真似と開閉と世界旅行
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全ての真実〜
前書き
1日遅れのハッピーニューイヤー!!・・・なのに出来が悪いこと悪いこと・・・しかも長いし・・・と、とにかく今年もよろしくお願いします!ではどうぞ!
・・・俺とキリトは道に降り、宿屋に戻る。・・・そして宿屋の前に落ちている漆黒のスローイングダガーを拾う。
「・・・本当に・・・死んだのか・・・」
「ああ・・・俺は見ていた。目の前で、ヨルコさんは・・・」
「・・・」
部屋に戻ると、レイピアを握っていたアスナは息を吐いて鞘に収める。・・・直後に。
「ばかっ、二人とも無茶しないでよ!」
アスナは続けて聞いてくる。
「・・・それで・・・どうなったの?」
顔を逸らした俺に代わってキリトが告げる。
「だめだ、テレポートで逃げられた。顔も声も、男か女も分からなかった」
・・・グリムロックさんだったら男だろう。SAOでは同性婚は不可能だが・・・確証はない。
「・・・違う」
シュミットが震えながら呟いた。
「違うんだ。あれは・・・屋根の上にいた黒ローブは、グリムロックじゃない。グリムはもっと背が高かった。それに・・・それに」
そのまま続けられた言葉には息を呑まざるを得なかった。
「あのフードつきローブは、GAのリーダーのものだ。彼女は、街に行くときはいつもあんな地味な格好をしていた。そうだ・・・指輪を売りに行く時だって、あれを着ていたんだ!あれは・・・さっきのあれは彼女だ。俺達全員に復讐に来たんだ。あれはリーダーの幽霊だ」
そのまま狂ったように笑いだす。
「幽霊ならなんでもアリだ。圏内でPKするくらい楽勝だよな。いっそリーダーにSAOのラスボスを倒してもらえばいいんだ。最初からHPが無きゃもう死なないんだから」
そのまま笑い続けるシュミットの胸ぐらを掴む。そして眼前に先程のダガーを突きつける。
「ひっ・・・」
「少し黙れ・・・幽霊は武器なんざつかわねーんだよ・・・この武器はほんの数行のプログラムコードで書き込まれたただのデータだ。あんたがかっぱらった槍と同じでな」
『咲・・・』
「それに幽霊が出るなら、今までに死んだプレイヤーはどうなる?俺は今までこの世界で幽霊に出会ったことはない。あり得ないんだよ・・・!いいか!お前が言っているのは・・・」
「サキ!・・・少し落ち着けよ」
「そうよ・・・何か変よ、サキ」
「・・・ごめん」
俺は胸ぐらから手を離し、部屋から出る。
「今日はもう帰るよ。・・・本当にごめん」
「サキ・・・一人じゃ危ないから・・・」
「大丈夫、一人じゃ・・・ないから」
俺は外に出る。
『どうしたのよ、さっき・・・』
「・・・色々、思い出しちゃってな・・・」
『何をッスか・・・?』
「詠と恋が居なくなった時・・・幽霊でも何でもいいからもう一度声が聞きたい・・・なんてバカなこと考えてな」
『・・・』
「なんつーか、自分を思い出して混乱したってとこかな。シュミットには悪いことをしたかもなぁ」
『でも・・・会えたじゃない。ボクは・・・こうして咲といる』
「・・・そうだな」
俺はホームに帰り、ソファに身を預ける。方天画戟をテーブルに立て掛け、詠が実体化する。
「・・・さて、どうするの?休みたいなら後はボクとリパルが情報を纏めておくけど?」
「いや、俺もやるよ。・・・正直こんな状況じゃ休めないし・・・と」
その時、アスナからメッセージが届いた。
「・・・」
「誰から?」
「アスナから。・・・シュミットからグリムロックがよく行っていた店の場所を聞いたらしい。・・・二人はそこで張り込むってさ」
『いいッスか?二人きりッスよ』
「う・・・」
俺は葛藤するが・・・
「か・・・帰るって言っちゃったからな・・・ま、まあ何かしたらキリトを外周から投げ捨てるだけだ」
「ほんと、アスナが絡むと見境ないわねぇ」
『きっとアスナさんだけじゃなく、詠さんでもッスよ』
「・・・ほ、本当?咲」
「・・・そりゃ、好きな奴の為なら何でもできる・・・ぜ」
「咲・・・」
『(一瞬で居づらくなったッス)」
俺は咳払いをして、ダガーを取り出す。
「こいつがヨルコさんの命を奪った凶器だ」
「・・・見た目はただの黒いスローイングダガーね」
「・・・」
俺はダガーを手に持ち・・・左手を広げ、そこに・・・
「ちょっと!何するつもり!?」
詠が俺の腕を掴む。
「・・・まあ、試しにちょっと・・・」
「バカじゃないの!何が起こるか解らないのに!!」
『そうッス!幾ら何でも軽率ッス!』
「お前らは親か・・・大丈夫だって、手に刺す程度で・・・」
「たった一撃でヨルコの命を奪ったのよ?手に刺しても・・・」
「・・・解ったよ」
俺はダガーをテーブルに乗せる。
『・・・そう言えば、やけにシュミットさんが怯えてたッスね』
「ああ・・・そりゃ、殺されるかもしれないって思ったら・・・」
「でも、武器を掻っ払ったってことはかなり最初から怯えてたって訳よね。ヨルコは・・・」
「そう言えば・・・」
最後の会話・・・ヨルコさんは落ち着きすぎてた気がするし、シュミットは怯えすぎてた気がした。
「・・・」
「・・・あ」
「詠?」
「ふと思ったんだけど・・・結婚のシステムってどうなっているのよ?」
「ええと・・・リパル」
『ッス!方法は基本的にパーティーを組むのと似ているので割合するッス。結婚するとお互いのアイテムストレージやコルが共通化されるッス』
「隠し事はできない訳ね。まあ、そこは問題じゃないと思うけど」
「・・・離婚とかあるのか?」
『双方同意の場合・・・一方的に離婚したい場合はアイテム分配を自分ゼロの相手百にすれば一方的な離婚が可能ッス』
「それ、一人のストレージに入るの?」
「まず入らないな。容量を越えたアイテムはその場に全部ドロップ・・・だったかな」
「ふうん・・・」
「だから、離婚されそうな・・・ああ!」
俺は一つ気づいてしまった。
「自分がゼロで・・・相手が百になる方法がある」
『それは・・・?』
「“死別”だよ。その場合もその割合が適応される筈だ。・・・つまり、黄金林檎のリーダーさんが殺された時、アイテムは全てグリムロックに移動した筈なんだ・・・!だけど指輪事件の犯人は見つかってない・・・いや」
俺は口にするのを躊躇ったが・・・
「犯人はあの人だ・・・それなのに、この圏内事件の犯人はまるでその人が犯人だろうと思われる情報が沢山あった・・・」
「・・・ヨルコね?」
「そうだ・・・ヨルコさんは目的があったんだ。ヨルコさんは・・・あの日の事件の犯人を追っていた・・・」
俺はダガーを掴み、詠やリパルに止められる前に手に突き立てる。
ガッ!
『咲さん!?』
「あ・・・」
「やっぱり・・・な」
俺の手はコードによって守られ、ダガーは通らなかった。
「圏内PKなんてありゃしないんだ・・・」
「・・・でも、明らかにカインズとヨルコは・・・」
俺は方天画戟を掴み、家のドアを開き・・・
「咲?」
耐久値が限界のマントを路面に投げる。そして・・・
カシャアン!
・・・アイテムは地面に置くと自然に耐久値が減少する。
「詠、リパル、見たか?」
『見たッスけど・・・』
「今の・・・プレイヤーが死んだ時と似てないか?」
「・・・!」
「これに転移結晶を合わせりゃ・・・」
『さもHPがゼロになって消えたように見える・・・』
「じゃあ、ヨルコとカインズはコレを使って・・・?」
「ああ。カインズさんの時は結晶を使えばいい。ヨルコさん、厚着してたろ?アレはダガーを予め刺してあったのを誤魔化す為だったんだ。あの時は俺はよそ見してたけど・・・きっと床を蹴るなりなんなりして音を演出したんだ」
「何でそんなことを・・・」
「犯人を炙り出す為だよ。周りの人間が消されれば犯人は焦り出す。・・・この場合・・・」
「シュミット・・・ね」
「アイツは恐怖で幽霊の存在を信じている。そんな奴が死に物狂いですることは?」
『許しを乞う・・・』
「・・・ああ、となりゃカインズさんとヨルコさんはそこを待ち伏せして真相を聞き出す。・・・それで終わ・・・ん?」
ふと違和感に気付いた。
「あの槍造ったのは・・・グリムロック、だよな」
「そうね。きっとヨルコとカインズが依頼をして・・・」
「となるとこのダガーも・・・だよな」
「そう・・・よ」
「・・・待ってくれ・・・俺は、今・・・」
『咲さん・・・?』
「・・・っ!!」
俺は方天画戟を掴み、走り出す。
「ちょ、咲!?」
「・・・嫌な仮定立てちまったんだよ。今からちょっと向かう。リパル、シュミットのプレイヤーデータはあるな?現時点で何処にいる」
『ちょ、ちょっと待って下さいッス・・・今は19層のフィールドに・・・』
「そこにリーダーさんの墓があるようだな・・・」
じゃないとわざわざこの状況で下層に行く理由が分からない。
「取りあえず向かおう。嫌な予感がする」
「待って!ボクも・・・」
「詠には今からお願いしたい事があるんだ」
「え・・・?」
詠に伝え、俺は転移門まで走り、19層に転移する。
「はっ・・・はっ・・・」
SAOでは息切れなどは起きないが、無意識に呼吸をしてしまう。その時、あるモノが目に入った。
「う、馬!?この世界に・・・」
「よお、そこのアンタ!このじゃじゃ馬が気になるかい?」
NPCが話し掛けてくる。・・・コレを使うか。
「おっと、だが君は身体が細・・・」
「それ借りるよ!」
会話を中断。速攻表示されたイエスかノーにイエスと答え、金を払う。
「よっ、と・・・へへ、どんな馬だろうとなぁ・・・」
馬を走らせる。
「翠の馬達に比べりゃ余裕なんだよ!」
そのままリパルにサーチさせ、馬を走らす。
『・・・本来、扱うのが難しい筈なんスけど・・・』
「恋姫でどんだけ馬に乗ってると思ってるんだよ。しかも指導者には霞や翠がいたんだぜ」
『・・・そうッスね』
「・・・待て。・・・見えた!」
人影は・・・六。後二人はヨルコさんとシュミット・・・後一人は多分カインズさんだろう。残りの三人は・・・こちらは最悪だった。
「・・・やっべーな」
見るとシュミットは倒れている。・・・きっと麻痺か何かにやられたのだ。俺は馬を止め、その反動で飛んで一回転して着地する。
「・・・俺、参上。ってな」
俺は黒いポンチョを着た男を見る。
「・・・相変わらず悪趣味な格好だな、PoH?」
「・・・貴様も似たようなものじゃねぇか」
確定。コイツらは殺人ギルド《ラフィン・コフィン》・・・笑う棺桶とは洒落た名前だ。
「・・・」
ラフコフのリーダーで、ポンチョを見にまとい、その右手には中華包丁のような形状の、赤黒い刃を持つ大型のダガーを装備しているのが、リーダーの“PoH”。エストックをカインズさんに突きつけ牽制しているのが“赤目のザザ”。毒ダガーを握っているのが“ジョニー・ブラック”・・・わお、トップスリー勢揃いだ。
「随分暇なんだな、ラフコフも」
「ンだと!この状況分かってんのかよ!」
「まあ待て。なあサキよ」
「・・・なんだよ」
「・・・お前、人を殺したいと思うか」
「・・・はっ、勧誘?おあいにく、興味ないな」
「・・・」
「ヘッドぉ!さっさとやっちゃいましょうよぉ!」
この二人もそうだが、さっきから沈黙を保っているザザにも恐怖を覚える。
「(この世界じゃなかったらなー・・・)」
この世界の俺は一回りも二回りも弱い。
「・・・ま、時間稼ぎ位にはなるさ」
『ま、待ってくださいッス・・・あと少し・・・』
「・・・」
ラフコフの三人がコチラを見据える。・・・その時だった。
「・・・そこまでです」
「動いたら首を飛ばすわよ」
ジョニーとザザの背後に詠と亞莎がローブを身にまとって、武器を首に突きつけ、立っていた。
「隠蔽スキルを最大まで上げてるプレイヤーはそういないわ」
「そこに装備で底上げして、極限まで高めました」
・・・詠に頼んだのは、亞莎に連絡して欲しいと言うものだ。多少の事態には対応できる筈だが・・・ラフコフは予想外だったのだ。
「さあ、首を落とされたくなかったら退きなさい」
・・・その時、PoHの口に笑みがあった。・・・そうだ!狙われる立場であるコイツらが簡単に背後を取られる訳が・・・!
「詠!亞莎!下がれ!」
「「え・・・!?」」
ジョニーが毒ダガーを亞莎に向かって投げる。
「くっ・・・!」
「こいつ・・・!」
亞莎がクナイで弾き、詠が首を斬ろうとするが・・・一人、フリーになってしまった。
「詠っ!」
「・・・!」
PoHがそのダガー・・・友切包丁を詠に振り下ろす。詠はソードスキルを発動させるが・・・
ガキャアアン!
「っ!」
詠が打ち負け、隙が出来る。PoHは笑い、今度は返すように振り上げる。
ズバァ!
「・・・ぐっ・・・!」
詠は咄嗟に左手を出し・・・その腕が飛ばされた。詠はバックステップで下がり・・・
ドスッ
「う、あ・・・」
注意がそれたタイミングで・・・亞莎の身体をエストックが貫いていた。
「・・・は、ぁっ!」
蹴り飛ばし、亞莎はヨルコさん達を庇うように前に経つ。
「詠ッ!」
俺は詠に駆け寄る。
「・・・ごめん、咲。油断したわ・・・」
「それよりもHPは!?」
「平気。まだ七割あるから。・・・腕も利き手じゃなくて助かったわ」
部位欠損。ようは攻撃が深く入るとその部位が数分間使えなくなる。
「亞莎!平気か!」
「・・・はい。問題はありません」
だが二人とも顔をしかめている。軍師である二人が一手取られたのは余程の屈辱だろう。
「さて・・・イッツ・ショウ・タイムと行くか」
「・・・上等!」
方天画戟を構える。
『咲さん、状況は悪いッス。シュミットさんの麻痺を解いて何とか・・・』
「(結晶を使う余裕がないんだよ。それに・・・)」
俺はPoHを睨み付ける。
「・・・詠を斬ったアイツだけは逃がさねぇ。ぶっ殺してやる」
「・・・ボクの事で冷静さを失わないで、咲。今はこの場を切り抜けないと・・・え?」
その時だった。何かが聞こえてきて・・・段々音が大きくなる。
「これは・・・?」
この音は・・・!・・・馬が走ってきて、嘶く。その拍子に・・・
「いてっ!」
・・・乗馬していた男が尻から落ちた。
「ギリギリセーフかな。タクシー代はDDAの経費にしてくれよな」
「キリト・・・!?」
「まったく、アスナが心配してたぞ?こんなところに向かってるって知ってから落ち着きがなくなるし・・・」
「・・・うるせぇ」
「・・・ようPoH、久し振りだな。まだその趣味悪い格好してんのか」
「貴様に言われたくねぇな」
「・・・キリト、状況は解ってるよな?」
「ああ。もう少し待てば増援が来る。いくらアンタらでも、攻略組三十人を三人で相手できると思ってるのか?」
「・・・Suck」
そうPoHは呟き、後ろに下がる。すると緊張が解けたのかヨルコさんとカインズさんが膝をつく。
「・・・《黒の剣士》そして《漆黒》。貴様らだけは、いつか必ず地面に這わせてやる。大事なお仲間の血の海でごろごろ転げてやるから、期待しといてくれよ」
「・・・はっ、とっくに転がったさ。お前こそ、詠の腕の代金・・・高くつくぜ」
そう言ってラフコフは去っていくが・・・只一人、エストック使いのザザだけがコチラを見た。
「格好、つけやがって。次はオレが、馬でお前を、追い回してやるからな」
それにキリトが答える。
「・・・なら、頑張って練習しろよ。見た目ほど簡単じゃないぜ」
「(落馬したくせに・・・)」
そうしてラフコフが去った後、俺は詠に近づく。
「詠、平気か?ほら、飲んどけ」
俺は詠にハイポーションを渡す。
「・・・何が咲と肩を並べるよ・・・これじゃあただの足手まといじゃない・・・」
「詠は悪くない。・・・済まなかった。俺がもっと警戒していれば・・・」
『いいじゃないッスか。オイラ達は全員で一人前で』
「いきなりちょーし良いんだよ、オメーは」
「くす・・・ま、気を使ってくれたお礼は言っておくわ」
・・・そして、ヨルコさん達から色々話を聞く。
「・・・」
まず、キリトとアスナが最初に気付いたのは、メンバーの生存情報を知るために、シュミットにメンバーの名前を書いてもらった洋紙を見たときだった。カインズさんのスペルが間違っていたのだ。一文字だけならまだしも三文字も違っていたため、キリトは全てに気づいたらしい。そしてラフコフ・・・ないし殺人プレイヤーが来ると思ったのは更に犯人に気付いたからだ。ヨルコさんやカインズさんの手口は大体は推理通りで、防具の耐久値と転移結晶を利用した死亡演出の再現だ。そして・・・
「・・・グリムロックさんは、最初は気が進まないようでした。帰ってきたメッセージには、もう彼女を安らかに眠らせてあげたいって書いてありました。でも、僕らが一生懸命頼んだら、やっとあの二つ、いえ三つの武器を作ってくれたんです。届いたのは、僕じゃないカインズさんの死亡日時のほんの三日前でした」
そう、カインズさんは全ての条件を揃えて別のカインズさんの死亡時刻に合わせたのだ。最初からグリムロックさんを犯人じゃないと考えた二人は、グリムロックさんを犯人と思うように俺達のミスリードを誘った。・・・実際にシュミットはあくまで大金を得たいが為にリーダーさん・・・グリセルダさんと言うらしい。グリセルダさんの寝床に回廊結晶のマーキングをしただけだ。
「・・・残念だけど、グリムロックがアンタ達の計画に反対したのは、グリセルダさんの為じゃないよ。《圏内PK》なんていう派手な事件を演出し、大勢の注目を集めれば、いずれ誰かが気づいてしまうと思ったんだ。結婚によるストレージ共通化が、離婚ではなく死別で解消されたとき・・・アイテムがどうなるか」
「え・・・?」
「・・・簡単に言えば、普通に殺しても指輪は手に入らない。何故ならストレージアイテムは全てグリムロックさん・・・いや、グリムロックに転送されるからだ。シュミット、多額の金を受け取ったんだろ?」
シュミットは頷く。
「そんな金を用意するには指輪を売却しないといけない。つまり、金を手に入れられたのは・・・」
「じゃあ・・・グリムロックが・・・?あいつが、メモの差出人・・・そしてグリセルダを圏外に運び出して殺した実行犯だったのか・・・?」
「・・・多分直接じゃなく、レッドプレイヤーに依頼したんだろうな。・・・腐った野郎だ」
更に聞けばグリムロックには予め計画を話していたらしい。だからこそ、このチャンスを利用した。ラフコフにDDAの幹部がいると情報を流せば、きっと食らい付く。
「・・・グリムロックが何でそんなことをしたかは分からない・・・」
「だから、本人に聞こう」
その言葉には俺も驚いた。すると・・・更に人影が二人やって来た。
「アスナ!?」
「サキ!・・・よかった。無事だったんだね」
「あ、うん・・・ごめん」
取りあえず目についたのはもう一人。長身の男性だ。革製の服に唾の広い帽子、更に眼鏡とよく人相が分からない。
「やあ・・・久しぶりだね、皆」
「グリムロック・・・さん。あなたは・・・あなたは本当に・・・」
ヨルコさんが聞くが・・・
「・・・誤解だ。私はただ、事の顛末を見届ける責任があろうと思ってこの場所に向かっていただけだよ。そこのお姉さんの脅迫に従ったのも、誤解を正したかったからだ」
・・・ここで否定するか。するとアスナが鋭く反駁した。
「嘘だわ!あなた、ブッシュの中で隠蔽してたじゃない。わたしに看破されなければ動く気もなかったはずよ!」
「仕方がないでしょう。私はしがない鍛冶屋だよ。このとおり丸腰なのに、あの恐ろしいオレンジたちの前に飛び出していけなかったからと言って責められねばならないのかな?」
・・・なるほどね。まあ筋は通ってるな。俺はキリトに目配せする。
「・・・初めましてだな、グリムロック。俺はサキ、こっちはキリト。・・・確かに百歩譲ってそれを信じても・・・指輪事件には必ずあんたが関わる・・・いや主導した筈だ」
「・・・何故かな?」
それにキリトが答える。
「何故ならグリセルダさんを殺したのが誰であれ、指輪は彼女とストレージを共有していたあんたの手元に絶対に残ったはずだからだ。それを明らかにせず、指輪を換金してシュミットに半額を渡した。・・・これは犯人にしか取り得ない行動だ」
「それなのにアンタは圏内事件に関わった。つまり目的は・・・過去を闇に葬ることにしかならない。違うか?」
「なるほど、面白い推理だね、探偵君。・・・でも、残念ながら、一つだけ穴がある」
「なに?」
「確かに、当時私とグリセルダのストレージは共有化されていた。だから、彼女が殺された時、ストレージに存在していたアイテムは私の手元に残った・・・という推理は正しい。しかし」
鋭い視線をこちらに向け、グリムロックは続ける。
「もしあの指輪がストレージに格納されていなかったとしたら?つまり、オブジェクト化され、グリセルダの指に装備されていたとしたら・・・」
「あっ・・・」
アスナが声を漏らす。
「・・・くっ」
俺も同じだ。穴に気づいてはいたが・・・さすがに勢いで白状してはくれないか・・・
「では、私はこれで失礼させてもらう。グリセルダ殺害の首謀者が見つからなかったのは残念だが・・・シュミット君の懺悔だけでも、いっとき彼女の魂を安らげてくれるだろう」
「待ってください・・・いえ、待ちなさい、グリムロック」
去ろうとするグリムロックを止めたのは・・・ヨルコさんだった。そしてここで新たに情報が入った。ギルドで会議した時、みんなはリーダーに装備するよう進めたらしいが・・・
「それに対して、リーダーがなんて答えたか、私は今でも一字一句思い出せるわ。あの人は笑いながらこう言ったのよ。ーーーSAOでは、指輪アイテムは片手に一つずつしか装備できない。右手のギルドリーダーの印章。そして・・・左手の結婚指輪は外せないから、私には使えない。いい?あの人がこっそり指輪を試すなんてことをする筈がないのよ!」
・・・俺は指輪に目を落とす。そうだ・・・片手に一つだけ・・・そしてグリムロックは証拠がないと言い張るが、ヨルコさんは墓の前の泥を掻き分け・・・何かを取り出した。
「あっ・・・“永久保存トリンケット”・・・」
アスナが呟く。永久保存トリンケットとは、耐久値無限のアイテムだ。だが大きくても十センチ四方なのが限界だ。だがアクセサリーなら・・・幾つか入る。
「これは、リーダーがいつも右手の中指に装備してた、黄金林檎の印章。そしてこれは・・・彼女が何時だって左手の指輪に嵌めてた、あなたとの結婚指輪よ、グリムロック!」
その指輪が存在しているということは・・・グリセルダさんは指輪を装備しながら殺されたことになる。ヨルコさんは涙を溢しながら指輪を突き付ける。
「その指輪・・・たしか葬式の日、君は私に聞いたね、ヨルコ。グリセルダね結婚指輪を持っていたいか、と。そして私は剣と同じく消えるに任せてくれと答えた。あの時・・・欲しいと言ってさえいれば・・・」
グリムロックはその場に膝をついた。完全に泣き崩れてしまったヨルコさんに代わって俺がいう。
「何でだグリムロック。妻を殺してまで・・・金が欲しかったのか」
「・・・金、金だって?」
するとグリムロックは革袋を取り出し・・・それを投げる。
「これは、あの指輪を処分した金の半額だ。金貨一枚だって減っちゃいない」
そして話し始める。
「グリムロック、グリセルダ・・・頭の音が同じなのは偶然ではない。私と彼女は、SAO以前にプレイしたネットゲームでも常に同じ名前を使っていた。そしてシステム的に可能ならば、必ず夫婦だった。何故なら・・・何故なら、彼女は現実世界でも私の妻だったからだ」
その言葉に全員が驚愕した。
「私にとっては一切の不満もない理想的な妻だった。夫唱婦隋という言葉は彼女のためにあったとすら思えるほど、可愛らしく、従順で、ただ一度の夫婦喧嘩すらもしたことがなかった。だが・・・共にこの世界に囚われたのち・・・彼女は変わってしまった・・・」
俺は拳を握り締める。何を言う気だ・・・
「強要されたデスゲームに怯え・・・恐れ、怯んだのは私だけだった。全てにおいてグリセルダ・・・いや、“ユウコ”は私を大きく上回っていた。そして私の反対を押しきり、ギルドを結成し、鍛え始めた。彼女は遥かに生き生きとし・・・充実した様子で・・・その様子を見ながら、私は認めざるを得なかった。私の愛したユウコは消えてしまったのだと。たとえゲームがクリアされ、現実世界に戻れる日が来ても、大人しく従順なユウコは永遠に戻ってこないのだと」
「な・・・」
一体・・・何を言ってるんだコイツは・・・!?
「・・・私の畏れが、君達に理解できるかな?もし現実世界に戻った時・・・ユウコに離婚を切り出されでもしたら・・・そんな屈辱に、私は耐えることができない。ならば・・・ならばいっそ、まだ私が彼女の夫であるあいだに。そして合法殺人が可能な、この世界にいる間に。ユウコを、永遠の思いでのなかに封じてしまいたいと願った私を・・・誰が責められるだろう・・・?」
俺は・・・何かが限界に達した。
「屈辱・・・?ふざけるな・・・ふざけるなよ・・・!変わったから・・・自分の理想じゃなくなったから殺した・・・?お前・・・お前ぇぇぇぇっ!!!」
方天画戟を握りしめ、走り出す・・・
「ダメ、咲!」
「いけません!」
・・・前に詠と亞莎が俺を止める。
「離せ!コイツは・・・この屑野郎はぁ・・・!!」
『咲さん、駄目ッス!』
「・・・そんな理由で大切な人を・・・グリセルダさんは・・・皆を助けようと強くなった筈なのに・・・それなのに・・・!」
俺はその場にしゃがみこんでしまう。
「そんな理由?違うな、充分すぎる理由だ。君にもいつか分かる、探偵君。愛情を手に入れ・・・それが失われようとしたときにね・・・」
「・・・!」
今度こそ我を忘れそうになった時・・・
「いいえ、間違っているのはあなたよ、グリムロックさん」
・・・アスナの言葉で踏み止まった。
「あなたがグリセルダさんに抱いていたのは愛情じゃない。ただの所有欲だわ。まだ愛してるというのなら、その手袋を脱いでみせなさい。グリセルダさんが殺されるその時まで決して外そうとしなかった指輪を、あなたはもう捨ててしまったのでしょう」
その言葉でグリムロックは沈黙する。・・・結局グリムロックの事は身内で判断することになり、元黄金林檎のメンバーは去っていく。
「咲・・・大丈夫?」
「ああ・・・はは。さっきは俺が心配してたのに・・・」
キリトとアスナは何かを話しているようだが・・・正直耳に入ってこない。
「・・・咲は、ボクや恋が変わったら・・・どう思う?」
「それ、聞くか?第一、とっくに変わったのを見ただろ?神託の盾騎士団所属のエイを、な」
「あ・・・」
「それで俺が詠を捨てたか?嫌ったか?・・・言っとくけど一度好きになったら何があっても愛せるさ。・・・だろ?」
「・・・本当に、ボク達に舞い降りた御遣いが咲でよかったわ」
「・・・亮さんは、どう思うのでしょうか」
「同じだよ。亮の奴だってな・・・闇を持った亞莎もちゃんと受け入れたろ?」
「あ・・・」
『咲さん自身も変わってきてるッス』
「あはは・・・そう言うリパルもな」
『ッス!』
俺は立ち上がり、前を見て・・・固まった。既に夜明けで日が上り、その光の中に・・・綺麗な女性が立っていた。それはこちらを見て微笑み・・・瞬きをした瞬間、いなくなった。
「咲さん・・・今のは・・・」
キリトとアスナが固まっているのを見ると、二人も見えていたのがわかる。
「・・・グリセルダさん。あなたは・・・恨んで、ないんですね・・・」
あの顔に・・・負の表情は感じられなかった。きっとグリセルダさんは、グリムロックを・・・
「・・・せめて、この世界から解放してみせます。だから・・・」
俺は振り返り、歩き出す。後味の悪さは多少残ったものの・・・それでもこの事件は幕を閉じた。・・・ただ、帰ってからアスナに先行したことを数時間説教され、亞莎や詠との関係をキリトに聞かれたり(詠とはフレンドで通し、亞莎は亮の紹介で知り合ったことにした)・・・色々大変だったな・・・あはは・・・
後書き
亮
「1日遅れのハッピーニューイヤー!」
咲
「おっせー・・・」
亮
「作者に言えよ・・・」
咲
「ったく・・・ついでに圏内事件も解決だな」
亮
「作者が知恵熱出したしな・・・」
咲
「うわ・・・んで、次回も俺の出番だな!」
亮
「また・・・また出番ないのか・・・?」←MORE看板
咲
「・・・結局受け取ったのか」
亮
「シリカには・・・勝てなかった・・・」
咲
「はは・・・えと、今年もよろしく!」
亮
「よいお年をー、ですね」
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