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肉吸い

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第四章

「まさに」
「そうなりますな」
「最初に見た猟師も思ったのでは」
「この女は妖怪だと」
「山は妖怪も多いです」
 獣だけでなくというのだ。
「昔から言われて」
「誰もが知ってますな」
「海や川もそうですが」
 こうした場所もというのだ。
「人がいつもおらぬ場所、街では物陰です」
「妖怪はそうしたところにいる」
「そこにいるものですから」
「山でそうした女を見れば」
「それこそです」
 南方は老人に今度は肴の干した小魚を出しながらさらに話した。
「怪しいと思わぬ方がです」
「おかしいですな」
「そうなりますな、そしてその女から逃げて」
 そしてというのだ。
「後で山にいた山の民からです」
「その女の話を聞いて」
「肉吸いとわかり」
 その女の正体がというのだ。
「その猟師が世に伝えたのでしょう」
「そしてその話を聞いて」
「別の猟師が妖怪を退治しようと思い」
「弾にですな」
「そう書いて」
 南無阿弥陀仏と、というのだ。
「撃とうとしたのでしょう」
「そういうことですか」
「はい、そして」
 そのうえでとというのだ。
「この話が伝わったのでは」
「先生はそうお考えですか」
「お話を聞いて色々考えますと」
 老人に飲みつつ考えている顔で答えた。
「やはり」
「成程、深いですな」
「昔話では偶然となりますが」
「よくありますな」
「しかしそれで助かることは確かにあっても」
 それでもというのだ。
「そうそうあることではないので」
「偶然ですからな」
「この世の普通の動きを考えますと」
「そうした話の流れだと」
「考えた次第です」
「そうですか、実はです」
 老人は南方に干し魚を齧りつつ話した。
「この肉吸いには他のお話もありまして」
「と、いいますと」
「別に南無阿弥陀仏と書かず」
「それを書いた弾を使わず」
「最初から持って行かないで」
 そしてというのだ。
「鉄砲で狙いを定め火縄を打つと」
「それで、ですか」
「消えたというお話もです」
「あるのですか」
「これが」
「そうですか、そうした話も」
「有り得ますか」
 老人は南方に問うた。
「こちらのお話も」
「むしろ最初から南無阿弥陀仏と書いた弾を持っているより」
「有り得る」
「そう思いました、まことに普通の姿と言葉遣いと歩き方の女が山奥に出てくれば」 
「怪しく思い」
「妖怪に違いないと思い」
 そしてというのだ。
「狙いを定めることもです」
「あるので」
「ですから」
 それでというのだ。
「こちらの話の方がです」
「有り得るとですか」
「思います、しかし」
 南方も干し魚を齧った、そうしつつ老人に話した。
「妖怪というものは怪しく怖くそして」
「そしてといいますと」
「面白いものですな」
 笑っての言葉だった。
「実に」
「そう思われますか」
「だからこそ調べています」
 学者としてそうしているというのだ。 
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