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戦国異伝供書

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第八十九話 初陣での大手柄その六

 彼は自ら陣頭に立ってそうして四千の兵を率いてそのうえで毛利家の軍勢を追っていった。するとだった。
 元就はそれを見て兵達に言った。
「よし、いい具合じゃ」
「敵が追ってきていますが」
「四千もの敵兵が」
「それでもですか」
「よいのですか」
「よい、充分川を渡れる」 
 それでというのだ。
「何も問題はない」
「左様ですか」
「それではですか」
「これより」
「川を渡りますか」
「そうせよ、すぐにな」
 こう言って兵達に川を渡らせた、彼等は疲れていたがそれでも川を渡る力は十分にあってそれでだった。
 毛利家の軍勢は全ての者が無事に川を渡った、無論元就もそうし彼は渡り終えてから向こう岸を見た。するとそこにだった。
 武田家の軍勢がいた、見れば彼等も川を渡ろうとしていた。
 元繁はここで言った。
「よいか、川もじゃ」
「渡りますな」
「そうしますな」
「これより」
「そのうえで」
「毛利家の軍勢も総大将も倒す」
 そうすると言ってだ、そのうえで。
 彼は自ら川を渡りはじめた、この時彼は焦るあまり毛利家の軍勢の動きを見ていなかった。その布陣もだ。
 それで元就は笑みを浮かべて言った。
「主な将を討たれしかも兵が圧倒的に多いとな」
「我を忘れてですな」
 元網は兄のその言葉に応えた。
「攻めてきますな」
「左様、そしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「そこでじゃ」
「仕掛けるのですか」
「そうする」
 まさにというのだ。
「ここでな」
「我を忘れている敵を」
「しかも狙うは一人じゃ」
 元就は弟に笑みを浮かべたままさらに言った。
「わかるな」
「敵の総大将ですな」
「武田殿じゃ」
 その彼だというのだ。
「今から攻めるぞ」
「ご自身が率先して攻めてこられましたな」
「軍勢の先頭に立ってな」
「そこをですな」
「攻めるのじゃ」
「武田殿お一人を」
「ではよいな」
 元就は兵達に告げた。
「武田殿を討ち取った者には褒美は思いのままぞ」
「はい、では」
「これよりです」
「武田殿はそれがしが討ち取ります」
「いえ、それがしが」
 毛利家の兵達は次々に言ってだった、そうして。
 真っ先に川を渡っている元繁に矢を射かけそうしてだった。
 そのうちの一本が彼の首を射抜いた、これには両軍声をあげた。
「やったぞ!」
「殿!」
 一方は歓声もう一方は絶叫だった、そのうえで。
 彼は川の中で馬上から倒れた、そこに井上家の者である井上光政今元繁を射抜いた矢を放った彼が川の中に入ってだった。
 その首を挙げた、これに毛利家の者達はさらなる歓声をあげた。
「よし、やった!」
「やったぞ!」
「我等の勝ちじゃ!」
「敵の総大将を討ち取ったからにはな!」
 こう口々に叫んで喜ぶ、それとは逆に。
 武田家の軍勢は唖然となりそうしてだった。
 雪崩を打って逃げ出した、それで元就は言った。 
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