ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
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アインクラッド編~頂に立つ存在~
第二十八話 神速に瞬く貪欲な龍の刃
空は暗雲に包まれ、どんよりした雰囲気が立ち込める中、何処へ続いているのかわからない階段をゆっくりとのぼりながらベガは溜息をつきながら呟いた。
「・・・・・あまり、いい雰囲気ではないわね」
気分が下がっていく中、階段をのぼり終えるとこれまた雰囲気の良くない神殿が現れた。しかも雰囲気が良くないだけではなく、神殿の中から瘴気のような黒い霧状のものまで発生しているのである。それを見たベガは一言だけ洩らした。
「・・・・・帰りたい」
しかし、帰れないのが現状であった。ここに来るためにくぐった扉はすでに消失してしまったので、帰りたくても帰れない状態なのだ。仕方ないと覚悟を決めると、神殿の中にはいていく。すると、石造りの柱が左右に並び立ち一本の通路とかしていた。その通路に従い進んでいくと、大広間らしき場所に出た。そこには、人間の大人サイズの天秤が置いてあり、そのメモリをじっと見つめる者がいた。その様態は、ジャッカルの頭を持つ半獣半人だった。その半獣半人が大広間に入ってきたベガの姿を認識すると、いきなり姿が掻き消えた。
「っ!?」
いきなり半獣半人が消えたことに驚いたベガだったが、悪寒がしたので今いる場所から即座に横に転がるように避けると、先ほどまでいた場所に二股に尖った先端を持つ鉄の杖があった。その杖をたどっていくと先ほどの半獣半人が杖を持った腕を伸ばしていた。ベガは即座に距離を取り体勢を立て直し、半獣半人にカーソルを合わせる。そこには、
【The Anubis】
と記され、HPゲージが十本も並んでいた。ベガはそれらを確認し終えると、刀を抜き構え、アヌビスも体勢を元に戻すと、ベガを見据える。睨み合う両者だが、それは一瞬だけだった。ほぼ同時に地面を蹴り、相手との距離を詰めていく。その速度は通常では考えられないほどの速さであった。
姿が掻き消えると同時に響き渡る甲高い金属音。迸る何重もの軌跡。目にもとまらぬ速さの中で勝負が行われていた。アヌビスが繰り出すのは杖の先端を利用した刺突攻撃のみだった。単調な攻撃なのだがその速度が異様なほどすさまじい。対してベガが繰り出すのは、斬るということに特化した斬撃だけだった。刀の場合、刺突攻撃もできなくはない。しかし、ベガの刀のリーチとアヌビスの杖のリーチを考えた結果、刺突攻撃を放つのは得策ではないとベガは結論付けた。なので無理に刺突攻撃は行わず、斬撃攻撃のみを行っているのだが、縦横無尽に駆け巡る斬撃を器用に鉄の杖で捌かれていく。そんなヌビスにベガは厭きれてしまうが、その表情は笑っていた。
「・・・・・ここまで張り合われたことなんてなかったのよね」
ベガの剣術はいわゆる【最速】を求めた剣術である。ソレイユが【技】を極めようとする剣士なのに対して、ベガは【速度】を極めようとする剣士なのだ。おそらく、このソードアート・オンラインの中でベガの速度を超えるプレイヤーはだれ一人いないだろう。たとえそれが、ソレイユやシリウスだったとしても。あの≪閃光≫アスナとてベガの速度には到底追いつけない。そのベガと初めて渡り合える敵が目の前にいるのだ。笑わずになどいられなかった。
「・・・ねぇ、そう簡単に終わらないわよね?やっと、まともに張り合える敵が現れてくれたんだから」
妖艶に笑いながらアヌビスに向かって言葉を告げるベガ。その言葉を告げられたアヌビスは了解した、と言わんばかりにさらに速度を上げてきた。ベガも負けじと速度を上げる。風を斬る音のみが響き渡る。周りの風景が止まっているように思える。自然と笑顔が漏れてしまう。笑わずになどいられない。これほどまでに興奮する戦いはベガは初めてだった。今ならわかる。命を懸けて死合った、ソレイユとシリウスの気持ちが。だからだろう、名乗らずにはいられなくなった、現実の名を。たとえそれがプログラムが相手であってもである。そして、
「天衝鳴神流居合術 鳴神華織よ。我が最速の剣を持って、お相手するわ!」
高らかに名乗りを上げ、剣を振るっていく。
◆
絶え間なく響き渡るのは金属同士がぶつかった時におこる甲高い金属音。しかし、それを行っている当人たちの姿を捉えるのは至難と言ってよかった。それだけではなく、何合、何十合、何百合と打ち合っていくが、未だに決定打どころか有効打さえ与えられていなかった。なぜなら、なかなか斬撃が当たらないのだ。有効打が与えられないのではない、斬撃そのものが当たらないのだ。まるで、ただのプログラムによって動くMobが学習しているようにさえ思える。それほどまでに卓越した防御や回避をアヌビスは行っていた。
「・・・・・この速度まで反応するのね」
ベガの言葉が響くとともに足を止めるベガとアヌビス。息切れはせず、ただじっと相手を見据えている。これが人間同士の戦いなら何とかなるのに、とはベガの心の声である。
このままでは埒が明かない、としか思えなかった。仕方ない、と一言呟くと納刀してウインドウを表示させ操作しいく。そんな無防備な立ち振る舞いをしているにもかかわらず、アヌビスは何をするわけでもなくただベガを見据えているだけだった。正確に言えば、何もしなかったのではなく、出来なかったのだ。ベガから放たれる闘気がアヌビスに攻撃をさせなかったのである。数秒後、ウインドウを操作し終えたベガはあらためてアヌビスに向き直った。
「・・・・・お待たせして悪いわね」
一言だけ呟くと居合いの構えを取る。ベガが構えを取るとアヌビスも構えを取る。静寂が迸り、張りつめた雰囲気があたり一帯を包む。それでもベガに焦りは一切ない。
その雰囲気を破ったのは、やはりというべきか―――ベガだった。鯉口をきり、アヌビスとの距離が詰まると抜刀した。今までにはない速度に一瞬、一瞬だけアヌビスの反応が遅れた。だが、その一瞬が何より致命的だった。
「――――っ!?」
「甘いわよ!」
咄嗟に鉄の杖でガードしようとするアヌビスであったが、それをすり抜けるようにベガの刀が閃いた。一瞬の交差のうちに与えられたのは一発だけだったが、当たらないよりはマシだろう、と結論付ける。
アヌビスの方へカーソルを向けてみると、HPゲージが一本目の半分くらいまでしか減っていなかった。速度の速いMobは大概が防御力はないものだが、アヌビスはそこそこ防御力があるらしい。もっと削れていると思ったベガは軽く落胆する。残念ながら、世の中そう上手くいくものじゃない。
「・・・≪神速剣≫まで使ったのになぁ」
呟くようにぼやくベガ。呟かれた言葉の中にあった≪神速剣≫とは、ベガの持つユニークスキルである。その効果は、動作の初動及び動作そのものを爆発的に速める、と言うものである。その動作の中には、ソードスキルや普通の攻撃も含まれる。しかし、これには致命的な弱点、というよりも欠陥があった。速度を爆発なまでに速めるため思考と動作がかみ合わなくなるのだが、ベガはそんなことにもろともせずに≪神速剣≫を使っている。
「・・・・・まぁ、ダメージを与えられたってだけで一歩前進よね」
言い終えると同時に駆け出していく。同じくアヌビスも地面を蹴り駆け出していくが、ベガの速度の方が圧倒的に速い。徐々に押されるアヌビスは何とか鉄の杖で攻撃を受けているが、ベガの巧みな剣術がそれをすり抜けてダメージを与えていく。その攻撃を五回も受けたアヌビスのHPの総量は残りゲージ二本と半分だった。それを見たベガは残念な表情でソードスキルを発動させるために構えを取る。
「・・・・・なかなか楽しめたのに、残念ね」
ベガの刀が白銀色のライトエフェクトを纏う。そして一言アヌビスに向かってポツリと呟いた。
「―――――終わりよ」
その言葉が言い終えるのと同時にベガの姿が掻き消える。その速度は今までベガの速度を見切っていたアヌビスでも感知が不可能だった。アヌビスは咄嗟に鉄の杖を地面と水平に持ち、顔の前で守るように構える。しかし、次の瞬間には、アヌビスの後ろで刀を納める音が響いた。
アヌビスがそちらを向くと、背を向けて刀を納めた姿のベガがいた。その無防備な背中を攻撃しようと駆け出した瞬間、いつの間にかアヌビスの鉄の杖が二つに斬られていた。それを見ながら、わけもわからず首をかしげるアヌビス。
その直後、アヌビスの体はポリゴン片となって虚空に消えて行った。
後書き
という訳で、今回はベールに包まれた(?)ベガの戦闘回でしたぁ!!
そういえば、なんでいきなりポリゴン片になったんだ?
ソレイユ「ドラゲリオンの効果だ」
ああ、そうか・・・確かに、あれなら可能だね!!
ソレイユ「・・・大丈夫か?この作者・・・」
心配は無用だ、ソレイユ!!私はなんともない!!
ソレイユ「体じゃなくて頭を見てもらってこい・・・読者様の中で腕のいい脳外科医を知っていたらぜひ、この駄作者に教えてやってください・・・」
ではでは~、感想お待ちしておりマースっ!!
武器解説
≪天龍ドラゲリオン≫
レジェンド・クエストの一つである【バハムートからの挑戦状】というクエストから入手できる素材で作った武器を鍛えていったもの。その特殊効果はダメージを与えた場合、次にダメージを受けたものはそのダメージを追加するということ。例えば、最初に与えたダメージが百だった場合、次に与えるダメージはそのダメージ+百、その次に与えるダメージはそのダメージ+一回目のダメージ+二回目のダメージ・・・といった感じでどんどん与えるダメージが増えていくという訳である。アヌビス戦では、六回攻撃を受けただけでアヌビスのHPはドラゲリオンの攻撃力以下となり、最後のソードスキルでとどめがさせたという訳である。ちなみに、強力な効果に見えるが、ドラゲリオンの効果が及ぶのは自分も例外ではない。つまり、ドラゲリオンを装備し、ダメージ蓄積状態で攻撃を喰らうとそのダメージが自分に跳ね返ってくるというわけである。つまり、諸刃の剣ということである。
なぜそういう効果が出たのかというと
『バハムートとはある暴飲暴食を司り、貪欲の象徴である悪魔の別称であるため、そう言う能力が付いたと考えられる』
とは、恒例のソレイユさんのお言葉である。
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