提督はBarにいる。
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暑気払いに夏を感じる1杯を・2
さて、夕雲のリクエストに応じて冷たいカクテル。それも、長波と同じように大量の氷と共に楽しむカクテルを提供するとしよう。
まずは用意するのはミキサー。そこにテキーラを30ml、ブルー・キュラソーを15ml、レモンジュースを15ml、砂糖を1tsp。これを氷と共に撹拌し、氷が細かくなるまでミキシングする。
お次はグラスの準備。カクテルグラスの縁を軽く濡らし、細かい粒子の塩を付ける。所謂スノー・スタイルグラスにしたら、ミキサーの中身を静かに注ぐ。これで完成。
「お待たせしました、『フローズン・ブルー・マルガリータ』です」
「あら、長波さんにはかき氷で私にはフローズンドリンクですか?」
「うっせぇ、ソフトドリンクじゃなくてちゃ~んとカクテルだっての。文句は飲んでから言え」
「は~い♪じゃあ早速頂きますね?」
口は悪いくせにニコニコと笑みを浮かべてグラスを傾ける夕雲。最初に感じるのは、冷たさ。細かく砕かれた氷が、カクテルに使われるリキュールの酒精と共に流れ込んで予想外の冷涼さを感じさせる。それを追うようにキュラソーのオレンジとレモンジュースの柑橘系の酸味とグラスの縁に付けられた塩気が舌の上で躍る。しかし加えられた砂糖がバランスを取り、刺激的な酸味は無い。寧ろ冷たさを引き立てる様な爽やかな酸味。とはいえベースの酒はテキーラ……強い酒精が有名な酒だ。喉を通る瞬間にカッと熱くなるのでは?と思いきや、更に冷たさを助長しているのではないかとさえ思える程に喉を冷たい液体と固体の混じり合った物が通り抜けていき、胃に届くとその冷たさが体内にまで伝播していく。
「はぁ……冷たくてスッキリしますね」
「アタシ達は姉貴のせいで顔が熱いけどな」
「まったくです」
「あら、貴女達熱でもあるんじゃない?体調管理は自己責任よ?」
「「いや、誰のせいだよ」」
シレッと惚けてみせる夕雲に、ジト目でツッコミを入れる妹2人。流石は連携を重視する夕雲型、やり取りにも熟練の芸人みたいな空気が漂ってるな。
「だって、提督に手を出してる訳でもないし、提督に直接アピールするのはケッコンしてなくてはダメ、なんてルールは無いでしょう?だから私の行動には何ら違法性は無いわ」
「いや、そりゃそうだけどさぁ……」
「程度の問題、というのを考えて下さい」
「あら、男と女……いえ、男を賭けた女同士の争いよ?手段なんか選んでられないわ」
「それでも実の姉が目の前でおっぱい見せつけて男を口説こうとしてるのなんて見てらんねぇって!」
すげぇな長波、物怖じせずに問題点にそのものズバリ斬り込んだぞ。
「あら、色仕掛けは有効なアピール手段だもの。提督はエッチな娘はお嫌い?」
……おぉっとお?流れ弾がこっちに飛んできたぞ。さてどう返答するのが正解か。『好きだ』と答えれば夕雲が更に攻めてくるだろうし、『嫌いだ』と答えれば他の嫁艦からキツく問い質されそうだ。あれ、これ詰んでね?
「あ~……まぁスケベな娘は嫌いではないが」
ほらね?とばかりにどや顔をする夕雲。
「だが、スケベなのと痴女は話が違うだろ?夕雲」
「……はい?」
何を言っているのか解らない、という表情に切り替わる夕雲。確かに俺は性欲は人より強いと自分で認識してるし、そんな俺を好いてくれる女は大好きだ。スケベならお互いに楽しめるし悪いことだとは思わん。ただ、節操なくその辺でおっぱいを見せつけて来たりするような恥じらいも無いのはちょっと……なぁ?何ていうかその、風情がない。俺は自他共に認めるドSだが、こっちが責めてるのに相手がオールOKバッチコイ!と全てを許容して受け入れられると何だか責めている楽しみが減って萎えてしまう。多少なりとも恥じらいは持っていてほしい。それか、完全に振り切って虐められるのが大好きなドMかだ。
「最近嫁艦共が余計に恥じらいも躊躇いも無くなって来ててな……」
ハーレム状態なのに何を贅沢な!と思われるかも知れんが、痴女に囲まれるって意外とストレスだぞ?普通の女性の中に何人か居る、位ならまだその人の個性と捉えられるが全員が全員だとなぁ。
「痴女……私が?痴女?そんな……あははははは」
夕雲は痴女呼ばわりされたのが余程ショックだったのか、カウンターに突っ伏して何かブツブツと呟いている。
「うぉ~い姉貴ー?大丈夫かー?」
「放っておきましょう長波姉さん。少しは良い薬です」
「早霜、お前意外とそういうトコドライだよな」
「そうでしょうか?心の傷は放っておくのが一番の薬だと思っているだけです」
そんな会話をしている所に、ドアベルが来客を告げる。
「やっほ~提督ぅ、非番だけど飲みに来たよー♪」
そこに立っていたのは私服姿の鈴谷だった。
「おいおい鈴谷、お前まさかもう倦怠期突入かぁ?」
「ちょっと馬鹿言わないでくれる!?今日はダーリンと一緒に式場巡りしてきたんだから!それとモヒートね」
ウチの所属の鈴谷は数少ない、鎮守府の外で恋人を作った艦娘だ。半年くらい前に同棲を始めたとは聞いていたが、式場巡りという事はどうやら身を固める決断をしたらしい。
「ほぉ~?そいつはおめっとさん。モヒートは俺の奢りだ」
「どもども。って事で提督ぅ、ご祝儀期待してっからね?」
「はいはい、貰って逆に恐縮する位の額を包んでやるよ」
「にひひひ、そうこなくっちゃね!ところで夕雲ちゃんはどしたのコレ?」
「あ~……姉貴はなぁ」
長波が鈴谷に夕雲がこうなってしまった経緯を説明している。その間鈴谷は一言も発せず、ただ静かにモヒートのグラスの中に入れられたミントの葉を潰していた。
「ふ~ん……長波ちゃん達には悪いけど、鈴谷は夕雲ちゃんの気持ちの方が共感できちゃうかなぁ」
「え、だって誰から見てもやり過ぎですって」
「でもさぁ長波ちゃん。それってどんな事をしてでもその人の事が欲しいって思えるから、そういう事をしてるんだと思わない?」
「夕雲姉さんのアレは、過剰な愛情表現だと?」
「ま、簡単に言うとそう言うことになるのかなぁ。ぶっちゃけ鈴谷もそういう事した覚えがあるから解るんだけどね」
「えぇ!?もしかして今の彼氏さんを……」
「あははは!違う違う、今のダーリンは向こうからナンパされて付き合い始めたのー。それより前……うん、鈴谷の初恋の相手にね」
そう言って鈴谷は口を湿らせる様に、モヒートのグラスを傾けてその中身を半分ほど飲み込んだ。
「もうすぐ別の人と結婚するからぶっちゃけちゃうけどさ。実はね、鈴谷……ず~っと提督の事が好き、だったんだよね」
しん、と静まり返る店内。誰かが唾を飲み込むゴクリ、という音が嫌に響き渡る。
「最初はさ?提督の事をからかってるだけで楽しかったんだぁ。けどね、どんどん提督に接してる内に提督の事ばっかり考える様になっちゃって……『あ、提督の事が好きなんだ』って気付くまでそんなに時間はかかんなかったよ」
「告白してみようか迷ってる内に提督が金剛さんと結婚しちゃって、凄く嫉妬した。『鈴谷を1番に愛して欲しいのに』って。でもね、提督が金剛さんと触れ合ってる時って凄く優しそうな顔するの。他の娘達にも勿論優しいけど、金剛さんの時だけは特別な顔してた。だから、提督の1番は金剛さんだって嫌でも解らされた」
「多分、無理矢理金剛さんから提督を奪っても鈴谷にあんな顔はしてくれない……そう解ったら、提督の事を諦められた。やっぱり好きな人の1番でいたいって思っちゃうからさ。まぁ、加賀さんとかは未だに狙ってるみたいだけどね?」
そう言ってモヒートのグラスを干した鈴谷は、少し寂しげに笑った。
「だからね、長波ちゃん。夕雲ちゃんが変な事してもとりあえず見守ってあげてよ。好きな人の為に必死になれるって、それだけで素敵な事だからさぁ……それに、鈴谷には最後まで貫き通せなかったから」
後書き
……前回の話との落差がヒデェwww( ^∀^)←作者
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