戦国異伝供書
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第八十九話 初陣での大手柄その十一
「あの家をな」
「誰もいなくなってですな」
「完全に滅んだな」
「はい、嫡流は」
「あれは互いに殺し合ってじゃ」
その結果というのだ。
「誰もいなくなったが」
「酒に倒れるのも同じですな」
「うむ、やはりな」
そこはどうしてもというのだ。
「それで言うのじゃ」
「人が多くいる為に」
「お主もな」
「長く生きるべきですな」
「そうじゃ、早く死ぬでない」
くれぐれもという言葉だった。
「わかったな、家の為でもあるしわしとしてもな」
「兄上としても」
「お主がおらぬと寂しい」
元就としてもというのだ。
「だからな」
「寂しいですか」
「母上に去られでじゃ」
五歳の時にというのだ。
「そして父上、兄上にな」
「そう言われますと」
「そうであろう、寂しいであろう」
「こうも身内に続けて去られますと」
「もうそうした思いはしたくない」
それ故にというのだ。
「だからじゃ」
「それがしは」
「左様、長生きしてな」
そしてというのだ。
「わしと共にいてくれ」
「はい、では何があろうとも」
「頼むぞ」
「そうさせて頂きます」
元網は兄に切実な声で答えて誓った、何としても兄の傍にいると。そうしたことを話してそのうえでだった。
二人共幸松丸に医師をつけ薬も出してもらい回復を祈願していたががそれでもだった。
幸松丸は世を去った、それを聞いてだった。
元就は妻にこのうえない無念を感じて言った。
「やはりな」
「殿は」
「人の命程わからぬことはない」
「どうしても」
「特に子供のことはな」
今もこのことを言わずにいられず言うのだった。
「わからぬ」
「急に世を去る」
「前から身体が悪くてもそうなってな」
幸松丸の様にというのだ。
「とかくすぐにこの世からいなくなる」
「やはり子供は神世にあるものですね」
「全くじゃ、何時どうなるかわからぬ」
「それで殿も」
「みかられた、それでじゃが」
元就は妻にあらためて話した。
「家のことであるが」
「次の主は」
「わしということでな」
「そうなりますか」
「実は決まっておる」
こう妻に話した。
「そのことはな」
「左様ですか」
「だからこれからはな」
「主となられたうえで」
「家を動かしていく、城もじゃ」
住むそこもというのだ。
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