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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Saga4-B届け!~All for One~

†††Sideヴィヴィオ†††

ルシルさんと戦ってるコロナとリオの居るところに戻ってきて、その後姿を視界に収めた。ゴライアスを串刺しにしてる6本の炎の槍が爆発して、ゴライアスが粉々に吹き飛んだ。すでに地面に降りてたコロナは無事で、リオと一緒に爆発範囲外に居るんだけど、2人の背後には放電する魔力槍が待機してた。わたしとアインハルトさんはスピードを上げてジャンプ。そして発射されるより早く、「はぁぁぁぁぁ!」槍を蹴っ飛ばした。

「ヴィヴィオ!」「アインハルトさん!」

「ただいま!」「ご迷惑をおかけしました!」

4人で力強く頷き合って、静かに待ってくれてるルシルさんに体を向けると、「コロナとリオを下がらせなくていいのか?」と聞かれた。2人のライフはもうほんとギリギリ。クリーンヒットを貰ったら一撃撃墜レベル。だからルールーは『下がって2人とも。回復するから』っていう撤退指示を出して、2人は「うん、了解」って応じた。

「ヴィヴィオ、アインハルトさん、気を付けてね!」

「頑張って!」

リヴィのところへ向かうコロナとリオを見送って、改めてルシルさんに対して構えを取る。

「少しギアを上げるぞ」

――ソニックムーブ――

ルシルさんの姿が掻き消えた。高速移動での奇襲のセオリーは、相手の背後から。でもルシルさんはちょっとイジワルだから、たぶん「ここ!」って、わたしはアインハルトさんの居る反対側の左側面に向けて中段回し蹴りを打った。同時、「むお!」掲げた両腕でガードされたけどルシルさんにヒット。足を下ろしてすぐに下段蹴りを打つけど、ルシルさんは小さなシールドを張って防御してた。

「はぁぁぁぁ!」

そこにわたしを掠めつつルシルさんの顔を狙うアインハルトさんの右フック。ガードを保ったままだったからルシルさんの両腕に防がれたけど、ガードを弾いたうえで数mと後退させた。

「「せぇぇぇい!!」」

ここで追撃。わたしは左拳、アインハルトさんは右拳でのストレートを打った。ガードし直される前に胸に入ったことでルシルさんは殴り飛ばされた。ダウンなら追撃は出来ないけど、ルシルさんは受け身を取って後転と同時にネックスプリングで立ち上がった。

「まだまだ! 来い!」

「「はい!!」」

わたしとアインハルトさんとルシルさんは同時にダッシュ。と、ルシルさんがジャンプをして宙で前転、わたしとアインハルトさんに同時に踵落としを繰り出してきた。

「(ルシルさんって意外とアクロバットな動きを・・・!)ぐっ!」「ぅく!」

両腕を頭上に掲げてガードして、「はっ!」ルシルさんを弾き返した。ルシルさんは着地するまでの間に「我が手に携えしは――」って詠唱を始めたけど、「あぁ、そうか、複製は使用するなと命令を受けていたんだったな」と中断して着地。

「まぁいい・・・さ!」

高速の跳び膝蹴り。狙いはわたしだったけど、上半身を捻りながら反らすことで回避。そしてすぐ後ろに着地したばかりのルシルさんへお返しとして打ち下ろしの蹴り「リボルバー・スパイク!」を打った。ルシルさんの左肩に直撃だけど、よろめかせることが出来ずに、さらに肩に乗ったままの足を掴まれて、「わわっ!」アインハルトさんのところに投げ飛ばされた。

「大丈夫ですか? ヴィヴィオさん!」

「はい、ありがとうございます!」

――ソニックムーブ――

抱き留めてくれたアインハルトさんにお礼を言いつつ、姿の消えたルシルさんの奇襲に備えよとうしたとき・・・

――燃え焼け汝の火拳(コード・セラティエル)――

まさかの「炎熱砲!?」が4発、近くの3階建ての建物の屋上から放たれた。アレは防御できない。それが解かったからこそ、わたしとアインハルトさんは回避に専念。遅れて次々と地面に着弾して蒼い爆炎が拡がった。

「あ・・・!(黒煙の所為で視界が最悪!)」

無警戒なのは解かってるけど、「 アインハルトさん!」の名前を呼んだ。

「ぅぐ!」

「アインハルトさん!?」

アインハルトさんの苦悶の声と打撃音が聞こえたかと思えば、黒煙の中から突然ルシルさんが目の前に現れた。繰り出されるのは右フック。いきなりの奇襲だったけど、右腕による攻撃のリーチはすでに見切ってる。左脇に向かってくるフックを紙一重で避けて、あご狙いでお返しの右フックを打つ。

「せい!」

「っ!」

そんなわたしの右フックを、左腕を跳ね上げさせることで上に向かって弾いた。がら空きになった右脇にルシルさんの左回し蹴りが飛んでくるけど、左膝をグッと上げて足の側面でガード。それでいったん仕切り直し。お互いに後退して、「アインハルトさんはどうしたんですか?」って聞いた。

「ん? まぁこんな感じだ」

――風音よ広きに渡れ(シルフィード)――

「うく・・・!」

ルシルさんが左手を横に振るうとすごい風が吹いて、わたし達を覆ってた黒煙を吹き飛ばした。それでわたしは「アインハルトさん!」の姿を視認できた。アインハルトさんは、ルシルさんのバインドで雁字搦めになってた。そでもほとんど完成形になってるアンチェインナックルで弾き飛ばしすんだけど、その都度新しいバインドで拘束し続けてた。あれじゃ逃げられない・・・。

「ヴィヴィオさん・・・!」

「どれ、少し話をしながら闘おうか、アインハルト」

「「え・・・?」」

アインハルトさんは動けず、コロナとリオがまだ戻ってこない今、わたしとルシルさんの一騎打ちだ。ルシルさんはこれまで通りの構えでゆっくりと近付いて来た。ルシルさんは、わたしがカウンタースタイルだってことを尊重してくれるみたいで、必ず先手で仕掛けてきてくれる。ただ、攻撃スピードが「速く・・・!」なってる。

「どうだろう、アインハルト? 自分の人生を懸けてまで成そうとしている、その手で必ず守り抜くと誓い、果たせるほどに強くなる、という願いが目の前で瓦解する様を、身動きが取れない中で見ていることしか出来ない今の気持ちは」

「「っ!」」

右拳の高速ジャブをガードして、左拳の裏拳打ち下ろしを後ろに下がって回避。追撃の二段蹴りを、ルシルさんの右側へと回り込んで回避。そして反撃として拳速を加速させる打撃、「アクセルスマッ――」を打とうとしたけど、それより早くルシルさんは左回りに旋回しての左エルボーで妨害してきた。

「ぅぐ!」

遠心力、それにたぶん身体強化も加えての一撃だったから衝撃はすごかったけど、顔の左側面にまで掲げた左腕でしっかりガード出来た。ルシルさんは今、わたしに後ろを取られてる状態だ。だから急いで電撃を纏わせた右ストレート、「スパークスプラッシュ!」を打った。

「蹴りでなくストレート(そっち)で良かったよ!」

ルシルさんは腰を落とすことで躱した後、腰を上げながらの背面体当たりをしてきた。全力の踏み込みでのストレートを打った直後だったから、何も出来ずにまともに食らっちゃった。吹っ飛ばされたけど転倒はしなかった。でもそれはダウン判定がないことを意味していて、すぐにルシルさんの追撃が襲ってきた。

「おおおお!」

左ストレートが来る。狙いは右頬。脚の屈伸を利用して上半身をU字に屈めて避けるウィーピングで回避、そしてカウンターにアッパーで軽く昏倒を狙おう。そうすればアインハルトさんを捕らえ続ける連続バインドも解除されるかも。

(ここだ!)

腰を落とそうとしたところで、すぐ側まで迫ってた左拳がピタッと止まった。この瞬間、フェイントに引っ掛かったってことに気付いたけどもう手遅れ。

「うぐっ!?」

お腹に突き刺さる衝撃。次いであごにもう1発。アッパー2連撃を受けたって、なんとなくだけど判った。足が浮いた感覚を得て、まずいって思うけど空中だから何も出来ない。さらに追撃の上段回し蹴りが迫るけど、それは両腕を胸の前で構えてガード。

「どうした、アインハルト! 君が守ろうとしている大切な人が、今まさに墜とされそうになっているぞ!」

「っ! く、ああああああああ!」

ルシルさんの挑発めいた言葉に、アインハルトさんは叫びながらさらにもがき始めました。わたしはと言うと、手加減はされてるみたいで、さっきまでのコンボを受けてもライフは200ちょっとしか減ってない。しかもリヴィの治癒魔法が効いてるから、すぐにMAXまで回復する。

「さぁ行くぞ、ヴィヴィオ?」

「ルシルさん、どうして・・・?」

ルシルさんと攻撃の応酬を行いながら、アインハルトさんに聞かれないように話す。

「作戦に少しアレンジを加えるぞ。アインハルトを限界まで追い詰める。すべてはそこからだ。だから、もうちょっとダメージを与え――おぶっ?」

ルシルさんがそこまで言いかけたところで、わたしの左フックを右頬に受けちゃった。

「う~ん、タダでは受けないですよ?」

後ろに下がったルシルさんにウィンクしてそう言うと、「ああ。少しでも俺との戦いを糧にしてほしい」って嬉しそうに笑った。

「いきます・・・!」

「おう!」

お互いに突撃。ルシルさんの高速中段回し蹴りをスライディングで避けて、すぐに上半身を捻ってうつ伏せになるかどうかで両手を地面に付いてブレーキ。そしてクラウチングスタートでの再突撃。まだ完全に振り向き終わってないルシルさんに「てやっ!」右ストレートを打ち込む。

「ぅむ!」

「入った!(このまま畳み掛ける!!)」

ルシルさんの左わき腹に直撃。僅かに後退したルシルさんに右ジャブ、左アッパー、右打ち下ろし、左フック、右ストレートのコンビネーションを打ち込むけど、ルシルさんはすべてをガードして耐えきった。やっぱりちょっとでもわたしより魔力量が多いと決定打になってくれないかな。

「次はこちらのターンだ」

また攻撃スピードが速くなった。左ストレートを顔を横に反らして避けて、右の連続ジャブを胸の前に掲げた両腕でガード。左の裏拳振り下ろしを受けないように上半身を反らすスウェイで避けて、弧を描いて垂直に打ち下ろされる右拳を、振り上げた左腕を外へと振り払うようにして弾いた。

「せぇぇーーーーい!」

――アクセルスマッシュ――

ここで反撃の加速アッパー。ガキンと防御魔法に止められた感覚が手に伝わった。と、「ぅぐ!?」あごから頭のてっぺんにまで突き抜ける衝撃が襲ってきた。カウンターのアッパーを貰った。でも脳震盪が起こるほどのものじゃない。手加減されたんだ。

「アインハルト! どうした! まだ助けに来られないか!?」

それでも体勢が乱れたことには変わらない。でも追撃は来なくて、ルシルさんはアインハルトさんに声掛け、挑発するだけ。でもアインハルトさんは、いまだにバインド地獄から抜け出せられてない。

「ルシルさん・・・!」

アインハルトさんの表情は悔しさや怒りでいっぱいだ。少し追い込みすぎなような気もするけど、ルシルさんはあとで恨まれないかな。それが心配だよ。

「(大丈夫。頭はスッキリしてる。休まなくても続行できる!)ルシルさん!」

「・・・リヴィア。コロナとリオをここへ。最終段階だ」

『りょ、了解』

アインハルトさんからは見えない角度でモニターを展開したルシルさんが、アインハルトさんには聞こえない小さな声でそう指示した。

「さぁ、ヴィヴィオ。君とコロナとリオを撃墜寸前まで追い詰める」

「っ! 全力の抵抗は許されますか?」

「もちろん。そうでないと意味がない」

ルシルさんが走って来た。その途中、両足に炎みたいに揺らめく魔力を付加した。撃墜寸前なんて脅されてるから、どんな攻撃が来るのかいろんな意味で心臓がバクバクだ。

「(とりあえず!)アクセルシューター!」

誘導弾5発をけん制として発射。ルシルさんは足を止めることなく突っ込んだかと思えば、「トライデントアーツ!」流れるような動きで左上段回し蹴りを繰り出した。と同時に付加されてた魔力が弧を描く巨大な魔力流になってシューターを迎撃。さらに5mくらい離れてるわたしのところにまで届いた。

「ぐぅぅ!(魔力流なのに本当に蹴られたみたいな衝撃・・・!)」

逃げられる距離じゃなかったから右腕を顔の横にまで掲げてガード。受けたのは魔力流だったこともあって直撃と同時に魔力は薄くなった。例えるなら鈍器から強風みたいな感じ。

(普通の蹴りと違って、振り切られてそのまま蹴り飛ばされなかったのは助かった)

でも威力は確かで、1発で体勢がぐらついた。立て直そうにも即座に2撃目、同じ左上段回し蹴りが繰り出されて、慌てて同じようにガード。これで完全に体勢を崩しちゃって、3撃目の内から外への上段回し蹴りによる魔力流をガード出来なくて、「うあ!」蹴り飛ばされた。

「いったた・・・!」

なんとか受け身を取ってダメージを軽減。立ち上がって構え直した時、「ヴィヴィオ!」コロナとリオが合流。

「揃ったな。よし、じゃあ続きだ」

――舞い降るは汝の煌閃(コード・マカティエル)――

蒼く光輝く槍が・・・えっと、100本近く空に展開された。ポカーンとしてると、ルシルさんが「ジャッジメント」と号令をかけた。一斉にじゃなくて連続で降って来る槍を「うわぁぁぁ!」声を上げて逃げ回る。回避の最中なのに「ルシルさん!?」が接近してくる。

「来たばかりですまないが、コロナ」

「わ、私ですか!? あぅ~!」

ここに来るまでにゴライアスの創成は済んでたみたいだけど、この槍の雨の中だとその大きな体は的にしかならない。それが解かってるからコロナもゴライアスから降りてるけど・・・。

「「コロナ!」」

わたしとリオは、コロナのフォローに入るためにルシルさんに突撃。ルシルさんは両腕に揺らめく魔力を付加。アレはもう中距離系の攻撃に使うんだって判ってるから、槍の雨に気を付けながら、3人一緒に纏まってルシルさんから距離を取ろうとした。

――天地に架かれ暗がる汝の明星(コード・ルシフェル)――

地面から濃紺色の砲撃が何十発って地面から放射されて、わたし達の逃げ道を塞ぐ壁になった。砲撃の壁は∩な形で、来た道を戻るしかないけどそこにはルシルさんが陣取ってる。うん、袋小路に迷い込んだ、逃げ場なし!

「アインハルト! 見ておけ、そして知るんだ! 所詮、独りの力など高が知れていると! それは違うと言うのなら! 俺を止めて見せろ」

そう言ってルシルさんは両拳を胸の前で打ち合わせて、右腕の魔力を左腕に移した。さらに強力になった魔力を付加してる左腕をグッと後ろに引いて、「コード・アダメル!」突き出すと同時に砲撃を発射。

「コロナ、リオ!」

「「うん!」」

回避は出来ない。防御するにはわたし達の魔力で出来るか判らない。なら、ルシルさんも抵抗していいって言ってくれてるし、全力で迎撃するのみ。

「ディバインバスター!」「紅蓮拳!」

わたしとリオの直射砲を、ルシルさんの砲撃にぶつける。魔力爆発が起きて、迎撃に成功したかな?って考える間もなく、その閃光の中から勢いが衰えた蒼い砲撃が飛び出してきた。

「ケイジングスピアーズ!」

さらにコロナの魔法。先の尖った石の柱が壁のように並んで突き立った。そして砲撃が着弾した音が石の壁の向こうから聞こえて、壁が大きな音を立てて崩れてく。砲撃の迎撃は「うまくいった!」みたいで、3人で喜び合った。

「あー、すまん」

――公正たれ汝の正義(コード・ザドキエル)――

「「「っ!?」」」

グッと体を上に引っ張られたかと思ったら、十字架に磔にされたような体勢にさせられた。両隣のコロナとリオを見ると、ルシルさんの魔力槍2本で十字架が形作られてて、わたし達はバインドで拘束されてないにも関わらず拘束されてた。さらにわたし達の前には1人につき4本の魔力槍。

「さて。そろそろバインド地獄を解除してやろうか」

パチンと指を鳴らしたルシルさんの視線の先、ようやくバインドから解放されたアインハルトさんは、何回も何回もバインドをアンチェインナックルで弾き飛ばし続けたことで大きく肩で息をしてる。

「今すぐ、ヴィヴィオさん達を解放してください!」

「バインド中での攻撃は許されている。だから・・・ジャッジメント」

「「「っ!?」」」

ルシルさんが号令を掛けた瞬間、わたしとコロナとリオのお腹に槍が突き刺さった。お腹から出てる柄の長さからして貫通してるっぽいんだけど、ダメージを負った感じがしない。むしろ力が湧いてくる。ルシルさんはアインハルトさんに背を向けて、小さな声で「演技、演技」と指示。

「あ、えっと、うあああ!」

「わぁぁぁ!」「きゃあああ!」

「ヴィヴィオさん、コロナさん、リオさん!」

アインハルトさんは大きく目を見開いて、「ああああああああ!」怒声を上げてルシルさんに突撃した。

「悔しいか? 強くなって、守りたい人を守りぬきたい。それは誰もが抱く想いだろう」

ルシルさんは、アインハルトさんの拳のコンビネーションを的確な前腕でのガードをしつつ、「楽しんではいけない、笑ってはいけない。それは孤独を意味する」と、右ストレートを振り向きながらしゃがみ込んで避けて、右肩の上にあるアインハルトさんの右腕を両腕で掴み取ってそのまま背負い投げ。しかも地面に叩き付けるんじゃなくて、空中に放り投げるようなもの。

「独りでたどり着ける強さなんて脆いものだ。そして、その成長もまた遅くなるだろう」

ルシルさんの左脚に揺らめく魔力が付加されて、落下途中のアインハルトさんに踵落とし。魔力流は大きく伸びて、アインハルトさんに打ち付けられた。

「「「アインハルトさん!!」」」

地面に叩き付けられたアインハルトさんに、ルシルさんは「すぐに立てるだろ? 威力は限界まで落としていたぞ」と言って、右拳にだけ魔力を付加して構えを取った。ゆっくりとだけどアインハルトさんは立ち上がって、わたし達を見て「すぐにお助けします」と言ってくれた。

「そうか。だが残念だったな、アインハルト」

ルシルさんが指を鳴らすと、2本目の槍がまたわたし達のお腹を貫いた。直撃時の衝撃も何もないし、また力が溢れるから、たぶんコレは治癒系の魔法を槍の形にしてあるのかも。でもアインハルトさんはそんなこと知らないし、ショックを受けるような光景だから・・・。

「どうして・・・!」

アインハルトさんは今にも泣いてしまいそうな表情を浮かべながらも、ルシルさんに立ち向かいました。対するルシルさんは涼しい顔で、アインハルトさんの断空を含めた猛攻を捌き切ってる。

「ルシルさん、左目見えてないんだよね・・・?」

「うん。アイリとユニゾンしない限りは右目しか見えないはずだけど・・・」

明らかに死角からの攻撃も完璧に対応してる。やっぱり6千年以上と続く歴代セインテストの経験のおかげなのかも。
アインハルトさんはそんなルシルさんに決定打を入れられないことで、徐々に息を切らし始めた。それを待ってたかのようにルシルさんは本格的に攻勢に出た。高速連続の右ジャブでアインハルトさんをガードしっぱなしにしたところで、左の大振りなフックが繰り出された。

(あ、隙が・・・)

ジャブも止まって大振りな一撃ということもあって、アインハルトさんはその一瞬を突いて「覇王断空拳!」を繰り出した。ルシルさんはアインハルトさんの右側に滑るように回り込んで、アインハルトさんの首の後ろに両手の指を組んでの打ち下ろし技、ダブルスレッジハンマー、お腹には膝蹴りと、逃げられないように同時に打ち込んだ。

「かはっ・・・!?」

アインハルトさんは前屈みになってフラついた。ルシルさんは間髪入れずにアインハルトさんのあごを掌底で打ち上げて、体が宙に浮いたところで連続ボディブロー。そして最後は後ろ回し蹴りでアインハルトさんを蹴っ飛ばした。

「ルシルさん!もうこれ以上は・・・!」

「立て、アインハルト。まだライフは半分も減っていないはずだ。右手には治癒術式を付加している。ダメージを与えた分、それ以上に回復した。守るのだろう? 助けるのだろう? なら寝ている暇はないはずだ」

「げほっ、ごほっ・・・! も・・・もちろん、です・・・」

「アインハルトさん・・・! ルシルさん!!」

作戦とかもうどうでもいい。今はアインハルトさんの元へ行って、支えたい。一緒に戦いたい。だから「ごめんなさい、アインハルトさん!」って謝って、闘いが再開される前に「実は――」この練習会の真実を伝えた。
アインハルトさんとルシルさんの会話を実は聞いていたこと。アインハルトさんの抱える悩みから助けてあげたかったこと。ルシルさん達にお願いして、アインハルトさんの意識改革をしてもらおうと考えたこと。あと、今はルシルさんがアレンジした追い詰め方だってこと。

「(ごめんなさい、ルシルさん。今の追い詰め方もわたし達の作戦って言えないです)・・・アインハルトさんに、今のわたし達を見てほしかったんです」

「アインハルトさんは、私たちにとって大切で・・・」

「大好きな先輩なんです」

コロナとリオの“大切で大好きな先輩”の言葉に強く頷いたわたしは、「アインハルトさんは、自分ひとりが強くなって、自分の力だけで誰かを守りたいって考えてるんですよね・・・?」って続く。

「わたし達はそれが寂しいんです。一緒に強くなりたいんです。ただ守られる側でありたくないんです。わたし達だってアインハルトさんを守りたい、支えたい!」

「あたし達、アインハルトさんに比べたらまだまだ弱いけど、本当はもっと頼ってほしいです!」

「悲しいことも辛いことも分かち合っていきたい、嬉しいことはみんなで一緒に喜びたい。同じ視線で感じたい。・・・えっと、以上です」

なのはママ達のチーム海鳴みたいに、これまでの十何年も、そしてこれからの何十年も仲良く過ごしていけるような関係を目指したい。そんな想いを全部、アインハルトさんに伝えた。これでダメでも諦めるつもりはないけど、少しの間はヘコんじゃいそう。

「「「アインハルトさん、本当にごめんなさい」」」

感極まって泣いちゃってるわたしは、同じように泣いちゃったコロナとリオと一緒に磔状態のまま頭を下げてもう1度謝った。アインハルトさんはわたし達の話を黙って聞いてくれて、そして「ごめんなさい」とわたし達に謝りました。3人で「え?」って聞き返す。

「私はこれまで一体なにを見てきたのでしょうか・・・。皆さんは、出会ってからずっと私なんかに笑いかけてくれていたのに、一生懸命に踏み込んできてくれていたのに。皆さんの笑顔に、元気さに癒されていたのに。それなのに私は心を開こうとせず・・・。本当にジークさんやルシルさんの言う通りでした」

俯いたアインハルトさんは両手でパァーン!と両頬を叩きました。

「独りの限界。・・・何も見ようとせず、聞こうとせず、そして勝手に諦めて、すべてを失う愚を犯すところでした」

顔を上げたアインハルトさんの頬は赤くなっていたけど、それ以上に表情は晴れやかで目も輝きを取り戻してました。そして「ありがとうございます、ヴィヴィオさん、コロナさん、リオさん」今まで見たことのないほどに綺麗な笑顔を見せてくれた。

「「「アインハルトさん・・・!」」」

また泣いちゃいそうになってたところで、「あ・・・」わたしとコロナとリオを拘束してた十字架が解除されて、トンっと地面に降り立つことが出来た。さらにお腹を貫通してた2本の槍もすぅっと消えていった。

「あの、ヴィヴィオさん達は平気なのですか? お腹に槍が・・・」

「あ、平気です、大丈夫です!」

「治癒魔法の一種のようでダメージを受けるどころか・・・」

「ライフが満タンです!」

「そうですか。良かったです。完全に私を追い込むための演出だったのですね」

アインハルトさんの元に集まって、ルシルさんをチラッと見る。そして「ちょっとイジわるです」ってみんなで小さく頷いた。

「このまま俺が負けるのが綺麗なエンディングなんだろうが・・・。どうする?」

わたし達の視線を受けたばつが悪そうに頬を掻いてるルシルさんにそう聞かれてわたし達は顔を見合わせる。うん、考えるまでもないよね。みんなの表情はやる気に満ちてる。ここでルシルさんに手を抜いてもらって勝っちゃうより、全力で戦って負けた方がまだ気持ちいい。

「コロナ」

「うん!」

「リオ」

「うん!」

「アインハルトさん」

「はい!」

わたし達は横一列に並んでルシルさんと相対する。ルシルさんは変わらず強敵なのに、「なんでだろう。今のわたし達なら、ルシルさんに勝てそう!」って妙な自信が湧き上がってくる。

「あ、うん、私も!」

「あたしも! なんとなくだけど!」

「私もです。初めてです。こんなに気持ちの良い、胸の高鳴りは」

「ですよね!」

「良い目になったじゃないか、アインハルト。それでこそクラウスも喜ぶというもの! さぁ! 来い!」

自然と笑い合ったわたし達は、両手両足に揺らめく魔力を付加して、さらに周囲に炎の槍十数本を展開したルシルさんへと「はい!」突撃した。
・・・で、結果としてわたし達は負けちゃった。一切の手加減なしだったけど、絶好調なアインハルトさんが一緒だったおかげで、ルシルさんのライフを300以下にまで減らせたし。うん、良いことばかりだったよ。

「アインハルトさん」

「はい?」

「これからもよろしくお願いします」

「はい。こちらこそ、お願いします」 
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