曇天に哭く修羅
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第三部
揺らぐ信念
前書き
_〆(。。)
黒鋼の屋敷を出た紫闇は青獅が戦っていた市街地戦の専用区画へとやって来た。
「ん? あれは……」
青獅と1人の少女。
黒髪のツインテールに覚えが有る。
紫闇が助けた子だ。
二人は口論していた。
青獅は少女を突き飛ばす。
それを見た紫闇は闘争心が消え失せ代わりに明確な怒りが生まれる。
「あの野郎」
紫闇が歩いてくることに気づいた青獅は少女から目を離して笑う。
「試合を見て来たんだろぉ立華紫闇?」
青獅は容姿や強さだけでなく、おどおどした態度や吃音も無くなっていた。
紫闇は青獅に答えず突き飛ばされた女の子に近付いて手を差し伸べる。
「立てるか? 痛いとこは?」
「すいません……大丈夫、です」
女の子の涙が止まらない。どんなに拭っても出てくる。どんどん溢れ出す。
とうとう嗚咽まで漏れてきた。
「佐々木、どういうつもりだ」
「そいつが悪いと思うけど? ぼくには関わるなって何度も言ってるのに聞きゃしないんだから」
紫闇は殴ろうかと思ってしまう。
「酷いよ! お兄ちゃん!」
「はぁっ!? 兄、だって……!?」
紫闇は思わず目を見開く。
「血縁上はね。今は赤の他人さ。ぼくは昔の名前と一緒に『それ』を捨てたんだよ」
青獅は気にしていないようで淡々と述べていたが、紫闇の方を見てまた笑う。
「立華はぼくに怒ってるけどさ、ぼくを批難できないでしょう? だってぼくと『同じこと』をしてるんだし」
青獅は紫闇に語った。
[努力は裏切らない]
殆どの人間は積み重ねた努力が結果に繋がっていると言って良い。
個人の差は有れど一番になるべくしてなった者はなるだけの努力をしている筈だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「何でそれが妹を捨てることに?」
「立華なら解るだろぉ? ぼく達みたいな凡人から以下は目標を達成する為に他より『努力しなきゃいけない』っていう目的意識を除いてひたすら何かを切り捨てないと上には行けない」
家族との時間すら無駄になる。
才が無いなら有る者より努力しなければならないのは当然の身の上。
誰かと話している時にも競争相手は見知らぬところで自分より一秒多くしているかもしれない。
「たかが一秒劣るだけって思うかもしれないけどねぇー。ぼく達みたいな人種はそんなの耐えられないだろおぉぉ~?」
紫闇は思う。
確かに同じだ。
青獅と変わらない。
《江神春斗》を倒すという目標が有った頃は出来る限りの時間を作って春斗より多くの修業をすることで彼を超えようとしていた。
「どうやら解ってくれたようだねぇ。ぼくは君より強くなりたかった。だから名前も、過去も、全部捨てたんだよぉ」
青獅は背中を向けて去ろうとしたが、ふと立ち止まって紫闇に告げる。
「ぼくはもう佐々木青獅じゃない。今は天地崩穿流の二十七代目《九月院瞬崩/くげついんしゅんほう》さ。昔の名で呼ばれるとイライラするから止めてくれ」
青獅の妹も紫闇に礼を言って去った。
残された紫闇は青獅の方を見て呟く。
「……お前は正しいよ佐々木。心の底からそう思ってる筈なんだけどな。でも、何でだろうか。ほんの少しだけ俺は……」
自分の信念が揺らいだ。
後書き
_〆(。。)
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