さすがお兄様な個性を持っていたけどキモい仮面のチートボスにやられた話
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1話
『ひどいよ、かっちゃん・・・・!泣いてるだろ!? これ以上は、僕が許さゃないへぞ!』
暑い夏の晴れた日、セミの鳴き声と怪我をしてうずくまりすすり泣いている声が聞こえる公園。僕はかっちゃんたちにイジメられていた友達を助けようと立ち向かった。
恐怖で震え、上ずった声を出しながらも、ファイテイングポーズを取る。
怖かった。かっちゃんが強いことは知っていた。なんでも出来て、強個性で、今思えば暴君だ。
『“無個性”のくせに、ヒーロー気取りか、デク!!』
手のひらを爆発させながら、目が笑ってない笑顔で威圧してくる。後ろにいた二人もそれぞれ大きな翼を広げたり指を伸ばしたりして個性を使う。
無個性である僕は木偶の坊。だから、デクとかっちゃんに呼ばれた。
『ひっ!!』
三人が飛び掛かって来る。無個性である僕は後ろの子の代わりに殴られるくらいしか出来なかっただろう。戦う力なんて無かった。
でも、逃げるのは嫌だった。逃げたら、後ろにいる子を守れない。
『おらぁあ!』
爆発させながらかっちゃんが殴りかかってくる。僕は目をつぶってしまう。
それはだめだと兄さんに言われたばかりだったのに。
来る!殴られる!
『ヘグッ!』
『ゲボッ!』
『ガハァッ!』
聞こえたのは僕が殴られる音、ではなく、向かってきたはずの三人が殴られた音だった。
僕は、恐る恐る目を開けた。
『迎えに来たぞ、出久』
『お兄、ちゃん・・・・?』
目の前に立っていたのは、三人を殴り倒した僕からみて背の高い上級生。僕の兄さん、緑谷達也だった。
僕にとって兄さんは、初めて憧れた人だった。
オールマイトよりも先に憧れて、近くにいるのにオールマイトよりも遠い存在。
勉強も運動もなんでもできてどんなことも簡単にこなしてしまう。
イジメられていた僕をいつも助けてくれる。まぁ、やりすぎてしまうのがしょっちゅうだけど。
どこまでも遠くてどこまでも大きい背中だ。
普通なら嫉妬して嫌ってしまうかもしれない。
でも、無個性だとわかった僕に他の大人やお母さんすら言ってくれなかったことを言ってくれた。
『お前は、最高のヒーローになれる』
嬉しかった。たとえ叶わなくてもその言葉で僕は救われた。
それからは兄さんの特訓に付き合って一緒に鍛えたり体術を教えてもらったりした。自分で言うのも烏滸がましいけど学校じゃ喧嘩を挑まれたら必ず勝っていいた。もちろん喧嘩したかったわけじゃないけど。
それから、兄さんの友達とその兄弟とも遊ぶようになったり、あのオールマイトとも会わせてくれたりした。
誕生日に生オールマイトはすごかった。すごくうれしかった。
中学入学祝いにはあのI・アイランドに連れて行ってもらって、更にオールマイトの元相棒であるデヴィット・シールド博士にも会わせてくれた。兄さんは博士の所でアルバイトをしているらしいがほぼ助手みたいな感じだった。
島で色々なアトラクションや発明品とか見せてもらって滅茶苦茶楽しかった。最高の入学祝いだった。
そしてその日の夜、僕は兄さんに連れられて博士の実験室に行った。
何故行くのかと訊けば『最後の贈り物だ』と兄さんは答えた。こんな最高のプレゼントをもらってまだあるなんて、すごすぎると思い何があるのか楽しみにしていた。
そこで、僕の記憶は途絶えた。
目が覚めたのは日本の病院のベッドの上だった。隣にはお父さんとお母さんがいた。
なんでも僕は一週間もの間眠り続けていた。なにがあったのかわからなかった。目が覚めた僕に気付いたお母さんが気を失って倒れたことにさらに混乱した。お父さん曰く、お母さんはまともに寝ておらず、食事もとっていなかったらしい。
しかし、回りを見ても兄さんの姿が無かった。兄さんのことをお父さんに聞けば気難しい顔をしてこう答えた。
「達也は、もう、・・・・居ないんだ」
これは僕が、最高のヒーローになる物語じゃない。
これは俺が、復讐をなそうとする物語だ。
「緑谷、おまえこの進路でいいのか?」
中学校の職員室、教職員の机が合わさってできた島のデスクに座り男性教師は呼び出した受け持ちの生徒にそう問いかける。
「はい、これが自分の進路です。何か不備でもありましたか?」
そう答えるのは放課後呼び出された男子学生。中学生にしては背が高く既に175は越えているだろう。黒髪に碧眼の青年は大人びていて顔も整っているが少し近寄りがたい空気を放っている。
「いや、確認だ。にしても、うちから自衛隊の学校に行こうとするヤツは初めてでな。お前の成績なら雄英も士傑も行けるだろ?個性もお兄さんと同じだしな」
「ご助言、ありがとうございます。しかし、自分はヒーローになるつもりはありません」
ヒーローになるつもりはない。その言葉は、同年代の人間にとっては異質なものだ。誰だって子供のころはヒーローを目指している。それを否定することはとても珍しい。
「そ、そうか、わかった。まだ、春だから気が変わったらいつでも言ってくれ。気を付けて帰れよ」
その言葉に圧を感じたのか担任は少したじろいだ。
では、失礼しました。という言葉とともに男子学生 緑谷出久は職員室を退出した。
「今の、緑谷出久君ですよね?」
「ええ、そうですよ」
出久が退出した後、担任に話しかけたのは同僚の女性教師だった。一学年下のクラスを受け持っているが出久のことを知っていた。
「成績優秀。運動もできる。この前の体力テストで新記録を出して、さらに全国模試でも一位だとか」
「体力テストでは全科目同世代の記録を大幅に上回り、一年の後期からは全国模試トップ10。二年からはずっと一位。運動部からは助っ人に呼ばれ引っ張りダコ。まぁ、少し近寄りがたいのが欠点ですがね」
夕方、帰宅部である出久は独りで帰路についていた。
大会や試合の時には出久争奪戦になるほど、出久の身体能力はずば抜けていた。
野球では球速150km越えの球を平然と投げ、バスケではどんな場所からもゴールを決めしつこいマークもすぐに振り払う。陸上では全競技で、中学のみならず高校を含めた記録を全て塗り替えた。
他にも水泳、サッカーと様々な部活からの争奪戦。一つの部活に所属するとさらに問題が起きるため、帰宅部となった。
一部の人間は個性を使ったのではと疑ったが、出久には違う“個性”があった。
個性は一人に対して一つ。
このことから、出久の疑惑は晴れ純然たる彼の生まれつきと努力によるものということになった。
突如、出久の学ランにいれていたスマホが震えだす。
表示されたのは非通知の電話。
出久はそれに迷わず、電話に出た。
「はい」
『“ナイトウォッチ”、今夜こちらに来い。会長がお呼びだ』
出てきたのは低い男の声。自分を緑谷出久ではなく違う呼び名で呼び、要件だけ伝え一方的に切った。
「招集か、久しぶりだな」
出久はただそう呟き、そのままSNSで帰りが遅くなることを家族に知らせた。
「久しぶりね、“ナイトウォッチ”。急な呼び出しで申し訳ないわね」
「いえ、自分は構いません」
ヒーロー公安委員会 会長室
街を一望できるその部屋で、立派なデスクに座る白髪交じりの女性。その前に足を肩幅に開き手を後ろで組んだ“休め”の姿勢で立っていた。
「ナイトウォッチ、お前に指令がある」
そう言ったのは目の前の女性 会長の隣に立つのは幹部の男だった。
この男こそ出久に招集を掛けた人物だった。
「指令とは?」
「緑谷出久くん、あなたの進路は?」
「・・・・・・自衛隊幹部候補高等学校に志願しています」
「なら、雄英高校にしなさい」
「・・・・は?」
いきなり、緑谷出久としての質問に疑問を感じながらも答えると志願先を変えろと言われ驚いた。
「理由を、聞いても?」
「近いうち、いえ、一、二年の間に雄英高校ヒーロー科が襲撃される可能性があるの」
「襲撃、ですか?」
国立雄英高校。そのセキュリティーは国内でも最高レベル。それを掻い潜って襲撃される。そんなことがあり得るのだろうか?
「情報源は?」
「それは言えん」
幹部の男がそう言った。確かに情報源が漏れるのはまずい。公安委員会も組織的なヴィランや危険人物にマークをし、所属のスパイも存在している。
出久もその一人。約二年前、委員会にスカウトされ訓練と任務として内偵調査や裏からヒーローのバックアップをしていた。
“ナイトウォッチ”はそのコードネーム。夜警の名を得た。
「首謀者には“あの男”がいるわ」
「!?・・・・・目的は?」
“あの男”という言葉に一緒動揺するも、冷静さを取り戻す。“あの男”、それは緑谷出久の目的でもあった。
「オールマイトだ」
オールマイト。日本の平和の象徴。ヒーローの本場、アメリカでも人気がる男。かつては自分も動画をよく、いや、しょっちゅう見ていた。
「オールマイトは来年の春から教師として雄英高校に赴任する」
「つまり、奴の狙いはオールマイトの抹殺」
平和の象徴を殺すこと。オールマイトとの戦いで弱ったとはいえこの日本を裏から支配した存在。可能性は十分にある。
「オールマイトはこれからのヒーロー育成のために、赴任する。お前には、雄英高校に入学し問題が起きた際対処してもらう」
「承知しました」
その命令を受諾し、出久は休めから敬礼をする。
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