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【完結】RE: ハイスクール D×D +夜天の書(TS転生オリ主最強、アンチもあるよ?)

作者:羽田京
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第5章 神話世界のアルマゲドン
  第23話 戦場のテロリスト

 
前書き
第5章では、HAYATEが無双することで、死人が大勢出ますので、ご注意ください。
 

 
 「はやて……さん?」
 
 
 アーシア・アルジェントは、目の前の光景が信じられなかった。
 和平協定である駒王協定を結ぶために、三大勢力のトップが集った記念すべき日。
 テロリスト『禍の団』の襲撃を受けたが、なんとか撃退できそうだ、と安心していたときだった。
 校庭でテロリストと切り結んでいたはずの八神はやてが、転移魔法によって突如出現した。そして―――――
 
 
「ミカエル様ッ!!」
 
 
 はやては、愛用している槍のようなデバイス――騎士杖シュベルトクロイツを背後から突き刺していた。
 胸から槍の穂先が生えている姿をみる。
 悪魔になった今でも尊敬の念を抱いている天使長、ミカエルの串刺しになった姿だった。
 
 
 周囲に動揺が広がる。
 真っ先に彼女は、神器『聖女の微笑み』で治療しようと、危険を顧みず近づこうとして――
 
 
「え?」
 
 
 自身の胸から、手が生える瞬間を目撃した。
 その手に握られている物体は、神器だろうか。
 胸のあたりに、激痛が走る。
 もう、意識を保つことができそうにない。
 けれども、いまこそ伝えなくてはならない。
 真っ直ぐはやてを見ながら、言葉を紡ぐ
 
 
「はやて、さん」
 
 
 目の前の――驚愕の表情を浮かべるはやてに向かって、微笑みかけた。
 視界が徐々に闇に包まれていく。
 その中で、彼女が願うのは、はやての幸せだった。
 なぜ彼女がこのような行動をとったのかはわからない。
 だが、なんとなく予想はしていた。
 だからこそ、彼女を止められなかった自分自身を責める。
 
 
 自分が、はやてに救われたように。
 はやてもまた、救われますように。
 
 
「どうか、泣か、ないで、……私、は、貴女のことが、大好き、で、した」
 
 
 きっと、これからはやては、これから多くの困難に立ち向かうのだろう。
 一緒にいられないのは、残念だが、彼女ならきっと大丈夫。
 はやては、必死な表情で、駆け寄り、自分を腕にだいている。
 聖女に相応しい微笑みを浮かべたまま、祝福の言葉を残し、彼女は、眠りについた。
 
 
 思い出すのは、堕天使に囚われていた日々のこと。
 一緒に遊んだ幸せな日々のこと。
 そして、意識を失う前に、耳にしたのは――――
 
 

 
 
 禍の団に入り、晴れてテロリストに転職してから、しばらく経った。
 リアス・グレモリーからは、再三、駒王協定への参加要請がきていたが、断っていた。
 敵対する相手と、親しくするのは、心苦しいからだ。
 が、サーゼクス・ルシファーから、直々の参加要請が来たことで、オブザーバーとして参加せざるを得なくなる。
 余計な真似を、と愚痴りたくなる反面。
 丁度いい機会でもあった。
 
 
「はやてさん、楽しんでいますか?」
 
 
 思考の渦から戻ると、目の前には、心配そうな笑顔のアーシア・アルジェントがいた。
 その様子から、心からボクのことを心配していると分かる。
 苦笑しながら、楽しんでいる旨を返す。
 今日は、グレモリー眷属がプールで遊ぶというので、誘われた。
 本当は行くつもりはなかったのだが……
 
 
(相変わらず鋭いな)
 
 
 どうも、彼女は、ボクたちが距離を置き始めたことを危惧しているらしい。
 プールに参加したのも、彼女に強く勧められたからだった。
 ボクとしては、以前の関係に戻っただけだと思っていたし、リアス・グレモリーも同様だろう。
 しかしながら、アーシア・アルジェントにとっては、『異常』なことだった。
 なぜならば――――
 
 
『はやてさん。貴女は、悪魔のことを憎悪しています』
 
 
 悪魔への敵意を見抜かれていたからだ。
 両親がはぐれ悪魔に殺されたことを引き合いに出して、誤魔化してはいる。
 だが、彼女は、納得していないようだった。
 
 
『もし、私にできることがあれば、何でも言ってください』
 
 
 お世辞ではなく、本気で言っていることが、分かった。
 だからこそ、悩む。
 当初の予定では、超長距離砲撃魔法『フレースヴェルク』で、禍の団ごと焼き払うつもりだった。
 駒王協定の締結時は、三大勢力のトップをまとめて殺害できる絶好のチャンスだ。
 
 
 けれども、アーシア・アルジェントを殺せるか?と問われると、返答に詰まってしまう。
 他のグレモリー眷属ならば、殺す覚悟を決めている。
 復讐の代行者……いや、復讐のための人形たるボクに選ぶ権利はないのだから。
 
 
(彼女を気にする理由……やはり、母さんに似ているからだろうなあ)
 
 
 いつも祈り、感謝を忘れない。
 いつも笑顔で、誰かのことを気にかけている。
 まさに聖女に相応しい姿。
 けれども、どこか抜けていて、愛嬌がある。
 彼女の姿が、記憶の奥底にある母の姿とダブってしまう。
 自身の使命を思い出すと同時に、過去の記憶も思い出せるようになっていた。
 
 
(迷っている暇はないというのに)
 
 
 幸いというべきだろうか。
 駒王協定への参加が決まったために、長距離からのせん滅は、見送りとなった。
 ヴァーリ・ルシファーと同じように、内部からの裏切りという形を取ることになる。
 すでに、禍の団にも、裏切ることを宣言してある。
 プールで繰り広げられる、兵藤一誠たちのラブコメを見ながら、思う。
 きっと、彼らグレモリー眷属が、最大の障害となるだろう、と。
 
 

 
 
 はやてが、プール際で、アーシアと会話を交わしている傍ら。
 付き添いとして来ていたシャマルは、はやての身を案じていた。
 禍の団に入り、三大勢力すべてと対決する。
 首尾よく三大勢力を破滅させても、危機感をもった別の神話勢力に命を狙われるだろう。
 つまり、世界を敵に回すに等しい。
 覚悟はとうに済ませている――はずだった。
 
 
(アーシア・アルジェント……彼女が、はやてちゃんの悩みの種になっている)
 
 
 母親に似ているといっていた。
 シャマルは、はやての両親を知らないが、話に聞くはやての母とアーシアは、確かに似ているようだった。
 だが、余計な情は、命取りになりかねない。
 はやてを危険に晒すことなど、自分が――ヴォルケンリッターが許すわけがない。
 
 
(はやてちゃんのためなら、私はどんなことでもやります――たとえ、貴女に恨まれようとも)
 
 
 表面上は、笑顔を浮かべながら、シャマルを内心で決意した。
 心優しい主は、きっと全ての責任を自分で背負おうとするだろう。
 だから、自分たちは、その重荷を肩代わりしなければならない。
 おっとりとした性格に隠された冷徹な思考。
 ヴォルケンリッターの参謀シャマルとして、感情を排して計算を重ねるのだった。
 
 

 
 
「アーシアッ!!」
 
 
 崩れ落ちたアーシア・アルジェントに向かい、身体を手に抱える。
 敵対した自身に向かって、最後まで笑顔を向けていた。
 安らかに眠る顔を見て、心がざわめく。
 ボクと一緒に転移してきたヴォルケンリッターたち。
 シャマルの予想外の行動に、混乱する。
 
 
「シャマルッ!!なぜっ!?」
 
「はやてちゃん、罰は後で甘んじて受けます。でもいまは、目の前の状況をどうにかするべきです」
 
 
 冷静に返答するシャマルに思わず反射的に怒鳴りつけそうになって、我に返る。
 ここは敵地。
 ミカエルを突き刺し――――アーシアにも攻撃した。
 もはや、完全に敵に回ったといっていい。
 
 
 いまは突然の出来ごとに混乱しているようだが、すぐに体制を立て直すことだろう。
 隙を突けば、三大勢力のトップとグレモリー眷属のすべてを排除できる。
 いまがまさに、絶好の機会だ。
 動かないといけない。それなのに――――
 
 
「っ……撤退だ」
 
「……わかりました」
 
 
 本当はこのまま全滅させるべきだろう。
 ミカエルの止めも刺していない。
 だが、いまはそんな気持ちにはなれなかった。
 最後に、アーシアの目を閉じ、転移する。
 ボクの周りで、グレモリー眷属たちをけん制していた残りの家族たちも、同時に撤退させた。
 
 
 とても悲しいはずなのに、涙はでなかった。
 
 

 
 
 シャマルの特技に、『旅の鏡』という特殊な転送魔法がある。
 ヴォルケンリッターで参謀を務めるシャマルは、基本的に回復や結界といった補助に長けている。
 だが、『旅の鏡』は、一撃必殺の威力をもつ。
 遠距離からリンカーコアを摘出するこの魔法は、通常は、リンカーコアを捕獲・蒐集する効果をもつ。
 
 
 では、リンカーコアが存在しないこの世界において、『旅の鏡』は、無用の長物になったのであろうか。
答えは否。
 この世界では、『神器』を捕獲することが、可能だったのだ。
 
 
 もともと、摘出されれば死に至るという神器は、魂と融合していると推測していた。
 魂と融合した神器の力を行使する。
 これは、リンカーコアと酷似しているのではないか。
 神器持ちの犯罪者を使って実験したところ、リンカーコアと同じように、神器の捕獲が可能だと分かったのだ。
 ただし、蒐集して、能力を奪うことはできなかった。
 
 
 この初見殺しの魔法は、ある意味切り札だ。
 存在を知っていれば、回避は十分に可能だからだ。
 容易に使ってよいものではない。それなのに――――
 
 
「なぜ、アーシアに『旅の鏡』を使ったのだ、シャマル!!」
 
 
 禍の団のアジトでシャマルに詰問する。
 表面上は、平静を装っているつもりだが、声色は堅い。
 リインフォースたち家族は、無言でボクの周囲にたたずんでいる。
 この件に関して、口を挟もうとは思っていないようだ。
 
 
「はやてちゃんは、アーシアを攻撃することができるのかしら?」
 
「それは……」
 
 
 言葉に詰まる。
 確かに、彼女の言うことは、最大の悩みだったからだ。
 おそらく、ボクは、アーシアを殺害するだろう。
 心情的には、せいぜい非殺傷設定で気絶させるくらいにしたい。
 だが、復讐のために用意された存在に過ぎないボクに、選択の余地などない。
 
 
「原作主人公たち、グレモリー眷属は、必ずや私たちの前に立ちふさがるでしょう。彼らの成長速度は尋常ではありません。下手なランキングトップ10よりも、ずっと脅威になるはずです」
 
 
 彼女の言う通りである。
 彼らグレモリー眷属の成長速度は、異常の一言につきる。
 下級悪魔が、半年と経たずに上級悪魔並の実力を身に着けたのだ。
 放っておけば、手に負えなくなる可能性が高い。
 いや、戦闘するたびに、実力をあげてくるだろうことが、容易に想像できる。
 だから、できるだけ少ない戦闘で、排除するべきなのだ。
 
 
「アーシアは、回復役として、グレモリー眷属の要といっていい存在です。彼女がいるだけで、戦闘継続能力が、飛躍的に高まります」
 
 
 これも、正しい。
 最近のアーシアの回復能力は、凄まじかった。
 悪魔になったあとも、研鑽を重ねた彼女の力は、この世界ではトップレベルといってよい。
 たとえ、死にかけた相手ですら、ものの数秒で完全回復できるほどに。
 
 
「だから、真っ先に狙いました。彼女を排除する機会は、あのときしかありませんでした」
 
「……わかった。確かに、シャマルの言う通りかもしれない。
 回復役で要である彼女を、リアス・グレモリーは、常に、最優先で守っていた。
 真っ向勝負では、アーシアを狙うのは無理だっただろう。
 けれども、『旅の鏡』を使う必要はなかったのではないかい?」
 
「では聞きますが。もし、私たちがアーシアを殺害しようとしたら、黙って見過ごす自信がありますか?」
 
 
 再度、言葉に詰まる。
 彼女の指摘は、図星だったからだ。
 なんだかんだで、アーシアだけは、救おうとしていた。
 無理だと、分かっていたのに。
 
 
「だが、仲間が死んだことで、彼らは大幅に力を増すだろう。なぜアーシアを――――」
 
 
 ――――そうか、だからか。
 
 
「……ああ、そういうことか。
 嫌な役回りを押し付けてすまない、シャマル。
 三大勢力すべて――いや、神話勢力すべてを敵に回そうというのは、ボクのわがままだ。それなのに、情に流され、危険な橋を渡ろうとしていた。
 本当は、ボク自身が乗り越えなくてはいけない壁だったのに……」
 
 
 ようやく気付いた。
 アーシアだけではなく、他のグレモリー眷属すら、殺す覚悟ができていなかったことに。
 気持ちの上では、覚悟ができているつもりだった。
 だが、アーシアの死を経験した今だからわかる。
 いままでのボクも、彼らを殺すことはだけならできただろう。
 
 
 ――――ボクの心を犠牲にして。
 
 
 当初の計画だった『フレースヴェルク』での狙撃も、ボクは、非殺傷設定を使うべきだと主張していた。
 アーシアの死に動揺して、すぐさま撤退してきたことも、ボクの甘さを裏付けている。
 
 
「いいのですよ、はやてちゃん。私たちは、家族でしょう?
 一人ひとりが、分担して、できることだけをやればいい。
 すべてを背負おうなんて、思わないで」
 
 
 シャマルが、慈愛に満ちた表情で、ボクに語り掛ける。
 今まで黙り込んでいた家族たちも、口々に賛同の声をあげた。
 
 
「我らヴォルケンリッターは、いつでも主はやてのお側にいます。
 これは、騎士として―――いえ、家族としての総意です」
 
「シグナムの言う通りです、主よ。地獄の底までお供します。
 どのような困難が待ち伏せようと、必ずや私が主をお守いたします」
 
「そうだぜ、はやて。なんでもかんでも一人でやろうとするのは、おまえの悪いところだ。もっと頼れよな」
 
「マスターと共に歩むことこそ、我らの望みです」
 
 
 励ましの言葉をかける家族たち。
 行く先に破滅しかない道を歩むと決めた。
 覚悟したはずだった。
  
 
 けれども、一番覚悟が足りなかったのは、ボク自身だった。
 一方、百戦錬磨のヴォルケンリッターたちは、とうに覚悟ができていたのだろう。
 だからこそ、ボクの意識改革をしようとしたのだ―――最大の障害であるアーシアの殺害という手段で。
 
 
 アーシアが死んでしまったことは、悲しい。
 いまでも胸が苦しい。
 
 
 でも、ボクが歩もうとしている道は、もう後戻りできない道。
 復讐者に成り果てた哀れな少女の願いを代行するだけの修羅の道。
 理不尽な理由で、無関係の者たちまで、犠牲にする破滅への道。
 傲慢で、我儘で、無慈悲な、地獄への道。
 
 
 この胸の痛みにも慣れなくてはならない。
 いまから、ボクはこれ以上の悲劇を量産することになるだろうから。
 
 
 すぐにでも行動しなければならない。
 兵藤一誠たちに力をつける時間を与えてはいけないから。
 
 
 化け物すべてを殺しつくさなければならない。
 それがボクの存在意義だから。
 
 
 でも、それでも。
 
 
「ありがとう、皆。ボクの弱さで心配をかけてしまった。でも、今だけは――――」
 
 
 家族たちの励ましで、心に余裕ができた。
 余裕ができたことで、改めて悲しみと向き合えた。
 これで涙を流すのは、最後にしよう。
 
 
(アーシア……ボクもキミのことが大好きだったよ)
 
 
 その日、家族に縋り付いて、ボクは泣いた。
 
 

 
 
「は?生きている?」
 
 
 いま、八神家は、懐かしの我が家を捨て、禍の団のアジトにいる。
 ヴィータの前では、間抜けな顔をしているはやてがいた。
 あたしに縋り付いて泣いていたが、落ち着いたところでの、爆弾発言。
 いまだ泣き腫らした目が赤くなっており、大変面白い顔になっている。
 
 
(ひでえ顔だな。まあ、本人には黙ったとこう)
 
 
「わけがわからないよ」と顔に書いてあるはやてに、シャマルが種明かしをしている。
 内容は、『アーシア・アルジェントの生存について』だ。
 
 
「ごめんなさい、はやてちゃん。でもね、はやてちゃんには覚悟が必要だと思ったから」
 
 
 そう、初めからアーシアを殺すつもりなどなかった。
 実は、神器もちが『旅の鏡』の攻撃を受けると、必ず死ぬわけではない。
 たしかに、神器を握りつぶせば、死に至る。
 が、単に摘出し、力を貰うだけならば、しばらく神器の力が使えなくなるだけで済む。
 はやては、『旅の鏡』=即死、だと勘違いしていたようだが。
 
 
「え? え? でも、実験対象は、死んでいたし、一撃必殺だって……」
 
「あれはワザとなの。はやてちゃんのアーシアへの思い入れを知っていたから、ショック療法のつもりだったのよ」
 
 
 そう、はやてには、ワザと勘違いするように仕向けていたのだ。
 リンカーコアの蒐集でも、よほどの無理をしない限り死にはしないのだから、当然ともいえた。
 シャマルは、グレモリー眷属、特にアーシアへの対策が必要だと感じていた。
 彼らの成長速度は驚異的であり、うかつに手加減すべきではないからだ。
 はやてが本気で戦えず、隙をつかれるわけにはいかない。
 彼女が傷つく可能性は、少しでも減らしたかった。だから――――
 
 
「だから、皆と相談して、一芝居打ったのよ」
 
「すみません、主はやて」
 
「お叱りはいかようにも受ける所存です」
 
「悪いな。だが、大事な通過儀礼だぜ?」
 
「マスターを図った罪は、私たちにもあります」
 
 
 口々に謝罪の言葉をかける。
 あまりの急展開に思考が追い付いていないのか、面白いほどにおろおろするはやて。
 普段の凛々しい姿は、どこにもなかった。
 
 
「ほ、本当?アーシアは、本当に無事なの!?」
 
 
 真剣な目で、シャマルを問い詰めるはやて。
 シャマルは、不安に揺れる瞳を見つめ返しながら、本当のことだと答えた。
 
 
「えぅ。そっか、そうなの……よかった、よかったよぉ」
 
 
 シャマルの言葉が事実だと悟ったのだろう。
 アーシアの生存を確信したはやては、再度大泣きした。
 
 
(一芝居打って正解でしたね)
 
(そうだな、シャマル。もし、戦いの中で、アーシアたちを殺害してしまったら、主はやては、壊れてしまう……それが、確認できただけでもよかった)
 
(はやては、優しすぎる。あたしたちが、汚れ仕事だけでも肩代わりできればいいんだが)
 
(もし、肩代わりしようものなら、「家族の手を汚させた」といってマスターは一生悔やむことになるでしょうね)
 
 
 わんわんと泣くはやてを、見ながら思う。
 無意識だろう。変身魔法を解き、ヴィータの首に縋り付いてくる
 この心優しい少女が、復讐のために用意された存在だとは、誰も思わないだろう。
 本当ならば、復讐そのものを止めるべきなのかも知れない。
 家族ならば、道を踏み外そうとするはやてを諌めるべきなのだろう。
 
 
(だが、それはできない)
 
 
 悪魔たちといった『異形』あるいは『化け物』への敵意。
 これはもはや異常といってもよい。
 もし仮に、アーシアと戦うことにでもなったら。
 心情はともかく、彼女は、アーシアを殺すだろう。
 復讐のために用意された彼女に、選択肢などないのだ。
 
 
(あたしたちは、はやての身体だけじゃなくて、心も守らなきゃならない)
 
 
 復讐への衝動は、もはや呪いといってもよい。
 たとえ、家族たちが止めようとしても、一人で行動するだろう。
 そして、一人で破滅の道を突き進んで、心が壊れてしまうだろう。
 
 
(だから、はやてには覚悟が必要だった)
 
 
 腕の中で、いまだに泣き止まない少女を見やる。
 ヴォルケンリッターとリインフォースの願いはただ一つ。
 何があっても、はやてだけは守る。
 それだけだった。
 
 
「それにしても、いつまでたっても、はやては、泣き虫だよな」
 
 
 苦笑しながらも、妹分を抱きしめるヴィータの目は、慈愛に満ちていた。
  
 

 
後書き
アーシアの圧倒的なヒロイン力。でも、恋愛とかじゃあないです。主人公に甘さがなくなりました。このときをもって、真のHAYATEが誕生します。でも、泣き虫。
 
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