| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝供書

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第九十六話 尼子家の騒動その十三

 元就はことを練りはじめた、その中で妻に言うのだった。
「何かと忙しいのう」
「戦はなくとも」
「うむ、領地を治めて大きくしてな」
「そしてですね」
「家をまとめるにしてもな」
 どうしてもというのだ。
「何かとな」
「忙しいですね」
「朝起きて寝るまでじゃ」
 それこそというのだ。
「気が休まる暇もない、政がないと武芸に学問じゃ」
「そういったものに励まれていますね」
「それでじゃ」
「気の休まる暇もないのですね」
「こうして居に戻るまでな」
 とてもというのだ。
「気持の休まる暇がない」
「そうなのですね」
「しかも困ったと言うことも出来ぬ」
 元就は苦笑いを浮かべこうも言った。
「それを言えばな」
「家の主としてですね」
「ならぬからな」
 それでというのだ。
「まことにな」
「厄介ですね」
「主というものもな」
 こう言うのだった。
「忙しく苦労が絶えず」
「弱音も言えぬ」
「辛いものじゃ」
「はい、ですが」
 それでもとだ、こう言ってだった。
 妻は元就に水を差しだして彼に言った。
「こうした時はです」
「言ってよいか」
「私でよければ」
「そう言ってくれるのがな」
 どうかとだ、元就は笑って話した。
「有り難い」
「そうですか」
「そしてそなたにな」
 実際にという返事だった。
「何かと言える」
「それではです」
「言ってよいな」
「何かと」
 こう言うのだった。
「お話して下さい」
「そうさせてもらう」
 元就も応える。
「是非な」
「ここにいる時は」
「では」
「だが実は城はな」
 元就は今度はそれの話をした。
「このまま勢力が大きくなっていくとな」
「それならですか」
「この城では治めにくい」
 吉田郡山城にいてはというのだ。
「だからな」
「城を替えられますか」
「安芸の中のな」
 そこのというのだ。
「治めやすい場所にじゃ」
「新たに城を築かれて」
「そしてじゃ」
「そこにですか」
「移ってな」
「そこから治められますか」
「領地全体をな」
 そうしたいというのだ。
「やがては」
「そうお考えですか」
「うむ、ただ安芸からは移らぬ」
 本城を変えることはしないというのだ。
「それはせぬ」
「そうなのですか」
「安芸から他の国に勢力を拡げてもな」
「それでもですね」
「それでもだ」
 さらにというのだ。
「安芸は山陽と山陰を治めるのに一晩都合がいい」
「そうした国だからですか」
「それ故にな」
「本城はあくまで安芸ですか」
「そこにじゃ」
「新たな城を築かれて」
「そのうえでじゃ」
 さらにというのだ。
「わしはそこに移ってな」
「治められるのですね」
「そう考えておる」
「では私も」
「義母上もな」
 杉大方もというのだ。
「移って頂く」
「義母上様も」
「そうじゃ、よいな」
「それでは」
「その様にな」 
 こうしたことを話してだった、元就は妻と共に休んだ。そうしてまた英気を養い国を治めるのだった。


第九十六話   完


                   2020・5・1 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧