提督はBarにいる。
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艦娘とスイーツと提督と・59
~山風:スコーン~
「あ、あのね……パ、パパにお願いがあるの」
「ん?どうした山風、改まったりして」
5月初めの昼下がり、昼飯を食べて腹休めをしていた俺の所にチケットを握り締めた山風がやって来た。
「も、もうすぐ母の日でしょ?だからママにね、お菓子を作ってプレゼントしたいの」
山風は2人きりの時やプライベートの時には俺の事を『パパ』と呼ぶ。しかし、ママと呼ぶ相手が居るのは初耳だ。
「あ~っと……山風?ちなみにママって誰の事だ?ウチの鎮守府、指輪持ちは100人超えてるんだが」
山風のママ候補、実に4人に1人の割合で居る計算になる。いやぁ、我が事ながら恐ろしい事になっている。しかし山風は俺の困惑に対して首を傾げながら、
「え……?パパの本当のお嫁さんは金剛さんでしょ?だから、山風のママは金剛さんじゃないの?」
「あぁそうか、そう考えるならそういう事になるな!あははははは……」
「提督、笑い事ではないと思いますが?」
そう言ってニッコリ笑っておられるのは、今日の秘書艦当番の妙高である。結婚する前からおっかなかったが、結婚してからは更に迫力が増した気がする。というか、笑顔の圧力が半端ない。
「アッハイ、ゴメンナサイ」
こういう時は反論せずに頭を下げるに限る。だが言い訳をさせてもらえば、金剛と俺の間に血の繋がった子はまだいない。勿論子供は欲しいから『そういう事』はしてはいるが、まだめでたい報告は無い。山風とジャーヴィスという俺をパパと慕ってくれる娘はいるが、俺も金剛も母の日というイベントには2人ともまだ縁がないと思ってたんだよ。
「だ、だからね?パパならママの好きなお菓子を知ってるかと思って……」
「それで、チケットを使って食べてみようと?」
山風はコクリと頷く。何とも健気で可愛らしいじゃねぇか。
「よし!可愛い『娘』の為だ、パパも頑張るとするか」
「うん!」
そう言って山風と次の休みにお菓子の作り方を教えると約束した。さて、問題は何を作るかだが……。
そして次の休日。執務室をキッチンモードに切り替えて、俺は山風と共に厨房に立っていた。
「そういえばパパ、今日は何を作るの?」
「やっぱアイツは紅茶が好きだから、お菓子も紅茶に合う物が良いと思ってな。今日はスコーンを作るぞ」
スコーンとは小麦粉か大麦粉、もしくはオートミールに牛乳とベーキングパウダーを加えて軽く捏ねて、オーブンで焼き上げたスコットランド発祥のパンの一種だ。バターを練り込んだりドライフルーツを入れたりもするが、生地の発酵もさせないからパンというより……アレだ、某フライドチキンチェーンのビスケットをイメージしてもらえると近いかもしれん。
「そ、それって……美味しいの?」
正直、俺もあんまり好かん。ジャムやクロテッドクリームなんかを乗せて食べる前提だから甘くないのだとウチの嫁さんは豪語してたが、正直な所モソモソしてて口の中の水分を持っていかれるから紅茶が進むだけじゃ?と思わなくもない。
※個人の感想です、悪しからず。
「安心しろ山風、今回作るのはアメリカ風スコーンだ」
「え、アメリカとイギリスでスコーンって違うの?」
「そうらしいな」
ネットで調べたりアメリカ組の艦娘達にも聞いたんだが、アメリカのスコーンはイギリスの物に比べて生地に砂糖やバターが多めに入る上、ベリー系のドライフルーツやナッツ、チョコチップ等を入れたり、チーズやベーコン、玉ねぎなどの野菜を加えて焼き上げる等実に多彩だ。
「そ、そっちの方が美味しそう……!」
「だろ?だからそっちを作って金剛にはプレゼントしような」
「うん!」
流石の金剛も山風が一生懸命作ってくれたスコーンを邪険には扱わないだろうって腹黒い計算もあるのはナイショだ。
《美味しく作っておやつに、朝食に!スコーン》分量:4~6個分
(プレーン)
・薄力粉:50g
・強力粉:100g
・ベーキングパウダー:10g
・砂糖:大さじ1~2※甘めがいい場合は多目に!
・塩:ひとつまみ
・バター:35g
・プレーンヨーグルト:20g
・牛乳:40cc
(チョコ)
・プレーンと同量の材料+チョコ:50~80g
※市販のチョコだと溶けてドロドロになるので、製菓用のチョコチップ等を使おう!
(くるみ)
・プレーンと同量の材料+クルミ:50g
(紅茶)
・プレーンと同量の材料+紅茶葉:2g
(ブルーベリー&クリームチーズ)
・プレーンと同量の材料
・ブルーベリー(ドライ):50g
・クリームチーズ:100g
(ベーコン&チーズ)
・プレーンと同量の材料
・粉チーズ:大さじ1
・ベーコン:1枚
・ピザ用チーズ:10g
・ローズマリー(ドライ):小さじ1/2
※ドライトマト10gを加えると、味がピザっぽくなるぞ!
「まずは下準備からだな。山風、バターを出してくれ」
「はーい。これをどうするの?」
「3cm角に刻んで、冷蔵庫に戻して冷しておくんだ。スコーンの場合はバターを溶かさない様に生地を作るのが肝心だからな」
他にも混ぜ込む具材の下拵え。チョコレートはチョコチップでなければ細かく刻み、クルミも粗めに刻んでおく。ベーコンは横半分にしたら幅5mmの短冊に切る。
「薄力粉と強力粉、ベーキングパウダー、砂糖、塩を篩にかけてボウルに入れる」
「篩が無かったらどうしたらいい?」
「計量した粉類をボウルに入れて、泡立て器で混ぜても同じように出来るぞ。篩にかけるのは粉のダマを無くして全体が混ざりやすくするためだからな」
紅茶のスコーンはこの時に茶葉を加えておく。
お次はバターを加える。ダイス状のバターを握り潰す様にしてから粉と全体を混ぜ合わせる。この時は絶対に捏ねないように注意。あ、あとバターを溶かさない様にな。難しければ、バターと粉を手で挟んで擦り合わせる様にすると早く馴染むぞ。粉とバターが馴染んでそぼろ状になればOKだ。
※粉っぽさが残っていてもOK!
そぼろ状になったら、牛乳、プレーンヨーグルトを加えて捏ねないように混ぜ合わせつつ、生地を纏めていく。この時、それぞれのスコーンに混ぜる具材を入れて、生地を纏めていく。この時、纏めるのに掛ける時間は1分~1分半位。時間をかけすぎると手の熱でバターが溶けてくるので注意。
生地が纏まったらラップで包み、30分程冷蔵庫で寝かせる。その間にオーブンを180℃に余熱しておく。
「しかし、なんでまたいきなり母の日のプレゼントをしようなんて思ったんだ?」
「え、えっと……お姉ちゃん達が間宮さんとかお世話になってる人達にプレゼントするって、聞いたから」
ははぁ、それに触発されて自分もプレゼントしようと思ったわけか。
「優しい娘だなぁ、山風は」
「えへへ……♪」
そう言いながら頭をくしゃくしゃと撫でるが、以前は嫌がっていたのに今は顔を赤くして照れている。随分と俺にも懐いたもんだ。
「さて、作業再開だ」
「うん♪」
寝かせておいた生地を取り出し、まな板に打ち粉をふるう。まな板に生地を広げ、手で延ばして4つに畳むという作業を2~3回繰り返す。
延ばして畳むを繰り返した生地を2cm位の厚さに整え、4~6等分に切るか型で抜く。
オーブンの天板にクッキングシートを敷き、生地を感覚を空けて並べる。そして余熱しておいたオーブンで10~12分焼く。1度目の焼きが終わったら今度は200℃に設定して2~3分焼く。狐色に焼き上がれば完成。お好みでジャムやクリーム等を添えて。
「よし、食べるか」
「えっ、折角作ったのに……」
「まぁまぁ。母の日にゃあまた焼けばいいさ、俺も手伝うからよ」
「うん、ありがとうパパ!」
その日食べたスコーンは、本当に美味かった。そして数日後、母の日当日。俺は大事な話があると金剛を執務室に呼び出した。
「ヘイdarling、来ましたヨ……?」
執務室のドアを開けたまま、金剛が固まる。部屋の真ん中にはニヤニヤ笑いを浮かべた俺と、その隣でカーネーションの大きな花束を持ち、花と同じくらい顔を真っ赤にした山風が待ち構えていた。
「2人ともな、何してるんデース?」
「今日は母の日だからな。ほれ、山風」
「う、うん……。ママ、いつもパパを支えてくれてありがとう!」
そう言って山風は笑顔を浮かべ、金剛に花束を手渡した。
「さぁさ、惚けてないで座れよ金剛。今日は山風が作ったスコーンもあるんだぜ?」
「really!?じゃあ早速ティータイムにするデース!じゃあワタシが紅茶を淹れて来るネー!」
花束をソファの上に置いた金剛は、そそくさと給湯室に向かう。
「どれ、俺も手伝ってくるよ。山風は座って待ってな」
「 ? うん」
山風は不思議そうにしながらもチョコンと座っている。
「……サプライズが効きすぎたみたいだな」
給湯室にいた金剛は、感動のあまりに号泣していた。
「だ、だってあんなの……不意打ち過ぎだよ」
「ほれほれ、泣いて崩れた化粧直して笑顔で戻ってやれ。山風は泣き顔なんぞ望んでないぜ?『ママ』」
「う゛ん……」
涙声の金剛は鼻をすすり上げ、いそいそとメイクを直していた。その間に俺が紅茶を淹れ、2人揃って山風の元へ戻った。そうして親子3人、スコーンを美味い美味いと食べながら楽しいティータイムを過ごした。後日、ジャーヴィスが『私もお祝いしたかった!』と膨れっ面で駄々をこねられたのはまた別の話。
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