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戦国異伝供書

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第八十九話 初陣での大手柄その三

「何としてもな、熊谷殿を倒せば」
「その後は」
「熊谷殿は今の武田勢の柱じゃ、その柱を討ち取れば戦の流れが変わる」
「こちらに傾きますか」
「今数は少ないが流れはこちらにある」
 戦のそれはというのだ。
「そこに熊谷殿を討ち取ればな」
「さらにですか」
「流れが傾く、また武田殿は必ず焦る」
 将である武田元繁もというのだ。
「そこれでさらに仕掛ける」
「そうされるのですか」
「そこからはその時に話す」
「そうですか」
「ではまずはよいな」
「熊谷殿をですな」
「攻めよ」
 こう言ってだった、そのうえで。
 元就は熊谷に矢を集中させた、熊谷もさるもので果敢に攻め矢も使ってくる、それで毛利家の軍勢も結構な者が傷を負ったが。
 矢を幾つも受けてもまだ立っている、それを見て毛利の兵達は思わず感嘆の言葉を漏らした。
「まだ立っておるか」
「あれだけの矢傷を負いつつも」
「凄いのう」
「全くじゃ」
「そうじゃな、まるで武蔵坊弁慶じゃ」
 元就もこう言う。
「流石はあの熊谷家の方じゃ」
「敦盛に名高い」
「あの熊谷家じゃ」
 傍らにいる元網にもこう述べた。
「やはりな」
「それだけにですな」
「豪の御仁よ、しかしな」
「その豪の御仁もですか」
「立っているのがやっとじゃ」
 多くの矢傷を受けてというのだ、見れば熊谷は全身血だらけになり憤怒の相になっている、心は死んでいないが身体は死んでいる。
 それでだ、元就は言うのだ。
「では一気に進みじゃ」
「熊谷殿を撃ち取りますか」
「うむ」 
 そうするというのだ。
「よいな」
「それでは」
「槍を突き出すのじゃ」
 兵達に命じた、すると。
 兵達は一斉に動き熊谷に殺到した、彼の周りの兵達が将を守ろうとするが毛利家の軍勢の勢いが勝った、満身創痍の熊谷は采配も遅くなっていた。
 それで兵達を退け遂にだった。
 十程の槍が熊谷を貫き彼を討ち取った、元就はその様子を見て言った。
「よし、次はじゃ」
「主の武田殿ですな」
「左様じゃ」
 こう志道にも答える。
「それでじゃが」
「策がおありますな」
「うむ、これで武田殿は焦る」
 そうなるというのだ。
「だからな」
「ここで武田殿にも仕掛けますな」
「焦った者程策にかかりやすいものはおらぬ」
 元就は冷静な目で述べた。
「だからな」
「それで、ですか」
「そこで仕掛ければ兵が多くともな」
「それでもですか」
「そこを衝ける」
 焦っていることをというのだ。
「だからな」
「策を仕掛けるのですな」
「うむ、それでよいな」
「はい」
 志道も応えた。 
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