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開幕の屈辱

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第一章

                開幕の屈辱
 根室寿は自宅で妹の千佳に胸を張って告げた。
「今年の優勝は阪神だからな」
「それ三月からずっと言ってるわね」
 開幕する今にとだ、千佳は兄に冷めた目で返した。
「今年は開幕遅れたけれど」
「あんな病気大嫌いだ」
「そりゃ病気好きな人いないでしょ」
「ああ、それで開幕するから言うな」
「阪神が優勝するっていうのね」
「そうだよ、絶対にな」
「その言葉カープに代えたら正解ね」
 妹は兄に冷めた目のままこうも返した。
「そうしたら」
「言ってくれるな」
「何度でも言うわよ、今年優勝するのはカープよ」
 阪神ではなく、というのだ。
「そうに決まってるでしょ」
「阪神とは言わないんだな」
「そう言って毎年いつも優勝してないでしょ」
「それはたまたまじゃないか」
「たまたまが毎年続くの?」
「そういうものだろ」
「そうはいかないでしょ、というかあの打線と守備じゃね」
 阪神の問題点も指摘された。
「優勝は難しいでしょ」
「打たないでエラーが多いっていうんだな」
「そうよ」
 まさにそこが問題だというのだ。
「エラーの点は返って来ないっていうでしょ」
「今年は絶対に守備いいさ」
 寿は根拠もなく断言した。
「それに何といってもな」
「投手陣がいいっていうのね」
「十二球団最強だぞ」
 そこまでの投手陣だというのだ。
「その無敵の投手陣があるからな」
「優勝出来るのね」
「相手に点をやらないと勝てるだろ」
「いつもその分点取れてないでしょ」
 妹の目は冷たいままだった。
「それこそ」
「敵にやる点は最低限でもか」
「その最低限の点すら取れてないじゃない」
 阪神の打線はというのだ。
「いつも二対一とか三対一とか四対二で負けてるでしょ」
「打つ時は打つぞ」
「たまにでしょ、それでだけれど」
 千佳は真剣な顔で兄にこうも言った。
「開幕大丈夫なのよね」
「阪神のか?」
「そう、相手巨人じゃない」 
 全人類に災いを為す邪悪の権化たるこのチームであることを言うのだった。
「勝ってくれるんでしょうね」
「何言っているんだ」
 兄は妹に平然として返した。
「阪神が負けると思っているのか」
「去年思いきり巨人に負けたじゃない」
 妹の返答は無慈悲そのものだった。
「普通に三連敗ばかりしてね」
「物凄く負け越していたっていうんだな」
「そうよ、いきなり開幕三連敗してね」
 阪神が巨人にというのだ。
「巨人勢いづかせないでね」
「三連勝するにきまってるだろ」
 兄の返事はあくまで強気なものだった。
「他にあるか」
「どうだか」
「どうだかってな」
「こっちはかなり切実に思ってるのよ」
「阪神負けるなってか」
「そうよ、巨人に三連勝許すとかね」
 そうした全人類への冒涜とも言える行為を許すことはというのだ。 
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