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偏屈婆さんと猫

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第一章

                偏屈婆さんと猫
 小林康子はかなり白くなっている髪の毛を短いおかっぱにしていて丸眼鏡をかけた還暦を超えた女性である。子供は二人いるが独立して二人共家庭を持っていて孫達もいる。今は定年をした夫の剛と二人暮らしだ。
 近所では何かと口煩い半分以上クレーマー扱いされている、それは子供達にも孫達にも同じ扱いであって。
 二人暮らしの家は非常に寂しい、夫もこう彼女に言う。
「お前とは四十年一緒だがな」
「それでもっていうの」
「ああ、お前みたいな性格だとな」
 それこそというのだ。
「俺じゃないとな」
「一緒にいられないっていうのね」
「ああ、とてもな」
「あんたいつもそう言うわね」
「実際にそうだろ」
 痩せて穏やかな顔をしている、髪の毛はすっかり白くなっているが量は多い。背は一八〇近くあってかなり目立っている。
「俺じゃないとな」
「無理だっていうのね」
「いつも間違えてないけれどな」
 正論、それは言っているというのだ。
「口煩いんだよ」
「あんたはいつも私の言うこと聞き流しているわね」
「最初からな」
「だからなのね」
「ああ、本当にな」
 それこそというのだ。
「俺だから一緒にやっていけるんだよ」
「ずっとっていうのね」
「子供も孫も寄らなくてな」
 それでというのだ。
「ご近所からも評判悪いけれどな」
「それがどうしたよ」
「それだよ、その性格がな」
 まさにというのだ。
「よくないんだよ」
「自分でわかってるわよ」
「わかっていてもなおさないな」 
 その性格をとだ、夫は言った。
「そうだな」
「全くね」
「そう言う奴だ、けれど俺はいいからな」
「言ってること気にしないから」
「ああ、いいんだよ」
「そういうことなのね」
「そうだよ、本当にな」
 まさにと言ってだ、それでだった。
 夫はそんな彼女と一緒にいた、だが康子の態度は変わなかった。クレーマーの様に口煩く近所からも子供達からも孫達からも嫌われて近寄られていなかった。 
 そして夫はある日家で本を読んでいる時に玄関で声を聞いた。
「こら糞ガキ共!」
「うわっ、鬼婆だ!」
「鬼婆が出たぞ!」
「またか」
 夫は妻と近所の子供達の声を聞いてやれやれと思った、妻が玄関で掃除をしていて子供達とこうしたトラブルを起こすのは常だったからだ。それでだった。
 妻が帰ってきたら今度はどうしたんだとでも聞くつもりだった、だが。
 妻が猫を持って家に入って来た時に一瞬我が目を疑った、そのうえでこう言った。
「何で猫がいるんだ」
「近所の糞ガキ共がこの子に石投げてたのよ」
 妻は夫に怒った顔で話した。
「それで怒ったら懐いてね」
「それでか」
「怪我してるみたいだから病院に連れて行くわよ」
「全く、子供ってのは何するかわからないな」
「今から行って来るわね」
「ああ、じゃあな」
 こうしてだった、妻はその猫を一旦獣医に連れて行った、そして家に帰るとこう彼に言った。見れば猫は今も一緒にいる。
「怪我なかったって言われたわ」
「それはよかったな」
「あと病気も持ってないみたいよ」
「そのこともよかったな」
 夫はその猫を見つつ妻に応えた、見れば左右の耳から目の辺りと背中が丸く黒くなっている以外は白い猫である。 
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