Fate/WizarDragonknight
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1章
”Life is show time”
前書き
初めまして。カラスです。
是非楽しんでくれたら嬉しいです。
「この辺でいいかな」
バイクから降りた少年は、ヘルメットを置きながら呟いた。
見るからに多い、人人人。駅前の噴水広場は、この美しい水の演技を独占できていた。
「ふーん。見滝原……ねえ」
少年は、駅に書かれている地名を呟いた。
「知らない町か。ま、しばらくはここで暮らそうか」
少年はバイクの背中に付けてあるリュックを開く。手慣れた手つきで金属製の筒を足元に置き、側に青のレジャーシートを広げる。造花、トランプ、赤いハンカチ。
何人かは足を止め、少年の不可解な行動に興味を示していた。少年はそれを見てほくそ笑む。
「コホン」
少年は咳払いをして、昼夜の駅前に堂々と告げた。
「さあさあお立会人。ご用とお急ぎでない方は是非ご覧あれ」
少年の主観では、一割弱の人がこちらを向いた。まだ足りない。
「私、流れの大道芸人、松菜ハルトが、皆さまにステキな暇潰しをお届けします!」
宣言とともに、指をパッチンと鳴らす。果たしてそこには、タネも仕掛けもございません。黒と赤のシルクハットが出現した。
ハルトと名乗った少年は、クルリとシルクハットを回転させ、頭に乗せる。
「レディースアンドジェントルメン!」
被ったハットを即上空へ投影。無数の白い鳩と化し、上空へ待っていくその光景には、流石に少なくない人数が足を止めた。
「さあさあお立会人。ご覧あれ!」
ハルトは、シートの上の造花を指す。どこにでもある、プラスチックでできた造花。白い花を備えたそれは、いつまでたっても変化は起きない。人工物だから。
だがそれは、ハルトが指した瞬間に起こった。
自立、伊吹。命なきものが命を得て、ぐんぐん育っていく。
「す、すごい……」
「あんな手品、初めて見た……」
自然に生まれる、拍手。歓声。
ハルトは嬉しそうに、
「どんどん行きましょう! お次は……」
「キャアアア!」
大道芸人の突然の始まりは、また突然の悲鳴により、急遽フィナーレを迎えた。
何だ、とハルトも観客も悲鳴の方角を向く。そこには、
「オラオラ! 絶望しろ! 人間ども」
「我々、ファントムを生み出すのです」
「ねえねえ、君、死んでみない?」
「いい悲鳴……絶望させたくなっちゃう…」
四体の異形がいた。
見たもの全てを恐怖に陥れるそれら。
それぞれ火、水、風、地を人形に無理矢理収めたようなその怪物たちに、人々は恐怖し、我先へと逃げ惑う。
ただ一人を除いて。
「あーあ、折角稼げそうだったのにな……」
暴れまわる四体の怪物の目前ながら、悠々とショーの器具を片付けているハルト。見物客のいなくなったショーの場に、ポンと花を虚空より出現させた。逃げる意思を一ミリも見せないその姿に、怪物たちの方が驚く。
「貴様! 何故逃げない!?」
炎の怪物の問いに、ハルトはさも当然のように答えた。
「お前たちファントムがいるから」
「何?」
全ての小道具を片付けて、ハルトは告げた。
「だって、アンタたち。ファントムでしょ?」
「貴様、オレたちのことを知っているのか?」
「まあね」
ハルトは小道具を粗方収納し終える。ファントムと呼ぶ怪物たちに向き直り、
「大道芸は副業。本業はこっち」
右手中指を左手で覆う。そのままショーのように、「スリー、トゥー、ワン」のカウントをして、外す。
そこには、先程まではなかった、指輪が付けられていた。
掌の模様をした指輪。それを、同じく掌を象ったベルトのバックルに掲げる。
『ドライバーオン』
すると、起動音とともに、ベルトの上に新たなベルトが出現した。中心には、またしても掌を模したオブジェがかたどられている。ハルトが銀でできたそれを操作すると、掌が右を向く。
『シャバドゥビダッチヘンシーン シャバドゥビダッチヘンシーン』
するとどうだろうか。ベルトからは、いとも軽快な音楽が流れ始めたではないか。ハルトはそれに構うことはなく、左手に、ポケットから取り出したルビーをあしらった指輪を取り付ける。
「何をしている?」
「何って……仕事」
次に見るからに高価そうなそれに取り付けられたカバーを下ろす。すると、丁度そのカバーが、ルビーをまるで顔のように仕立て上げた。
「変身」
そう告げるとともに、ハルトは指輪をベルトに掲げる。
『フレイム プリーズ』
その音声とともに、左手を真っ直ぐ伸ばす。すると、伸ばした先に、丸い円陣が生まれた。炎を纏うそれは、やがてハルトの体へ迫っていく。
『ヒー ヒー ヒーヒーヒー』
炎が通過したとき、そこにいたハルトはハルトではなかった。
「な、なんだ貴様は⁉」
これはどの怪物が言った言葉なのだろうか。それすらも分からないまま、ハルトは……いや、かつてはハルトだった彼は答えた。
「俺はウィザード。来世のために、覚えておいたほうがいいかもよ?」
そこにいたのは、黒いローブ、赤い装飾。掌を模した銀のベルトと、その腰元には複数の指輪が付いたホルスター。
そして、ルビーの仮面をした魔法使い、ウィザードだった。
「ふ、ふざけるな! やれ! グールども!」
怪物たちが、どこからか取り出した石を投げた。地面に落ちたそれらは、黒い煙とともに人型の低級ファントム、グールと化す。灰色の化け物たちは、それぞれ手にした槍を振り回していた。
四体の司令官と、無数の兵士。そんな状況にも関わらず、ウィザードはルビーの指輪を翳しながら言った。
「さあ。ショータイムだ。いや、まさにこれは……Life is show time!」
ウィザードは、新しく左手に指輪を付け替え、ベルトに読み込ませる。
『コネクト プリーズ』
出現した、小さな魔法陣。それに右手を突っ込む。その内側から引っ張り出したのは、銀でできた銃だった。
それを乱射しながら、ウィザードは走る。ジャンプし、グールの槍を避ける。軽快な動きで、前後、左右のグールを撃ち取る。
そのまま銃を操作。すると、銃は銃口の裏に収納された刃が牙をむく。
これこそが、銀の銃剣、ウィザーソードガンの特徴の一つだった。
キリキリと回転させながら、ウィザードは次々とグールたちを切り倒していく。
「お待ちなさい」
グールを粗方倒し終えたとき、ウィザードの体が押し倒された。
大量の水により押し流され、地面を転がるウィザード。見上げれば、水のような形のファントムがいた。
「ウィザード。思い出しました。何でも、各地でファントムを狩っているものがいると」
「へえ。俺結構有名なんだ」
「その首。私が討ち取らせていただきましょう!」
水のファントムの攻撃を避け、ウィザードは左手のルビーを入れ替える。
青々とした美しいサファイアに。
「俺ってさ、相性で攻めるより、同じタイプで攻める方が好きなんだよね」
ウィザードはそう言って、サファイアをベルトに掲げる。
『ウォーター プリーズ』
次に、青い魔法陣が現れた。それは、ウィザードの頭上。
『スイ~スイ~スイ~』
蒼い魔法陣がゆっくりとウィザードの体を通過していく。サファイアの力が秘められたそれが通過した後には、ウィザードのルビーは、全てサファイアに差し替えられていた。
「いくよ」
サファイアの姿になったウィザードは、数回銀の剣を回転させ、水のファントムを袈裟切り。
すさかず、ウィザードはソードガンの一部を操作する。手の形をしたそれは、親指に当たる部位を開くことにより、サファイアの手と握手をする形になる。
すると。
『ウォーター スラッシュストライク』
すると、ソードガンの刃に、青い水の渦を纏う。
『スイ~スイ~スイ~』
「そんなもの、ただのこけおどしです!」
しかし、水のファントムは恐れることもなく、こちらに迫ってくる。
だが、ウィザードは焦ることなく、カウンター。
青いファントムは、それよりもさらに青い水の刃により引き裂かれ、爆発。消滅した。
「まずは一人。うわっ!」
勝利の余韻に浸る余裕もなく、ウィザードの背中に痛みが走る。振り向くと、風のファントムが上空から、両手より風の弾丸を飛ばしている。
「風か……だったら」
肩に当たり、逸れて地面に当たり。
土煙の中、ウィザードは新しい指輪を装填した。
『ハリケーン プリーズ』
きっと、向こうからすれば、土煙の中に、緑の光が漏れたと見えたのだろう。
『フゥー フゥー フゥーフゥーフゥフゥー』
土煙が出まき散らされるとともに現れた、緑のウィザード。エメラルドのウィザードは、その身に風を纏わせながらぐんぐん上昇。風のファントムと接触する直前で、再びソードガンのパーツと握手。
『ハリケーン スラッシュストライク』
刹那。交差とともに、風のファントムを両断。爆発。
「次!」
それは、地上からこちらを見上げる地のファントム。エメラルドの指輪をトパーズの指輪と入れ替え、即使用。
『ランド プリーズ』
自由落下しながら、ウィザードの足元に黄色の魔法陣。
『ドッドッ ド ド ド ドンッドンッ ドッドッドン』
魔法陣を突き抜け、トパーズとなったウィザードは、思い切りの力で地面を叩く。
すると、ウィザードのバカ力が、地のファントムの動きを鈍らせる。
「今だ!」
ソードガンを銃に戻したウィザードは、すぐさまトパーズの指輪を読み込ませる。
『ランド シューティングストライク』
地のファントムが動きを始める前に、黄色の弾丸を発射。
地のファントムは、有無を言わさずに爆散した。
「何だ……何なんだ⁉ お前⁉」
立て続けに三体も倒されたからだろう。火のファントムは焦りながら慄く。
「なぜ、俺たちの邪魔をする⁉」
『フレイム プリーズ』
火のファントムに対し、ルビーに戻ったウィザードは答えた。
「そんなの当たり前じゃん」
右手の指輪を、腰のホルスターに付いている指輪と入れ替える。それを、操作したベルトに読み込ませる。
「人を守るためだよ。」
「ふ、ふざけるな! おい、見逃せ!」
「ダメだよ。悪いけど、ショーはもう待ってくれない。幕が上がれば演り切る終わりまで。さあ、」
一瞬だけ溜め、告げた。
「3 2 1 showtime」
『チョーイイネ キックストライク サイコー!』
その指輪の効力は、ウィザードの足元。その足場を中心に、円形が発生。燃え上がる炎をその円周に纏わせるそれの上で、ウィザードは腰を低くし、火のファントムを睨む。
「はあぁ……」
円陣の炎が、徐々に右足に集約されていく。
ウィザードはそのまま、回転しながら飛び上がる。
右足を天に向け、そのままぐんぐん上昇。
体勢を変え、右足を火のファントムへ向ける。
「だぁああああああああああああ!」
炎の蹴撃。ストライクウィザードたる、ウィザードの最大火力の一撃。
それは、断末魔を断ち切り、人を襲う怪物の体に、魔法陣という風穴を開けた。
そして、火のファントムに巻き起こされる、爆発。
それは、ファントムの最期だった。
そのままウィザードは、ローブをたたみ、告げる。
「ふぃー」
ウィザードの体を、魔法陣が貫通する。
ウィザードは消滅し、その場にハルトが戻った。
「全く。稼げるかなって思ったのに、仕切り直しだよ。今日の寝床も探さないとだし……ん?」
ぶつぶつ文句を垂れるハルトは、自分の体の異変に気付いた。
正確には、右手の甲。
「あれ? どこかぶつけた?」
そこには、血が滲んだような、不気味な紋様が浮かんでいた。
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