吸血鬼の真祖と魔王候補の転生者
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第5話 シルヴィア姉様の教育方針と、不老の解除
前書き
前回のあらすじ
エヴァとの出会い
姉妹の旅立ち
皆さんごきげんよう、シルヴィア・マクダウェルよ。
エヴァと義姉妹の関係となり、旅を始めて半日。
時刻はすっかり夜で、私達は今夜も野営をしている。
焚き火の脇に広げた敷物の上に寝転がる私。
腕の中には、もちろんエヴァ。
ちなみにエヴァの今の格好は、私と同じ。
ボロボロのワンピースを仕舞い、代わりに私の予備の服装を着せてみた。
マントと一緒で、勝手にサイズを調整してくれた。
ホットパンツから延びる、素足をさらす格好に恥じらうエヴァの姿もたっぷり堪能したわ(キリッ)
そんな訳で上から下までそっくりの格好な私達。
唯一違うと言えば、私の腰に刺さった短刀。
今日の昼、預けていたのを義姉妹となった時に返された。
忘れていたと言うのもあるが、私の方が扱えるという事で。
マントのお蔭で快適に寝る我が義妹。まぁ、焚き火は獣避けのため。
すやすや眠る彼女を眺めながら、今後の事を考える。
とりあえず、今回の心の傷が癒えるまではたっぷり甘えさせてあげよう。
ただでさえ、親を失ったのだから。せめて、完全な代わりとはいかなくても、それに匹敵するくらいの愛情を注ごう。
傷が癒えたら、徐々に自立させる。寄り添う事はよくても、依存はよくない。・・・お互いに。
それぞれが自分の足で立つことで、はじめて共に歩むことが出来るのだから。
徐々にそうなる事ができたらいい。
次に、彼女の力をどうするか。
私にしろ、エヴァにしろ、どうあっても戦う事からは逃れられないだろう。
先日の、自称正義(下衆)の魔法使い(嘲笑)がいい例だろう。
彼女が積極的に戦うにしろ、極力避けて身を守るにしろ力は必要だ。
・・・と言っても、まだ早い話かしら。エヴァは10歳になったばかりなのだから。
当面は、護身が出来る程度に体や技術を鍛える。その間は私が守る。それでいいだろう。
数年経って、彼女が精神的に成熟した時、彼女が自分自身でどういった覚悟・決断をするか。
どういった決断であれ、私は受け入れる。
戦うのなら共に戦う、逃げるのなら私が守る。その違いだけ。
私がエヴァと共に在るのは変わりないのだから。
私が覚悟を決めるのに数年、体に染み込ませるのも含めて約10年掛かった。
その基準で言えば、まずはエヴァが20歳になるまで見守るとしよう。
過保護と取られるかもしれないが、これが私の限界だ。
私は私の幸せのために力を使う。
私の幸せの1つは、エヴァが幸せになる事。
エヴァが、そして私が幸せになるために、私は力を使う。
「あなたは、あなたの好きに生きなさい・・・どんな道であれ、私は共にいるわ。それが私の幸せ」
エヴァを抱きしめながら、いつの間にか口にする言葉。
言葉にすることで、それは自ら誓った誓約のように心に収まる。
彼女の額にキス。全身に気を巡らせて周囲の警戒をしながら、睡魔に身を任せ、瞳を閉じる。
・・・・・・周囲にばかり気を向けていた私は、腕の中で動く彼女に気付くことはなかった。
そして翌朝、頬を赤らめ、きょろきょろと挙動不審なエヴァに、首をかしげるシルヴィアが居たとか居ないとか・・・
1週間後
追手から距離を取り行方をくらませるために、この1週間はほとんど歩きっぱなしだった。
と言っても、服やブーツの自動体力回復魔法や自動加速魔法の効果で、疲れ知らず+かなりの距離を稼げた。
それに、合間に携行食料を作るのに挑戦したり、1度は賊が襲ってきて蹴散らしたりもした。
食糧作りには魔導書が大活躍。獣の捌き方や下処理・調理方法などもばっちり記載。グー○ル先生もびっくりの情報量。もはや魔導書と言うより百科事典クラス。それでも魔法が載っているので魔導書と呼ぶ。
鳥以外の肉は燻製、魚は開いて干物に。鳥は血抜きして食糧用の小分け袋にそのまま入れる。
森に生えているキノコや野菜と煮込むと、良い鳥ガラスープになるのだ。
歩きながら野菜・果物を採集することで、食糧事情も随分改善された。
そんな風に旅をしながら距離を稼ぎ、そろそろ頃合いかと昨日は深い森の中で野営をして今日に備えた。
朝目覚め、敷物や焚き火の後始末をしようとしている義妹に声をかける。
「エヴァ、今日は旅に出ないからそのままでいいわよ」
「何かするの?」
そう尋ねるエヴァに私はリュックから魔導書を取り出し見せつける。
「エヴァの不老の解除よ」
そう告げると大きく目を見開いた。
目を閉じ集中。意識をお臍の下、丹田に向ける。
そこにある魔力の塊を、腕に流し始める。
この1週間、歩きながら、あるいは暇さえあれば魔力の流れを意識し、全身に巡らせた。
そのおかげで、気の通り道である気脈に対して、魔力の通り道である魔脈の拡張が大分進んだ。
集積地の事は、面倒なので気・魔力共に丹田と呼ぶことにした。
気の扱いで大分コツを掴んでいたのか、すぐに魔力でも、気と同じように身体強化が出来るレベルに到達した。
あの100年は一体・・・と思わないでもないが、そのおかげですぐに上達したのだから文句も言えない。
そのまま魔力を集中、手のひらを中心に魔力の塊が出来始める。
バスケットボールくらいの魔力が溜まると、今度はそれの維持だけに流す。
そうして今度は、魔導書に記載された通りに、魔力で地面に魔法陣を形成する。
描き始めた途端、魔力がどんどん吸収されるのを感じて、急いで魔力を供給する。
全てを描き終えるとようやく一息つける。慣れていないせいか集中と魔力の供給でそれなりに疲れる。
地面に焼き付けられた魔法陣は、風や足跡で消えること無くそこに定着している。まずは成功のようだ。
「義姉様?」
脇に控えていたエヴァが、水筒とタオルを差し出してくれる。
さすが我が義妹、と気配りに感心し、礼を言ってから受け取り喉を潤す。
同時に魔導書に目を通し、もう一度魔法陣と内容を確認をする。
今回私が初めて描いた魔法陣は、神様が魔導書に記してくれた、エヴァの不老を一時的に解除するためのものだ。
「この後はどうするの?」
「少し文字を追加した後、エヴァが魔法陣の中央に立って、私が呪文を詠唱する。そうすると魔法陣からエヴァに鎖の様なものが出る。それが呪いを示すらしいわ。」
「鎖・・・」
「痛みとかはないみたい・・・不安?」
「ううん、平気。それで?」
エヴァをつぶさに観察しても、動揺や不安は見られないので話を続ける。
「呪いが鎖として現れた後、私が直接その鎖を引きちぎる。それで不老の呪いは一時的に解ける」
「一時的?」
「追加する文字の効果よ。年単位で、どれだけ呪いを解除するか決めておくの。5と刻めば、5年間は体が成長するけど、そのあとは鎖、つまり呪いが修復され不老に戻る、ということね。」
「う~ん、義姉様の身体も不老不死だよね?何歳にしたの?」
「私はもともと、前世が22歳だったから、そのままにしたわ。姿は変えたのだけどね。」
「じゃぁ、私は10年にする。そうしたら私の身体は20歳で不老になって、いつまでも義姉様の義妹で居られるもの」
そう言い、ニコッと微笑む彼女を、私は抱きしめずには居られなかった。
「義姉様?」
「ごめんなさい。この方法じゃ、不死の方は治せないの。エヴァの不老不死が世界の存続に関わる事、そして吸血鬼の真祖と言う種そのものが、この人間界の根幹に根ざしている以上、無理に治そうとしても世界が介入して邪魔をする・・・・・・ごめんなさい」
如何に地球5個分の力を持とうと、相手はこの世界、人間界そのもの。
正面からぶつかれば、惑星どころか銀河すら手中に収める世界にはさすがに適わない。
恐らくだが、原作開始前に主人公である薬味をどうにかしようとしても、かなり強力な介入が予想される。
物語が始まらなければ、終える事が出来ない。それでは人間界としての存在理由が満たせない。
それだけならまだしも、エヴァの呪いは吸血鬼の真祖。
それが世界の根幹に根ざしているため、原作開始後に呪いを解こうとしても、それすらも拒否される。
自分の無力感に沸々と怒りが沸き起こる。
如何にどうしようもないことだとしても。これだけの力を得てなお、目の前の義妹1人救えない。
そんな怒りに飲み込まれそうになる私を、エヴァは正面から抱きしめる。
「謝らないで、義姉様。そんなこと言わないで」
「え?」
「確かに最初は、悲しかったよ?人以外の存在になっちゃったんだって。でも今は感謝する事も出来るの」
「感謝?」
そう問いかける私に、エヴァは顔を上げまっすぐ見つめてくる。
いつか私が、彼女に心を伝えようとした時のように。
「この呪いのお蔭で、私は義姉様に会う事が出来た。この呪いのお蔭で、義姉様と一緒に歩くことが出来るんだから」
そう言い放つ彼女は、本当に10歳の少女なのか疑う。
それくらいの力強さを持っていた。
すると一転、おどけた悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「もちろん、私に呪いをかけた造物主とかいう人には、きっちり仕返しするけどね。父様や母様、皆の仇も取らないとね」
そうやって笑みを浮かべる彼女を眺めていると、私も笑みを浮かべる。
まったく、自分の弱さが恥ずかしい。
精神的には100年以上生きているはずなのに、まだ10年しか生きていない義妹に教えられるなんて。
エヴァ自身、呪いや両親の事含め、まだ完全には割り切れてないはずなのに。
守る側であろうとした自分の方が気遣われている。
情けない自分に苦笑しつつ、次から気をつけようと、これもまた寄り添う関係の1つではないかと、気持ちを切り替える。
「そうね・・・・・・ありがとう」
そう微笑み、抱きしめる。
エヴァも抱きしめ返してくれる。
それはまるで、これで良いのだと伝えているようだった・・・
しばらくして、落ち着いた私は儀式を再開する。
エヴァの願いどおり、10の数字を魔法陣に刻み、エヴァを中央に立たせる。
「いくわよ・・・いい?」
「うん・・・」
さすがに若干の緊張を見せるが、儀式を続行する。
「『我、汝が背負いし魔を祓う者!今ここに我が命ず!汝が魔を眼前に現せ!』」
膝をつき、魔法陣に手を触れながら魔導書に記された通りに詠唱する。
神様直々の魔法のせいか、始動キーはなかった。
そうして唱え終えると、魔法陣が強く発光。
そして陣のいたるところから、エヴァに向かって鎖が伸び、体に絡まる。
その数10本。
「エヴァ、大丈夫?」
「うん、私は平気・・・でも体は動かせない」
そうして鎖の絡まった体を動かそうとするも、びくともしない。
・・・一瞬、不埒なことを考えたりなんかしてないわよ?
ともかく、光が収まると私はさっそく鎖の1本を手に取る。
全身に魔力を流し、強化する。
もともとの魔力量が、人基準ではありえない量のために出来るこの儀式。
体にもどんどん魔力を流し、力で無理やり引っ張る。
「・・・あれ?」
そこにはぼろぼろの鎖。
なんだか拍子抜けするくらい簡単に壊れた鎖が手にあった。
ふとエヴァに視線を向ける。
「・・・」
「・・・」
なんとも気まずい空気を無視するように、他の鎖に向かった。
「これで10年間は、普通に成長するんだよね?」
私と一緒に隣を走るエヴァがそう問いかけ、私は頷いて答える。
あの後、あっさり全ての鎖を破壊した私達。
これでエヴァの不老は一時的に解け、10年後までは成長を続ける。
その後は不老に戻り、ずっと20歳のまま、という訳だ。
私達はそのまま1日過ごす予定だったのだが、すぐに片付け旅立った。
と言うのも、儀式中に使った魔力が思ったより大きかったので、近くに魔法使いがいれば魔力の流れによって存在がばれた可能性に思い至ったのだ。
そこですぐさま移動を開始。
ブーツの自動加速魔法の効果も利用して、すでに大分距離を稼いだ。
時刻は夕方近くになっている。そろそろ今夜の野営地を決めないと。
そんな事を考えていると、隣のエヴァが私を見ている事に気付く。
具体的には私の胸を、だ。
「ふふっ、羨ましい?」
マントから覗く、ローブを押し上げる胸。
その胸を持ちあげからかう・・・
「うん・・・私も義姉様みたいに綺麗になれるかな・・・」
つもりが義妹のピュアな口撃にあっさりやられました・・・・・・やるわね我が義妹よ。
「えぇ、エヴァならきっとなれるわ。体の成長は大体15歳くらいからかしら。個人差で前後もするけどね」
そう・・・成長する事ができるのだ。
それだけでも、いいのではないか。
何もかも私が背負い込む必要はないのだ。
今の時点ですでに、ただ守られているだけの存在ではないのだ、この義妹は。
だから私も、自然でいればいい。
気負うことなく、自然に2人で歩いていけばいい。
そんな事を思いながら、エヴァと共に走り続ける。
後書き
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これからの励みとして、続けていきたいと思います。
本当にありがとうございます。
それではまた次回。
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