弥五郎
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第一章
弥五郎
岩川八幡神社の祭りに大きな人形が出て来る、この人形を大人弥五郎という。
この弥五郎について熊本城にある鎮守府の配置についた児玉源太郎陸軍少佐はこんなことを言った。
「一度観てみたいな」
「弥五郎どん自体をですか」
「うむ、折角ここに来たのだ」
こう自身の従兵に話した。
「それならな」
「これを機会にですか」
「左様、弥五郎どんといったな」
「名前は弥五郎ですが」
従兵は児玉に話した、まだ若いが英気に満ちて確かな顔立ちの彼に。
「どんとです」
「敬称を付けて呼ばれているな」
「はい、その弥五郎どんをですか」
「一度見る、いや会ってだ」
そうしてというのだ。
「そのうえでだ」
「どういった神様かですか」
「確かめないのう」
「妖怪ではないですよね」
従兵はここでこんなことも言った。
「弥五郎どんは」
「神社の祭りに出ているならな」
「神様ですか」
「妖怪ではない、妖怪を祀る神社もないな」
「はい」
従兵も言われるとそれはわかった。
「それは」
「だからだ」
「弥五郎どんは神様ですか」
「そうだ、この辺りの沼や川を作ったというな」
「そう言われていますね」
「ダイダラボッチみたいだな」
言い伝えにあるこの巨人の様だというのだ。
「どうもな」
「あの富士山や琵琶湖を作ったっていう」
「話は聞いているな」
「はい、私もしても」
若い従兵は児玉に答えた。
「子供の頃祖父ちゃん、いえ祖父に教えてもらいました」
「そのダイダラボッチの様だな」
「ダイダラボッチをここではそう呼ぶのでしょうか」
「それはわからないが」
それでもとだ、児玉は従兵に考える顔で答えた。
「一度暇な時に岩川に行くか」
「八幡神社に」
「そしてだ」
そのうえでというのだ。
「その弥五郎どんの話を聞くか」
「神主さんにですか」
「そうするか、それかな」
「それか?」
「弥五郎さん自身が出たらな」
その時はというのだ。
「直接話を聞くか」
「いや、流石に神様は」
「ははは、出たらだ」
その場合はとだ、児玉は従兵に笑って返した。
「その時はな」
「直接ですか」
「話を聞くか」
「あくまで出た場合ですか」
「そうだ、それでだが」
児玉は従兵にあらためて話した。
「薩摩、鹿児島の方はか」
「相変わらずです」
「士族達がだな」
「怪しい様です」
その動きがというのだ。
「どうやら」
「そうか、まさか西郷殿が関わるとはな」
「思えませんか」
「あの方はわかっておられる」
西郷隆盛、彼はというのだ。
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