必死に調べると
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三章
「そうしたらコロと離れなくていいだろ」
「けれどあなたは」
「週末には戻って来るさ」
夫は妻に笑って話した。
「だからな」
「それでっていうのね」
「どうだ」
「そうね、単身赴任も大変だけれど」
それでもとだ、妻は夫に答えた。
「子供達はどうしてもコロと離れたくないし」
「友達のこともあるしな」
「それにお家もね」
「ああ、折角買ったこの家もな」
「売らなくて住むから」
「それじゃあな」
「それがいいかも知れないわね」
妻はよしとした、こうしてだった。
父が佐渡まで単身赴任をすることになってことは収まった、それで一家はコロと離れずに済んだ。そのうえで。
父は佐渡に行った、長男はその父を見送ってから弟にコロを見つつ話した。
「お父さんも戻って来るからな」
「だからだね」
「コロと一緒に待っていような」
まだ幼稚園児である弟にわかりやすく話した。
「そうしような」
「そうだね」
「コロと離れずに済んだんだ」
愛する家族と、というのだ。
「お父さんは戻って来るけれどな」
「コロはそうはいかなかったから」
「よかったんだ、じゃあな」
「それならだね」
「お母さんもいるからな」
母のこともあってというのだ。
「暫くはな」
「コロと一緒にだね」
「頑張っていこうな」
「うん、わかったよ」
弟は兄の言葉に笑顔で答えた。
「それじゃあね」
「一緒にな、コロもそれでいいよな」
兄は今度はそのコロに声をかけた、すっかり大きくなって甲斐犬程の大きさになっている。だが顔立ちはそのままだ。
「お父さんを待ちながら一緒に頑張っていこうな」
「ワン」
コロはその彼の言葉に顔を向けて一声鳴いて応えた、その彼を見て。
兄は弟に笑って話した。
「じゃあ今からコロの散歩行くか」
「朝のお散歩だね」
「それに行くか」
「うん、じゃあコロ行こう」
「ワンワン」
コロは今度は尻尾をぱたぱたと左右に振って明るく応えた、そうして母に見送られて兄弟で散歩に出た。コロと一緒にいる二人の顔は明るいものだった。
父の佐渡での仕事は二年で終わり本土に戻った、すると一家はこれまで通りの生活に無事に戻ることが出来た。一時の別れは永遠のものとはならなかった。
必死に調べると 完
2020・4・28
ページ上へ戻る