Fate/WizarDragonknight
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”果てなき希望”
赤い騎士。自分のサーヴァントは、そういう印象だった。
炎のように赤いスーツの上に、銀の鎧。中世の騎士を連想させる鉄仮面。腰には、銀に光るベルト、左手には赤い龍の顔を模したガントレットが付いている。
サーヴァントはじっとハルトを見つめていた。
燃え盛る炎の中、サーヴァントは尋ねた。
「なあ。お前が俺のマスターか?」
「……ああ」
言わば、炎で作られた結界。ハルトとサーヴァントの他には、他に誰もいない隔絶された世界。
どっと汗が吹き出る暑さの中、全身を装甲で覆った騎士はゆっくりと歩み寄る。
「サーヴァント。ライダーだ。マスターってことは、俺はアンタに従うってことでいいんだよな?」
「そう……なるかな」
「お前は、なんで戦っているんだ?」
近くになるほど、ハルトは彼の熱さに圧倒される。
だが、ハルトはしっかりと応えた。
「俺は、人を守るために魔法使いになった」
今は力を失った、ルビーの指輪。握りこぶしに示すそれを、サーヴァントに指し示す。
「悪いけど、聖杯戦争なんて俺にはどうでもいい。叶えたい願いなんてない。ただ、誰かを守れる力として、俺はアンタを呼んだ」
ハルトは、深呼吸する。炎で燃えた空気が、肺を焼き焦がす。息苦しさに咳き込みそうになりながら、言った。
「アンタがもしも、自分の願いがあって、聖杯にそれを頼るんなら、俺は令呪を使ってこの場を何とかしてもらった後、残りの令呪も全部使う。そうすれば、アンタは自由だ。聖杯でも何でも勝手に求めればいい。聖杯戦争を止めようとする俺とは、敵対関係になるけど」
初対面へ随分な物言いだと、自分でも分かっていた。だが、ハルトは自分でも止められなかった。
「もし……もしも……もしも、アンタが俺に協力してくれるなら……この戦いを止めるために動いてくれるなら……」
息苦しさに、慟哭する。言葉一つ言うのにも重い肺をさらに苦しめた。胸を抑えながら、声を絞り出す。
「頼む! 俺に……力を貸してくれ!」
体に力すら入らない。それでも、ハルトは冀った。
しばらく、炎の沈黙。コツコツ、とライダーの足音がした。
「……」
ライダーの鉄仮面が、すぐ目前に迫る。
仮面に遮られ、果たして彼がどんな表情をしているのかは分からない。ただ一つ、確かなことは。
彼が拳を振り上げたことだった。
「っ!」
攻撃。だが、受け身を取る前に、その拳がハルトに届く。
だが、それに痛みはなかった・。
ライダーの右手が、ハルトの胸を小突く。
「……え?」
思わず攻撃だと思ったそれに、ハルトは戸惑った。
ライダーは、そのまま両手を自身の腰に回す。
「良かった。アンタがそういう奴で」
「え?」
「もしアンタが、聖杯戦争に乗り気なら、俺は体張ってでも止める気だったからさ」
それを聞いたハルトは、どっと力が抜けた。立つのもままならなくなり、ふらふらとした足取りになる。
それを抑えたのが、ライダーの手だった。
「良かった。願いのために戦う奴じゃなくて」
「ライダー……」
ライダーはそのままハルトを立たせ、手を差し伸べる。
不思議とその瞬間から、ハルトは息苦しさを感じなくなっていた。
「一緒に、この聖杯戦争を止めようぜ。マスター」
「……ああ!」
ハルトは、力強く握り返す。息苦しい体内を、赤い希望が満たしていった。
そして、炎がかき消されていった。
伏せた顔を上げると、そこには、何一つ変わらない赤黒の空間が広がっていた。相変わらず不気味な闇が中学校を埋め尽くしており、『9』の文字が額に乗ったゾンビがいる。
否。空間には、変化が二つある。
一つ。赤い騎士、ライダー。
そしてもう一つ。
ライダーの周囲を旋回する、巨大なる赤い龍。
「な、なんじゃありゃあああああああああ⁉」
思わず上げてしまった大声。だが、それ以上の大音量である龍の咆哮にかき消されてしまった。
唖然とするハルトの肩を、ライダーがポンポンと叩く。
「俺は龍騎。仮面ライダー龍騎。真名は城戸真司。アンタは?」
「松菜ハルト。今は使えないけど、魔法使いだ」
「へえ、魔法使いか。すげえな」
ライダー、龍騎はそう言って、ハルトの背中を押す。
「さあ。急いでんだろ? ハルト。ここは俺に任せてくれ」
「ああ! まどかちゃん! ほむらちゃん! ここから離れよう!」
ハルトは、まどかたちのもとへ急ぐ。崩れそうなほむらを支え、奥の通路を指差した。
「ここは危険だから、移動しよう」
「あの人は?」
まどかが龍騎を警戒の眼差しで見つめる。
ハルトはまどかの反対側でほむらに肩を貸しながら、
「俺のサーヴァント、だって。よくわからないけど、味方みたいだから! それより、早く行こう!」
ハルトは先へ促す。まどかも迷い気に頷きながら、ほむらを引きずっていった。
だが、ハルトとまどかに体を預けているほむらは、じっと龍騎を睨んでいた。
「松菜ハルト。貴方のサーヴァントは……?」
「よくわからないけど、ライダーってサーヴァント。龍騎って名前だよ」
「龍騎……? 本名じゃないわね」
「何でもいい。今は、俺も君も戦えないんだ。サーヴァントに任せるしかない。頼んだよ!」
ハルトはそう言い残した。
「っしゃあ!」
去り際で、龍騎が口元で拳を作り、気合を入れるのが見えた。
そしてキュウべえは、どこにもいなくなっていた。
龍の影を纏う騎士、龍騎は、そのベルトに手を当てる。龍の頭のエンブレムが描かれたバックルの端にある口を引くと、そこから青の裏地のカードが引かれた。
それを、左手の龍の籠手に装填、そのカバーを閉じる。すると、龍の目部分の発光と時同じく、そこから電子音が流れた。
『ソードベント』
『_______』
赤い龍、無双龍ドラグレッダーが吠える。龍騎が手を伸ばすと、その手に、ドラグレッダーの尾を模した剣が収まった。
赤い柄の柳葉刀、ドラグセイバー。鋼鉄をもやすやすと斬れるそれを構え、龍騎は走り出す。
『9』はそれに対して銃弾を浴びせる。見る景色全てが銃弾で埋まる量だが、龍騎はそのうち、自分にダメージを与えそうなものだけを斬り落としていく。
「だあっ!」
龍騎のジャンプが、一気に『9』との距離を詰める。
そんまま『9』の体を二度斬り裂き、蹴り飛ばす。
ゾンビだというのに、怒りの表情をにじませる『9』。
彼女は懐から深緑の何かを龍騎へ放った。パイナップルのような凸凹を表面に刻んだそれが手榴弾だと理解したのは、これまでのジャーナリスト経験の賜物だろうか。
龍騎はバックステップと同時に、ドラグセイバーを投影。ブーメランのように回転しながら手榴弾に炸裂。大爆発を引き起こした。
龍騎、『9』のもとまで届く大爆発。その中で龍騎は、二枚目のカードを引く。無双龍のイラストが描かれたそれをガントレット、ドラグバイザーに入れる。
『アドベント』
『_______』
無機質な電子音に続く、ドラグレッダーの轟音。赤い龍はその巨大な胴体で滑空、その口より炎を吐き、『9』の動きを封じる。そして、体当たりで『9』を弾き飛ばした。
そのまま、地面に転がった『9』を見据えながら、もう一枚のカードを取り出す。
バックルの物と同じ、龍の顔が描かれたカード。赤い背景に、たった一つ、そのエンブレムだけがあるそれは、シンプルながら、最も力強いオーラを放っていた。
それをドラグバイザーに入れる。そして、
龍騎がサーヴァントになる前、無数の命と、戦いと向かい合うためのもの。
自分だけが、悪夢を変えるための力。
『ファイナルベント』
『__________________!』
吠えるドラグレッダーが、龍騎の周囲を旋回し始める。
終わりのない戦いを、決して恐れはしないという覚悟の象徴。
同時に両手を突き出し、大きく回転させる。それは、ドラグレッダーという赤い龍へ捧げる舞であった。
「はあああ……」
龍騎は腰を低くする。その体内に力を溜め、それこそが龍騎の必殺技への布石だった。
「だあっ!」
両足をそろえ、大きくジャンプ。ドラグレッダーも龍騎を追いかけるように、天へ昇る。赤い無双龍は、そのまま龍騎の体を中心に渦を巻く。その中で、体をひねりながら、龍騎は飛び蹴りの体勢に入る。そして、その背後には、大きく口を開けるドラグレッダーがいた。
「だあああああああああ!」
ドラグレッダーから吐き出される炎が、龍騎の背中を押す。それが龍騎の体を強く押し、そのまま『9』へと突き進む。
炎の弾丸となった龍騎は、そのまま『9』を貫くミサイルとなった。地面を何度も跳ねながら、『9』はその勢いによって両足で自立する。
しかし、彼女はすでに白目だった。三百トンの攻撃力と、大きな火力は、すでにゾンビの息の根を止めていた。
そして、彼女が倒れる寸前に起こる、大爆発。龍騎のもとまで飛んでくるその爆発へ、ドラグレッダーが勝利の雄叫びを上げた。
「……」
ゾンビを倒した。そう理解した龍騎は、ベルトのエンブレムを外す。鏡が割れるように龍騎の体は粉々に砕け、その中からは青いダウンジャケットの青年がいた。
彼は、静かにハルトが走って行った先を見つめる。
「頑張れよ。マスター。……ハルト」
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