ロックマンZXO~破壊神のロックマン~
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第四十二話 灰色の少女
ガーディアンベースを後にしてから一年後。
一月に一度はプレリーに通信を寄越しながら(もう少し連絡の頻度を上げろとエールの怒声が聞こえてきたので、二週間に一度に通信を入れることになった)、ヴァンはイレギュラーを狩りながら旅をしていた。
「ここ一帯のイレギュラーはいなくなったか…」
イレギュラーが大量発生している場所を目印にして進んでいるが、やはり向こうも簡単に姿を現してはくれないらしい。
向こうから人の気配がする…どうやらここのイレギュラーを討伐しに来たハンターだろう。
どうも自分は違法ハンターとして見なされているようで出会い頭にバスターを向けられることが多い。
「違法ハンターにもハンターにもなるつもりなんてないんだけどな」
しかし戦闘経験のあるハンター達には自分との実力差を理解しているのか、向こうから仕掛けてくることはない。
まあ、ハンターで扱っている武装ではモデルOのアーマーにはあまり効かないのだが。
「とにかく…他のイレギュラーが出現する場所を探してみるか」
ダッシュでこの場を去ると、慌ててハンター達が自分がいた場所に駆け寄る気配を感じたが、もう既に距離が大分離れたので追い掛けることも出来ないだろう。
しばらく移動して森の奥まで到達すると、丁度良い時間でもあるので食事の用意をする。
と言ってもこの体に完全に慣れてから食事の必要はあまりなく、普通のヒューマノイド時代の名残みたいなものだが。
焚き火をし、湯沸かし用の小型の鍋で湯を沸かすとインスタントスープの粉末をマグカップに入れ、それを湯で溶かした物。
そして少し前にイレギュラーの攻撃を受けていた街のイレギュラーを始末した時、街の人から(恐々とされながら)礼として貰ったパン。
木に生っている木の実だ。
食事と言うには貧相だが、旅をしていることを考えれば上等な食事だろう。
旅をしていて誤算だったのは、故郷の国と比べて外の方が自分を怖がったりはしないと言うことだ。
故郷はセルパン・カンパニーの警備隊によって(一応)安全を保てられていたからなのかもしれない。
外の国は連合政府・レギオンズの支援は受けているものの、イレギュラーの襲撃に関しては自分の故郷ほどの警備隊はないのかもしれない。
イレギュラーを倒してさえくれればヒーローということなのかもしれないが。
「もう少し、イレギュラーのいる国に向かうべきかな………ん?」
人の気配を感じて振り返ると、自分よりも年下の少女が茂みに隠れていた。
「何してるんだ?」
「うひゃ!?」
服を掴んで持ち上げると、少女の姿が露になる。
灰色の髪をポニーテールにし、腰のホルスターには珍しい型のレーザーショットと呼ばれるレーザー銃である。
「こんな所に小さい女の子…?何でここに?おまけにこんな小さい子供にレーザーショットを持たせるなんてな…」
レーザーショットの銃は単発の威力はバスターショットの銃を上回るものの、連射性能が低いために小回りがバスターより利かないためにそれを嫌う者はバスターを選ぶ傾向がある。
「し、仕方ないじゃない!アタシのこれはハンターのみんなが使ってたお下がりなんだから!!」
「お下がり…?ハンターに所属してるのか?」
「そっ、今はまだ十二歳にもなってないから見習いにもなれてないんだけどね」
「そうか…護身用ならもう少し使いやすい銃を渡せば良いのにな…君の所属してるハンター達はどこにいるんだ?」
近くには人の気配がないので、少女に保護者となる者達がどこにいるのかを尋ねる。
「う……」
「あ、迷子になったのか」
「し、仕方ないでしょ!次の目的地に向かう途中でみんな一目散にイレギュラーのいる場所へ向かって行ったんだから!!」
「そうか…」
少女の言葉にヴァンは頷いた直後、少女のお腹が盛大に鳴った。
「…………腹減ったのか?」
「…………うん」
昔のエールを思い出しながら、パンの残りとスープを出してやると少女はパンとスープを食べ始めた。
「美味しい!」
「普通のパンとインスタントスープだけどな…君の家族もハンターなのか?」
「ううん、アタシには両親はいないの。物心つく前にイレギュラーに襲われたどこかの町で一人だけ生き残ってたんだって」
「そうか、君もイレギュラーの襲撃で…」
「君も?」
「俺も君と同じだよ、俺もイレギュラーの襲撃で母さんを喪った。俺の幼なじみもな」
「ふーん…そっか…」
初めて会った二人が同じ境遇であることに奇妙な親近感を覚えた。
「もう暗いから、明日の朝に君の所属してるハンターの所に連れていくよ」
「良いの?」
「ああ」
マグカップのスープにパンを浸してヴァンはそれを口にして咀嚼する。
「俺はヴァン…君の名前は?」
「アタシはアッシュ!一流で世界一のハンターになる予定で、いつかは世界中にアタシの名前を轟かせるのが夢!」
「世界中か、スケールがでかいな」
「でしょ?」
アッシュと名乗った少女とは色々な話をした。
ハンターとしての生活や自分にライバル心を抱いて突っ掛かってくる暑苦しい同期のハンター。
初めてレーザーを渡された時の嬉しさ、簡単なお使いのようなものとは言え、ミッションをクリアした時の感動。
「(エールも昔はこんな風だったな)」
しばらくして寝静まったアッシュ。
体が冷えないように焚き火は維持出来るようにする。
「(運び屋のみんなは元気かな?後輩のみんなはちゃんとしたバイクに乗れてるのかな?先輩ケチだしなー)」
ガーディアンベースで夜勤勤務していたジルウェがくしゃみをしていたりするなどヴァンは知る由もない。
翌日の朝、出発の前に周辺にイレギュラーがいないか見ていたヴァンだが、バスターとは違う銃声を聞いてそちらに向かうとアッシュが小石を積み上げて作った的に片手で構えたレーザーを向けていた。
「えい!」
引き金を退いてショットを撃っていくが、弾は的に当たるどころか掠りもしない。
「特訓か」
「あ、ヴァン!!」
「いきなり呼び捨てかよ…俺、一応君より年上なんだけどな…それにしてもこんな早くから特訓なんて頑張るな」
「そりゃあアタシは一流で世界一のハンターになるんだからこれくらい当然!でも全然当たらない…」
自分のレーザーを睨むように見つめるアッシュにヴァンは苦笑した。
「貸してみろ」
アッシュのレーザーを借りて的に向けて引き金を引き、一発一発を的確に的に当てて粉砕していく。
「う、うわあ!同じ銃なのに何でこんなに違うの!?」
「レーザーはバスターより出力が強いから反動も強い。君の力じゃまだ完全には扱えないんだ。撃った瞬間に腕がブレてたからそれじゃあ的に当たらない。もう少し力が付けば当てられるようになるさ」
「そっか」
レーザーを返すとヴァンは自分のバスターを取り出した。
「(モデルOのこのバスターってプレリーから聞くとプレリーのお兄さんがモデルH達のオリジナルと戦っていた数百年前の戦争時よりも大昔の武器なんだよな…それなのにまだまだ現役で使えるってこのバスターを作った奴って何者なんだ…?)」
「何その古いバスター?」
「数百年前の戦争よりも更に大昔の時代からあったバスターらしい」
「骨董品じゃん!!売れば高値で売れそう」
「止めてくれ」
数百年前の骨董品と言うことで目がゼニーになっているアッシュからバスターを庇うヴァン。
そしてアッシュから目的地を聞いて、大体の位置を知っているヴァンはアッシュを背負ってダッシュ移動をする。
「大人達が乗るマシンより速ーいっ!」
ハンター達が乗っているマシンより速いことにアッシュはまるで遊園地のジェットコースターに乗っている気分になる。
「そりゃ良かった」
本気を出せばもっと速いスピードを出せるが、アッシュを背負っているのでそうはいかない。
しばらくしてハンター達の仮のハンターキャンプを発見した。
「あれだな、後は帰れるよな?」
「うん、ありがとヴァン」
ヴァンの背中から下りると、アッシュは楽しそうに笑いながら礼を言う。
「別に構わない…」
ヴァンが言い切る直前にハンターキャンプから爆発が起きた。
「「!?」」
二人が慌てて振り返ると、イレギュラーの大軍による襲撃を受けていた。
「ハンターキャンプが!?」
「イレギュラーの襲撃を受けているようだな…アッシュ、ここにいろ。すぐに片付ける」
「嫌!アタシも行く!イレギュラーなんか怖くない!こいつでやっつけてやるんだから!」
アッシュの言葉に一瞬、困ったような表情を浮かべるが、置いていってもついて来そうなので一緒の方が安心だろう。
「分かった、ただし…俺から離れるなよ?」
「うん!」
アッシュを抱えてハンターキャンプに向かうヴァンはそこで予想もしていなかった発見をすることになるなど知る由もなかった。
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