GATE ショッカー 彼の地にて、斯く戦えり
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第12話 動き出す世界と陰謀
前書き
オリジナル怪人とは別に主人公、千堂の怪人態を5月末まで募集します。ドーパント、ゾディアーツ、ショッカー怪人のいずれかでお願いします。
またオリジナル怪人も募集中です!こちらはショッカー怪人以外でも構わないのでドンドン送ってきてください。
アイディアは感想欄、又はメッセージにお書きください。
「お前達はなんてことしてくれたんだ!!」
ピニャは捕縛された騎士団を見るなり全員の頬に平手打ちをした。
「我々は協定で往来の自由を認めていたのだぞ!!それを知らないとはいえお前達はー!!!!」
ピニャがボーゼスらを叱りつける中、千堂は冷静に言い放つ。
「今回の行為は明らかな協定違反です」
「それは分かっているが……彼女らは協定のことを知らなかったのだ……。だから許してやってはくれないだろうか?」
ピニャが千堂に懇願する………が
「ふざけてるな!!」
「死人が出てたかもしれないんだぞ!」
千堂の部下の隊員達が口々に言う。
「ピニャ殿下……私個人としては部下に被害が無かったのでよかったのですが……一介の軍人としては今回の協定違反は到底、見過ごすことができません。それにこの事は既に基地に報告済みです。帝国にはこれ以上無いほど厳しい目が向けられることでしょう。潔い態度をとった方が帝国の為ですよ」
ピニャは落胆した。事案発生から数時間しか経っていないのに既に基地に報告がいっていることに落胆する。それもそのはず、この世界ではありえないぐらいの連絡伝達速度だからだ。
「この始末、どうしてくれよう……」
(協定破りを口実に居丈高な外交を行うのは帝国の常套手段。ショッカーが同じことをしないとは限らない)
そんな中、フォルマル家のメイド長が千堂の前に出てきた。
「センドウ様、盗賊からイタリカを救ってくださりありがとうございました。改めてお礼を言わせてもらいます。この恩を当家は決して忘れません。
そして今回の協定違反でイタリカや帝国を滅ぼすというのなら我々も力を貸す所存です。ただ当家のミュイ様には矛先を向けぬよう伏してお願いします」
メイド長が千堂の前に頭を下げて懇願した。
(そうか……フォルマル家にとって帝国なんて関係ない。この人達の忠誠心はミュイ様にあるのか……)
千堂は感心した。そしてメイド長にやさしく言う。
「頭を上げてください。今回の協定違反にフォルマル伯爵家の皆様は関与していませんのでイタリカやフォルマル家に報復攻撃を行うようなことはしないはずです。
"フォルマル家"や"イタリカ"にはね………」
そう言うと横目でピニャとボーゼスの方を見た。千堂と目が合うとピニャ達は顔を反らした。
「では、犯人を引き渡したので我々は基地に帰ります。後のことは追って連絡します」
千堂らが帰ろうとするとピニャが引き止めた。少しでも時間を稼ごうと思ったのだ。基地に知られてしまっている以上、無駄だと分かってはいるが何もしないよりはマシであった。
「そうだっ!和解の意味を込めて騎士団と懇談の場でも―」
「結構です!!」
時間稼ぎすら失敗したのでピニャはどうすべきか考えた。
(センドウ次第でショッカーが大きく動く!クッ!……こうなったら!!)
「―では妾も行こう!!妾もオ・ンドゥルゴに同行させてもらう!」
「は?」
「此度の協定違反、上位の指揮官に正式に謝罪しておきたい。よろしいか?センドウ殿」
第1小隊の面々は驚いた。敵国の皇女がショッカーの基地に出向きたいと言い出したのだ。
「御自身の立場を理解されてますか?貴方は敵国の皇女なのですよ?」
「それでも……妾は皇女として帝国軍人の起こした失態の尻拭いをする務めがある!だからお願いだ!どうか妾だけでもオ・ンドゥルゴに連れて行ってくれ!」
「殿下1人、敵地に行かせるわけにはゆきません!私も同行を!」
ボーゼスがピニャの足にすがりついて頼み込む。
「……分かった、ボーゼス!自らの失態を挽回せよ」
「ハッ」
ピニャ達が勝手に話を進める様子を見た千堂は呆れ果てた。
「基地に迎えを寄越すよう伝えてくれ。もう知らん……」
「了解しました!」
数時間後………
千堂達は身支度を終えたピニャとボーゼスを連れてフォルマル家の中庭に集まっていた。
「間もなく迎えが到着するそうです」
千堂イタリカからオ・ンドゥルゴ方面の遥か上空から何かがやって来る。ピニャは目を細めて見る。すると次第にはっきり見えてきて、その姿にピニャは戦慄する。
「なッ!!何だッ、あのバケモノは!?」
ショッカー防衛空軍が誇る移動空中要塞 クライス要塞が咆哮をあげながらイタリカ上空にやって来る。やがてクライス要塞はピニャ達の頭上で静止し、中庭に巨大な日陰を作った。
その禍々しい姿にピニャ達は勿論のこと、イタリカ市民全員が恐れおののいた。
「龍だ…鉄の龍だ…それも空に浮かんでいる…」
「こんなのを操る軍勢と戦っているのか……帝国は……」
ピニャ達だけでなくレレイ達も驚愕を通り越して畏怖していた。
「これがショッカーの力………」
「すごい……空を飛ぶなんて」
ただ1人、ロウリィだけが神妙な顔でクライス要塞を眺めていた。
(ロウリィは神官だからなぁ、新しい技術には保守的になるのも当然か。)
千堂は一同にクライス要塞について簡単に説明する。
「このクライス要塞はショッカーが誇る空中要塞です」
「要塞だと!?しかし空をとんでいるのだぞ!!」
「なんというか……貴方方異世界の機械式移動式要塞だからでしょうか……」
「機械式!?これが機械なのか!?」
「ええ、機械ですよ……」
ピニャはショッカーと帝国の技術格差の一端を垣間見たような気がした。しかし、こんなものはまだ序の口だった。
突然、クライス要塞の腹部から千堂達に向けて緑色の光が千堂達に照射された。
ピニャは何をされるのか分からず、警戒するが千堂が一言、「大丈夫ですよ」と言うと少しだけ落ち着いた様子を見せた。
「それでは行きましょうか」
「へ?行くとはどこに?」
質問の答えが返ってくる間もなく、ピニャらは一瞬にして光に包まれてクライス要塞に吸い込まれた。
そして、ピニャ達の眼前にはさっきまでいた緑豊かな中庭ではなく、SF映画に出てくるような宇宙戦艦の司令室のような光景が広がっていた。
「イーッ!!ようこそ、クライス要塞へ。
私はこのクライス要塞の艦長をしています、防衛空軍少佐、坂田龍四郎です!
千堂大尉!以後、お見知りおきを…」
坂田はワープ装置で転送されて来た一行に挨拶した。
「イーッ!!どうも、私は防衛陸軍大尉の千堂です。こちらこそよろしくお願いします」
坂田に対してショッカー式敬礼をする千堂を他所にピニャ達は突然、クライス要塞にワープしたことに慌てふためく。
「何だ!?一瞬で場所が変わったぞ!」
これにはレレイ達も驚きを隠せなかった。
「どんな魔法を使ったの!?」
「ショッカーは魔法が使えないはず…どうやって……」
「あー、皆さん、落ち着いて。今のはですね―。」
坂田はワープについて簡単に説明する。
「つまり、地面からこの司令室にへと瞬間移動できるのか?」
「そういうことです」
(『クライス要塞』が空を飛ぶというだけで驚くのはまだ早かった……!!どれだけ技術力が隔絶しているのだ!ショッカーとやらは!!)
ピニャはとうとうその場にへたりこんでしまった。
坂田はそれを無視して部下に命令する。
「これより本艦はオ・ンドゥルゴ基地に帰投する!クライス要塞………発進せよ!」
航行を命じるとクライス要塞は動き出した。
「わ、妾達…空を飛んでいるぞ!!!」
「恐ろしい技術ですね…………」
異世界側の一同はただ呆然としていた。
しばらく飛行し、オ・ンドゥルゴ基地に近づくとクライス要塞のモニターにオ・ンドゥルゴ基地の様子が映し出される。
「なんだこれは!?動く絵か!?」
「違う、これはモニターという物。カメラという魔道具から外の景色を映し出しているだけ。つまりこれはショッカーの基地の様子…」
ピニャはレレイから理解半ばに説明を聞いて映像を眺める。
「オ・ンドゥルゴか……聖地とはいえただの丘だったはずだ……それが今や…」
「ええ、ショッカーに丘を掘り返されて基地まで造られてます」
オ・ンドゥルゴにそびえる巨大な軍事基地の映像を見て、ピニャとボーゼスの周りの空気が一気にお通夜ムードになる。ショッカーに勝てる気がしなかったからだ。
やがてモニターの映像が外で訓練をする兵士達の映像に切り替わった。
ピニャはでショッカーの兵士の持っている銃が気になり、レレイに尋ねる。
「先程から兵士達が持っている杖……ショッカーには魔道士を大量に養成する方法でもあるのか?」
「違う、あれは魔導ではない。ジュウと呼ばれる武器」
「武器!?」
「原理は簡単。炸裂の魔法が封じられた筒で鉛の塊をはじき出している」
(ほう、短時間でよくそこまで見抜いたもんだな………すごいよ、レレイは)
ピニャはショッカーの技術力に驚いていたが千堂は多少の違いはあれど短時間で銃の原理を見抜いたレレイに驚いていた。
そんなことはつゆ知らず、ピニャとレレイは話を続ける。
「武器であるなら作ることができる……とすると全ての兵に持たせることもできる―」
「そう、帝国軍と戦った時もショッカーは銃による攻撃で蹂躙した後、このクライス要塞で大量の兵を投下して生き残った兵を殲滅したらしい」
ピニャは考え込んだ。
(戦い方が根本的に違う。我々の戦意と戦技を磨いた戦列も「ショッカーの技術力」を前にしては無意味に違いない)
ピニャはクライス要塞に乗っている戦闘員の持っているM16A4をチラリと見る。
「戦況を一方的にしないために『ジュウ』だけでも手に入れなければ……」
「それでは無意味」
「なに!?」
そう叫ぶピニャにレレイはモニターに映っている屋外訓練を行う怪人達の様子を指差した。
蜘蛛のような姿の者、蝙蝠のような姿の者……彼らの禍々しい姿にピニャとボーゼスは凍りつく。
「彼らはカイジン。ショッカーは人間に動植物の特性を植え付ける技術があり、植え付けられた人間を『カイジン』と呼ぶ。彼らにはジュウによる攻撃が通用しない上にすごい力持ち」
「イタリカで盗賊団を追い払った怪物達か…」
(ジュウ、カイジン、稲光を撃てる弩、鉄の龍、鉄の巨人……あんな物を作れる職人などドワーフの匠にもいない!あれはまさしく異世界の怪物だ)
「何故こんな連中が攻めてきたんだ?」
その言葉をすぐ近くで聞いていた千堂はピニャの言葉に腹が立ち、すぐさま言い返す。
「被害者面しないでください。帝国が先に我が世界に侵攻したのをお忘れなのですか?」
「ウッ!それはそうだが……」
「それともあれですか?自分達が攻める時は官軍、異世界で多くの人民を虐殺しても官軍、その報復に逆侵攻されれば被害者ですか?えらく都合がいい論理ですね」
千堂の皮肉にピニャとボーゼスは何も言えなくなる。
帝国は自ら悪魔を怒らせ、招き入れてしまったのだ。
「帝国はグリフォンの尾を踏んだ。それに帝国の敵はショッカーだけではない。アルヌスの丘の異世界の軍勢、ニホンコクジエイタイもいる。ショッカーは現在、彼らと共闘して帝国と戦っている」
レレイは現在の帝国の状況を冷静にピニャに伝える。
(最悪だ。異世界の敵同士が手を結び、帝国を攻め滅ぼそうとしているとは…)
実際には自衛隊は特殊な政治事情があるので対帝国戦に消極的なのだがそんなことをピニャは知らない。
ピニャはレレイを見る。さっきの言葉からレレイは帝国に対して愛国心のようなものを一切、抱いていないことは簡単に想像がついた。それに対して千堂らショッカーはレレイやエルフだけでなく亜神であるロウリィまで味方につけている。つまり軍事面だけでなく人心掌握の観点でも負けているのだ。
(帝国は国を支配すれども人心は支配できず……か)
基地に着くとピニャとボーゼスは戦闘員に案内され、基地内の応接室に連れてこられた。
応接室の中でピニャ達がしばらく待っているとドアが開かれてゾル大佐が入室する。それに続くように古代エジプトのツタンカーメンのような被り物をした男が入ってくる。
「待たせたな、ピニャ殿下」
(この地味な黒服の男がショッカーの軍を率いる長か?)
ピニャはゾル大佐を見てそう思った。
「報告は聞いている。"我々"を煩わせるようなら協定や帝国の扱いを見直さなければならない…そうは思わんか?」
(見直す!?協定が守られねば帝国内にさらに侵攻するというのか!?)
「今回の一件で帝国に対する見方はますます厳しいものになった。そのことを覚悟していもらいたい」
隣に座っていたツタンカーメン風の男……暗闇大使がようやく口を開いた。
「千堂から聞いたぞ。そちらのご婦人にひどくあしらわれたそうだな…」
ピニャとボーゼスは冷や汗をかき始める。
「その事について聞きたいことがいくつかあるのだが……奴が暴行を誘発するような言動をしたのか?なぜ奴に暴行したのだ?どういう状況で暴行に及んだのだ?」
「それは……」
ピニャが説明しようとすると―。
「殿下に聞いていない!目の前の騎士に聞いているのだ!!!さぁ答えろ!」
暗闇大使は高圧的な態度でボーゼスに質問した。
ボーゼスは千堂が異世界の敵であること。なにより協定のことを知らなかったことを告げた。
それを見た暗闇大使は軽く鼻で笑った。
ピニャとボーゼスは暗闇大使が納得してくれたものと思った。
しかしキッと暗闇大使はピニャ達を睨みつけて口を開いた。
暗闇大使はボーゼスの説明を聞いて内心、怒り狂っていた。連絡手段がないとはいえ、理由も聞かずに自軍の兵士を暴行するとはショッカーの存在を軽視していることにほかならない。ショッカーを軽視すること……即ち、その頂点である大首領様を侮辱することである。
そしてショッカー世界ではショッカー大首領は全知全能の御方であり、万物の王であり、神そのものである。
ボーゼスはそんな御方を侮辱し、ショッカーのメンツを潰したということになる。
はっきり言って『万死に値する行為』であった。
暗闇大使の拳が怒りでプルプルと震え、顔からは青筋が浮き上がる。
「余りふざけるなよ、連絡が行き届かなかった?そんなの理由になるか!!貴様らは我がショッカーと我らが偉大なる大首領様を愚弄しているのか!?」
「い……いえ、そんなことは……」
「この"事件"は講和交渉にも響くことを覚悟しろ!!何しろ我が軍の兵士に暴行を行い、ショッカーのメンツを潰したのだからな!!
そして帝国人を皆殺しにする御聖断をなされない大首領様の御慈悲に感謝しろ!!!」
ピニャは「たかだか平手打ちで大袈裟な…」と思ったが反論しなかった…いや、出来なかった。暗闇大使の背後から漆黒のオーラが溢れ出ていたからだ。その前では皇族といえどただ許しを乞うことができなかった。
ゾル大佐も暗闇大使と同意見だったが言いたいことは粗方、暗闇大使が言ってくれたので今後の対応について話すことにした。
「とにかく今後はよく考えて行動することだ。これからの行動次第で帝国、または帝国に代わる"新政府"が困ることになるからな」
ゾル大佐の放った『帝国に代わる新政府』という言葉にピニャは驚いていた。この言葉をピニャは講和交渉が思うように進まなければいつでも帝国を攻め滅ぼしてショッカーに従順な新政府を作ることができるというふうに受け取った。
こうして会談はショッカーからピニャらに講和に協力する"お願い" をして問題なく終わった。
オ・ンドゥルゴ基地の屋上で千堂は沈みゆく夕日を見ながら黄昏れていた。すると後ろからピニャ達と会談を終えたばかりのゾル大佐に声をかけられた。
「大変だったようだな……千堂」
「ゾル大佐……!全くですよ、できることなら2度と彼女らと関わりたくないですね。どうも苦手なタイプのようです」
千堂はボーゼスにぶたれたことを思い出したくないようだった。
そこから少し、2人の間を沈黙が包み込む。
そして先に口を開いたのはゾル大佐の方だった。
「千堂、貴様があの女騎士共を捕縛している間に上層部でこの世界のミラーワールドへの植民が決まった」
ゾル大佐の言葉に千堂は驚く。ミラーワールドへの植民は帝国を制圧した後で行うものと思っていたからだ。
「思ったより早いですね。帝国戦を終わらせてからと思っていたのですが…」
ゾル大佐はため息混じりに答える。
「ハァ、突然、政府上層部の中で日本を制圧して人口問題を解決しようとする勢力…対日強硬派が台頭してきてな……。奴らは人口問題解決の為と大口を叩いてはいるが実際は反ショッカー報道を続ける日本を倒したいだけだ」
前回の世界統治委員会の後、対日強硬派の意見の非現実さに困り果てた死神博士はショッカー大首領に謁見し、意見を求めた。そこでショッカー大首領は植民しても比較的、影響がないと思われるミラーワールドに植民するように命令したのだ。これなら人口問題解決に一歩近づく上に対日強硬派が暴走することを防ぐことができる。
それに誰もが心酔する大首領からの命令なら対日強硬派も多少の不満はあっても聞き入れるだろうと思われた。事実、対日強硬派はミラーワールドへの植民を快諾した。
しかし、そもそも世界統治委員会の存在すら知らない千堂には疑問しか湧かなかった。
「そんな現実の見えていない派閥の主張なんか無視すればいいでしょう?」
「それが無視もできないのだ。軍上層部の一部が自身の出世の為に先制攻撃を仕掛けたがっているからな。少数とはいえ、それなりの影響力はある」
ゾル大佐は葉巻の煙を吐き出しながら答える。
「しかし……対日強硬派の殆どは人口問題解決を急いで解決したい奴らばかりだ。はやまった連中を1人でも減らす為にガス抜きの意味も込めて異世界のミラーワールドだけでも植民をするのが決定したんだそうだ」
何とも言えない空気が流れる。
暫くの沈黙の後、千堂がボソリとつぶやいた。
「それで収まればいいですがね……」
千堂はこれからの未来のことを憂うことしかできなかった。
日本世界 アメリカ合衆国 ホワイトハウス
大統領 デュレルは大統領執務室の卓上に載せられた数枚の資料に目を通す。
その資料はCIAから送られたものであり、題名は『我が国とショッカーとの国交開設及び利益独占に関する報告』。
それにはこう書いてあった。
『ショッカーの日本使節団派遣後に中国やロシアがショッカーと独自に接触しようとする動きあり。中国は既に国連に対して工作を開始しており、ショッカーの技術を独占する為に動いているようです。
ショッカーとの交易による利益は莫大なものになることは明らかであり、中露に独占されない為にも我が合衆国も動き出すべきです。
CIA長官』とあった。
「ファッキンチャイナとファッキンロシアンめ!ショッカーが日本に急接近して技術の輸出が判明した途端にこれだ!」
ディレルは怒りの余り、血眼になり髪を逆立て報告書を引き破り、ぜぇぜぇと荒い息を吐く。
「……本当なら今頃、日本と共にショッカーに接触していたはずなんだ!!!」
そう言うとディレルは執務室の窓の外の群衆を睨みつける。
「異世界征服しようとするナチスもどきを倒せー!!」
「ショッカーは新たな悪の枢軸だ!!」
「ショッカーに民主主義の力を見せつけろ!!」
ホワイトハウスを取り囲むようにして学生がデモを行っている。彼らは中国が提携している大学に通っている学生だ。よく見ると白人の学生の中に混じってアジア人がいるのが分かる。おそらくは中国人だろう。
中国がアメリカに対してショッカーとの接触を妨害するような裏工作を仕掛けているのは明白だった。
「チャイナめ……姑息な真似をしおって」
デュレルの眉間がピクピクと痙攣する。
彼らのデモのせいでショッカーとの国交開設に国民の理解が得られずにいたのだ。国民の理解が得られないままショッカーと接触しようとすれば次の大統領選挙での再選は難しいだろう。
デュレルは独裁国家であるはずの中国がアメリカの民主主義を利用して自分を苦しめていることに腹が立って仕方がなかった。
「フフ……だが甘いなチャイナよ」
デュレルは1人、不適な笑みを浮かべる。普通の人間が見れば頭がおかしくなったと思うだろう。
しかし、あんな学生デモで怖じ気づくほどデュレルは弱くなかった。
「ワーキングプア予備軍のガキ共め、貴様らの思うよりもショッカーと接触したがる者は多いのだ………それも学生のお前らと違って影響力が桁違いだ!!!」
デュレルの言う『彼ら』とは……ゴーグルやヤマゾンなどのアメリカが誇る超巨大企業のことである。彼らはショッカー世界のことを知るや否や、進出すれば莫大な利益が見込めるとしてホワイトハウスに連日、ショッカーとの国交開設を求める請願の電話をしていた。
ショッカーと接触し、550億人もの市場を独占できれば中国との貿易赤字やラストベルトなどで落ち込んだアメリカ経済は回復する。
そうなれば国民の現政権に対する支持率は急上昇し、次の大統領選でも再選されるだろう。
デュレルの決断は早かった。
「国務省か?日本大使館にこう伝えろ。『今度のショッカー使節団に会わせろ』とな。もし断ってきたら自衛隊の後方支援をやめると言え。何としてもチャイナやロシアンより先にショッカーと接触するんだ!!!」
世界最強の国家アメリカはショッカーとの接触に向けて本格的に動き出した。
中華人民共和国 中南海 主席公邸
「では日本とショッカーの外交についての報告を」
中国国家主席 蓋徳愁が執務室で葉巻を吸いながら補佐官から報告を受ける。
「はい、ショッカーと日本の国交開設交渉ですが難航しているそうです」
「意外だな……日本はショッカー側の提示してきたナノマシン技術とエイズ特効薬だけでは不満なのか?」
「いえ、日本側は国交開設に意欲を燃やしていますが問題はショッカーです。マスコミにどう書かれているかを知ったようでして……連日、ショッカーの外交官がアルヌスにやってきたは日本に訂正を求めているようです」
「訂正か……日本は民主主義国家だ。それは難しいだろうな……」
蓋徳愁が皮肉混じりにフッと笑いながら言う。
ショッカーと日本が共闘するのはマズいとマスコミを煽り立てたのはいいが日本だけではなくこちらの世界全体に敵意を持たれては厄介だ。最悪、ショッカーがこちら側に侵攻してくる可能性がある。それに中国としてもショッカーの進んだ技術は欲しい。中国単独のルートでショッカーとは接触したいのが本音だがそれが現状、不可能である以上、日本にはショッカーと友好や共闘までいかなくとも険悪になりすぎても困るのだ。
「我が中国としてもショッカーと接触する必要がある。国家安全部に伝えろ。『日本のマスコミの"支援"をしばらくやめろとな』。これで少しはマシになるだろう」
「了解しました。それでは失礼します」
補佐官は一礼して執務室を出た。
無人と化した執務室で蓋徳愁はブツリとつぶやく。
「ショッカーには日本より我が国の方が国交を開設してメリットある大国と思わせる必要があるな……どうしたものか……」
そしてその日の夜―
補佐官はスーツ姿のまま、北京の一角にあるバーにやって来た。店内に盗聴器などが無いのは事前に確認済みであり、入店後に周辺に中国政府の者はいないのも確認した。
補佐官はバーの隅にある奥の個室に入る。中には不自然にもスマートフォンが置いてあった。補佐官はそのスマートフォンの指紋認証のロックを解除するとテレビ電話を使ってとある人物に繋げる。
『報告せよ』
「はい。どうやら中国は我々と接触する気のようです」
『なるほど……とうとう中国も本腰を入れ始めたか……それで話は変わるが中国国内で改造人間の素体候補は見つかったか?』
「いえ……その代わりに中国国内の反体制派のリストのコピーを入手しました。彼らなら自ら志願して改造人間になるはずです」
『分かった。後で使いの者を送る。その者にコピーしたリストを渡せ』
「了解しました」
話し相手が通話が切ったことで通話が終了し報告を終える。
蓋徳愁主席の補佐官であるこの男は既にこの世にいない。本物はGOD秘密警察が送り込んだワームに殺されたからだ。
今、補佐官として中国政府にいるのはそのワームが擬態している偽物である。彼は補佐官に擬態することで中国国内のありとあらゆる国家機密を閲覧し、必要とあらばショッカーに転送しているのだ。
補佐官に擬態しているワームことスコルピオワームは怪しまれないようにカクテルを注文し、飲み干すと会計を済ませて店を出る。
そして彼は北京の夜の闇に消えるのだった。
同刻 日本国 東京
女の名前は福井瑞穂。衆議院議員であると同時に某国が送り込んだ工作員である。現在の任務は日本とショッカーの友好に水を指すべく、国会で反ショッカー発言を連発することである。
「ショッカーは国民を強制的に改造するという非人道的行為を行っています!!これはホロコーストと並ぶ狂気の人権問題です!」
「狂気の独裁国家と国交を結ぶことはかつての軍国主義に戻ることですよ!」
「近隣諸国に反省が足りないと言われますよ!!ショッカーとの共闘を解消しなさい!!!」
福井はその夜、野党党首同士の会合を終えて帰宅しようと公道を黒塗りのベンツで走らせた。
車内で携帯をいじりながら福井はぶっきらぼうに運転手の悪口を言う。これは福井にとっていつものことであった。国会で思うように事が進まないと運転手に悪口を言い、八つ当たりをするのである。
「ホント、あんたって辛気臭いわね。あんたが運転してるってだけでこの高いベンツも軽トラ同然になるわ!」
「…………」
運転手が無言なのを見て面白くなかったのか、ダメ押しに車内の中で大声で叫ぶ。
「全く!無視だけはいっちょ前ね!運転技術もそれくらいならいいのになーー!!」
運転手は無視して車を走らせ続ける。だが内心では怒りまくっていた。しかし、ここで殴りかかっても全く意味がないので無視することしかできなかった。
やがて車は本来の帰宅ルートから外れ、人気のない建設中のトンネルの中に入って停車する。
福井は車が停車するまで携帯をいじっていた為、気付くのが遅かった。
「どこよここ?私はね!あんたみたいなドブネズミと違ってトンネルじゃなくて、家に帰りたいの!!」
「………………」
「早く戻れ!!戻れって言ってんだ!!!」
「…………」
「何とか言いなさいよ!!!」
「福井先生、いや福井。彼らから言われたんだ……お前を連れてきたら難病に苦しむ俺の娘の命を助けてやるって……。悪く思うなよ」
「はぁ!?なんのまね……」
「おめでとう!!福井さん!!」
甲高いその声が外から聞こえたと同時にスポットライトのような強烈な光を浴びせられた。
声の主はキリスト教の祭服を来た白人の老人でありその後ろには骸骨風のタイツと覆面の男達がいた。
「君は神聖なるショッカーのメンバーに選ばれました!!さぁ皆さん!盛大なる拍手を!!!」
白人の男性がそう言うと骸骨風のタイツと覆面の男達は一斉に拍手をする。
「しょ…ショッカー!?異世界の連中が何故!?」
「貴方と同じですよ……我々も対日工作員として送り込まれたんです……」
その老人……ペトレスク神父はジリジリと福井の乗っているベンツに近づく。
「本当なら反ショッカー発言をする貴方は我々に始末される筈だったんですが、貴方は知力だけは優れている……よって我がショッカーに選ばれました。これから我々の改造手術を受けてもらいます」
「かっ、改造!?冗談じゃないわ!!」
ペトレスク神父は黒マントを覆いかぶさるように翻すと甲高い奇声を上げた。そこには蝙蝠のような顔と巨大な翼を持った怪人がいた。しかし蝙蝠男ではない。蝙蝠男の強化体……大コウモリ怪人である。
「キキィィィィーーーーーーー!!!!」
福井は危険を感じてベンツを降りてトンネルの入口の方へ走り出すが、大コウモリ怪人は空を舞い、福井に追いついてトンネルの壁に叩きつける。
余りの衝撃と激痛に福井はもだえ、次第に意識が途切れていく。
「ヨウコソショッカーヘ、フクイサン」
大コウモリ怪人男はバラの花束を気絶している福井に投げ捨て、戦闘員にトンネル奥に隠すように停めてあるトラックに積み込むように命じる。
数日後、数名の野党議員が行方不明になった。いずれも反ショッカー発言を繰り返していた者ばかりである。
さらに今まで国会答弁で今まで行ってきた福井瑞穂があらゆる反ショッカー発言を撤回、ショッカーとの国交開設に賛成する発言を行って与党を驚かせた。
「午前5時になりました。ニュースの時間です。
数名の野党議員が行方不明がなってから数日が経過しました。警察は依然、誘拐の線で慎重に捜査を進めており―。」
「会社党の福井瑞穂代表はこれまでの反ショッカー発言を撤回し、ショッカーとの国交開設に賛成する発言を行いました。これに与党は動揺を隠せず―」
「ショッカーの使節団来訪まで残り3週間となり、世界中が注目しています。改造人間などの人権問題を抱えるショッカーの代表が来るとして、本位総理は歓迎する声明を発表し―。」
同刻 大韓民国 青瓦台
韓国の政治は複雑そのものだ。
例えば北朝鮮と関係1つとっても明らかである。分断国家である以上、「南北統一」というお題目は唱え続けなければならないが、本気でそんなことを思っている国民は全くいない。明らかに自国より数十倍も経済的に劣っている北朝鮮を統一しても何のメリットもないどころか大損害を食らってしまう。それは一時的な株の暴落どころでは済まない。韓国国民全員が世界中から大借金するような状況になってしまう。しかし、そんな本音を口にすれば袋叩きにあう。
おまけに近年の不景気で国民は暴走寸前、政府はお決まりの反日外交に舵を切っていた。
ここ、青瓦台韓国大統領府の執務室では韓国初の女性大統領、金槿恵が椅子にドッカリと座っていた。そんな槿恵の元に首相が駆けつけて媚び諂いながら肩を揉み始める。
「大統領、独島への上陸、大成功でございました。これで世界は独島が韓国領であることを認めるでありましょう。これも大統領閣下のお陰です」
「そうね、これで国民の目が外に向いてくれたのならいいのだけど……」
「外に向いたに決まってますよ!国民は愚かですからね!
で、次は何をします?新たな慰安婦像を建てますか?あっ!それとも次の国連総会で反日演説でもしますか?」
槿恵は目をつぶって考え込み、しばらく黙り込むと首相に尋ねる。
「確かショッカーって第二次世界大戦まではこっちの世界と全く同じ歴史を歩んだのだったわね?」
「そうですが……それがどうかされましたか?」
槿恵はニヤリと気色の悪い笑みを浮かべた。
首相は身震いした。
槿恵がこの表情を見せる時は大抵、ロクなことを指示しないからだ。友人の兵役逃れの裏工作を指示した時も、裏口入学の斡旋を指示した時も、自身に都合の悪い記事をもみ消させた時もこの顔をしていた。
「いいこと思いついちゃった♡
ショッカーに賠償を要求しましょう!!」
「え?」
後書き
現在、番外編を製作中です。もうしばらくお待ちください。
次回予告
日本使節団派遣直前、千堂は一時的にショッカー世界に"帰国"する。そこで日本との外交に大きく巻き込まれていく事となる。
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