ロックマンZXO~破壊神のロックマン~
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第二十八話 見守る者達
前書き
コングルって本当に何でガーディアンに入ったんだろうか
ミッションから帰ったエールは問答無用でジルウェにこってりと説教されて不貞腐れていた。
休憩スペースで頬を膨らませながらジュースを啜る彼女の姿にプレリーは思わず苦笑してしまう。
「何を怒ってるんだよエール?大昔に絶滅したフグって毒魚みたいな顔をして」
「誰のせいだと思ってんの!?」
怒られた元凶であるヴァンを睨むエールだが、肝心の睨まれているヴァンはどこ吹く風である。
「さあ、誰だろうなー?」
「むうううっ!!」
ヴァンの態度に更に膨れるエール。
運び屋時代ではどことなくエールが優位だったが、一年間アウターの荒波に揉まれたヴァンとは現在では力関係が逆転していることにジルウェは苦笑していた。
「本当にあの二人は兄妹みたいに仲が良いんですね…」
「司令官、ええ…あいつらは俺に引き取られる以前から一緒にいましたからね」
「それにしても、ヴァンの身に付けているあのペンダント…元々ジルウェさんの物じゃ…」
あのペンダントはジルウェがガーディアンベースで勤務していた時から身に付けていた物であり、ジルウェもあのペンダントを大切にしていたはずだ。
「ええ、あいつが俺に引き取られてから三年くらい経った頃でしょうか…エールのことを元気付けながら、あいつは弱いところを見せたくなくて…いつも人気のない場所で泣いていたんです。」
あの時のヴァンはまだ十歳にもなっていない子供だ。
まだまだ親に甘えたい盛りだったろうに、イレギュラーの襲撃によって家族を目の前で殺された。
たった数年で完全に立ち直れるはずがないのだ。
“母さん…寂しいよぅ…”
“………また一人で泣いてるのかヴァン?”
目を閉じればレプリロイドであることもあって昨日のことのように思い出せる。
塞ぎ込んでいたエールを元気付けるために、彼女の前では明るくしていたヴァンだが、エールや同じく自分に引き取られた年下の子供達…謂わば弟分や妹分が眠った時に一人で蹲って泣いていたヴァン。
“だって…だって…”
“ほら、顔を上げな”
そして自分はヴァンに、自分が幼い頃から身に付けていたお守りのような物であるペンダントを手渡した。
“ペンダント…お前にやるよ。”
“それ…何時も先輩が着けてる…”
“辛いことや悲しいことがこの先あったら、それを見て思い出すんだ”
ペンダントを受け取ったヴァンの頭を撫でながら自分は更に言葉を続けた。
“お前は一人じゃない。俺やエール…みんながいるってな。だから泣くな、頑張れヴァン”
あの日から徐々にヴァンの一人で泣く回数が少なくなってきて、運び屋から他の仕事を選んだり、自分から自立していった年長組の代わりに運び屋の年長組の一人としてエールと共に頑張っていった。
…あの一年前の事件までは。
「そうだったんですね…ヴァンが一年間、一人でも戦ってこれたのはジルウェさんのペンダントと言葉のおかげだったんですね…」
「ええ…あの時は、まさかこんなことになるとは思っていませんでしたが…」
あの時、本当に小さかったヴァンが…今ではエールと同じでセルパン・カンパニーとモデルVの脅威に対する希望なのだ。
まだ子供の域を越えていない二人がだ。
「もし、こんな体じゃなければ…あいつらと一緒に戦ってやれるのにな…」
外見は普通でも、内部にガタが来ているためにジルウェは戦える体ではないのだ。
二人の家族の代わりに自分がヴァンとエールを守ると、二人を引き取った時に誓ったはずなのに。
「よう、辛気臭い顔してるなジルウェ」
「あんたがそんな顔してるとあいつらが心配しちまうよ?ほら、眉間にこんなに皺寄せちゃって」
「トン…セードル…」
大柄な体格のガーディアンメンバーのトンがジルウェの肩に手を置き、トンの後ろから赤髪の女性メンバーのセードルが苦笑しながらジルウェの眉間を指で突ついた。
「まあ、分かる気はするけどね。争いを起こすのは何時だってセルパンみたいな身勝手な奴さ。そして被害を受けるのは決まってヴァンやエール、そしてサルディーヌみたいな優しい子供達だよ。」
カルレも飲み物を片手に此方にやって来た。
「で、ですが…ぼ、僕達では…フォルスロイドの相手は…荷が重いです…し…」
「いや、それ以前にお前は怖がって部屋に引き籠ってんだろうがコングル」
スコンブレソスがコングルの言葉に呆れながら言うと、全員が再度喧嘩する二人を見つめた。
「儂らがどう思おうと敵はそんなことお構いなしに攻めて来る。雑魚なら儂らでもどうにかなるが、フォルスロイドクラスとなるとヴァンとエールに頼らなきゃならん…子供に頼らなきゃならないとは…揃って無能な大人達だ…」
トンが二人を見つめながら呟き、それを聞いたこの場にいるメンバーが俯いた。
「…………」
プレリーはそんな会話を聞きながら昔のことを思い返していた。
まだ“お兄ちゃん”が目覚めたばかりの頃、“お姉ちゃん”が率いていた組織は戦闘は素人の集まりだったこともあり、“お兄ちゃん”にばかり負担がかかっていた。
あの時の“お兄ちゃん”を見送っていた“お姉ちゃん”達も今の自分達と同じ気持ちだったのだろうか…。
「(お姉ちゃん…お兄ちゃん…お願い…二人を守ってあげて…)」
今はここにいない姉と兄にプレリーは願った。
「ところでエール。これからトレーニングルームで特訓に付き合ってくれないか?新しい技が浮かんだんだ。」
「それ、アタシに実験台になれってこと?」
「まあ、身も蓋もない言い方をすればな。実験台になってくれエール」
「少しはオブラートに包んで言いなさいよっ!」
幼なじみだからとは言え、少しは考えて発言して欲しいと思わずにはいられないエールであった。
後に氷属性の技であるアークブレードを編み出し、直撃を受けて氷付けになったエールの姿が発見された。
「悪いエール」
「ううう…寒…寒い~ヴァンの馬鹿~…」
何とか救助されて毛布に包まり、温かい飲み物を啜るエールであった。
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