山地乳
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第三章
「それはな」
「ああ、だからな」
それでというのだ。
「それはしねえでおこうな」
「だよな、しかしな」
「山地乳に息を吸われてか」
「それで死ぬかも知れねえだろ」
喜多八がその現場を見ていないと、というのだ。
「そうだろ」
「そう思うとか」
「どうも寝られねえ」
「俺がちゃんと見てるぜ」
「だといいけれどな、けれど」
「それでもか」
「ああ、どう気が張ってな」
そうなってというのだ。
「寝られねえ」
「そうか、じゃあな」
弥次郎兵衛のその話を聞いてだった、喜多八は言った。
「俺が先に寝ていいか」
「そうしてくれるかい?」
「弥次さんが寝られねえならな」
それならというのだ。
「俺が先に寝てな」
「俺が見てればいいな」
「そうすればいいよな」
「そうだな、じゃあな」
「先に寝かせてもらうぜ」
喜多八はこう言って眠りに入った、弥次郎兵衛はそれを見ることにした、すると弥次郎兵衛はこれまた半刻程するとだった。
隣に寝ている喜多八にこう尋ねた。
「喜多さん寝たかい?」
「起きてるぜ」
すぐに返事が返ってきた。
「ちゃんとな」
「何だよ、寝てねえのか」
「寝ようと思ってもな」
それでもというのだ。
「どうにも気が張ってな」
「それでかい」
「寝られねえな」
「山地乳が出ると思うとか」
「どうしてもな」
これがというのだ。
「寝られねえぜ」
「お互い寝られねえか」
「どうしたものだよ」
「若しもだぜ」
弥次郎兵衛はここでこんなことを言った。
「お互い寝たらな」
「そこで山地乳が出たらか」
「片方が息を吸われてな」
そこをもう片方が見ていなくてというのだ。
「朝はお陀仏だよ」
「だよな、そう思うとな」
どうしてもとだ、喜多八は言った。
「寝られねえな」
「そうだよな、もう」
「困ったな、これじゃあ朝までまんじりかい?」
「一睡も出来ねえってどうなんだよ」
「こんな嫌なことはねえぜ」
「山地乳さっさと出やがれ」
弥次郎兵衛はこんなことも言った。
「さもねえと寝られねえじゃねえか」
「人の寝込み襲うなんざとんでもねえ野郎だ」
「寝込む襲うのは夜這い位にしやがれ」
「全くだ」
こんな話をしているうちにだった。
二人共何時の間にか寝てしまった、そして朝になってだ、
朝風呂に入りつつだった、弥次郎兵衛は喜多八に言った。
「喜多さん寝たかい?」
「何だかんだでな」
喜多八は弥次郎兵衛に答えた。
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