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Fate/WizarDragonknight

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キャスター

「サーヴァント キャスター」

 黒羽の天使は、静かに名乗った。
腰まで伸びた長い銀髪。血のように赤い瞳。
まるで拘束具としてデザインされたような、縛り上げられた服。
頬の部分に刻まれた赤い紋様は、まるで彼女が赤い涙を流しているようにも見えた。
 サーヴァント。キャスター。どちらが姓でどちらが名前なのか皆目見当がつかないながら、ハルトは彼女の全身から発せられる本気の殺意に、無意識にベルトを起動させる。

『ドライバー オン』

 いつもの音声とともにルビーの指輪を付けながら、ハルトは尋ねる。

「いきなり何のつもり? いきなり攻撃される謂れとおもうけど?」
「貴方がマスターであることは、その手の令呪が物語っている。戦う理由は充分でしょう?」
「また知らない単語……何? マスター? 令呪? 何のこと?」

 そう言いながら、ハルトはルビーを嵌めた手を見て理解する。
 先日前触れなく現れた、奇怪な紋章。これが、令呪というものなのだと。

「知らぬのなら、知らぬままに消えなさい……!」

 キャスターとやらは、掲げた手を振り下ろす。すると、彼女の傍らに、茶色の表紙の本が現れた。辞典のような厚さのそれが、自動でパラパラとめくられていく。キャスターはその赤い眼差しをページに目を走らせ、告げた。

「ディアボリック エミッション」

 それは彼女の声か、はたまた別の電子音か。
漆黒の光弾が重力に乗り、ハルトへ迫る。広範囲にぐんぐん広がっていくそれに対し、ハルトはハンドオーサーを操作する。

「ハルトさん!」
「変身!」

 まどかの悲鳴と重なる、ハルトの掛け声。爆炎は揺らめき、姿を変え、赤きウィザードの力と化す。

「俺に何の恨みがあるのか知らないけど、やめてくれない?」
「それはこの聖杯戦争さのものへの否定ですよ」
「……せめて知ってる単語を言ってほしいんだけど。これ以上やるなら、こっちも正当防衛するけど、いいよね?」
「どうぞ」

 キャスターの言葉に、ウィザードは背後のまどかへ告げる。

「ここは危ないから、逃げて」
「えっ……は、はい!」

 聞き分けのいい子で助かったと、見送るまどかの背中を見送るウィザードは、右手の指輪を入れ替える。
 同時に、キャスターもまた黒い光弾を発射した。今度は、小さな複数の光を直線的に発射した。そのプロセスは、パラパラとめくられる本を目で追っていただけ。

『ビッグ プリーズ』

 目の前の魔法陣に手を通す。すると、魔法の効果で数倍の質量になった腕が、そのまま彼女の攻撃を握りつぶした。

「ほう……」

 キャスターの感想はそれだけ。

「こっちは腕火傷した感じなのに……」

 腕を振って間髪いれず、ウィザードは次の手に出る。

『ハリケーン プリーズ』
『エクステンド プリーズ』

 エメラルドのウィザードは、風に乗って急上昇。伸縮自在となった腕を回転させ、キャスターへ切りつける。

「っ!」

 あまりにも無軌道な動きに、キャスターも思わず数回、ソードガンの斬撃を受けた。
 だが、その一連の流れは、キャスターの右手を顔の防御に回させただけ。緑の斬撃跡は、何もなかった。

「嘘でしょ……だったら!」

『ランド プリーズ』

 更に上昇、キャスターの頭上に作り上げた黄色の魔法陣を通過。トパーズのウィザードは、そのままキャスターに摑みかかる。

「無駄です」

 そう告げられたキャスターの言葉とともに、腹に痛みが走る。至近距離の光弾だった。
 だが、ウィザードは手を離さない。

『チョーイイネ グラビティ サイコー』

 ウィザード自身とキャスターの頭上に発生した魔法陣。それが織り成す重量により、二人の体は地表へ落下。

「っ、この中なら、もう飛べない!」

 数度の光弾により地面を転がりながらも、ウィザードはソードガンの手を開く。

『キャモナシューティング シェイクハンズ キャモナシューティング シェイクハンズ』

 トパーズの指輪で、握手をするように掲げた。

『ランド シューティングストライク』

 黄色の光が、銃口に集う。
 
 生身の人間などという遠慮はもうない。引き金を引いて、黄色の光弾が発射された。
 しかし、キャスターには通じない。腕で払う。そんな動作で、土の銃弾は上空へ弾かれ、グラビティの魔法陣と衝突。互いに消滅しあった。

「嘘⁉」

 さらに、キャスターの動きは止まらない。重力から解放された堕天使は、また上空へ飛び上がろうとする。そうはさせまいと、ウィザードはトパーズからサファイアの指輪へ交換する。

『ウォーター プリーズ スイ~スイ~スイ~』

 水のウィザードの強みは、他の形態とは比較にならない魔力量。それを行使するために、ウィザードは拘束の魔法を使う。

『バインド プリーズ』

 出現した魔法陣からは、青い水でできた鎖が飛び出す。それはキャスターの体に幾重にも巻き付いた。

「……?」

 キャスターは、力で振りほどこうとしているが、切れない。水でできた鎖は、物理的には破壊できないものなのだ。

「力ではなく、魔力で勝負だ!」

 さらにウィザードは、別の指輪をはめる。

『ライト プリーズ』

 発生した光が、キャスターの目を潰す。
 彼女が自身の姿を捉えられない隙に、ソードガンの手を開く。

『ウォーター スラッシュストライク』

 水の魔力を宿した刃で、キャスターに切りつけようと走り出す。
 だが。

「これ程度の魔力で」

 吐き捨てたキャスターは、全身から黒い光を放っていた。それは瞬時に水の鎖を溶解する。

「これもダメかっ!」

 しかしもう止まれない。スラッシュストライクを振るったウィザード。
 だが。

「……私には及ばない」

 これまで数多くのファントムを斬り裂いてきたスラッシュストライク。それがキャスターには、右手で簡単に受け止められた。

「そんな⁉」
「次はこちらから」

 キャスターは、左手に拳を固める。それは、闇の光を宿す拳。本がめくられる音が、ウィザードを戦慄させる。

「不味い!」

 逃げようとするウィザードだが、いつの間にかキャスターのソードガンを掴んでいた手は、そのまま左手を塞いでいた。
 逃げられない。そう判断したウィザードは、右手だけで指輪を持ち替え、ベルトを起動。

『リキッド プリーズ』

 文字通り体が液体に溶ける。おおよその物理攻撃に対しては無敵になる魔法で拳を受け、

 拳から爆発した魔力により問題なくダメージを受けた。

「ガハッ!」

 まどかの近くまで転がされるウィザード。まどかは「大丈夫ですか」と声をかけた。

「え……なんで君、まだ逃げていないの⁉ 危ないよ!」
「でも……ハルトさんが!」
「咎人たちに、滅びの時を」

 そう冷たく告げられたのは、キャスターの声。すでに宙に浮く彼女は、右手を掲げ、呪文を唱えている。

「星よ集え 全てを撃ち抜く光となれ」

 その口上の通り、夕方の空に、無数の星が出現。それら全てが、瞬時にキャスターの元へ集まっていく。
 その色は、それまでの彼女とは正反対に、桃色の光。
 その魔力の量。それを見たウィザードは確信した。魔力に秀でるサファイアだからこそ確信した。

「あれはまずい! 本当にまずい!」

 後ろにまどかもいる。魔力量に秀でるウォーターのディフェンドだけではとても足りない。

『フレイム プリーズ ヒー ヒー ヒーヒーヒー』

 慌ててルビーのウィザードにスタイルチェンジ。そしてすさかず、最大火力の指輪を使う。

『チョーイイネ キックストライク サイコー!』

 足元に生成された魔法陣より、右足に炎の魔力が集まっていく。
 しかし、キャスターがまだ完成途中の光の星と比べると、とても足りない。

「まどかちゃん! 離れて! 急いで!」

 鬼気迫る怒声に、ようやくまどかは背を向けて走り出す。
 さらにウィザードは、右足に火力が高まっていく途中であろうともおかないなしに、次の指輪を使う。

『ビッグ プリーズ』

 これを通せば、キックストライクも大きくなり、攻撃力も上がる。
 だが、まだ足りない。

『ビッグ プリーズ』
『ビッグ プリーズ』
『ビッグ プリーズ』

 何度も何度もビッグの指輪を読み込ませる。キャスターとの間に、その数だけの魔法陣が出現した。だが、まだまだあの一撃には程遠いというのが、自身の見立てだった。
 だが、時はそこまで。

「スターライトブレイカー」

 キャスターから告げられた、冷たい技名。それこそが、もう時間がないというお告げだった。

 キャスターの光が、光線となってウィザードに向かってくる。それに対し、キックストライクを蹴り上げた。
 無数の魔法陣を貫通するたびに、その大きさ、威力は倍々ゲームとなっていく。そして、炎の蹴りは、桃色の光線と激突。
 巨大な爆発が引き起こされた。



ウィザードはハルトの姿となって地面に投げ出される。

「うぐっ……」

 もくもくと立ち込める煙が晴れていく。綺麗だった公園は滅茶滅茶に破壊され、整った芝生は茶色の地表がむき出しになっていた。

「キャスターは……?」

 この原因を作り出した堕天使、キャスターの姿を求めて首を振る。
 あの堕天使の姿は、地上にはおらず、

 ほとんど無傷で滞空していた。

「え……」

 何も変わらない。美しい銀髪を靡かせ、漆黒の衣装のどこにも傷はなく。
 再び上げた手が、彼女の追撃を示した。

「!」

 ハルトは、ディフェンドの指輪を取り出そうとする。が、全身にフィードバックされたダメージで、もう動けない。

「ディアボリック エミッション」

 集う、黒い光。それがさっきまでのものと同じ威力なら、生身のハルトが受けきれるものではない。
 まずい、とハルトが目をつぶると、

「止めて‼」

 そんな少女の声が聞こえた。
 ハルトの前に立ち塞がる、小さな背中。桃色のツインテール。
 鹿目まどかが、恐怖に震えながらも、キャスターからの盾となっている。

「それじゃ、ハルトさん、死んじゃう! そんなことしないで!」

 今日初めて会った人のために涙を流す彼女。
 だが、それでさえも、キャスターの情を動かすものでもなかった。
 だが。

「止めなさい! キャスター‼」

 新たな声が飛んできた。
 慌ててまどかの前に立つ、黒髪の少女。
 まどかと同じくらいの背丈。制服が似合いそうなものだが、紫と白の、世間離れした衣装は、まどかの制服以上に彼女に似合っていた。

「キャスター! その攻撃を止めなさい!」
「……マスター……」

 その少女を見下ろし、キャスターの表情に陰りが宿る。

「どいてください。もう、ディアボリックエミッションは止められない」
「止めなさい!」
「……不可能」
 
 少女と問答している間に、漆黒の球体の重量に、キャスターの腕がもたなくなっていく。むしろ、取り落としてしまいそうになる。
 あの破壊力を考えれば、自分もまどかも、目の前の少女も犠牲になることは想像に難くない。
 どうすればいい。ハルトが必死に考えていた時。



令呪(れいじゅ)をもって命ずる! 攻撃を止めなさい! キャスター!」



 その時。
 少女より、途轍もない量の魔力が溢れた。
 紫の光を放つ魔力。その輝きが増せば増すほど、それは無理矢理キャスターの体の自由を奪っていく。
 そして、行方を失ったディアボリックエミッションは、
 キャスターの左肩に向かった。

「……」

 唖然とするしかなかった。
 こちらへ向けられていた矛先が、突如として自身の左肩へ切り替え、その結果、彼女の左肩から先が木端微塵になっていた。

「どうして……?」

 そう疑問に思ったハルトに、次の試練。

 庇ってくれた少女が、振り向きざまにこちらへ銃口を向けたのだ。
 どこにでもある、およそ女子中学生には似合わない凶器。

 ディフェンドが間に合ったのは、間違いなく運がよかったとしか言えなかった。

「次から次に……まどかちゃん!」

 ハルトはまどかの手を掴む。彼女が何かを言う前に、コネクトの指輪を起動。

「逃げるよ!」

 出てきたバイクにまどかを乗せ、アクセルを入れる。

「待ちなさい!」

 それはキャスターの声か、少女の声か。去り行くハルトには分からなかった。 
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