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Fate/WizarDragonknight

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“ホシトハナ”

『うぷぷ』

 教会に、そんな声が響く。
 テクテクと教会に入ってきたのは、モノクマだった。
 上機嫌な様子の彼は、高笑いしながら、教会の祭壇に登る。

『上機嫌だね。モノクマ』

 キュウべえは、そんな彼を無表情な瞳で見つめる。
 モノクマはペタンと祭壇の上に腰を置いた。

『うぷぷ。そりゃ、上機嫌にもなるよ。ボクの見込んだマスター、知ってるでしょ?』
『我妻由乃のことかい?』
『うぷぷ。面白いことになってるよ』

 モノクマはいつも通り、両手で口を抑えながら笑う。

『ジャッジャーン! 見てよコレ!』

 どこから調達してきたのか、モノクマはキュウべえにスマートフォンを見せつける。ニュースサイトにて、見滝原中学校の怪奇現象の記事が出ていた。

『コレ、我妻由乃がやっているんだよ! 凄くない? 学校一つまるまる結界で覆うなんて』
『我妻由乃は確か、偶発的な魔術師だったよね。本人も知らない、ほんのわずかな魔力しかもっていなかったはずだ。ウィザードの言葉を借りれば、ただのゲートという存在でしかないのに、これほどの魔力を絞り出すとは驚きだ』
『むふふ。キュウべえ君。キュウべえ君。驚きだっていうんだったら、もう少しそれを顔にだしてくれてもいいんじゃない?』

 モノクマはぐいっと顔を近づける。黒いボディの赤目が妖しく光ったが、感情のないキュウべえには、何も感じることはなかった。
 しばらくモノクマの赤い眼を観察していると、不意に彼はキュウべえから離れた。

『ところで、コエムシはどこだい?』
『さあ? また新しい処刑人でも探しているんじゃない?』
『ふうん。コエムシも結構物好きだよね~。別世界の死人に生き返り条件で処刑人なんてさ』
『まあ、誰が何をしようが僕は構わないよ。聖杯戦争が進んでくれれば』

 キュウべえは、モノクマを置いて廊下に降りる。
 だが、モノクマはそんなキュウべえに背後から声をかけた。

『君、コエムシを放っておいていいの?』
『どうしてだい?』
『もしアイツが連れてきた処刑人にマスターが全滅されたら、どうするの? 聖杯戦争の定義が壊れちゃう~』

 モノクマは、わざとらしく全身をクネクネと揺らす。人間ならば気持ち悪いという反応を示すそれを眺めながら、キュウべえは声色一つ動かさずに答えた。

『それ程度で潰れるなら構わないさ。聖杯戦争の勝者はその処刑人でも問題ない』
『ふうん……キュウべえは、自分が選んだマスターに特に愛着ないんだね』
『愛着?』

 その非科学的な言葉に、キュウべえは首を傾げた。

『それは、よく人間が抱く、所有物への愛情のことかい?』
『そうだよ。折角選んだマスターなんだから。少しは勝ってほしいな、とか。死んでほしくないなあ、とか。思わない?』
『ないね』

 キュウべえはきっぱりと答えた。

『愛情だとか、特定の物への気持ちとかは、非効率的じゃないか。使えないものを切り捨てたほうが、何倍も効率がいいのに。そんなもの、全く理解できないよ』
『あらら。随分とドライなんだね』

 キュウべえはモノクマの言葉にそれ以上耳を貸さず、そのまま立ち去っていった。

『そうだよ。モノクマもコエムシも、それぞれ何かに固執しすぎてるよ。僕たちには必要のない、感情なんだから』




 『4』。
 そろそろ人型の怪物も嫌になってきたころ、可奈美の前に現れた額の数字がそれだった。
 ドレッドヘアのような成人男性のゾンビ『4th』が、こちらに銃で発砲している。
 可奈美は千鳥でそれらを撃ち落とすも、そこからアカメの斬撃までケアしなければならない。

「こんなの、私でないと誰も防げない……!」

 アカメの村雨を受け止め、体を彼女にタックルさせることで、『4th』の銃弾を避ける。アカメと落下して、落ちたフロアに『4th』がいたのが可奈美の運の尽きだった。ただひたすらに侵入者を排除しようとする『4th』と、令呪により、可奈美の殺害のみを狙うアカメの二体一の状況が続いていた。

「アカメちゃん!」
「お前もマスターなら分かるだろう?」

 何度も剣を交えながら、アカメは語った。

「私たちサーヴァントは、令呪を使った命令には逆らえない。私の体は、常にお前を最も効率的に追い詰める算段を組んだ上で攻撃している」

 アカメの言葉を証明するように、彼女の腕は、可奈美の対応が比較的遅いところを明確に攻めてくる。
 受け止め、躱した可奈美は、アカメより距離を取る。すると、その地点に『4th』が銃弾を叩きこんでくる。

「アカメちゃん!」
「今までと同じだ」

 アカメは、村雨の刃で目線を隠した。彼女の視線が、村雨の銀を見つめている形となり、彼女がどんな表情なのかが分からなくなる。

「命令により、ただ殺す。昔も、仲間たちと出会った後も、死んでサーヴァントになった後も。前は、皆のために、平和のためにと思ったが、今は何も思えない……」

 彼女の言葉に、可奈美は口を一文字に固めていた。
 『4th』の銃声が止むことはなかったが、それは全て、体を前後に揺らすことで無力化できた。

「……私の剣とアカメちゃんの剣は違う。それは分かってる」

 可奈美は、静かに語る。

「私は、ただ……相手と対話するための剣。アカメちゃんのは、相手を殺すための剣。その違いは分かってる」

 鍔迫り合いになり、彼女の刀に、自分の顔が映る。自らの眼差しがアカメの片目を塗り潰した。

「でも、だからこそ! アカメちゃんに、伝えたいことだってある!」
「伝えたいこと……?」
「私は、アカメちゃんのこと、剣でしか知らない。アカメちゃんのこと、何も知らない私でも、これだけははっきり言える!」
「何だと……?」
「それはっ!」
「……っ!」

 可奈美がそれを言おうとしたとき、アカメは頭を抑え始めた。うめき声を上げながら、村雨を振り回す。千鳥で受け流し、バックステップで距離を取る。

「アカメちゃん!」
「寄るな!」

 駆け寄ろうとする可奈美に、アカメは村雨の刃を振るう。

「マスターか……うっ……」

 アカメが顔に汗をびっしょりと流しながら、歯を食いしばっている。
 やがて彼女は、何かにとりつかれたかのように可奈美に背を向け、飛び去った。

「待って! アカメちゃん!」

 彼女を追いかけようとするが、その前に『4th』が立ち塞がる。

「どいて!」

 可奈美は千鳥で斬り裂こうとするが、『4th』はいつ手にしたのか、警棒らしきもので千鳥を食い止めた。
 さらに、警棒の反撃で、可奈美は後退を余儀なくされた。

「こんな……っ! ここで足止めされている時間はないのに……!」

 銃と警棒。遠近両方に対応した戦い方に、可奈美は攻めあぐねていた。普段ならばじっくりと彼の攻撃パターンを観察していたいのだが、アカメが気になり、それどころではない。

「っ!」

 警棒が黒い軌道を描く。写シがすでに体の防壁という役割を擦り切らしており、可奈美の頬に、赤い傷跡が出来ていた。
 傷を撫でながら、可奈美はアカメが去った通路を見やる。怪物の体内のような空間に、一か所だけ空いた穴。常闇の先に足を向けるも、『4th』は決してそれを許さない。

「どうすればいいの……? どうすれば……!」

 焦りだけが募っていく。千鳥を握る手が滑っていく。
 その時。

『サーヴァントを呼べばいい』

 淡々とした声がした。声ではなく、脳裏に直接響くそれは、可奈美にも覚えのあるものだった。
 神出鬼没の妖精。可愛らしい感情を呼び起こす外観と、感情のない表情。キュウべえがそこにいた。

「キュウべえ……」
『助けがいるのだろう? なら、サーヴァントを呼べばいい』
「それは……」
『君もマスターだ。聖杯戦争を進めるにしろ止めるにしろ。サーヴァントの存在は君には有益だと思うけど?』
「……私は……っ!」

 可奈美は、一度『4th』を蹴り飛ばす。

___サーヴァントを呼べば、聖杯戦争から逃げられなくなる。生き残ることと、姫和ちゃんを助けることがつながる___

 考えたことを振り払い、握った令呪の拳を突きあた

「お願い! 令呪を使うから! だから、この場をお願い!」

 可奈美には見えない、膨大な魔力の流れが発生する。
 そして。



「桜?」

『祝おう。衛藤可奈美。今、君のサーヴァントの誕生の時だ』


下層のフロア全体を包む、桜吹雪。
まるで春の森の中にいるかのような絶景に、可奈美は言葉を失った。
 だが、それは『4th』には絶好のチャンスでしかない。
 こちらへ向かってくる『4th』。
 写シもほとんど切れかかっている可奈美には防御手段などなく。

「勇者パンチ!」

 『4th』のみぞおちを、桃色の拳が穿った。

「……」

 その異変により、ようやく可奈美は自分の危機に気付いた。
 そして、現状。
 より遠くへ距離を引き離された『4th』と、殴った後の体勢の人物がいた。
 桃色のポニーテール。白とピンクの、セーラー服をベースにデザインされた服装。
 敵を、そして可奈美を真っ直ぐ見据える瞳は、
 可奈美の周囲を、白い牛と鬼が混じったような妖精が浮遊する。

「な、なにこれ⁉」

 思わぬサプライズに、可奈美はしりもちをつく。牛の妖精は、しばらく可奈美とにらめっこをした後、桃色の人物の傍らに滞空した。
 ようやくこちらを向いた、可奈美を救った人物。
 可奈美と同じくらいの年の少女は、咲き誇る花のような笑顔を浮かべた。

「初めまして! マスター! 私、セイヴァーのサーヴァント、結城友奈です!」
「セイヴァー……?」

 敬礼のポーズをする、友奈と名乗った少女に、可奈美は口が震えていた。
 だが、友奈の方は頷き、

「えっと、呼び出されて早速命令されちゃっているけど、どうすればいいの?」
「あ、ああ! そうだった!」

 友奈の言葉に、ようやく可奈美は我に返った。

「ねえ、えっと……セイヴァーって呼べばいい?」
「うん。あ、でも友奈でもいいよ?」
「じゃあ、友奈ちゃん! お願い、私、アカメちゃんを追いかけたい! ここ、任せていいかな?」

 すると、友奈はじっと可奈美の顔を見つめていた。

「それって、その人のため?」
「うん。このままじゃあの人、自分の剣を見失っちゃう! それは、絶対にあってはならないことだから!」
「……そう。分かったよ、マスター!」

 友奈は、『4th』から可奈美を守るように、可奈美の前に立つ。

「ここは私に任せて! マスター! 他の誰かのためになること! それが、勇者部だよ!」
「ゆ、勇者部?」

 素っ頓狂な固有名詞に可奈美は一瞬戸惑うが、すぐに平静を取り戻す。

「そう。じゃ、ここはお願いね!」

 そう言い残して、可奈美はアカメの後を追いかける。通路に出ようとしたとき、可奈美は足を止めた。

「あ! 友奈ちゃん!」
「何?」

 可奈美は手を振りながら、告げた。

「私、衛藤可奈美! マスターじゃなくて、名前で呼んで! 友奈ちゃん!」
「オッケー! 可奈美ちゃん!」

 友奈がサムズアップで返す。可奈美も親指を突き上げた後、迅位を用いて、アカメの後を追ったのだった。



「行くよ!」

 『4th』は、その場から動かず、拳銃の発砲で攻撃してくる。
 だが、それはこれまで戦ってきた、十二星座の敵と比べると、それほど脅威には感じなかった。左右に体を走らせ、銃弾の雨を避ける。
 そのままスライディングで、『4th』に接近。足を払う。

「せいやっ!」

 浮かんだ胴体を蹴り上げ、『4th』を宙へ浮かばせる。
 両足でがっしりと体を支え、右手を引く。するとそこに、桃色の光が宿りだしていった。

「もう一回! 勇者パーンチ!」

 『4th』へ真っすぐ飛ぶ友奈。そのまま、その腹に巨大な拳を叩きこんだ。
 命中と同時に、空を踊る花びらたち。爆発は炎ではなく、美しい桜吹雪だった。

「讃州中学二年! 勇者部! 結城友奈! 聖杯戦争だろうと何だろうと……みんなのために、勇者! 頑張ります!」

 桜吹雪に向かって、友奈は拳を突きあげた。 
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