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Fate/WizarDragonknight

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この素晴らしき大道芸に拍手を!

「さあ皆さん。私の芸はもっとすごいわよ」

 嬉々として自称女神は、空っぽだと示した右手にハンカチをかぶせる。

「いい? 種も仕掛けもないってさっき見せたわよね? 3、2、1。ほいっ!」

 ハンカチをめくった彼女の手には、どこから持ってきたのか酒瓶が握られていた。
 当然のごとく拍手喝采、しかも歓声によく耳を傾ければ、それはどうやら高級酒だったらしい。

「アッハハハハハ! どうよ、私のお客さん受けは! アンタにはこんな真似できないでしょう⁉」
「……やるな」

 ハルトは自称女神の種も仕掛けも見抜けぬ技に舌を巻く。

「まだまだよ。もう一度、このお酒にハンカチをかけて……あ、ねえ」

 自称女神が、こちらに声をかけた。

「悪いけど、盆持ってない? お盆」
「お盆? ……まあ、なくはないけど」

 ハルトは少し考えて、バックから手品小道具として使っている板を取り出した。鉄製で、周りに縁のある盆と呼んで差し支えないそれを受け取った自称女神は、それをさっと受け取り、ハンカチの下に供える。

「ほいみなさん! それでは仕事の疲れをいやしてください!」

 彼女がハンカチを外すと、酒瓶は無数のグラスに変化していた。内容と泡が七三で分けられており、特にサラリーマンたちは大喜びだった。

「どう? 芸っていうのはね、一過性のお遊戯じゃないの。楽しませた人たちの心も癒す、最高のエンターテインメントなのよ! さあ、そっちはどう動くのかしら?」
「……なるほどね」

 ハルトは思わぬ自称女神の持論に感心しつつ、何をしようか逡巡した。
 やがて手を叩き、
 

「……はい、皆さま。挑戦を引き受けましたので、今回は少し大きめの手品を用意いたしました」

 ハルトは、プラスチック製の箱を組み立てた。
 黒い、縦方向に三段積まれたそれを見せながら、

「それでは、どなたかにこのマジックのアシスタントをしていただきましょう。……それでは、このお嬢様のお連れの方!」
「俺か⁉」

 ハルトは、自称女神と一緒にいた少年を指名した。彼は驚きながら、こちらに来る。
 すると、自称女神は彼を指差しながら怒鳴った。

「ちょっとカズマ! この高貴なる私を裏切るの⁉」
「……正直たまにはお前の泣き顔を見たい」
「ああああああ‼ カズマがひどいこと言ったあああああああ!」

 すでに涙目になっている自称女神に対し、何とカズマと呼ばれた少年はにやりと笑った。

「よおし! お前のいつもの宴会芸より、こっちの方が面白そうだぜ!」
「ああああああ‼ カズマが言っちゃいけないこといったあああああああ!」
「……ねえ、お兄さん」

 カズマが自身の手に従ってケースに入ろうとしている間、思わず彼に問いかけた。

「君って、あの女の子と友達……なんだよね?」
「一応な」
「ちょっと……扱いひどくない?」
「ああ?」

 カズマは、ハルトに疲れ果てたような目を向けた。

「だったらアンタに上げるよ、あんな自称なんとかの女神! 毎回毎回変なトラブル持ち込んでくるし、おかげさまで俺の損害も増えるし! もしも人生やり直せるんなら、あんな奴絶対にごめんだね!」
「カああああああズマさあああああああああああん!」
「……ねえ、女神さま、泣いてるけど……勝負の途中なのに泣いてるけど……」
「いいんですよ、あんな奴。それより、どうすればいいですか?」

 横から聞こえてくる自称女神の悲鳴を徹底的に無視するカズマさんへ、ハルトは少し感心さえ思えてしまった。
 ハルトは見なかったことにして、改めて指示した。

「えっと、ここに入ってください」

 箱の後ろから、カズマが入る。頭、体、足にかけて三等分にしているケースの下二つを蓋し、顔だけが覗ける状態になる。

「はい。それでは皆さん。今彼は、絶対にここから逃げられません」

 ハルトは、箱の側面にある蝶番を示す。

「それでは、これよりこちらの方の脱出劇を行います!」

 ハルトは、カズマに「大丈夫ですからね」と声をかけて、顔の蓋を閉じた。

「さて、まずはこちら」

 小道具の剣を取り出す。昨日、ラビットハウスでまどかにも行ったものだった。
 一通り串刺し、箱の移動をしても、カズマは無事だという手品で、ある程度の拍手喝采はいただく。
 一度見たはずの響も大きな拍手をする一方、自称女神は膨れっ面で手を叩いていた。

「それでは最後に、派手な花火を打ち上げましょう」
「え?」

 全く話していない内容に、カズマも目を白黒させていた。
 少しいたずらごころが芽生えたハルトは、カズマを閉じ込めたまま、

「最後に! この箱を爆発させます!」
「ちょっ!」
「え⁉」
「はぁ⁉」

 響をはじめ、観客は茫然。
 自称女神は飲んでいたジュースを吐き出し。
 カズマは白目で悲鳴を上げた。

「え⁉ ちょっと、そんなこと聞いて……」

 ハルトは、カズマの言葉を無視して蓋を閉める。

「おい! ちょっと! 爆発って何⁉ 俺、どうなっちゃうの⁉」
「プークスクス! ちょっと、ウケるんですけど! カズマさん、いきなり爆発オチとか、チョーウケるんですけど‼」

 友達を爆発させるという言葉に、大笑いする自称女神。

「あのー……」

 響が彼女に尋ねる。

「爆発するって言われてるのに、笑ってるのはないんじゃない?」
「だって! あんなに私をバカにしてたのに……爆発オチって、チョーウケるんですけど!」
「ええ……」

 響が言葉に詰まっていた。
 ハルトはコホンと咳払いをして、

「それでは皆さん! カウントダウンをお願いします! 5!」

『4!』

 ノリのいい観客たちは、一斉にコールをし出す。

『3!』

「おお、おい! 本当に爆発すんのかよ⁉ 嫌だ! 童貞のまま死にたくない!」

『2!』

「カズマさん! 私、カズマさんが死んだらお祈りしてあげる! 綺麗で麗しい女神様に出会って、せいぜい勇者として異世界に召喚されていいパーティーですごい生活を送れますようにって!」

『1!』

「さあさあ皆さん、刮目ください!」

 盛り上がってきた観客へ、ハルトは指をパッチンと鳴らす。

「いざ! エクスプロージョン!」

 ハルトの掛け声とともに、カズマが入っていた箱が粉々の大爆発を起こした。
 カラフルな煙の後ろに本物の衝撃。その後には何も残らなかった。
 台の上に残った焦げ跡で、沸き上がったのは拍手喝采。

「すごい! すごい!」
「本当に爆発した!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 ハルトは両手を上げて、その声に応える。

「そしてその拍手をもう一度‼ 今度は私にではなく、体を張って私のアシスタントをしていただいた、少年にお願いいたします!」

 ハルトはそう言って、観客たちの奥を指差した。
 そこには、髪をぼさぼさにして、息も絶え絶えになっているカズマがいた。

「ゼエ、ハア、ゼエ、ハア、死ぬかと思った……」

 カズマは肩で呼吸しながら、ハルトを恨めしそうに睨む。
 彼の無事を確認した観客たちは、再び地響きにもなりそうな拍手をした。



「ま、まあ。勝負は引き分けってところね」

 自称女神___名前はアクアというらしい___は、自身の缶とハルトの缶を見比べながら結論付けた。

「おいアクア。二人とも確かに容器は一杯。お前の言い分は、まあ分からなくはない」

 カズマがジト目でアクアへ横やりを入れる。だがアクアは全く意に介した様子はない。
 カズマは続ける。

「でもな? お前の缶は小さい。この前俺が飲んだ空き缶だからな。でも、ハルトが使っているのは菓子箱。お前のやつよりおおい」
「カズマさん。よく見てみなさいな。もしかして、硬貨の数え方も忘れちゃったの? プークスクス!」
「お前こそよく見ろよ! 十円玉が多いのはお互い様だけど、ハルトのやつにはところどころお札入っているだろうが! 普通にお前の負けだよ!」
「何よカズマ! 何もなく受け入れるの? そんなんだから、私たちはいつまでたっても売れないのよ!」
「俺は別に売るつもりはない。今のアパートで永遠に暮らすんだい」
「このヒキニート!」
「あの……」

 ヒートアップする二人に、ハルトは小声で話しかける。

「その……今日はありがとうね。俺、今まであちこちでやってきたけど、ここまで稼げたことはないからさ、その……稼ぎ山分けしない?」
「え?」
「い、いいえいいえ」

 キラキラした目をするアクアを防ぐように、カズマが割り入る。

「それはあくまでそちらが稼いだものですので、どうぞお納めください」
「でも……」
「気にしないでください」

 カズマが、こちらが出した金をハルトの缶に戻す。アクアが恨めしそうにそれを眺めているが、カズマはそれを無視し続けていた。

「ねえ」
「ん? ああ、響ちゃん」

 ずっとハルトたちの大道芸対決を見ていた響が、ティッピーが入った鞄を渡す。

「お疲れ様。なんか、途中からどんどん凄まじくなっていったけど」
「ああ。変な所見せちゃったかな」
「いやいや。面白かったよ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」

 ハルトはティッピーと缶を入れ替える。鞄を背負い、ティッピーを胸に抱いた。

「さてと。今日の稼ぎも終わったし、俺は帰ろうかな」
「え? まだ正午だよ?」
「いやあ。さっきカズマ君の爆発で、今日の装備ほとんど使っちゃったんだよね。ぶっちゃけあれ、とっておきの切り札だったから」
「ほえ~でもすごかったね。私も、ハルトさんがとうとう殺人やっちゃったかと思ったよ」
「俺も死ぬかと思ったぜ」

 喧嘩しながら突っ込むカズマ。

「よし君たち、そこに整列しようか。今から一人ずつ爆発してやる」
「うわっ! こいつ、頭がおかしい爆発野郎になった!」
「どうすんのよ⁉ ここは誰かに盾になってもらうしかないわね」
「そうだな。よし! アンタ、悪いけど盾になってくれ」
「ええ⁉ 私⁉」

 カズマとアクアの盾にされる響。彼女は「やめてとめてやめてとめてやめてとめて!」と首を振っている。
 ハルトはため息をついて、

「冗談だよ。第一、もう俺に爆薬なんてないし」
「そ、そうですよねえ、あっははは」

 カズマが本気で安心した表情をしている。
 爆発魔なハルトが、そのまま踵を返そうとしたときだった。

「あの。もし」

 観客の中にいただろか。あるサラリーマンが、こちらに名刺を差し出していた。

「今のお二方のパフォーマンス、拝見いたしました。私、01プロデュースの鎌田と申します」
「はあ……」
「あ、どうもどうも……」

 名刺をもらったハルトとアクアは、それぞれ礼を返す。
 鎌田と名乗った男は続ける。

「ぜひ、お二人には、わが社の看板になっていただきたく……」
「それって……スカウトってこと⁉」

 アクアが興奮気味に鎌田へ顔を近づける。
 鎌田は抵抗なく頷く。
 すると、アクアとカズマは、互いに顔を見合わせる。

「やった! やったわカズマさん! これで私たち、とうとうあのオンボロ下旧四万円生活から脱出できるわ!」
「これからは、テレビにジャンジャンでて、売れたら女子アナと結婚して牛丼卵付き百杯食べて、ビル千件買って自堕落な生活を送るんだ!」
「こりゃ祝杯よカズマ! 今夜は焼肉よ!」

 ハイテンションになる二人。
 次に鎌田は、ハルトにも声をかけてきた。

「貴方様のものも拝見いたしました。ぜひ、わたくしどもと契約を結んでいただきたい」
「え? 本当? どうしよっかな……?」
「ええ。契約金は……ぐわっ!」

 その時。鎌田の手が何かに弾かれた。
 彼を妨害した謎の青い影は、そのまま迷いなく、ハルトの右手に飛び込む。

「え? 何?」

 カズマとアクアは二人で輪を組んで踊っているので異変に気付かない。響と鎌田だけが、その正体を二度見していた。

「お、おい! ユニコーン! 何だよ、今大事な話してるんだから後にしてくれよ!」

 掌に乗った青いプラモンスター、ユニコーン。この使い魔は興奮気味に、手の上でステップを踏んでいる。

「ハルトさん……それも手品?」
「あ、響ちゃん。これは……そ、そうそう手品手品。鎌田さんもごめんなさい。なんか、タネが遅れて……」
『ヒヒーン』
「痛っ! 突くな! ……まさか、ファントム?」

 いつも最悪のタイミングで訪れる、ファントムの出現。ユニコーンは首を縦に振った。

「勘弁してよ。今からビッグになれるチャンスなのに……それで? どこ?」

 ユニコーンが指したのは、鎌田の方だった。

「あっちか……すみません鎌田さん。ちょっと急用で、響ちゃんに色々伝えて……」
『ヒヒーン』

 突然、ユニコーンがその角で頭を指してきた。

「なんだよ⁉」

 ユニコーンが、改めて鎌田がいる方角を……鎌田を指す。

「え? あっちにファントムがいるんだろ?」

 否定。
 その時、ハルトは理解した。

「……鎌田さん。まさか、あなたが……」
「仕方ありませんね」

 鎌田は名刺ケースを放り捨てた。彼はそのままにやりと笑み、
 その顔に、不気味な紋様が浮かび上がる。

「っ⁉」
「「やったやったやっ……え?」」

 響も、カズマもアクアも動きを止める。
 その中で、鎌田はねっとりと言った。

「仕方ありませんね。この私、ベルゼブブを見破るとは。しかし、関係ありません。皆さま全員、ここで絶望してファントムを生み出していただきましょう」

 紋様はやがて実体となり、全身を変質。
 そこには、コウモリと悪魔を融合させたような人型ファントムが現れていた。 
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