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家を継ぐ理由

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第五章

「しかしな」
「お姉ちゃんのザッハトルテは」
「うちの店で売れる値段じゃない」
 とてもという口調での言葉だった。
「絶対にな」
「それこそお姉ちゃんが務めている様な」
「ああした最高級の店でないとな」
「出せないものね」
「これでわかったな、どうしてお店を継ぐのはお前だと言ったか」
「ええ、そういうことなの」
「あの娘はお金に構わずものを作る娘だからな」
 それでというのだ。
「こうしたお店ではやっていけない」
「天才でもなのね」
「天才だから余計にな」
「正直あの娘にあのお店は最高に合っているわ」
 母も桃香のことを言った。
「それで櫻良はね」
「うちのお店でなの」
「継いでくれることがね」
「合っているのね」
「正直櫻良の腕でも最高級のお店で働けるわ」
 それだけの腕はあるというのだ、櫻良にしても。
「普通にね。けれどね」
「お店継ぐとなると」
「あんただったの」
「お店の経営をしていかないとな」 
 どうしてもとだ、父は腕を組んで言った。
「だからだ」
「そういうことね」
「ああ、じゃあお前はやがてな」
「お店を継いで」
「いい人と結婚してな」
「その人とね」
「お店を続けていってくれ」
「わかったわ」
 櫻良は父の言葉に頷いた、そうしてだった。
 家の店で働いていった、そして桃香は。
 パリで働き続けていた、客達にその菓子は好評でコンクールでも優勝し続けていた。それでだった。
 あるコンクールで優勝した時にインタヴューで笑顔で答えていた。
「今回は食材選びに苦労しまして」
「そうだったのですか」
「見事なケーキでしたが」
「はい、クリームも果物も卵も」
 食材は全てというのだ。
「これはというものを調べて」
「そのうえで、ですね」
「探されて」
「そうしてですか」
「選んで」
 そしてというのだ。
「決めました、最高の素材をです」
「選ばれてですね」
「調理をされて」
「そうしてですね」
「作りました」
「ワインも」 
 インタヴューをする記者の一人がこの食材に言及した。
「トカイだったそうですが」
「トカイの最高級をです」
 それをというのだ。
「使わせて頂きました」
「そうですか」
「このケーキにいいお酒はワインそれもです」
「トカイですか」
「その最高級だと思い」 
 それでというのだ。
「使わせて頂きました」
「そうなのですね」
「そうです、これからもです」 
 桃香は強い声でさらに答えた。
「食材、調理道具もそうですが」
「最高のものを揃える」
「妥協なく」
「そうされますね」
「そうします」
 絶対にとだ、桃香は断言した。そしてだった。 
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