戦国異伝供書
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第八十六話 紫から緑へその八
「わしも毛利家はな」
「例えどれだけ力をつけても」
「それでもですな」
「上洛はせずに」
「山陽と山陰で止まるべきですか」
「この安芸と出雲、備後、備中、備前とな」
「美作にですな」
「因幡、石見に」
「周防と長門ですな」
「この十国でな」
それだけでというのだ。
「よい、というか十国も持てばな」
「かなりですな」
「考えてみれば」
「それでもですな」
「だからな」
それでというのだ、松壽丸は家臣達に話した。そうしてその話をしてから彼は家臣達にさらに言うのだった。
「上洛まではな」
「それは、ですな」
「考えておられず」
「山陽と山陰即ち西国ですか」
「そこで留まられかすか」
「九州にも手を及ぼそうと思うが」
それでもというのだ。
「天下は望まぬ、むしろな」
「望んではですか」
「ならぬ」
「そう考えておられるのですか、若殿は」
「左様ですか」
「どうもな、当家は天下を望むより」
それよりもというのだ。
「我等はな」
「この西国ですか」
「西国でどうすべきか」
「そのことを考えるべきですか」
「西国探題か」
ここで松壽丸は幕府の官職の名も出した。
「それにならせて頂ければな」
「よいですか」
「当家は」
「それが限度ですか」
「西国探題が」
「それが」
「あの大江家でもな」
大江広元を祖としている古い家でもというのだ。
「それ位であろう」
「ではですか」
「そこまでをよしとし」
「天下は望まれませぬか」
「そう考えておる、ただ父上じゃが」
ここで松壽丸は父の話もした。
「近頃大内家に従ってな」
「はい、上洛にも従い」
「活躍されておられますな」
「何かと」
「そうであるな、しかし大内家につけば」
そうすればというのだ。
「一方の尼子家がある」
「出雲のですな」
「あの家がありますな」
「どうしても」
「尼子家のことを忘れるとな」
どうなるかというのだ。
「攻められる、大内家と懇意にするのはよいが」
「それでもですな」
「尼子家に対してどうするか」
「それを忘れてもなりませぬな」
「決してな、当家は今は安芸の国人の一家に過ぎぬ」
その程度の力しかないというのだ。
「大内家とは比べるべくもなく」
「尼子家にもですな」
「及びませぬな」
「到底」
「そのことを忘れてはならぬ、そして当家が力をつけるにはな」
またこの話をした。
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