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戦国異伝供書

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第八十八話 初陣その六

「しかしだ」
「戦で確実に勝てるとは限らぬ」
「運や流れもあるので」
「そして敗れた時にですか」
「備えとしてですか」
「それでこの城に兵を置いておく」
 吉田郡山城、この城にというのだ。
「当然殿もな」
「お護りする様にする」
「その兵で」
「そうもしますか」
「無論な、敗れた時の備えの兵と殿をお護りする兵をな」
 その両方をというのだ。
「この城に置いていくぞ、わかったな」
「わかり申した、ではですな」
「これより出陣ですな」
「そうされますな」
「その様にする」
 元就はその若さからは全く想像出来ないまでの実に落ち着いた態度で自身の出陣と家の護りのことを全て取り仕切った、そしてだった。
 そのうえでだ、出陣した。この時彼は毛利家の緑の衣だけでなく陣羽織や具足も着けてそのうえで言った。
「ずっと着たいと思っておった」
「当家の具足や陣羽織をですか」
「それをですな」
「この緑のな」
 共に出陣する家臣達に話した。
「そう思っておった、だから今身に着けられて嬉しい」
「左様ですか」
「ではこれまで、ですか」
「初陣の時を待たれていました」
「うむ」
 実際にという返事だった。
「実はな、やはり侍ならばな」
「具足を着てですな」
「戦の場に出るものですな」
「それが侍ですな」
「だからな」
 それ故にとだ、元就は家臣達にさらに話した。見れば彼が乗っている馬の鞍も緑で旗も同じである。
「是非勝たねばともな」
「思われていますな」
「それではですな」
「これより」
「戦の場に向かう、そして武田家の動きであるが」
 元就は今度はそちらの話をした。
「吉川家の有田城に向かっておるな」
「はい、そしてです」
 家臣の一人である志道広良が応えた。しっかりとした顔立ちであり長い目には深い知性が浮かんでいる。
「攻めんとしております」
「有田からわしの領地である多治比まで近い」
「だからですな」
「そこに向かってな」
 そしてというのだ。
「わしの城である猿渡城にも来る」
「左様ですな」
「ではじゃ」
 元就は志道にさらに話した。
「ここは攻めるか」
「攻めるのですか」
「有田を手に入れたならこちらに来る」 
 その猿渡にというのだ。
「だからな」
「それではです」
「猿渡城に籠城すべきでは」
「ここは」
「いや、武田家の軍勢はあちこちに散らさせたといえ数が多い」
 それでも尚とだ、元就は家臣達に話した。
「だからな」
「攻めるのですか」
「籠城されず」
「ここは」
「大軍に籠城しても勝てぬ、ならだ」
 こう言うのだった。
「出陣し有田の城を攻める敵の後ろを攻める」
「そうされますか」
「この度は」
「その様に」
「うむ、そしてじゃ」
 元就はさらに話した。 
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