虚空の魔導師
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第3話 新たなる絆(後編)
前書き
仕事の関係で少し間が空いてしまいましたが、
続きを再投稿します。
クォヴレーははやての乗る車椅子を押しながら、はやての通う病院に向かっていた。
だが、そのはやては先程から頬を膨らせたままだ。
クォヴレーには何故はやてが不機嫌なのか、全く見当がつかなかった。
クォヴレーは何故この様な状況になったのか、もう一度考え直してみる事にしたのだった。
(クォヴレーサイド)
朝食を摂った後、俺は病院まではやてを連れて行く事になった。
昨日の車椅子が壊れてしまった事を、担当の医師に報告しに行くそうだ。
はやてを送るついでに、俺も人に会ってくる事を伝えると、急に不機嫌になった。
・・・・やっぱり俺には理解出来ない。脈絡が無さ過ぎる。
『クォヴレー、俺が説明してやろう。』
『お前に分かるのか、イングラム?』
『ああ、お前には感情の機敏を把握出来る様になって貰った方が良いだろうからな。』
『・・確かに俺はその手の話は苦手ではあるが・・お前に出来るのか?』
『オリジナルの経験と知識があるからな、助言する位の事は可能だ。』
『そうか・・・では頼む。』
正直、未だに感情や心理に関しては理解していない部分も多い。そんな俺には、イングラムのサポートは助かる。
今まで経験上、この手の事に関しては碌な目に逢った事がないからな。
取り敢えず、今ははやての機嫌を戻さなければならない。
『はやての今の心情としては、新しく出来た兄が他の・・他の人間を構う事に対しての不満といった所だろうな。
所謂“ヤキモチ”と言う奴だ。本人は自覚が無いのかもしれないが・・・』
『・・・そうなのか?』
『まあ、解決策は簡単だ。はやても一緒に連れて行けば良い。』
『・・それは出来ない。はやては一般市民だ、この件に関して巻き込む訳にはいかない。』
『・・・昨夜は言っていなかったが、彼女はいずれは何かしらの事件に巻き込まれる事になるだろう。』
『何!?どういう事だ!』
『お前は気付かなかったかもしれないが、はやてには魔導師の才能がある。
それも・・ズフィルード・クリスタルに蓄積された情報の中でもかなり上位の力だ。』
『なんだと?』
『それに・・はやての部屋で、高濃度の魔力を内包した魔導書らしき物を確認した。それについても詳しく調査する必要がある。』
『・・・それほどの人材を他の魔導師達が放っておくはずが無い・・か。』
『ああ、それに彼女にも自分の力を認識してもらっていた方が、我々としても後々対処が容易になる。』
『・・・・・・。』
確かにそれは最善ではなくとも、無難ではあるが・・・
『今は決断出来なくても、いずれは決断せねばなるまい・・・はやてが巻き込まれる前にな。』
・・ぃ・・・クォ・に・・・・・・
・・・・クォヴ・ぃ・・・・
「クォヴにぃ!!」
はやての突然の大声に、思考の海に沈んでいた意識が現実に戻される。
「どうした?はやて。」
「どうしたって、病院に着いたで!」
はやてはいかにも怒ってますといった表情で、こちらを見上げていた。
「クォヴにぃ、私が声掛けても全然反応しないんやもん!」
「すまない・・はやて。許してくれ。」
俺が頭を下げると、はやては驚いた顔をして急に慌て始めた。
「な、なんや恥ずかしいやん!そこまでする必要なんかあらへん!私が勝手にヤキモチや・・・あ!」
はやてが勢いのまま失言してしまった後、顔を耳まで真っ赤にさせて俯いたまま喋らなくなった。
「はやて、先程言っていた人物に一緒に会ってくれるか?」
「・・・ええのん?」
「ああ、その方がはやての為にも良いと判断した。」
「・・私の為?」
「そう、はやての為にだ。」
「そうなんや・・ごめんな、我が儘言って。」
再び真っ赤になった後、シュンと沈んだ表情になったはやてに苦笑し、俺はその頭をゆっくりと撫ぜた。
「気にするな。我が儘を言えるのは、家族間だけの特権らしいからな。」
「・・うん!」
はやての元気な返事を聞きながら、俺ははやてと共に病棟内に入っていった。
(なのはサイド)
現在時刻11時50分――――
私は昨日の人と会う12時が近づくにつれて、だんだん落ち着かなくなってきた。
ザワザワザワ・・
ん?どうしたんだろ、教室が騒がしくなってきてる。
時々「カッコイイー」とか「外人さん」といった単語が聞こえてきた。
クラスメートが皆外を見ていたので、私も釣られて外を見る。
「あっ!」
車椅子を押すクォヴレーさんの姿が見えたので、私は思わず声を上げてしまった。
当然クラスメート全員の視線が私に集中する。
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン・・・
私はチャイムが鳴った事をいいことに、視線の渦から脱出する事にした。
ダッシ・・
「私達にも説明してもらえるんでしょうね~、な・の・は?」
教室を脱出しようとした瞬間、背中から聞き覚えのある声を掛けられ、私は凍り付いた。
ゆっくり振り返ると、鬼の形相をしたアリサちゃんと心配顔のすずかちゃんが立っていた。
や・殺られる!?ガクガクブルブル
「この前、言ったばかりよね?私達に隠し事は無しだって。・・で?今度は説明してもらえるんでしょうね?」
「にゃ~~~~~!ごめんなさ~い!いつか必ず説明するから~~!」
私は一目散にその包囲網から逃げ出した。
そのまま、さっきクォヴレーさんが立っていた所に走って来たんだけど、
『ユーノ君、クォヴレーさんが何処にいるか分かる?』
『ちょっと待って、魔力をたどるから。』
『その必要は無い。』
にゃ!?
私は突然割り込んで来た念波にびっくりして辺りを見回した。
『高町なのは。クォヴレー・ゴードンだ。俺は校舎裏の林に居る。そちらに来てくれ。』
『う・・うん。今行くよ。』
私は木の上に待機してもらっていたユーノ君を回収して、小走りで校舎裏に向かった。
(クォヴレーサイド)
バタバタバタ・・
林の入り口から一つの足音が聞こえて来た。
来たか。
「待っていた、高町なのは。」
なのはは直ぐ俺に気付き、驚いた後顔を真っ赤にさせた。
・・・?
『・・今のは俺にもよく分からん。』
イングラムが分からんのでは、俺が分かる筈もない。
・・!
一瞬不穏な空気を感じ、はやてを見ると河豚を連想させる位に頬を膨らませていた。
・・・・・(汗)
また不機嫌になったはやてを宥めつつ、俺達はお互いの自己紹介を始めた。
「俺は昨日も名乗ったが、クォヴレー・ゴードンだ。今は、このはやての家に居候している。」
「私は八神はやて。歳は8才や。立場上は・・・クォヴにぃの義理の妹になるんかな?」
はやてが俺を茶化すように言う。
「私は高町なのは!私立聖祥大附属小学校3年生で、歳は9才だよ!」
最後にユーノを紹介され、彼が元は人間であり今は魔法でフェレットの姿になっている事を聞いた。
ふむ、成る程な。
「なんか、あんまり驚かないね。」
なのは自身フェレットが喋った事について驚いた事が有るのだろうのだろう、こちらを不思議そうに見ている。
「今更だ。他の世界では、喋る遮光器土偶や動く埴輪等色々いたからな。別に驚く程ではない。」
はやては十分驚いていたようだが。
コ・コ・コ・コノウラミ、ハラサズオクベキカ――――!!
・・・・いかんな・・妙な電波を拾ってしまったようだ。
改めてなのは達の方を向くと、三人共不思議そうにこちらを見ていた。
「・・どうした?」
「いや、クォヴにぃが可笑しくなったんやないかって、ビックリしたんや。」
「そ、そうか・・すまない。」
今後は気をつける事にしよう。
《メタな発言も程々にな。》
おっと、イングラムを紹介していなかったな。
俺以外の三人は突然聞こえてきた男の声に驚いたようだ。
俺はイングラムの本体であるクリスタルを、三人の前に掲げる。
《初めましてかな?クォヴレーの相棒のイングラム・プリスケンだ。》
「これはデバイス!?あなたは魔導師なのですか?」
ユーノの疑問も当然か。
「俺は魔導師ではない。魔力を扱いはするが、魔法を使える訳ではない。」
「どういう事なの?」
俺ははやてに話した内容をなのは達にも話した。
「平行世界に時空間移動か・・・正直、信じられない。」
「でもそれじゃ魔力を使える説明になってないよ?」
なのはの疑問も当然だ。
「・・・はやてにもまだ説明していなかったが、俺とイングラムの中にはジュエルシードが存在している。」
「え!?」
流石にユーノにはこの異常性が分かったか・・・
「そう通常ならば、ジュエルシードが問題なく制御されるという事はまずない。」
《必ずといって良いほど魔力暴走を引き起こす。》
「だが俺達には特に相性が良い。今も安定している。」
「なぜですか?」
俺はジュエルシードが変質したズフィルード・クリスタルであり、
この次元連結帯の人間が「アルハザード」と呼ぶ、バルマーの遺産である事を話した。
「お伽話だとばかり思ってたのに・・・アルハザードは本当に存在していたんだ・・・」
ユーノは黙り込み、考え込んでいる。
「今の事情を説明した上でお前達に頼みがある。」
「え?」
「今ある回収したジュエルシードを、俺達に譲って貰えないだろうか。」
「・・・・・僕の一存では決められません。スクライアの皆にも連絡を取ってみないと・・」
ユーノはしばらく熟考した後、条件を提示してきた。
その条件とはジュエルシードの回収を最優先とし、全部回収が終わるまでの間協力する事、
そして、全て回収が完了しだいスクライアに相談し、譲渡の便宜を図る事だ。
「俺達とて今すぐに返事を貰えるとは思っていない。その条件で了解した。」
「そして、はやて。お前に重要な話がある。聞いてくれるか?」
「・・・・・なんやの?」
俺ははやての魔導師としての素質がある事、そしてはやての部屋にある魔道書の事について話した。
「私も魔法が使える様になるんやろか?」
「それははやての努力しだいだと思う。
だが、それよりも問題なのは、はやてが今後魔導師関連の事件に巻き込まれる可能性があるという事だ。」
はやては俺の言葉の意味を理解し、少し不安そうな表情になった。
「その時はクォヴにぃが守ってくれるん?」
「当然だ。」
俺は即答し、はやてを安心させるように頭を撫でた。
すると、はやては顔を真っ赤にしながら、そのまま俯いてしまった。
・・?
不意に視線を感じてそちらを向くと、なのはが羨ましそうに此方を見詰めていた。
『クゥヴレー、なのはにもお前を守ってやると言ってやれ。』
俺はイングラムの助言?に釈然としないながらも、ジュエルシードを集めるためにはなのはの安全も重要だと判断した。
「なのは、安心しろ。お前も俺が守ってやる。」
俺ははやてと同じようになのはの頭を撫でた。
「にゃ――――!!」
なのはも顔を耳まで真っ赤に染めて、俯いてしまった。
「ところでなのは、いまさらだが俺の事は呼び捨てで構わない。さん付けで呼ばれるのは、少し違和感がある。」
「ん~~~、じゃクォヴレー兄さんで。」
なのははしばらく悩んだ後、そう答えてくれた。
しかし、
「何故に兄呼ばわりなんだ?」
「・・・なんとなく・・かな?」
そうか・・・・なんとなくか・・・
その後しばらく考え込んでいたが、予鈴が鳴ってしまったので、夕方にまた会う約束をしてその場は解散した。
おまけ
《クォヴレー、お前にはリュウセイにも与えた“フラグマスター”の称号を与えよう。》
イングラムは周りが気付かない程度に明滅していた。
《今後も精々俺を楽しませてくれ。ククク・・・》
デッドコピーと言いながらも、イングラムはしっかりと、オリジナルの悪戯好きの性格を受け継いでいた様だ。
TO BE CONECTED
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