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曇天に哭く修羅

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第三部
  主義主張 7

 
前書き
_〆(。。) 

 
黒髪のツインテールを揺らしながら《佐々木凜音》が瞬崩へ駆け寄る。


「何、で……泣く?」

「……おにいちゃんは何時もわたしを守ってくれた。貧乏を理由にいじめる人からも暴力を振るうお父さんからも……。わたしはそんなおにいちゃんが好き!」


昔の瞬崩は無力だった。

それに弱々しかった。

格好のいじめ相手。

確かに辛かったことは間違いないのだが、耐えられない程でもなかったのだ。


(でも凜音へのいじめは嫌だったな)


止めさせる為にいじめをしている奴に立ち向かってぼこぼこにされる。

だが凜音を助けることは叶う。

珍しく自分を褒めてやれる程に誇らしかったのに瞬崩は忘れていたらしい。


「ああ……。あんな良いことまで記憶から消し去ってしまっていたのか……。ごめん凜音。もう一度だけ妹だと思わせてくれないか……?」

「まだ戦うの?」

「母さんに見せたいからね。強くなったのを」


凜音は瞬崩の想いを受け入れて《黒鋼焔》と共にスタジアムの壁まで下がる。

二人は和解できたようだ。


「待たせたな。立華紫闇」


瞬崩は槍の柄を肩に担ぎ腰を落とす。


「疾きこと風の如く」


今の瞬崩は限界を超えている。

痛みさえ感じない。

体を強引に動かし槍を振った。

概念を溶かす【融解】を付与された血液の隙間を縫うように突いていく。

しかし紫闇は避けてしまう。


(くそっ……重い……!)


何時も何気なく持っている槍も自分の体も違う何かのように感じる。

体温感知で先読み出来ていても紫闇の動きに着いていくことが出来ない。


「負けないで! おにいちゃんっ!」



凜音の声に力が漲る。


「負け、ない。ぼくは負けないよ……!」


何十発と食らいながら紫闇に一発を返す。


(限界なんか無い。自分で決めるものだ。何処までも進める。目の前の壁を壊して)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


雄叫びを挙げる瞬崩の中で何かが起きる。

今までの自分という殻を破って新しい自分が出てくる脱皮とでも言えば良いのか。


(再誕という表現が正しいのかな)


通常は白銀色をしている魔術師の魔晄防壁が黄金色へと変化していく。

蒼穹色をした槍の柄は全体に金色の模様が浮かび上がり、炎のような赤い光が巻き付いた。

まるで赤い龍のよう。

そして全身からは青い炎。

瞬崩はこの炎がどういうものなのかを直ぐに理解することが出来た。

試合で負ったダメージが瞬く間に癒えて新調されたような体になる。


「お前は完全になった。物足りなさなんか微塵も感じられない。お前という闘技者は更なる高みに至った到達者になったんだろう」

「どうやらそうみたいだね。ぼくが限界を超えられたのは立華(きみ)のお陰だけど」


瞬崩は観客席を見渡す。


(師匠。今のぼくは間違ってますか?)


もしかしたら破門されるかもしれない。

彼はそれでも良いと思った。

流永(りゅうえい)の教えを破ったのだ。

これからも(そむ)き続ける。


(貴方はぼくにとって本物の祖父と思えた。厳しくて怖かったのは間違いない。けど、それでも優しい人。叶うなら貴方もぼくのように取り戻してほしい)


強くなれたのは流永のおかげ。

瞬崩は彼への恩を忘れることは無い。

だが名は捨てる。

今の瞬崩に《九月院瞬崩》という孤独な闘技者でいることは出来ないししたくない。


「今まで、お世話になりました……」


瞬崩はかつて捨てた名を取り戻す。


「侵掠すること火の如く」


槍を前へ突き出すような構え。

獲物を狙う獣のように低い姿勢。

更に【反逆者の灼炎(レッド・リベリオン)

赤と青の炎を身に纏う。


「天地崩穿流ッ! 《佐々木青獅/ささきあおし》……ッッ!! 参るッッッ!!!」


【夏期龍帝祭】一回戦以来からの因縁。

真の再戦はここから始まる。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 
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