レーヴァティン
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第百六十一話 新兵器その九
「飲むっちゃよ」
「そうだな、すき焼きの時とは違う酒だが」
「このお酒もっちゃな」
「飲んでだ」
そうしてというのだ。
「楽しむことだ」
「そうっちゃな」
「美味いものを食うとな」
「美味しいお酒が飲みたくなるっちゃ」
「そういうものだな」
「その通りっちゃ。うちは起きた時はビールやチューハイを飲むっちゃが」
それでもとだ、日本酒を飲みつつ言うのだった。
「日本酒もいいっちゃな」
「そうだな」
「清酒っちゃな」
「この浮島では清酒も普通だな」
「確か戦国時代までは濁酒だったっちゃ」
「そればかりだった」
「それでもっちゃな」
その清酒を飲みつつの言葉である。
「この浮島ではあるっちゃ」
「ならだ」
「清酒も飲むっちゃな」
「こうしてな、それでだが」
英雄は飲みつつさらに言った、勿論彼も清酒を飲んでいる。その味は彼にしても実にいいものである。
「酒も遠慮せずにだ」
「そのうえでっちゃな」
「飲むことだ、では飲んでいく」
「じゃあ飲むっちゃよ」
「このままな」
英雄はまた一杯飲んだ、そして。
伊勢海老も食べる、それでまた言うのだった。
「ここにも来てよかった」
「そうね、伊勢うどんに松坂牛のすき焼きに」
「伊勢海老とな」
「今日は随分楽しい思いをしているわね」
「こうしたこともいい、というかだ」
英雄は奈央に落ち着いた目で答えた、かなり飲んでいるがそれでもその目はまだ酔っているものではない。
「やるべきことを忘れていない限りな」
「楽しい思いもっていうのね」
「味わっていい筈だ、別に禁欲はだ」
これはというと。
「俺はするつもりはない」
「快楽追及主義でもないわね」
「楽しむことはするが」
それでもというのだ。
「しかしだ」
「それでもっていうのね」
「それを追い求めるつもりもなければだ」
「止めるつもりもないのね」
「楽しんでいるだけだ」
それに過ぎないというのだ。
「追い求めてはいない、溺れることもだ」
「しないのね」
「酒も女もな」
「そっちもなの」
「女は好きだ」
これまたはっきりと言い切った。
「そちらもな」
「女の子の私に言える位に」
「そうだ、事実だからな」
「その言葉はかなり引くわね、けれどなのね」
「別にお前達とは遊ばないからいいと思うが」
「それはね。けれど遊郭に行って」
「妻妾達とな」
その彼女達と、というのだ。
「楽しむ、しかしだ」
「追い求めないのね」
「そしてそれに溺れることもだ」
「しないのね」
「楽しみは楽しみでだ」
それに過ぎず、というのだ。
「追い求めそれに全てを賭けるなぞはな」
「しないのね」
「俺はそうしている、追い求めるものは別にある」
「それは何かしら」
「普通に生きることだ」
酒を飲み静かな顔で語った。
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