフォーム』

電子音声とともに、投入口から……なんと学ラン(いや、丈が長いから特攻服と言うべきだろうか?)が出現し、まるでパーカーゴーストのごとく、周囲のジェラシェイダーを薙ぎ払う!!

「うお!?なんかスゲェ!!」

ジェラシェイダーを薙ぎ払った学ランは俺の上からやっぱりパーカーゴーストのように装着される。

体中に力が漲ってくるのを感じる……これが学生服属性……。

「ナンダソノ姿ハ!?」

「オラァ!!」

目の前まで迫っていたジェラシェードの鼻っ面にパンチを食らわせる。

「グッハァ!!」

「オラオラオラァ!!」

更に連続でパンチを決める。

「ウぐアァァァァァ!!」

後方へ吹っ飛ばされていくジェラシェードを睨みながら答える。

「この力は全て俺の仲間たちから受け継いだ想いの力……俺と友の絆の力だ!!」

足に力を込めて前方に跳び、ジェラシェイダーを殴り飛ばす。

更に後ろから迫るジェラシェイダーにもパンチをお見舞いする。

ついでに隣の奴の顔面にキック!!

目にもとまらぬ速さで、俺を取り囲んでいたジェラシェイダーは全滅した。

「想イノ……力……ダトォ!?」

「尊さんの心を踏みにじり、俺の親友たちをあんな目に逢わせ、人々の心の弱さに漬け込み利用したお前は……絶対に許さない!!」

学生服属性を解除し、ジェラシェードに向かって左腕を掲げる。

「オーラピラー!!」

左腕のプロテクターから光の柱が昇竜の如き姿をとって、ジェラシェードに喰らいつく!!

「ウ……動ケン……」

「ブレイクレリィィィィィズ!!」

溢れ出したヒーロー属性の属性力エレメーラが竜の如きエネルギー体となって俺の周りを渦巻く。

そのまま空中へ跳躍し構えをとると、エネルギー体は俺を追うように俺を取り囲む。

更に、俺を浮かせてくれているらしく、スラスター無しでも、そのまま体制を整えやすい。

後は飛び蹴りの構えをとれば!!

「ドラゴニックゥゥゥゥゥジャッジメントォォォォォ!!」

俺がジェラシェードに突っ込むと同時にエネルギー体は俺を包み込み、共に邪悪を嚙み砕く!!

「ウガアァァァァァ!!」

ジェラシェードの体を突き破り、余った勢いでスライディングしながら着地する。

ブレーキをかけて停止した途端、ジェラシェードは爆散した。

そして、それと同時に赤い空間に亀裂が入り、Jフィールドが消滅していく。

監禁空間を解除し、戻ってきたドラゴファングをキャッチし、ドラゴホーンと共に転送する。

「お疲れさん」

「やりましたわ!!」

「よし!!」

「凄いよヒロ兄!!」

「うむ、見事な戦いぶりだったな」

後ろを振り返ると皆が物陰から出てくるところだった。

テイルドラゴンの勝利を喜ぶ皆にVサインを送る。

『千優、もうひと仕事残ってるぞ』

え?まだなんかあったっけ?

そう思ったがすぐに思い出した。

「操られていた人達の治療しなきゃ……」

『神堂慧理那が桜川尊を慰めている間に集めておいたから、早く治療してやれよ』

「あ……ありがとう……」

いつの間に……。手際がいいな。

もう一度バックルに手をかざし、医者属性の属性玉を取り出す。

「ドクターフィッシュギルディ、戦場の天使ドクターエンジェルの本領発揮だぞ」

『医者属性ドクター』

医者属性の属性玉を装填すると、プロテクターの上に白衣が羽織られる。

気絶させた人達は物陰に隠れるように寝かされていた。

手荒過ぎたな~、と思いつつ治療を開始する。

「完全開放ブレイクレリーズ、癒しの看病エンジェリー・ナースィング」

手をかざすと明るい黄緑色の光が人々を包み込む。

俺が怪我させてしまった部分が一瞬の内に殺菌・消毒され、治癒していく。

しばらくすると全ての傷はすっかり癒えていた。

「さて、これで一件落着だな」

後は倉庫の外にでも寝かせておけば起きた後、自分から帰っていくだろう。

ドライバーを外し、変身を解除する。

「これで終わり……ということは……」

「ああ。帰るぞ」

外に出ると、辺りはすっかり夕暮れになっていた。

倉庫の外に倒れた人達を運びだし、壁にもたれさせておく。

「そういやヒーローC、なんで遅かったんだ?」

一番気になっていた事だ。

『慎重に行かなければ桜川尊に見つかり、妨害される恐れがあった』

「つまり、タイミング見計らっていただけってことか?」

『安心しろ、人質が危なくなったら飛び出す気だった。まあ、お前に出番取られたけどな……』

そうなのか……なんか申し訳ないな……。

『気にするな。お前の行動は立派だったよ。慎重すぎる俺じゃ、あんな事は出来ないからな……』

「そうか。……さて、そろそろ戻れ」

マシンサラマンダーが、アクションモードからバイクモードに変形する。

ハンドルの真ん中にヒーローフォンをセットすると、ヒーローCがヒーローフォン内に戻ってくる。

「総二、愛香、家まで送るよ」

「ヒロ兄、身体は大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。もし怪我してても、元々ヒーローCの自動操縦だから、事故る心配はない」

「そうか。なら遠慮なく乗せてもらうぜ」

後ろに総二、愛香が乗りマシンサラマンダーのエンジンを稼働させる。

変身なしで乗る時のために特製のヘルメットを用意してあるのでそれぞれ渡す。

「こいつは持って帰って解析してもらうとするか……」

尊さんから受け取った腕時計型デバイスをコートの内ポケットに仕舞う。

トゥアールならすぐに解析してくれるだろう。

「おっと忘れる所だった。慧理那、俺の正体は……」

「秘密ですわよね。当然ですわ!」

胸を張って宣言する慧理那。

「流石俺の弟子だ。話が早い」

「尊もこの事は他言無用ですわよ?」

「もちろん承知しております。バレると色々面倒でしょうから」

尊さんも分かっているようだ。

「それじゃまた明日、学校で」

「じゃあね会長」

「今日は迷惑かけました」

総二と愛香が頭を下げる。

「観束くんたちのせいではありませんよ!頭を上げてください!」

総二の謝罪を否定する慧理那。確かに、悪いのはジェラシェード達だったわけだし、総二が謝ることじゃない。

「ありがとう会長」

「あ、それと千優さん……生徒会の件は……」

俺の正体を知った事で、慧理那は俺が生徒会の誘いを断っている理由を察したようだ。

「考えとくよ」

「はい!ありがとうござい……え?」

「また今回みたいに生徒会メンバーが大量に抜けたら、仕事が大変だろ?」

「し、しかし……」

「両立できるよう、できるだけ努力はする。矢的先生は教師とUGM隊員を両立してたんだ。俺にだってできるさ」

慧理那に向けてサムズアップする。

「それじゃ出発するぞ。しっかり捕まってろよ!!」

「うわ!?」

「ちょ!?ヒロ兄待って!!」

三人ともヘルメットをかぶったところで走り出す。

ミラー越しに後ろを見ると、慧理那が手を振っていた。

さっきは大丈夫だと言ったんだが、本当は踏まれたり蹴られたり、擦りむいたりしたので身体のあちこちが痛い。

堪えることには慣れているんだが……これ帰るまでにバレるかもな……。

ふと後ろの二人を振り返ってみる。

総二はあまりの速さに口もきけなくなっているようだ。気絶してるんじゃないかと思ったが、俺の胴を掴む力が弱まっていないから大丈夫だろう。

……まあ、それはそれで打撲痕が痛いんだが……。

愛香はというと……総二に喜々としてしがみついている。かわいいなもう!!

この状況だし、あんな目に逢った後だ。今のうちに存分に堪能してもらいたい。

「ヒーローC、撮影できるか?」

『安心しろ、もう撮った』

「流石だ」

これなら痛みも当分忘れられるな。

夕焼けが俺たちの帰り道を照らし出し、サラマンダーはその道を風のように駆け抜けていった。

 

□□□□

 

「行ってしまいましたわね……」

テイルドラゴンたちを見送った後、お嬢様はそっと呟いた。

その口調はどこか名残惜しそうだった。

「また明日になれば会えますよ」

仲足はお嬢様のクラスメイト、そして観束と津辺は同じ学び舎の後輩だ。

学園でまた会うことができる。

「そう……ですわね……」

「はい。……お嬢様、そろそろ帰る時間ですよ」

車のドアを開けお嬢様を乗せる。

私も運転席に乗りながら呟いた。

「それにしても……散々な一日になりましたね……」

「尊、わたくしにとっては忘れられない、大切な一日ですよ」

「え?そうなのですか?」

意外な答えが返ってきた。私のせいであんな目に逢ってしまったというのに大切な一日とは一体?

「確かに捕らえられて縛られたり、吊るされるのは怖かったです。だけど私は今日、貴重な体験をたくさんする事が出来ました」

「貴重な……体験?」

「今まで何回もツインテイルズの戦いを身近で見てきて、それをすっかり見慣れたつもりでいました。しかし今日、今まで見てきたものとは全く違う、厳しい戦いがあることを知ることができました。また、諦めずに応援する事が、どれだけヒーローたちの力になるかを実感することができました。それから誰よりも早く、テイルドラゴンの新たな姿を見ることができましたし……なにより……」

「なにより?」

「……憧れのヒーローに抱きかかえてもらえたことが一番嬉しいのですわ///」

「そうですか……」

ご満悦のようで何よりですがお嬢様、顔が恋する乙女のような顔になっていますよ……。

それに、その言葉はテイルドラゴンと仲足、どちらに対しての言葉なのか……。

まあどちらにせよ、私は反省したほうがいいかもしれない。

婚期を逃すまいと焦りすぎたが故、あのような輩に身体を乗っ取られてしまったのだ。

これからはもう少し抑えめにした方がいいのかもしれない。

エンジンをかけ、アクセルを踏み込む。

今度、仲足にお礼をしなければ……。

そうだな……私の婚姻届けでも送ってやるか。

お顔全体で喜びを表しているお嬢様を乗せ、私たちは帰路に着いた。 
 

 
後書き
千優「痛い・・・もうちょっとやさしく・・・」
総二「心配通りだったな」(救急箱から絆創膏を取り出しながら)
愛香「案の定怪我してたのに隠してたわね」(傷口に消毒液を当てながら)
千優「すまん・・・慧理那いたし、心配かけさせたくなかったんだ・・・」
愛香「確かに会長には心配かけないけど、自分の身体の心配もしてよ!!」
総二「せめて今度からは俺達だけにでも言ってくれよ?」
千優「面目ない・・・」
トゥアール「皆さ~ん、そろそろタイトルコールですよ~」
千優「それじゃ、次回・・・」
総二「次回、新たな刺客に・・・」
一同「「「「テイルオン!!」」」」
千優「俺の台詞盗ったな・・・」 
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