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仮面ライダーLARGE

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第五話「LARGE一夏」

 
前書き
一夏が雷羽と同体系。 

 
 「……帰ったぞ? 一夏」
 いつものように帰宅する姉を、台所から振り返って「お帰り、姉貴」と言う熊のように大柄で太った青年が振り返った。
 「……また、太ったのか?」
 「そう思うか?」
 呆れた目で、いや……弟であれども蔑むような視線で姉の千冬は熊体系の弟をデブというような視線で見下ろした。しかし、一夏はもう慣れっこだという感じで何も感じることなく、テーブルの上に出来たばかりの料理を並べた。
 「全く、お前は少しやせようとする努力をしようとしないのか?」
 「うん……」
 食事中でも、千冬の問いに対して一夏は「うん」、「ああ」の二言だけしか返してこないのだ。
 「……」
 今一度、姉は美味そうに夕飯を食っている弟を見た。体系は何度も言うように熊のように太った巨漢、顎髭が濃くて毛深そうな見た目が第一印象である。
 ――どうして、こんな姿になったんだろうな?
 しかし、千冬は今宵決心したかのように彼にこう尋ねた。
 「なぁ……一夏?」
 「あぁ?」
 「……お前は、何でこんな体系になった? 小学生の頃はもっとスリムだったはずだぞ?」
 「ああ、そうか? まぁ、いろいろとね……」
 「ッ……!」
 しかし、詳細を答えようとしない一夏に千冬は次第にいら立ちし始めた。
 「一夏、私は痩せていたあの時のお前が好きだったな?」
 「あっそう」
 「一夏! 私は、遠回しにお前へ痩せろと言っているんだぞ!?」
 ドン! と、机をたたいて千冬は立ち上がったが、それに少し目を丸くした一夏は時期に何時もの落ち着いた表情に戻ると、こう言い返す。
 「姉貴の将来に関係するってことになると、今の俺は邪魔だってことだな?」
 「なっ……」
 「いいさ? 俺、バイトで金貯めてっから。あと少しで目標額達成できるし、一人暮らしするよ。それで、いいだろ?」
 「別にそこまでしろとは言っていないだろ!? 要は、痩せればいいんだ!!」
 「痩せたって、意味ないよ? どのみち、俺は『織斑千冬の弟』なんだからさ?」
 「だからどうした? お前は私の弟だぞ? 当たり前なこと……」
 「それで、周囲からの視線がどれだけ辛いかわかってるのか?」
 「なに……?」
 「アンタは、いつも優等生だよな? けど、俺が何かドジると『千冬の弟のくせに』っていうレッテルが何処までも付きまとって来やがる。仮にドジらなくたって『千冬の弟だから当然』ってのが来るから、意味がない。だから、精神的に病んでたらこうなった。こうなったら、もう体系変えて別人になろうと思ってる」
 「ば、バカなことを言うな! そんなこと、私が……」
 「ごめん。もう決めたことだから、それにもう不動産屋に行って住む予定の場所も決めてある。だから、あと数日ぐらいしたら出てくよ? 引っ越しの荷物もだいぶ処分してまとめたから、もう部屋に余計なものはないよ? あったら処分してくれ」
 そう、言いたいことだけ言うと、一夏はそのまま食い終えた飯の皿を抱えて流しの方へ持って行った。
 「ふざけるな! お前は私の弟だぞ? 別人になる必要なんて……」
 何度も引き留めることを言い続ける千冬であるも、そんな彼の言葉などスルーして一夏は二階の自室へ向かった。
 「……いよいよだな?」
 来週からはついに姉からの拘束も逃れて一人暮らしができる。大方、家事全般や自炊もやりこんできたから姉がいない時でも一人暮らしは慣れている。
 「後は……」
 仕事だ。それについて親友の店でバイトと考えているが、バイトでは不安だ。そんなとき、ふと職安へ寄った際にある求人を手にした。
 雑用で清掃業、給料も一人暮らしには十分すぎる給料だし、前のバイトでも経験はある。待遇もいいから打って付けであった。
 しかし、やや好条件すぎるのが逆に怪しいが、それでも今の自分には必要である。それに相手側に連絡したところ、人手が欲しいから面接抜きで即採用してくれた。

 そして、彼は仕事に出かけた千冬に置手紙を残して家を出て行った。
 『出ていきます、さようなら。一夏より』
 ただ、それだけだ。念のため履歴書も書いたし、一夏は荷物をまとめて家を出て行った。
 都心に出て、一夏は何時もと変わらぬ風景を見ながら社会人にまみれて予定の場所へと向かった。
 周囲の風景は実にみじめで嫌な光景ばかりだった。こんな爽やかな朝の時間帯にも女尊男卑は露骨に見えてくる。
 「ここをこうして……あと、こうすればいいわね?」
 「あ、あの……でしたら、こうすれば効率がいいのでは?」
 「黙ってなさい! アンタ、幾ら年上だからって私は女性なのよ!? 大人しく言うとおりに従ってなさい!!」
 「す、すみません……」
 OLが、胸を張って後ろの男性社員を引っ張っているように見えるが、そこから聞こえてくる会話のほとんどはただ単に女側が威張っている様にしか見えなかった。
 ――いやな光景だな……
 そう睨みつけて、一夏は再び足を動かした。
 「本当に、この世界はどこへ向かっているんだろうか……」
 つい、彼はそう愚痴った。女だから戦争は起きない。争いもない。平和が続く。どこかのバカみたいなフェミニストの男がそうアホなことを言っていた。
 こういう状況になって、そいつの顔をもう一度見てみたいものだ。絶対、女に敷かれている奴に違いない。
 「……」
 ため息をついて、彼は待ち合わせの公園に向かった。仕事内容は詳しく言うと公共物の清掃業務というらしい。
 「まだかな……?」
 ベンチに座って待っていること十分ほど。愛嬌のよさそうなスーツを着た眼鏡の男が現れた。
 「ああ、ここだったかい? 君が……織斑一夏君かな?」
 と、彼は腹の出た熊のような大柄青年を目に訊ねた。
 「はい、自分が……織斑です」
 「そうなの! いやぁ~若い子が来てくれて本当に助かるよ? ああ、長く続けれるようなら。正社員にもしてあげれるから頑張ってね?」
 「え、本当ですか?」
 「うんうん! こう見えて、ウチは男性差別なんて御法度で仕事しているから。安心して働いてくれればいいよ?」
 真っ先に飛んできたこの言葉に一夏はすっかりと心を許してしまった。
 「じゃあ……とりあえず今から一緒に事務所まで来てもらおうか? お仕事の説明をしたいしね? 本当は事務所まで来てもらう予定だったけど、職場が少し複雑な場所にあってね? じゃあ、行こうか!」
 「はい! お願いします」
 一夏の、その巨体が深々とお辞儀をした。
 それから、一夏は社用のワゴン車に乗ってここからそう遠くない場所。しかし、やや薄暗い道を行ってはその奥に佇む事務所らしき場所へたどり着いた。
 「ささ! 入って?」
 「は、はい……」
 ビルとビルの間の裏側にある日の当たらない場所にそれはあった。
 事務所には「清掃会社ショッカー」というシャレた名前の小汚い看板が掛けられていた。はて、ショッカー? どこがで聞いた覚えが……
 「ほらほら、お菓子とお茶もあるんだし。お茶しながらゆっくりと仕事の説明をしてあげるよ~」
 「ど、どうも……」
 もてなしも良すぎて、逆に怪しすぎやしないかと思うも、一夏はそれでもここまで来たなら引き返したくないという思いから、疑う心も抑えて事務所に入った。
 「えっと……ウチはこういう仕事を主にね?」
 と、片手に緑茶と煎餅を齧りながら一夏は男の説明を熱心に聞いた。しかし、お茶を飲んだ後から己の体に妙な異変を感じた。
 次第に瞼が重くなり始めたではないか? 次第に聞く力も失っていき、激しい睡魔によって体がドッと重くなってきた。
 「あ、あれぇ……?」
 「それでね? 実はさ? 人間の体を……」
 何か言っている。しかし、もうこれ以上の言葉は頭に入ってこれなくなった。
 「う、うぅ……」
 そして、彼の足元に湯飲みが零れ落ちて割れてしまうと、そのまま勢いよく机の上に伏せるようにして一夏は倒れてしまった。
 「……くっくっく!」
 男は、ようやくここいらで本性を現す。男は立ち上がると深い眠りについた一夏を見下ろしてこう言う。
 「おめでとう。君は栄えあるショッカーに選ばれた。我ら親愛なるショッカーは君を心より歓迎するよぉ? ハッハッハァーッ!!」
 男は眼鏡を外して言い捨てると、素顔を見せんかのように両腕を広げて天井に向かって高く笑いあげた。
 男は、自分の顔をはぎ取ると、そこからは別の老人の素顔が現れた。ショッカー日本支部のドクター・ジルキスであった。そして、その事務所から一部始終を見届けていたもう一人。ロッカーから身を縮ませながら窮屈そうに出てきた大男、日本支部の管理司令官グロリアスであった。
 「あぁ~肩こったわい……して、ジルキスよ? これが例の二号LARGEになるための青年であるか?」
 「はい! こうもホイホイと引っかかるとは人間なんてチョロいもんですなぁ!!」
 「同感だ! ワッハッハ~!!」
 
 数日後、熊牙神社にて

 それからしばらくたったある日のこと。蓬町の一件から俺はもう仮面ライダーに変身しなくなった。
 大半の生活には人であるときだけの能力のみで十分すぎる。
 「今日もお疲れさまだね、九豪くん」
 箒を片手に巫女装束を来た朱鳥が駆け寄ってきた。俺は、本殿の縁側をぞうきんで磨いていた。
 「神職って、結構激務だね?」
 俺はやや汗だくになった。と、いうよりも朝の早朝から起きてお祈りや掃除、それが終わったらようやく朝飯。
 「やれやれ、こいつはそれ相応の給料をもらわねぇとな?」
 と、冗談交じりに俺は笑った。それに、朱鳥はフフッと御しとやかに微笑んだ。
 そんなとき、境内に今日の参拝者一号なる人間の足跡が聞こえた。この気配は常連のお婆ちゃんかと思ったが、それは異様に違っていた。
 ――だれだろ?
 俺たちは耳をすませた。
 この気配、とてもじゃないが純粋でケガレのない清い感覚。神とまでは劣らないが、それに近いような存在でもあった。明らかに普通の人よりもかけ離れた人格的気配であった。
 「あれぇ? こんなところに立派な神社があったんだね?」
 それは、一人の青年であった。笑顔でこの境内に立ち寄って、真っ先に俺たちを目に、手を振ってきた。
 「あ、どうも……」
 朱鳥はお辞儀して、俺も一様軽く会釈はしておいた。
 「どうもどうも! 立派な神社ですねー?」
 「あ、はい」
 「え、神職の人たちってお二人だけ?」
 「まぁ、そんなとこですね?」
 と、俺は苦笑い。
 「あーそうなんだ! そいりゃあ大変だねぇ? まぁ、頑張った後のご飯は美味しいしね?」
 ――誰だ? この人……
 怪しいというよりかは、気配からして全く悪意なんて持っていない。とても人懐っこいオーラを発している。そして、この境内に害のない清らかな風格だ。
 「あ、申し遅れました。俺、こういうモンです!」
 そう青年は俺たちに懐から名刺を取り出すと、丁寧に手渡した。
 「……夢を追う二千の技を持つ男、五代雄介?」
 俺はそう青年を見上げた。
 「はい、そういうもんです! よろしく!!」
 と、元気に爽やかな笑顔で青年は俺たちにサムズアップを向けた。
 「は、はい……」
 と、またもや俺は苦笑い。
 「もし、よろしければ参拝されて行かれますか?」
 「あ、いいんすか! あっ、でも……すんません、俺今一文無しなんですよ~?」
 小銭も持っていない。そういう顔だった。
 「べ、別にそういうものはお気持ちだけで結構ですので……」
 さすがの朱鳥も苦笑いになった。
 「あ、じゃあ御言葉にあまえて」
 そういうと、五代という男は拝殿前で鈴を鳴らし、手を元気よく叩いて熱心に拝んだ。
 「どうか、次の旅でも怪我をしませんように……!」
 「旅してるんですか?」
 ついつい願い事を盗み聞きしてしまった俺は、参拝を終えた五代に問う。
 「うん、いろんなところに行って多くの子供たちの『笑顔』を見て来たんだ。本当に素敵だよね、世界って」
 「旅か……」
 俺も、一度は朱鳥を連れて旅をしてみたいものだ……朱鳥とね。
 と、妄想を振り払いながら俺は作業に集中した。
 「ねぇ、九豪君。よかったら今度一緒にどこかへ行きませんか? 旅行で――」
 穿き掃除をしていると後ろから、そう彼女が体をモジモジしながらそう言ってきた。
 「え、え!?」
 固まった俺に朱鳥は少しびっくりしたように続けた。
 「親睦を深めるため――です」
 「あ、ああ! その……別にいい、かな? いやいや! 別にって言い方はだめだ。いいよ、うん!!」
 咄嗟に慌てふためく俺に朱鳥は「ふふッ」と笑んでから
 「それじゃあ、行けるような時間が来たらお誘いしますね」
 そういって、彼女はこちらに背を向けて玉砂利を駆けていった。
 「デート……お泊りデートかぁ――」
 ああ! もう!! そんなの反則じゃねぇか~!!!
 しかし、そんな彼の元へある気配が忍び寄ってきた。
 「よおぅ? 朝から熱々だねぇ~」 
 サングラスをかけた例のインターポールのおじさん、銭形――じゃなくて、滝和也さんが耳元で嫉妬の顔を向けてきた。
 「うわっ!?」
 「ったく、図体のでけぇくせに肝がちいせぇなぁ?」
 「あの、何ですか?」
 と、俺は不審者を見る目で滝さんを見た。
 「ああ――そうだったな」
 そういって、彼はコホンと咳払いした後に改めて話始めた。
 「最近調子どうよ?」
 「まぁ、俺……」
 この人にも思い切ってライダーをやめようと告げだすが、 
 「ああいい、もう言うな。俺が決めるわけじゃない。お前が決めればいい」
 「知ってたんですか?」
 「ああ、静かに暮らすんだろ? けどな、もし――何かあったときには手伝ってもらいてぇんだ。ライダーに偏しなくてもな」
 「はい……」
 「まぁ、そんなことだから二人で幸せに暮らせ。俺の知ってるライダーたちとは違ってお前は孤独じゃねぇんだ。朱鳥ちゃんを守ってやれよ」
 「はい――その、滝さん」
 背を向けていこうとする滝は俺の声に再び振り返った。
 「あぁ?」
 「……ありがとうございます。それと、頑張ってください」
 神職の装束を着た巨漢の青年は深々と頭を下げた。
 「おう!」
 そういって、彼は立ち去った。
 「あら、滝さん」
 途中で朱鳥と出会ったとたん、滝は鼻の下を伸ばしだした。
 「よう朱鳥ちゃん! きょうも可愛いねぇ~」
 「え、えへへ……あ、寄って行かれますか? お茶ぐらい――」
 「いや、偶然酔っただけさ。道草食ってると一条のやつに叱られちまうからな!」
 そう言って、彼は境内の石段を下りていった。
 ――朱鳥をまもる、か……
 よし! 俺は意気込んで御奉仕に力を入れて今以上に集中して石畳を掃き清めた。
 本気でやるものだから、箒が摩擦熱で消滅してしまったのは言うまでもない……
 「やっべぇ~後で買いに行ってくるか」
 そういって、朽ち果てた箒を捨てに行こうとしていた時であった。
 境内に朱鳥の悲鳴が響いた。
 「ッ!?」
 それに反応して、彼は急いで彼女がいた授与所の所へ行くと、授与所の外では、あのカラスの怪人が一体、片手を朱鳥の体に絡めさせて人質に捕らえていたのだ。
 「お前は――!」
 あのときのカラスロイドだ。それも、当初俺が千切った奴の片腕は鋭く巨大な刃物が手の甲爪のように生え出した義手に生まれ変わっていた。
 「この前のリベンジをさせてもらうぞ?」
 「よせ! 俺はもう――」
 仮面ライダーにはならないって決めたんだ! だが、朱鳥がとらわれているんじゃどうしようも……
 「ライダーにはなれないというのか? ふざけるな!! お前を八つ裂きにブチ殺すためにわざわざ新たなパーツを付け替えた俺はどうすればいい!?」
 背の巨大な黒い翼を広げて、義手の刃の先は片手に捕らえられている朱鳥の首筋へ向けられたのだ。
 「ライダーへ変身しろ。そして俺と戦え! 従わなければ、お前よりも先にこの子娘を八つ裂きにしてやるぞ!!」
 「や、やめろ! その子は関係ないだろ!?」
 「フン! この女が強化人間に変身などしなければこんなことにはならなかったのだ」
 「九豪君……」
 しかし、捕らえられている彼女の顔は助けてほしいと願う瞳ではなく、俺の案じた瞳で見つめていた。
 「逃げてください――はやく滝さんに!」
 「動くな? 動くとコイツがどうなるか……」
 「くそっ――」
 変身なんてすれば、あのときのトラウマが蘇ってくる。人を殺したことへのトラウマが、あのときの残像が蘇ってくるんだ――
 しかし、だからといってこれ以上誰かを失うのは嫌なんだ! 俺は振るえる両手で変身のポーズを慎重に構えた。
 「変……」
 そして、禁じたはずである変身をこうも早く解いてしまうなんて……
 そのとき、一発の銃声がカラスロイドの頭部に跳ね返った。
 「今だっ!」
 滝である。彼は朱鳥の悲鳴を聞いた後、すぐにもスナイパーライフルを取り出して応援に駆け付けにきてくれた。
 「なに?」
 そのすきを逃がさず、俺はカラスロイドへ飛び掛かった――が、
 「甘い!」
 義手の鋭い爪の刃が俺の腹部を斬りつけた。
 「ぐあぁ!」
 その痛みに俺はもだえ苦しんで、白い着物の腹部から赤い血が滲み出る。
 「九豪君ッ!?」
 とらわれている朱鳥はひっしにもがきだすが、それでも彼女を捉えているカラスロイドの力は医療用強化人間の彼女の力では振りほどくことはできない。
 「九豪雷羽! ライダーに変身しない限り、この俺には勝てん。明日また返事を寄こす。それまでこの子娘は人質として預かっておくぞ」
 そういって、カラスロイドは上空へと朱鳥を擦れて舞い上がってしまった。
 「朱鳥ァ……!」
 こっちへ駆け寄ってくる滝の姿を最後に、俺の意識は遠のいていった。
 それから、どれくらい気絶していたかはわからない。ただ、次に目を覚ました時には見知らぬベッドの上に寝かされていた。
 ベッド――というよりも手術台のような場所である。
 「……?」
 目を覚ました俺は起き上がって、肉付きのある上半身半裸の姿で辺りを見渡した。
 「ここは――」
 見知らぬ研究室のような場所だ。見慣れぬ大小の機会が周りに置かれ、そこで俺は点滴を受けているようだ。
 ポタポタと垂れ続ける点滴の雫を見上げていると、この部屋のドアが開いて誰かが入ってきた。白衣を着た老人であった。
 「おや、もう目が覚めたのかね?」
 白衣の老人は、俺が目を覚ましたことにホッと胸をなでおろした。
 「あなたが、俺を?」 
 「傷が深いうえに人工血液の出血も酷かった。しかし、急所がギリギリそれていたようだ。おそらく、あの怪人がわざと外したんじゃろう」
 「えっと、おじいさんは誰ですか?」
 強化人間を直すことができるくらいなら、名の知れた科学者だろう。
 「敷島茂三、1号ライダーを開発した緑川博士の助手をつとめていた者でね」
 緑川博士、噂では1号ライダーを生み出した都市伝説の人間らしい。
 「そうだ――朱鳥は!? あの子はどうなったんですか!?」
 台から立ち上がろうとする彼に「無理をしちゃいかん!」と立川博士は止めに入った。
 「まだ、完全に傷がふさがっておらん。安静にしていなさい」
 「しかし、このままだと……!」
 あのとき、ライダーに変身さえしていれば彼女を救えたのではないか? 自身の臆病さを悔やみだした。
 「安心しなさい。あのお嬢さんなら例の怪人に連れ去られたんだろう。いずれ戦うための人質にするようなら下手なことはせんはずじゃ」
 「ちくしょうぅ……!」
 ライダーにならずとも今の持てる力で十分な力を出せると思い込んでいた自分のうぬぼれが誰かをこんな危険な目にあわせてしまったなんて――
 涙ぐむ俺は、悔し紛れに治療どころじゃなくなっていた。
 「傷の具合はどうだい?」
 室内よりまた新たに誰かが入ってきた。滝である。
 「滝さん……」
 「ああ、朱鳥ちゃんについては残念だな……まぁ、大丈夫だ!」
 「――すみません。俺がもっとしっかりしていたら! 変身していたら……」
 「過ぎたことはもうどうしようもねぇよ。今は、これからのことを考えるんだ」
 そういって、滝は両腕を組んで唸りだした。
 「またお前と決着をつけるって言ってたよな。そんときに朱鳥ちゃんを助けりゃいいんだよ。今はそれに向けて体をゆっくり休めておけ」
 そういって、悔やむ俺の肩を滝さんがポンと叩いた。 
 「はい――」
 「しっかし、あの怪人はやはりネオショッカーの奴らか?」
 これまでの戦いからして一番古臭いかつしつこい組織と言ったらショッカーしか思い浮かばないのが滝の知識である。
 「いいや、ショッカーではない。確かにショッカーは今もなお健在だが、そのショッカーを陰で操っておる真の組織がおる」
 「ショッカーを? って、もしかして……」
 嫌そうな顔をする滝はしぶしぶとその正体を口にした。
 「……バダン、だろ?」
 「左様、バダンを撃退しないことにはこの世界に真の平和は訪れないじゃろうな」
 「できる訳ないだろ? 最近じゃあライダーの名をかたった悪党どもがうじゃうじゃしてんだ。最もいい例が浅倉っていう国際指名手配されてる死刑確定な似非ライダー野郎だな。仲間を集めるよりも先に仮面ライダーの名をかたる糞ライダーどもを叩き潰す必要があるぜ」
 滝は、これまで1号からZXまでの仮面ライダーと共に世界のために戦ってきたことから仮面ライダーをかけがえのない戦友として慕ってきた。そのことから、ライダーの力を手にしてもなお悪事を働く悪党どもに対しては腸が煮えくり返るほどの怒りを持っている。
 「皮肉なもんじゃな――ショッカーから生まれた強化人間達をベースに後に数ある他の組織らが人間でも仮面ライダーの力を手に入れられるアーマーシステムを生み出してしまい、それを私利私欲のために使う人間達が増えてきた」
 そして、敷島博士は次に俺の方へ振り返った。
 「皮肉にもショッカーは強化人間の技術には力を入れている。当時とは違って力のコントロールには無意識に制御できておるじゃろ?」
 「は、はい――なんとなくっていうか、不安でしたけど……わかります」
 「強化人間の正体を扮して、一般人に紛れやすくするためにそのような調整が施されてあるというわけか」
 滝も、そんなショッカーの技術力には恐れ入った。当時は1号ライダーの本郷や2号ライダーの一文字らの力の下限による苦悩を共に乗り越えてやるのに苦労した者であるが、今ではそんなことを恐れる心配はないようだ。
 「……それで、九豪よ?」
 そういって滝さんは俺の隣に座った。
 「今のお前の心境を聞きたい。悪いと思っているが、こうなった以上お前も覚悟を決めろ。お前の選択を戸惑ったことで朱鳥ちゃんが攫われちまったのは確かなんだ」
 「はい……」
 そんなの、もうわかっている。勝手に都合のいいことに理由づけた俺の身勝手な言い訳のせいであの子をこんな目に合わせたんだ。
 「俺は、本当に大馬鹿野郎です!」
 自分の両手を思いっきり握りしめて俺はそう答えた。
 「だったら、やるべきことっつうのはわかるな?」
 「もちろん!」
 俺の迷いない顔に滝さんもフッと微笑んで懐から携帯を取り出した。
 「うし、今から一条にも連絡して協力させるわ。名誉挽回だぜ、カッコよく決めろよ!」
 アムズアップを向ける滝さんに俺も笑みを浮かべて頷いた。

 *

 土手の草原に横たわりながら、青い空にサムズアップの握り手を浮かべるその青年は、いつもとは似つかない悩む顔で何かを思い詰めていた。
 ――本当に、世界中が笑顔になったのかな?
 グロンギを倒した後もいくつかの組織が現れ、自分が取り戻した多くの笑顔を容赦なく奪い去って行った。その都度に自分の代わりに幾人もの同じような人たちが笑顔を取り戻しては、また奪い去られてしまう。それを何度もい繰り返していく悲しい世界は彼にとって心が痛んだ。
 とくに、ISによる女尊男卑いによって多くの男性たちが笑顔を奪われた。いくら自分や同じ人間達であっても今度は「世界」が笑顔を奪ったのだ。さすがにこれだけは笑顔を取り戻すことはできないだろう。
 もう、あの時のような笑顔に満ちた世界は取り戻すことはできないことに彼は心底心が沈んでしまった。
 心から笑顔になることはできない。本当にこの世界は何なんだろうか、守る価値はあるのだろうかという彼らしくない疑問さえ抱き始めていた。
 「そこのお兄さん――」
 「ん?」 
 思いつめる彼に一人の若者の声がした。白髪で長身な、顔の整った美少年ともいえる様子をした若者であった。
 「アンタ……クウガっていうんだろ」
 「え!?」
 とたんに飛び起きる様に起きた青年はいつものような明るい表情で彼にふるまった。
 「え、なに? もしかして――俺のファンとか?」
 「まぁ、興味あるんだよ。同じ同業者って感じでね」
 「……もしかして?」
 すると、フッと彼「五代雄介」は真顔に戻った。
 「そうだよ、ほら」
 そういって青年は微笑んだまま足元に転がっていた大き目の石を手に取ると、それを顔色一つ変えることなく片手に粉々に握りつぶして見せた。 
 「……君、強化人間って人たち?」 
 「そうだな。そんなところだ」
 「それが――俺に何か御用?」
 「いいや、偶然アンタを見かけたから声をかけたくなってね」
 「そう……」
 「まぁ、強いて言うなら……今からマンライダー(人間ライダー)共を殺しまわろうかって思ってさ」
 「――ッ!」
 そのとき、その青年からはとてつもない殺意が浮かび上がってきた。
 「ああ、お兄さんは良い人だから殺しはしないよ」
 「……どうして、そんなことを?」
 「理由は簡単だよ。人間の分際で、変身アイテムがなけりゃあ粋がれない痛い奴らだから。強化人間にされたこっちの身も知らないでさ。それと、ついでにISの女共も潰すこともリストに入れとくわ」
 「どうしてまた?」
 強めな口調になってしまった雄介だが、青年は続ける。
 「今度はこの社会が多くの笑顔を奪ったんだろ? だったら、俺がクウガさんの代わりに笑顔を取り戻してやるよ」
 「それが――本当に正しいと、思ってる?」
 悲し気な口調で問う五代だが、それでも青年は平然と続けた。
 「綺麗ごとを実現させようとしている間にも、多くの善良な人間達がこの世界から笑顔を奪われ、命を奪われていく。なら、手っ取り早くこの世界を壊しちまった方が早く解決するし犠牲もなくなるんじゃないか? 他の連中だって同じことを思うさ。仮面ライダー達も、こんな女尊男卑な世界を悪の組織から救う価値なんてあるのかってよ」
 「ッ―――!」
 その言葉に、五代は無意識に言い返せなくなった。いや、言い返したくなかった。誰が何と言おうとも、この世界こそが元凶なのだ。
 今や、仮面ライダーはショッカーなどの悪の組織同様の存在へ仕立て上げられており、彼らに感謝を示す人間達は一人も居なくなった。もっとも今や人間がライダーになれる時代だ。ライダーの力を持った人間達が悪事を働くことも少なくはない。これらによって仮面ライダーという存在を「悪」とという一文字へひっくるめてしまったのだ。
 「マンライダーどもが居なくなれば重犯罪はなくなる。この世界が終われば笑顔は帰ってくる。俺の言っていることが間違ってるか?」
 「けど――だけど! 力を力で解決するのは……」
 「あんただって、グロンギ共にも同じようなことをしてきた口だろ? 何をいまさら言ってんだ?」
 「ッ!?」
 もう、これ以上彼に言い返す術はなくなった。暗く俯く彼にそろそろと青年はここらで背を向けた。
 「じゃあな、また会おうぜ」
 そう言って、夕暮れの風に白髪を揺らしながら青年は去って行った。
 最後に残された五代は、本当に世の中が「力」で解決するのだろうかと未だ疑問を抱くも、それに言い返せる言葉はなかった。
 もう、この世界は――人間の世界には「暴力」でしか解決できないのかもしれないだろう。あきらめかけた五代から出てきた答えはそれであった……
 
  
 

 
後書き
次回
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