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Fate/WizarDragonknight

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ウィザードvsアナザーウィザード

「ねえ。どうして私を見てくれないの? ユッキー」

 由乃は、雪輝の閉じた目にずっと問いかけている。
 幸輝と永遠の時を過ごすために用意したこの部屋。二人の邪魔ものが入り、三人の聖杯戦争参加者が入り、役立たずのサーヴァントが入り。
 主無き部屋となった今、再びここに価値を取り戻すためには、勝ち残り、主に再び生を享受してもらうしかない。

「ユッキー……」

 死後硬直により、瞼が開かない。さっきまでは自分を見ていた瞳も、今や白い瞼の向こうだ。

「どうして……」

 何度も問いを繰り返す中、コツコツとまた邪魔ものの足音が聞こえてきた。硬直した首を動かし、振り向くと、ウィザードの変身者がそこにいた。

「お前……」

 由乃は無表情で彼を睨む。手に持ったウィザードの時計の出どころであるところの彼だが、その名前も誰かも興味などない。

「お前はまた、私の邪魔をするの……?」

 ただ、彼に向けられる視線は、怒りのみ。

「どうして……? どうしてどうしてどうして!」

 由乃は、その場で地団駄を踏んだ。幸輝の死体を避け、彼の周囲の椅子の残骸だけを踏み砕く。

「どうして私の愛はユッキーに届かないの⁉ どうしてみんな、私の邪魔をするの⁉ 皆……皆……来い! アサシン!」

 令呪が輝く。愛の邪魔を抹殺するサーヴァント、アカメ。彼女にかかれば、ウィザードも一瞬で始末できる。
 しかし、アサシンは現れない。
 由乃は顔を訝しめる。

「どうしたの? 令呪をもっての命令よ! アサシン! ……アカメ! 今すぐ来て! 私の敵を、皆殺しにして!」

 しかし、反応はない。
 由乃は、声が枯れるまで叫び続けた。何度も。何度も。何度も。

「アカメ! アカメ!」

 しかし、令呪とは裏腹に、一向にサーヴァントは姿を現さない。なぜ、と監視役に訴えようかと考えた由乃は目を見張る。
 三画あったうち、令呪最後の一画。それが、まるで洗浄されるインクの染みのように、みるみるうちに消えていく。

「どうして……? どうしてどうして⁉」

 由乃は令呪があった手の甲を掻きむしる。しかし、手に痛みが走るだけで、令呪が戻ることはない。

「何でなの⁉ ユッキーを生き返らせるだけなのに、どうして……⁉」
『答えは簡単だよ。我妻由乃』

 そう告げたのは、白い妖精だった。白のボディとピンクの模様。ウサギか子猫かのような外見の妖精が、倒れた椅子の上からこちらを凝視していた。

「モノクマ以外の監視役……?」
『初めまして、だね。僕はキュウべえ』
「そう。それで、どうしてアサシンは来ないの?」

 矢継ぎ早に、由乃は監視役の妖精に問いただす。
 ウサギのような監視役は、顔色一つ動かさずに答えた。

『アサシンが死んだ。それだけだよ』
「アサシンが死んだ?」

 その言葉が、由乃の耳には遠くに聞こえた。まるで木霊するかのように言葉が繰り返される。

「どういうこと? 何を言ってるの⁉」

 キュウべえを掴み上げ、由乃は顔を近づける。

「アサシンが死んだ? 何で? どうしてよッ! サーヴァントがいないと、聖杯との繋がりがなくなるんでしょ!」
『そうだね。サーヴァントがいなくなった時点で、君にマスターの資格はない』
「ふざけないで! モノクマは⁉ モノクマを呼びなさい!」
『彼は来ないよ。君の姿に満足して、新しいマスターを探しに行ってる』
「新しいマスター?」

 さらに心に重くのしかかる単語。由乃の顔がみるみる青くなっていく。

「なんで⁉ 私はまだ生きてるわ! まだ戦える!」
『君はもう脱落したんだよ。我妻由乃』

 感情をむき出しにする由乃とは対照的に、キュウべえは全く声が動かない。当たり前のような妖精の言葉に、由乃はその頭部を圧し潰す。丸から形容できない形になっても、キュウべえは一切動じない。

『君が生き残ろうと、もう願いはかなわない。ならば改めて、別の手段で願いを叶えることを考えるべきじゃないのかい? どうして君たち人間は、そこまで目的以上に手段に拘るんだい? 全くわけがわからないよ』

 キュウべえを地面に落とした。
 キュウべえが視界の下へフェードアウトしてから、どう移動したのか分からない。由乃は呆けたように見上げていた。口がガタガタと震え、全身が痙攣していた。

「もう……願いが叶わない……」

 足が幸輝の腹に当たる。

「ユッキーが生き返らない……ユッキーが、私を受け入れてくれない……ユッキーが私をお嫁さんにしてくれない……」

 やがて、全身から脱力し、その場で膝を折る。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」

 ただ、世界への慟哭が響いた。
 しばらく泣き続けた由乃は、やがて足元の幸輝の体に触れる。すでに冷たくなってる肉体のそばで横になり、その顔に自らの頬を当てた。

「おかしいよね……? ユッキー」

 ひんやりとした肌触りが心地いい。涙でぬれた頬を、乾ききった幸輝と半分こ。

「私たちは一緒よ? 明日も来週も来年も来世も。ね?」
「……いい加減にしてよ」
「……あ?」

 敵の声に、由乃は沈んだ目を向けた。まさに虫を見る目で、彼を見下ろす。

「邪魔をするな。今は私とユッキーの大事な時間よ。私たちの愛の時間よ」
「愛? ……ふざけるのもいい加減にしてよ。チノちゃんたちの学校をメチャクチャにして、大勢の人を困らせて! その上好きな人まで犠牲になって‼ それで愛? そんなの、お前のただのわがままだろう⁉」
「……ねえ、ユッキー? あの人、変なこと言ってるよ? ひどいよね。自分だってマスターなのに。ね? 分かるでしょユッキー。だから、私がユッキーを助けてあげる。私が聖杯を手に入れて、ユッキーを助けてあげる」
「君だけが被害者じゃない! 自分一人だけの世界でもない! 自分だけのために、みんなを犠牲にしていいわけがない!」
「それが何? この世界は私とユッキーだけのものよ。だから、死んでくれるでしょ? ねえ、私たちのために死んでよ! ……ねえ? 本物のウィザードさん」

 由乃はそのまま。黒い時計を取り出す。ウィザードの顔が描かれた時計を。

「私がユッキーのお嫁さんになるために____お前は邪魔」
『ウィザード』
「だからさあ。ウィザードの力、全部頂戴。ウィザードの令呪、全部頂戴? そうすれば、私ももう一度マスターになれるでしょ? だから、ウィザードの全部、私に頂戴」

 仮面のごとく張り付いた笑顔のまま、由乃はウィザードの時計を体に埋め込む。紫の魔法陣がハルトと同じ動きで彼女を通過し、アナザーウィザードとなる。
 仮面の下で流す、血の涙。幸輝の死体から名残惜しそうに離れ、アナザーウィザードはウィザード変身者と対峙する。

『ドライバーオン プリーズ』

 奪ったはずのウィザードの力。それが彼にもあると証明するように、彼の腰に銀のベルトが出現した。アナザーウィザードのそれとはことなり、骨ではなく銀でできたベルト。その両端にあるつまみを操作することで、彼のベルトが歌い出した。

『シャバドゥビタッチヘンシーン シャバドゥビタッチヘンシーン』

 うるさい音声が、ベルトから流れ出した。その音声のなか、彼は静かに左手にルビーの指輪を取り付ける。

「変身!」
『フレイム プリーズ』

 ベルトに指輪をかざす。すると、彼の左側に魔法陣が出現した。

『ヒー ヒー ヒーヒーヒー』

 なるほど。本物のウィザードは、こういう変身プロセスなのか、とウィザードへの変身を見守りながら、アナザーウィザードは思った。
 キラキラのルビーの面。黒く、綺麗なマント。アナザーウィザードの姿と比較すると、とても清潔に見えて気に入らない。

『コネクト プリーズ』

 新たな指輪を使い、生まれた魔法陣より、銀の武器を取り出したウィザードは、その銃口をこちらに向けながら言った。

「お前の身勝手を止めてやる!」
「来なさい!」

 アナザーウィザードも、自身の武器として、常日頃より携帯しているサバイバルナイフを取り出す。するとそれは、アナザーウィザードの存在により、歪み、腕ほどの長さの銃剣となる。
 それは、ウィザードの武器、ウィザーソードガンとほとんど同じ形をしている。唯一の違いは、手のように作られた部分が、骨でできているところか。
 アナザーソードガンと呼ぶべき代物だった。それを構え、アナザーウィザードも臨戦態勢となる。

 そして。

 二人のウィザードは、ともに互いに襲い掛かった。



「っ!」

 アナザーウィザードの蹴りの威力は、ウィザードのそれと、全く遜色なく同じだった。
 互いに弾かれ、地面を転がる。

「これなら!」

 ウィザードは、ソードガンで発砲。無数の銀が、アナザーウィザードへ向かう。

『ディフェンド』

 しかし、敵も同じウィザード。回避可能な手段が豊富なことは、ウィザード自身にも分かっていた。魔法陣に阻まれ、銃弾は地面に落ちていく。
 ソードモードに切り替え、果敢に挑もうとするが、その時ウィザードは体の異変に気付く。

「長くは戦えないか……」

 ウィザードの体は、まるでノイズにかかった映像のように、小切れ小切れに震えていた。波がひどくなれば、その箇所は元のハルトの姿にさえ戻っている。

「そうね。長くは無理ね」

 大して、アナザーウィザードにそういった異変はない。むしろ、時間経過とともに、アナザーウィザードが元気になっているようにさえ思える。

「長くなっちゃったら、私の一方的になるもの」
「時間は俺の味方じゃないんだな……」

 乱れる体もほどほどに、ウィザードは新たな指輪を右手に取り付ける。

『ビッグ プリーズ』
『ビッグ』

 しかし、同時にアナザーウィザードも同様の魔法を使用した。
 魔法陣を通じて現れる、巨大な手。互いに何度も打ち付け合いながら、対消滅。
 しかし、その中より、二人のウィザードは同時に攻め入る。
 何度も何度も。同じ姿はそれぞれを斬り合い、傷つけ、そして消耗していく。

「どうして⁉ どうして⁉」

 互いに切迫しながら、アナザーウィザードはこちらに顔を近づける。

「お前はなんで死んでくれないの⁉ 私とユッキーのためなのよ⁉ そのために、皆死ぬのが当たり前でしょ⁉」
「お前たちは王様じゃない! それに、誰にだってこの世界を生きている! みんなそれぞれ希望を胸に生きている! お前たちの独りよがりな希望のために、皆を犠牲にすることなんてできない!」

 ウィザードはアナザーウィザードを蹴り飛ばし、二度その体を斬り裂く。
 間髪入れず、ソードガンのハンドオーサーを開放。

『キャモナスラッシュ シェイクハンズ キャモナスラッシュ シェイクハンズ』
『フレイム スラッシュストライク』

 炎の斬撃が、アナザーウィザードの体を引き裂く。引き起こされる爆発に、ウィザードは勝利をしたかと思ったが。

『ディフェンド』

 ウィザードが爆発させたのは、あくまで魔法陣のみ。その事実に気付くより、アナザーウィザードが一手速かった。

『ライト』
「ぐあっ!」

 突如の光が、ウィザードの視界を塗り潰す。白い光の次に、暗転した視界。全身の痛みが、アナザーウィザードの反撃だとすぐに分かった。
 地面を転がったウィザードは、いつもの感覚から、次に使う指輪を探り当てる。
 だが、視力が戻ったとき、アナザーウィザードも同じようにベルトに手を出すのが見えた。

『バインド プリーズ』
『バインド』

 繰り出された、同じ魔法。
 もはや拘束具としてではなく、攻撃のための鎖はそれぞれぶつかり合い。

『ウォーター シューティングストライク』
『ウォーター』

 水と水がぶつかり、大きな洪水がその室内で巻き起こる。

『ハリケーン スラッシュストライク』
『ハリケーン』

 波が引いたあとを、竜巻と竜巻が荒らしまわり、

『チョーイイネ グラビティ サイコー』
『グラビティ』

 地球上にあってはならない重力変動が、この場を支配する。

「くっ!」

 重力の波より離れたウィザード、ランドスタイルは、もう一度改めてルビーの指輪を使う。
 火のウィザードは、同じく崩れそうなアナザーウィザードを見据えた。

「君は、絶対に間違ってる……君がやってきたことだって、許されることじゃない」
「黙れ!」

 アナザーウィザードは、大きく手を振って否定し続ける。
 だが、ウィザードは止まらない。

「だから、これ以上は……悪い夢も、聖杯戦争も。もう、終わりにしよう」

 ウィザードは、切り札の魔法を使う。
 これまで、多くの人々を守ってきた魔法。
 これまで、多くの絶望を打ち破ってきた魔法。

『チョーイイネ キックストライク サイコー』
「はああ……」

 ウィザードの足元に、赤い魔法陣が出現する。そこから供給される、膨大な魔力が、その右足に熱い炎を宿らせる。

「ふざけるな……ふざけるな! ふざけるな!」
『キックストライク』

 アナザーウィザードも、ウィザードと同じく、キックストライクを発動した。まるでウィザードとは鏡写のように、魔法陣、動作、その全てが同じだった。

「私はユッキーと一緒になるの私はユッキーと一つになるの私はユッキーのお嫁さんになるの!」
「その希望を壊したのは……君自身だろ?」
「ちがっ……違う!」
「悪いけど……俺は、皆を……一人でも大勢を守るために戦っているんだ。皆を傷つける君を、許しておくことなんてできない!」

 そして、まさに鏡のように、二人のウィザードはバク転。ジャンプ。
 互いに魔法陣を貫き、

「だああああああああああああああああああ!」
「あああああああああああああああああああ!」

 ストライクウィザードを放った。
 炎の魔法が、部屋中を満たす。衝撃があちらこちらを破壊する。
 やがて、空間に収まらない、炎の集まりにより、部屋全体に、爆発が広がった。
 そして、その中から一足先に着地したのは……。

「人の希望を奪うなんて……お前はそれでも、魔法使いなの……?」
「皆の希望は、誰かの絶望の上に成り立ってる。希望も絶望も、そういう悲しい螺旋の中なんだ……俺は、希望の魔法使いなんかじゃない。皆を守る、魔法使いだ。だから……恨んでもいいよ」

 顔をずっと沈めたままのウィザードだった。
 落下を忘れたように、アナザーウィザードは空中で浮遊していた。その体にウィザードの魔法陣を浮かべ。

 大爆発。
 由乃の体を離れた懐中時計が、パリンと音を立てて、砕かれていった。 
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