盲導犬の幸せ

　　　　　　　　　　　　　　　　盲導犬の幸せ
　浜崎翔太は家に帰るといた茶色のラブラドールを見て母親に尋ねた。黒髪を少し短くしていて顔は中一にしてはまだあどけない、背は一五〇位である。
「お母さん、この犬何？」
「うちで引き取った子なの」
　母の小百合は翔太にこう答えた。黒髪が奇麗だが目尻に皺が出来てきている。
「エドワードっていうのよ」
「引き取ったって」
「これからうちの家族よ。お父さんが決めたのよ」
「そうなんだ」
「ええ、いい子らしいわ」
「いい子なのはいいけれど」　
　それでもとだ、翔太は自分より少し小さい位の大きさの犬を見つつ母に問うた。犬はきちんとその場に座っている。
「何か動かないよ」
「ええ、その子盲導犬だったから」
「盲導犬だったんだ」
「年齢で引退してね」　
　それでというのだ。
「うちで引き取ってね」
「飼うんだ」
「そうよ、あんたも世話してあげてね」
「うん、ただね」
　翔太はその犬、エドワードを見つつさらに言った。舌を出してへっへっ、としているが本当に動かない。
「盲導犬なんて珍しいね」
「あんた見たことないの」
「うん、はじめてだよ」
　こう母に言った。
「盲導犬は」
「そうなのね。お母さんは時々見るわよ」
「そうなんだ」
「けれど訓練されていてね」
「大人しいんだね」
「だからね」
　それでというのだ。
「安心してね」
「うん、それでこの子幾つかな」
「十二歳らしいわ」
「十二歳って」
　その年齢を聞いてだ、翔太は言った。
「僕と同じ位だね」
「そうね、けれどワンちゃんとしたらね」
　どうしてもというのだ。
「お爺さんだから」
「それでなんだ」
「引退したの」
　盲導犬、それをというのだ。
「だからね」
「それでうちにだね」
「来たのよ」　
　引き取ったというのだ。
「そうなったのよ」
「じゃあこれからだね」
「ずっと一緒だから」
　エドワード、彼とというのだ。
「いいわね」
「それじゃあね、けれどお爺さんなら」
　それならとだ、彼は今度はこう言った。