招き猫

「害だったからな」
「そのお義兄さんもうちに来なくなってね」
「それどころかこの世からいなくなってな」
「うちは本当に平和になったわね」
「ああ、お袋に兄貴もいなくなった」
　邪魔者二人がというのだ。
「本当にな」
「よかったわね」
「ああ、兄貴は保険は入らなかったがな」
　それはかけていなかったからだ、しかもヤミ金関係なので一家に死んだと伝えられて終わりであった。
「お金は入らなかったけれどな」
「それでもね」
「邪魔者はいなくなったんだ」
「それならね」
「それでいいさ」
「良則叔父さんいなくなったのね」
「よかったわ」　
　姉妹もそのことを喜んだ、一家はこうして二人の邪魔者が永遠にいなくなった。
　一家はラブと幸せに暮らした、彼女と一緒に暮らしていると。
　父はふと言った。
「最近腰が楽だな」
「腰痛ましになったの」
「随分とな」
「そういえば私もね」
　妻も夫に応えて言う。
「頭痛の持病がね」
「ましになったか」
「かなりね」
　そうなったというのだ。
「そうなったわ」
「そうなんだな」
「私成績上がったわ」
「私もよ」
　二人の娘達である姉妹にもいいことがあった。
「それもかなりね」
「そうよね」
「前よりもずっと明るくなったって言われるし」
「クラスにいても楽しくなったし」
「何かね」
「ラブが来てから随分変わったわね」
「若しかして」
　娘達の話も聞いてだ、母は言った。
「ラブは幸せをくれる猫なのかしら」
「幸せをか」
「招き猫ってあるじゃない」　
　妻として夫に話した。
「お客さんを招く」
「あの置きものだな」
「幸せを招くていうし」
「お願い猫もそういうのあるな」
「そう、猫ってね」
　丁度一家の横に何でもない顔で座っているラブを見る、ラブは何でもないという顔でテレビを観ている。
「そう言われるから」
「今僕達が調子いいこともか」
「ラブが来たからじゃないかしら」
「そうなのか」
「そう思ったけれどどうかしら」　
　夫に対して問うた。
「そのことは」
「それはたまたまじゃないか？」
　夫は妻に少し考えてから答えた。
「流石に」
「偶然だっていうのね」
「ああ、お袋が死んだのは偶然でな」　
　ヤクザ者の車に撥ねられてそうなったことはというのだ。
「兄貴はもうな」
「自業自得？」
「あんな奴はああなるしかなかったんだ」
　その性格そして生き方ではというのだ。